「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

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我は欣びて、十字架を負わん【第参章/浅草開戦編】ー4

★ (5分後)浅草・千束町二丁目・凌雲閣・正面入口

 

 洋館と和装の建屋が混在する、六区通りの北側地区。

 『吾妻座』という、巨大な国技館が建つ区画の隣に、天を衝く塔がそそり建つ。

 現在日本最高を誇るランドマーク『凌雲閣』、別名『浅草十二階』。

 高さ52メートル、十二階建て、直径約11メートルの、八角形の洋風建築物。

 九階までが朱褐色の総煉瓦造り、十階が煉瓦壁に白色の木材で外装を補強、

 そこから上は一回り小さい構造で、白塗りの木造、天頂を衝く八角錐尖塔の上に避雷針。

 十一階の左右に、天秤のような形状で突き出したアーク灯が、白色の光を地上に降り注がせている。

 正面玄関ポーチは、二階まである大きなアーチ型の庇で囲わている。

 その上、三階の位置に、右からの文字で『凌雲閣』の文字板。

 キリエ、その敷地の入口門に立ち、塔頂を見上げている。

 今も、遥か上空、塔の最上部付近から、寒気のする気配が伝わってくる。

 

キリエ《(ぎり、と奥歯を噛み)・・・この塔の上・・・一番天辺!》

 

 キリエ、左手の仕込み傘を、ギュッ、と握り直す。

 ちら、と左横を見る。

 正門の横に、二階建ての家屋があり、その前に2メートル四方の立て看板。

 縦書きで数行書かれ、一番左には『日本一高塔 凌雲閣』と記入。

 日本語は読めないが、さっ、と視線を過らせるキリエ。

 そして改めて、顔を凌雲閣の真上に向けようとする。

 途端。

 ザジャァッ!と、自分の右横に閃光が立ち昇る。

 はっ!と身体を返すキリエ。

 サンタミカエラの、屈んだ姿。

 バチッ、と空間にプラズマを漂わせた中で、きっ、とこちらを睨んでいる。

 

キリエ「(驚いて)サンタミカエラ!」

 

 サンタミカエラが身体を起こし、キリエに正対させる。 

 キリエ、連動させて態勢を直し、彼女と向かい合う。

 

サンタミカエラ「(怒気混じりで)てめェ、相方置いてく気かよ」

 

 責めるような、刺すような目線を突き出すサンタミカエラ。

 少し目を見開き、一拍停止するキリエ。

 その後、項垂れる。

 申し訳なさそうに目を伏せ、しょんぼりとしたような、両の瞳。

 足元の地面に落ちる、意気消沈したキリエの視線。

 少しの、後。

 サンタミカエラ、にっ、と口角を上げ、両手を腰に当て、大きく頷く。

 

サンタミカエラ「(明るい声)解ってるって、野郎が来たんで我慢出来なかったんだろ? 行こうぜ」

 

 そして右拳を挙げ、親指で凌雲閣敷地内を、クイ、と指差す。

 キリエ、顔を戻し、サンタミカエラを見詰める。

 瞬時に、ほっとしたような、安堵の表情へと変化している。

 

キリエ「(澄んだ声色)・・・ええ」

 

 こくん、と頷くキリエ。

 それから、示し合わせたような動作で、十二階敷地内へと身体を返すふたり。

 凌雲閣を取り囲むように、木造家屋がひしめいて建ち並ぶ。

 それらに囲まれ、思ったより広くはない前庭に、直線で整地された通路。

 そこに、ザッ、と足を踏み込んでいく。

 塔上空からの、アーク灯の燭光が地上を照らしている。

 ふたりが、真っ直ぐに正面玄関へと歩いて行く。

 

サンタミカエラ「(目を伏せ、小声で)・・・叶うかも、しんねェ・・・」

キリエ「(顔をサンタミカエラに向け)何?」

サンタミカエラ「(やや弾んだような声)いや、何でもねェよ」

 

 キリエ、一瞬不思議そうな顔を見せるが、すぐに正面に目線を向け、表情を引き締める。

 サンタミカエラ、意気揚々とした顔付で、前方を凝視する。

 入口扉前のポーチまで、到達。

 高さ2メートル越えの観音開きの扉が片側だけ開いており、内部に入れる模様。

 ふたりが、その手前に落ちている物を発見。

 破壊された鉄製の南京錠と、真鍮製の鍵棒。

 思わず顔を見合わせる、キリエとサンタミカエラ。

 誰かが錠を壊し、抉じ開けたと思しき。

 同時にふたりが、答えを導き出した様子。

 まったくの同時に、こくり、と頷き合う。

 そして。

 キリエとサンタミカエラが、凌雲閣内に進入する。

 今は静かな建屋内の闇に、姿を潜航させていく。

 

 

★ (15分後)千束町二丁目・凌雲閣近くの路地

 

 凌雲閣正門から、角をふたつ隔離した路地。

 周辺には木造家屋が隙間なく顔を突き合わせ、通りも狭い。

 この区画の道に、通行人の姿はない。

 何処かしらかの、三味線の静かな調子が、流れてくるのみ。

 数件に一件、灯火の明かりが路上に落ちている。

 この周囲は『銘酒屋街』となっており、中には一晩中営業している店舗もある模様。

 そこの四つ角の街灯の真下、ひとりの若い女性が立っている。

 波打った長髪を後方で丸く一塊に、紅色の下がりが垂れた黄金色の数珠の髪留めで纏めている。

 雪色の透明な肌、切れ長の両目、細く整った眉、紅梅色の瞳、縦に割れた瞳孔。

 漆黒の黒留袖、様々な花の文様を、色とりどりの刺繍で施している。

 黒褐色の帯に、金色の波打つ羽根文様が鮮やかに浮かぶ。

 ただ立っているだけでも、妖艶な雰囲気を全身に纏う、驚くほどの美人。

 姿形からして、高級な料亭の座敷に呼ばれるような、芸岐と思われる。

 しかし、視線と表情は冷たく、氷点下の空気。

 その視界は、凌雲閣の正門に据えられ、微塵も動かない。

 右傍ら、片膝で屈み込んでいる、別の人物がいる。

 街灯の光から隠れるように、陰の位置に、ひとり。

 紺色の法被、背中には家紋のような印。下は黒の着物、髪は薄く、生え際がかなり後退している。

 全身の皮膚が硬質化し、顔が甲殻類を思わせるような形状で、両眼は黒色、瞳が濁った金色。

 今は鬼となり果てた、横濱の『石桁組』の組長。

 

組長[鬼]「(上擦った声で)あの高い建物です! 正面からから入って行くのを見ました!」

 

 組長、跪いて、芸岐の女性の横顔に視線を繋げる。

 何処となく浮ついた、何事かを達成したような、満足気な表情。

 そして、言葉を待っている模様。

 間。

 更に、間。

 芸岐の女性は、微塵も動かない。

 目線は、今も凌雲閣の門に結んだまま。

 やがて。

 

芸岐の女性「(低い声)・・・私は『連れて来い』と命じた筈だ」

 

 外見とはそぐわない男性声で、女性が口を開く。

 ビクッ、と組長が両肩を跳ねさせる。

 恐らく、彼が期待した言葉ではない。

 それどころか返って来たのは、突き放すような、冷たい口調。

 一瞬で、組長が顔に陰を落とし、血の気を失せさせる。

 

組長[鬼]「(怯えた口調)た! 確かにそう御命じになられました! しかし! 近くに貴方様がいらっしゃるのが判りましたので! お知らせした方が早いと思いまして・・・」

芸岐の女性「まだ大勢の人間が徘徊している中で話し掛けた・・・鬼に話しかけられた者は、周りは何者だと疑念を抱くであろうな。つまり、私の存在に疑いが発生する。その危険を、お前は犯した」

 

 組長の全身が、ガタガタガタガタ・・・と震え始める。

 バッ!と顔を伏せ、態勢を直し、土下座して額を地面に擦らんばかりに低頭する。

 芸岐の女性は、苛立たし気に眉を顰め、顔の上半分に影を下ろす。

 

芸岐の女性「お前は勝手に命令を変えた訳だ。甚だ不遜、不愉快極まりない。お前に何の権限があるというのだ?」

組長[鬼]「(蒼褪めて)け、け、権限などはございませんが! いや、しかしその! 私は貴方様の為にと・・・」

芸岐の女性「(断ち切るように)黙れ」

 

 漸く、女性の視線が、組長に向く。

 顔は正面のまま、横目で一瞥。

 塵か、屑を見る如く、凍て付いている。

 

芸岐の女性「勝手に命令を変え、私に足労させ、周囲に疑念の種をばら撒いた。もう良い。やはり虫けらは役に立たない」

 

 組長は、団子のように丸まったまま、震え続け、顔も上げられない。

 女性、右手を、スッ、と上げ、組長に向けて人差し指を伸ばす。

 微かに、クイ、と曲げ、すぐに腕を下ろす。

 そして彼女は、視線を正面に据え、ザッ、と草履を擦って足を前に進め出す。

 残された組長に、急激な変化。

 ドクン!と身体が跳ね、反り返る。

 伏していた姿勢から、無理矢理、ビクウッ!と起き上がる動作。

 今も怯えた表情の彼が、自分の腹部を凝視する。

 ボゴボゴボゴボゴ・・・と、風船のように膨れ出す、鳩尾から下腹部。

 恐怖の余り、歪む顔。

 

組長[鬼]「(悲鳴)ヒィヤアア! 腹がァ!」

 

 何が起きているか、理解する寸前に。

 破裂。

 ボッゴオン!!!と、組長の腹部が、大量の血液と体液を撒き散らし、散華。

 

組長[鬼]「(絶叫)ウギャアァ!!!」

 

 しかも。

 彼の体内から、巨大な三本目の腕が、ズオオッ、と登場。

 両腕とは別の、長さ2メートルほどの太い筋骨隆々の腕が、腸を割いて伸びて生える。

 異形の掌の五指に、槍のように揃っている黒く尖った爪。

 それは一瞬で、ガシッ、と前方真上から組長の頭を掴む。

 最早悲鳴も出せない、絶望で固形化した彼の顔と、反転した白目。

 半拍後。

 ブグシャッ!!!と、圧壊される組長の頭部。

 巨大な手と指が、水風船かトマトのように、簡単に握り潰す。

 脳漿と体液塗れの脳味噌が弾け、さながら花火のよう。

 ゆっくりと後方に倒れていく、組長の身体。

 ドサッ・・・と地面に仰向けに転がり、それきり動かなくなる。

 異形な三本目の腕は、ズウッ・・・と腹部に引っ込んでいく。

 残留する遺骸の頸から上は、顎と舌と下部口蓋しか残っていない。

 爆裂した腹部と、最早喋ることは叶わぬ頭部から、今も鮮血が流れ出ている。

 沈黙が、訪れる。

 闇が、鬼の遺体を覆い隠す。

 芸岐の女性は、既に数メートル先を歩行しており、振り向きもしない。

 

芸岐の女性「さて・・・喰らうとするか・・・」

 

 ニッ・・・と、妖艶で恐ろしい笑みが、彼女に貼り付く。

 段々と、凌雲閣のアーク灯の明かりが、近付いて来る。

 

 

 

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