★ サン=ベルナルディノ駅・駅舎前通り
太陽は、天頂への上昇を続けている。
相変わらず雲のひとつもない、快晴。
熱を帯びた乾いた風が、街中を流れて続けている。
巨大アプローズ、駅舎の反対側、何軒も木造家屋が並ぶ通りに到達。
ズオオオオ・・・と緩慢な動作で、顔を上げ、目線を遠くに放る。
左右に建屋が並ぶ道の先、50ヤードほどに複数の影を発見。
ラーラマリア、傘を差したキリエ、デスが横並びに立っている。
そのすぐ背後に、バクルスを右手に下げたハイエロファントの姿。
Uの字の形に口角を上げ、ニマアァ、と嗤う巨大アプローズ。
巨大アプローズ「(厭らしい声で)ミイィィィィツウゥゥゥゥケエェェェェタアァァァァ・・・」
そして、重量のある身体を動かし、ズモモモモ・・・と身体の向きを変えていく。
片や、4名。
非常に冷静な、凪いでいる雰囲気。
全員の眼が、涼やかな煌きを包括している。
ハイエロファント「(落ち着いた顔で)じゃあ、奏でようか」
デス「ああ。まずは・・・(大鎌を縦に差し出し)頼む」
ラーラマリア「(煉滅弾の弾丸を差し出し)頼むよ」
頷きながら、バクルスを左小脇に挟むハイエロファント。
右手でデスの大鎌、左手で煉滅弾の弾丸ニ発を握る。
彼が一度、すう、と息を吸う。
ハイエロファント「(明瞭な発声で)聖なる力!」
クワアッ!と、純白の発光を発する、ハイエロファントの両掌。
大鎌全体も同様の光に覆われ、弾丸は掌の内側でそれに包まれる。
少しの、後。
発光が終息する。
そこには。
全体が金色の、大鎌。
柄が、黄白色と白金色の混じった、光り輝く煌き。
刃のみが、今までの姿より一回り大きくなっており、蒼い大きな宝石が埋まり、流線形の装飾を施されている。
そして大鎌全体を均等に覆っている、虹色の光彩。
明らかに格段の進化をしたような、変化。
ハイエロファントの左掌に載る煉滅弾の弾丸にも、変化。
徹甲弾頭、薬莢、雷管まで含めた全体が、黄白色と白金色の混合された、眩しい輝き。
まるで内部に、ハイエロファントの力を凝縮させたが如く。
目を見開くキリエとラーラマリア。
キリエ「大鎌が、金色に・・・煉滅弾も・・・」
ラーラマリア「(ヒュゥ、と短く口笛を吹き)おほっ、鮮やかなモンだね。アタシのヤツもこうなるのかい?」
ハイエロファント「(微笑んで)やってみなくちゃ判らないけどね」
大鎌を受け取り、改めて身体の前に構えるデス。
手早く専用短銃に煉滅弾を装填し、カチャン、カチャン、と銃身を戻すラーラマリア。
陽を避けていた傘を畳み、ラーラマリアに差し出すキリエ。
日光が直接浴びせられるが、一瞬こめかみを動かしただけで、すぐに落ち着く彼女。
ラーラマリア「これでよし。(短銃二丁をキリエに渡し)任せたよ、相棒」
キリエ「(受け取りながら)任せて」
そしてラーラマリアが左手に仕込み傘を下げ、キリエが両手に短銃を下げる。
ハイエロファント、改めてバクルスを右手に持ち直す。
デス「(キリエに視線を結び)行くぞ」
キリエ「(デスに視線を結び返し、頷き)ええ・・・」
ハイエロファント「ラーラマリア、合図をお願い」
4人が向き直り、改めて前方の巨大怪物を見上げる。
その距離、およそ40ヤードまで接近中。
ズウウウ・・・ズルウウウ・・・と、不気味な重量音を伴い、尚も微速移動。
触手が空をもがくように掻いており、こちらに先端を向けたまま。
尚も、近付いてくる。
キリエ、ラーラマリア、デス、ハイエロファント、微動すらしない両眼。
凛とした、また芯の備わった、勇ましい眼差し。
巨大アプローズとの距離、およそ30ヤード。
ラーラマリア、カッ!と両目を見開き、ギンッ!と鋭く巨躯を見る。
ラーラマリア「(腹の底からの大声で)行くぞっ! バンジョーをかき鳴らせっっっ!!!」
途端。
ダッ!と、地面を蹴るキリエとデス。
態勢を低くし、放たれた矢の如く、一気に巨大アプローズとの距離を詰める。
疾風のような、ふたりの速度。
すぐさま、右腕の手首の部分を曲げ、カチ、と外すラーラマリア。
義手内部に折り畳んである小鎌が、顔を覗かせる。
ラーラマリア「(右腕を差し出し)やってくれエロファント!」
ハイエロファント「(力強い声で)聖なる力!」
ハイエロファント、ラーラマリアの右腕に左掌を翳す。
掌の中心が、クワアッ!と白色の光を発し、彼女の前腕部を覆い尽くす。
じわぁっ・・・と光が沁み込むように、内側の武器にまで入り込む。
ラーラマリア「(ぶるっ、と一度震え)おおおっ・・・何か身体ん中から力が湧いてくるな」
キリエとデス、更に疾走し接近。
待ってましたと言わんばかりに、ジュルウッ!と両腕の触手を伸ばす巨大アプローズ。
デスが、翻る。
キラッ!と、黄金色の三日月型の斬撃が、螺旋を描く。
二本の触手が、ザシュザシュウウウッ!とほぼ同時に斬り落とされ、吹っ飛ぶ。
切断面が白色光を放ち、即座に、ジュウワアアアッッ!!!と沸騰したように泡立つ。
それは更に腕の内部まで潜り込み、血が蒸気を放ちながら溢れ出る。
斬り落とされた先端側は、猛烈な湯気を発して、やがて動かなくなる。
巨大アプローズ「(悲鳴)痛デエェッ!」
巨大アプローズ、口らしき部分を盛大にΛの字にして、襲い来る痛みにもがく。
それでも、腹部の8本の触手を、ウジュルウジュル!と体液を飛ばしながら延伸する。
直後。
フシュッ・・・と、キリエとデスの姿が、消える。
次の瞬間、進行方向左側に跳ねている、ふたり。
ターンッ!と、道端に置かれてる樽の上面を、同時に蹴って跳び上がる。
タンッ! ターンッ!と、通りに突き出た庇、更に上の軒を足場に、一気に屋根まで達する。
まるで身体をひとつにしたような、見事な動作。
キリエの赫い瞳が、デスの紅い瞳が、二本の透過の光を残像としていく。
巨大アプローズが気付いた時には、ふたりは既に、連なる建屋の屋根を走ろうとしている。
前方に伸ばした触手が、すべて空振る。
そこへ。
キュインッ!と、別の黄金色の光が、飛んでくる。
ラーラマリアの仕込み小型鎌が展開し、キュルルルッ!と一気に空を裂く。
ザバッ! ザグッ! ズバシュッ!と、数本の触手が斬り飛ばされる。
そのまま伸ばした右腕を、∞の文字の軌道で振り回し始めるラーラマリア。
ラーラマリア「(突き抜けるような発声で)みっともねぇ触手なんざ斬り刻んでやるよ! 鉄道屋っ!」
ラーラマリア、両眼に鋭利な殺気を秘め、凄まじい回転速度で小型鎌を旋回させる。
ズバシュズバシュザシュザシュウウウッ!!!と、連続の斬撃を受ける、触手。
刺身のように、寸刻みで細切れになっていく。
斬られた部分は、切断面が白色光を放ち、また血が沸騰して噴き出る。
巨大アプローズ「(絶叫)ウギャアアアアッッッ! イデェイデェイデェッッッ!!!」
ラーラマリア「エロファント! 行けっ!」
シュルルルッ・・・と、小型鎌を手元に引き戻しつつ、バッ、と身体を屈ませるラーラマリア。
その背後には、バクルスを大上段に振り翳したハイエロファントの姿。
眉をきりっと寄せ、雄々しい表情。
ハイエロファント「(凛とした声)ミラクルビームっ!!!」
渾身の力で振り下ろされる、ハイエロファントのバクルス。
クワアァァッッッ!!!と、直径1ヤードほどの光球が前方に湧き上がる。
即座に、ズッドオオオオオムッッッ!!!と爆音を放ち、純白の光線が射出される。
ラーラマリアの頭上を、空気を割り、光輪を幾重にも纏い、劈く。
瞬時に、巨大アプローズの胸部に到達。
ドォ――――ンッ!!!と、凄まじい爆音と、目も眩む閃光を放ち、炸裂する。
余りの衝撃で、瞬間、巨躯が凹んだように反る。
その背後の空気が、ビリビリビリ・・・と猛烈に振動する。
ただ、下半身の物量が重過ぎる為か、倒れず。
押し戻されもしない。
しかし、衝突した純白光は瞬く間に巨大アプローズを覆い尽くし、隙間なく包む。
間髪を入れず、バチバチバチッ!と、生き物のように巨体の表面を走る、雷撃。
やがて、光が治まる。
巨大アプローズ、瞬間冷凍したかのように、凝固している。
巨大アプローズ「(悶絶した声)ガ・・・ガ・・・ゴ・・・」
向かって左側の建屋、屋根から屋根。
まるで地を駆けるような軽やかさで、キリエとデスが走る。
ハイエロファントの技が激突したのを目の当たりにし、くんっ、と更に加速。
デスは大鎌を構え、キリエに陽が当たらない位置で、疾駆。
キリエは短銃を両手に下げ、デスの影から巨大アプローズに目線を繋ぎ、疾駆。
固まった巨大アプローズの首筋が、斜め前方、横水平5ヤードほどの位置。
ターンッ!と、デスが、続いてキリエが宙を舞う。
空間を一気に接近していく、ふたり。
背後に大きく大鎌を振り翳した、デスの姿。
その頭上に、デスよりも大きく跳ねて空を行く、キリエの姿。
デス「(快心の声)貰ったあっ!」
気合一閃。
デス、大鎌を振り抜く。
巨大アプローズの右側の首筋に、斬撃が命中。
ザブシュウッ!!!と、三日月の刃が喰い込む。
一拍遅れて、キリエが身体を、くるっ、と空中で前回りに回転し、脚を揃える。
そのまま巨大な頭部に、ドン!と両足裏を押し当て、勢いのまま全体重を駆ける。
途端。
ブチブチブチブチィッ!!!と、太い首の腱と肉が、断たれる音。
デスの大鎌の刃が、キリエの追撃によって、一挙に斬首していく。
切創面の白色光、沸騰する血肉、噴出する水蒸気が混合し、面積を広げる。
そして、大きく傾いていく、巨大アプローズの頭。
顔は、絶叫した形態で、凝り固まったまま。
ぐらあっ・・・と揺らぎ、ズウッ・・・と反対側に重心を移動していく。
キリエ、タッ、と頭部を蹴り、宙返りをして、巨躯の肩に降りる。
デス、見届けて巨躯の肩を踏み締め、大鎌の切っ先を一気に手元に引く。
頭部が更に斜めとなり、パカァッ・・・と切断面を広げていく。
切り口から奥、巨大アプローズの首が、厚い皮だけで繋がっている。
傾き続ける大きな頭が、一旦停止する。
僅かの、間の後。
万有引力に従い、重心を移動し、元の位置に戻ろうとする巨大アプローズの頭部。
それを見極め、くるっ、と大鎌を真っ直ぐ立て、ズボオッ!と突っ込むデス。
巨大な頭が、再び停止する。
断面が、45度の角度を成している。
デスの大鎌がつっかえ棒となり、巨躯の頭部の切断面と、綺麗な三角形を描いている。
一気に重さが掛かってくる、大鎌。
デス、奥歯を噛み、両腕と全身に力を込め、支える。
斬撃の光が治まったのを、確認。
デス「(気迫の声で)キリエっ! 今だっ!!!」
瞬間。
するっ!と滑らかな足捌きで、デスの眼前に潜り込むキリエ。
巨大な頸部の狭間、血肉の泥濘に屈んで、スチャッ、と両手の短銃を構える。
一方の銃口は頭部へ、一方の銃口は首から下へ向けられている。
キリエの赫い瞳が、爛と煌く。
キリエ「(低音を効かせた声で)終わりよ・・・ポッポ屋・・・」
引鉄が、動く。
ヴォゾォ―――ン!と、同時の発砲音。
煉滅弾が、巨大アプローズの首から頭蓋、首から胸部に、減り込む。
直後。
巨躯の頭部が、巨躯の胸部が、風船のように膨らむ。
一拍の、後。
ボッズオオオオオオオオォォォォォッッッッンンン!!!と、大爆発。
アプローズの頭は瞬時に粉微塵になり、凄まじい物量の肉片と血液を、舞い上げる。
アプローズの胴体は、連鎖状に粉微塵になり、猛烈な勢いで肉片と血液を撒き散らす。
途端。
足場を失い、落下していくキリエとデス。
デス、空中でキリエを抱き留め、マントで包み、素早くフードを被る。
そのままふたり、身体を丸めるような体勢で、地面に急接近。
後から、宙に浮かんでいた大量の血肉が、重力に従って落ちてくる。
豪雨のように降り注ぎ、キリエとデスの姿が見えなくなる。
情け容赦なく、ボトボトボトボトボトボト・・・と地面に叩き付けている血液と肉片。
唖然とした表情で、それを見ているラーラマリアとハイエロファント。
やがて。
長い時間続いた血と肉の雨が、終息。
アプローズの居た場所を軸に、直径20ヤードにも及ぶ円の範囲が、真っ赤な絨毯を敷いたよう。
その周囲の家屋の戸口、窓、屋根までが朱に染まる。
中心点に向かい、こんもりと肉片と血液の山が形成されている。
全面から水蒸気が立ち昇り、悪臭も漂う。
ラーラマリアとハイエロファント、ダッ、とそこに駆け寄る。
次の、瞬間。
がばあっ!と、中心付近に盛られた血肉の山が、内部から跳ね退けられる。
マントを剥ぎ、通常に戻った大鎌を下げて立ち上がるデス。
続いて、撃った後の短銃を両手に握り締めたまま、立つキリエ。
全身は、大量の血液と体液でぬめっている模様。
正面から向かってくるふたりをデスが手で制し、自ら歩を進めてくる。
隣を一緒に歩いてくるキリエ。
両名、足取りはしっかりしており、表情も落ち着いている。
ビチャ、ビチャ、と踵で血液を跳ね上げ、肉の泥濘を慎重に移動していく。
ラーラマリア「キリエっ! デスっ!」
ハイエロファント「ふたりとも大丈夫!?」
デス「(ふう、と息をつき)ああ、問題ない。ちょっと着地が甘かったとは思うが」
キリエ「大丈夫よ。これだけ血肉の塊を被ったのは初めてだけど」
広範囲に拡散されたアプローズの残骸から、外に出るキリエとデス。
ほっ、と胸を撫で下ろした雰囲気で、歩み寄ってくるラーラマリアとハイエロファント。
徐にキリエが、ペロ、と口の周りを舐める。
顔に付着したアプローズの血液が、舌で掬われる。
キリエ「(顔を顰め)・・・まっずい血・・・」
何の躊躇もなく、自分の右手首に付いている血液を舐めるデス。
デス「(口元を歪め)・・・確かに、これは不味い」
途端。
キリエとデス、顔を見合わせる。
そして。
破顔一笑。
目を細め、すべてを許容したような微笑みを浮かべる、ふたり。
連動したように、ラーラマリアとハイエロファントも、優し気に笑みを湛える。
キリエ、ラーラマリアに視線を結ぶ。
ラーラマリア「(満足そうに)やったな、キリエ」
キリエ「(頷いて)うん、終わった。終わらせることが出来た。本当に・・・セシリア母さんたちに、報告が出来るわ」
ラーラマリア、感慨深げに頷き返し、元の色に戻った小型鎌を、右腕内部に収納する。
カチン、と右手の手首を嵌め込み、ふう、と短く息を継ぐ。
改めてキリエの全身を上から下まで凝視し、続いてデスにも目を向けるラーラマリア。
ラーラマリア「それにしてもまあ、ふたりとも全身血と体液塗れだなぁ。それに、化け物の体液は臭いし、いつまでもこのままじゃキッツイ・・・(思い付いたように)そうだ。みんなで水浴びしてから移動するか? 汗も血も流して、さっぱりとしてから次の・・・」
ハイエロファント「(きっぱりと)いや、僕はデスとふたりだけで水浴びするから、お先にどうぞ」
きょとん、とした顔のラーラマリア。
幾度か瞼を瞬かせるキリエ。
目を丸くして、ハイエロファントに目線を固定しているデス。
この上なく真剣な表情で、揺るぎない視線を投げているハイエロファント。
暫くの、間。
長い、間。
更に、間。
ラーラマリアの頬が、段々と緩んでいく。
ある程度我慢していた様子だが、遂に耐える限界を越える。
ラーラマリア「(プッ、と短く噴き出してから)ぷくっ・・・くくっ・・・(愉快そうに笑い)あははははっ!」
ハイエロファント「面白いことを言ったつもりはないんだけど・・・」
ラーラマリア「(笑い混じりで)いや、ははっ、わりーわりー、ぷふっ、や、余りに真面目過ぎる答えだったんで、はははっ・・・解ってる解ってるって」
デス「(きっ、と睨んで)笑い過ぎだ、ラーラマリア」
キリエ「確かに、ね。でも・・・(ふっ、と微笑んで)デスと水浴びするのは、いいかも知れない」
デス「(少し驚いたように)キリエまで・・・死神と水浴びしても、いいことはないぞ」
キリエ「本当にそう? エロファントもそう思ってる?」
ハイエロファント、即座に首を左右に振る。
ハイエロファント「(柔らかい微笑みで)まさか。至高のひと時だよ」
直後。
キリエの両手が、むんず、とデスの右手を掴む。
今度はその動作に目を見開き、キリエに視線を繋いで凝り固まるデス。
キリエとラーラマリア、何気に期待を込めた眼差しをデスに向けている。
対してデスは、パクパク、と唇を開け閉めして、言葉を失っている。
ラーラマリア「んじゃ、オンナ3人で水浴びといきますか? (ハイエロファントを見て)エロファント、悪いが奥さん借りるぞー」
デス「(かあっ、と真っ赤になって)ちょっと待てって! あたしはハイエロファントと・・・いやその・・・」
キリエ「(ハイエロファントを見て)ごめんなさい、なるべく早く戻ってくるわ」
ハイエロファント「(笑顔で)いってらっしゃい」
明るい調子で、右手を軽く振るハイエロファント。
ラーラマリア、先導して小走りに駆け出す。爽やかな笑顔。
キリエ、デスの右手を握ったまま走り出し、彼女を引っ張っていく。穏やかな笑顔。
デス、左手の大鎌を引き摺るように、引っ張られて為すがままに移動していく。
そして、ちら、とハイエロファントを振り返り、視線を絡める。
その時には既に、諦めたような、開き直ったような笑みを浮かべているデス。
ハイエロファント、柔らかな笑みを、返す。
やがて。
女性3人が、近くの建屋の間、路地の角を曲がり、消える。
残されたハイエロファント、悠然と身体の向きを変え、歩く。
それから、今も腐臭を放つ、アプローズの大量の遺骸の端に立つ。
左手に下げたバクルスを、くる、と回して持ち直す。
先端の蒼い宝玉を、血と肉の堆積している中心部に翳す。
ハイエロファント「(清廉で、重厚な声で)・・・聖なる力!」
バクルスの先に、クワアッ!と純白の光が、湧く。
直後。
ボン!と弾かれたように光球が発生し、宙を移動し、一直線に肉塊の山に向かう。
光の球の縁が、そこに触れた、瞬間。
20ヤード直径に拡散している血肉の海が、全面白色光を放つ。
ジュウワアアアァァァッッッ!!!と、一瞬で沸騰したかの如く、純白のヴェールに覆われる。
そして、オーロラのような煌きを漂わせ、白い靄が揺らぎ、天に昇り始める。
静かに、だが確実にその現象は続き、やがて消失する。
後には、干からびたように平たくなった体組織の層と、焦げ付いたような血の層が残存する。
沈黙。
沈黙。
ひゅう・・・と、乾いた風が、鳴る。
ハイエロファント、バクルスを持った腕を下ろし、体側に添える。
フシュッ・・・と、手から消えるバクルス。
アプローズを構成していた残骸を、憐憫を湛えて見渡すハイエロファント。
そして胸の前で両手を組み、両の瞼を閉じ、口元を引き締める。
ハイエロファント「(透明で、深遠な声)・・・主よ・・・憐み給え・・・」
暫し、そのまま。
尚も、そのまま。
ハイエロファント、目を開いて、両手を後ろ手に組み、すいっ、と踵を返す。
悠然とした歩調で、3頭の馬を繋いでいる路地に向かい、消える。
静寂。
静寂。
再び、ひゅうっ・・・と、風が空を薙ぐ。
何処から舞って来た砂埃が、旋風のような軌道を描いている。