「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

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鳴り交わす絃の、相和せる競いよ【後編】-8

★ (数日後)カリフォルニア州

 

 サン=ベルナルディノ駅での激戦から、数日経った日の、昼間。

 太陽は天頂を過ぎ、地平へ高度を下げつつある時間。

 雲は厚く、切れ目から光の筋を成して陽がところどころ差し込んでいる。

 地表の温度は思ったほど高くなく、渡る風は心地いい。

 ほとんど障害物も、小振りな岩すらも見当たらない、乾燥した荒野が広がる。

 地面に、馬車の車輪の跡、馬の足跡、人の足跡などが延々と連なっている。

 その線は、途中で大きく二方向に、Yの字に枝分かれしている。

 恐らく、違う目的地へと繋がる、二本の轍。

 その分岐点の上に、4名が立って向かい合っている。

 側には、3頭の馬が並んで控えている。

 キリエは傘を深めに被り、目を伏せて、物憂げな表情。

 ラーラマリア、キリエの横顔を見た後、目線を前に向ける。今ひとつ腑に落ちていない様子。

 対しているデスとハイエロファント、普段と変わらぬ雰囲気。

 デスは大鎌を左肩に掛け、ハイエロファントは両手を後ろ手に組んでいる。

 

ラーラマリア「本当に行くのか?」

デス「(こくん、と頷き)ああ。悪いが、ここから別の方角へ行ってみる」

キリエ「(顔を上げて)馬はいいの? 一頭なら譲ってあげても・・・それに、エロファントに懐いてる」

ハイエロファント「彼らは、納得してくれる。元々3頭で旅してきたんだよね? それを離したくない。ここからの道行きに関しても、君たちから地図を貰えたから、迷うことはないと思う」

 

 反応したように、傍らの3頭の馬が一斉にハイエロファントを見る。

 ブルルル・・・と穏やかな、納得したような嘶き。

 ラーラマリア、馬たちの返事を横目で追った後、視線を戻す。

 

ラーラマリア「正直言うと・・・(真剣な声で)アタシら4人なら、『黒衣の者』も確実に斃せる気がする。あん時の連携・・・完璧だったとは思わないかい?」

デス「(頷いて)悪くなかった」

ハイエロファント「でも僕たちは、違う世界の住人・・・突然この世界に来たけど、突然元の世界に戻される可能性もある。何となくだけど、マジカルランドで僕たちが消えたことは、もう認識されていると思うんだ」

デス「(ハイエロファントを見詰め)ワールドなら、既に『第三の目』で知り得ているだろうからな」

ハイエロファント「(デスを見詰め)特に、死神の君がいなくなることは、世界の根幹を揺るがす事態だからね。ワールド様やフォーチュンなら、ドロップで僕たちを帰還させようとすることも考えられる」

 

 数回、目を瞬かせるキリエとラーラマリア。

 またもや出てきた聞いたことのない名前や単語に、不思議そうに目を向けている。

 軽く小首を傾げ、静かに左手を腰に当て、少し身体を伸ばすラーラマリア。

 

ラーラマリア「・・・とにかく、あんたらは元の世界に急に戻ることもあり得る、ってことだね?」

ハイエロファント「そう、こちらの世界に来たのもいきなりなら、戻るのもいきなり、ということ」

ラーラマリア「(はあ、と溜め息を吐き)そっか・・・しゃーない」

 

 ふっ、と残念極まりなさそうな表情を浮かべるラーラマリア。

 そして、すっ、と右腕を伸ばし、掌を軽く開いて差し出す。

 

ラーラマリア「万が一、また逢うことがあれば・・・(涼やかな眼で)また旅をしないか?」

ハイエロファント「僕たちで良ければ、喜んで」

デス「ハイエロファントがいいのなら、あたしも異存はない」

 

 ハイエロファントが右手を伸ばし、ラーラマリアと握手をする。

 続いて、デスも同様に、彼女と握手をする。

 腕を体側に下ろし、穏やかな微笑みを交わし合う3名。

 片や、キリエ。

 両手で、ぎゅっ、と傘の柄を握ったまま、再度顔を伏せている。

 一歩、キリエに接近し、至近距離で向かう合うデス。

 

キリエ「(僅かに声を震わせ)・・・折角、友達になれたと思ったのに・・・」

デス「死神と友達には、なるものではないな」

キリエ「(ちら、と上目遣いにデスを見て)エロファントとは夫婦なのに?」

デス「(頬を朱に染め、視線を外し)や・・・ハイエロファントは、別だ・・・」

 

 キリエ、デスの照れた顔を目の当たりにして、少しだけ口角を緩める。

 全員の視線が集まる中、遠くを見るような眼で、瞼を半分閉じる。

 

キリエ「私と知り合った人、友達だって言ってくれた人は、みんな死んでいったわ。だからこうして・・・デスとエロファントがこうして生きててくれて、嬉しい」

 

 途端。

 バッ、と勢いよく顔を上げ、デスとハイエロファントに眼差しを結ぶキリエ。

 

キリエ「(赫い瞳を、きら、と煌かせ)あなたたちに知り合えて、本当に良かった」

 

 透明で、清廉で、綺麗な響きの、声。

 心の底からの言語が、閃く。

 デスとハイエロファント、同時に大きく頷き、キリエとラーラマリアを真っ直ぐ見詰める。

 キリエとラーラマリア、揺るがない視線で、デスとハイエロファントを真っ直ぐ見詰める。

 暫くの、後。

 くる、と踵を返し、背を向けて肩を並べるデスとハイエロファント。

 数歩、枝分かれした轍の一方向に、歩き出す。

 突然。

 

キリエ「デス、ひとつ聞かせて」

 

 思い出したような表情で、デスの背中に言葉を放るキリエ。

 デス、続いてハイエロファントが振り返る。

 

デス「(瞼を一度瞬かせ)何だ?」

キリエ「わたしは・・・救われると思う?」

 

 間を置かず、両目を閉じるデス。

 

デス「(深い声色で)死神のあたしですら、救われたんだ・・・」

 

 そしてデス、瞼を開け、しっかりとキリエを見詰める。

 

デス「(きっぱりと)お前が救われない筈がない」

 

 ゆっくりと、確実に丸く見開かれていく、キリエの両眼。

 デスの返答が一瞬で彼女の裡に流れ込み、深層まで達している模様。

 傘を握る両手に、きゅうっ、と更に力を込めている。

 

ハイエロファント「キリエ、君は・・・もう救われているんだよ」

キリエ「(思わずハイエロファントを見て)え?」

ハイエロファント「(ラーラマリアに目線を向けながら)すぐに、判るよ」

 

 ラーラマリアと目を合わせ、小さく頷くハイエロファント。

 不敵に、且つ慈愛を包括した微笑みを湛え、目を細めるラーラマリア。

 それからキリエの横顔に視線を結び、続いてデスとハイエロファントに目を移す。

 再度身体を返し、キリエとラーラマリアに向き直る、デスとハイエロファント。

 

ハイエロファント「父なる神は、気高き魂を決してお見捨てにならないんだ」

デス「キリエ、お前の魂は、今まで見てきた魂の中でも、飛び抜けて清んでいる。そして気高い」

 

 更に、キリエが眼を大きく開ける。

 そして息を思い切り吸い、止める。

 デスとハイエロファントの眼差しは、微塵も揺らぐことなく一直線に彼女に注がれる。

 

デス「(ふっ、と笑みを浮かべ)死神のあたしが言うんだ。信じろ」

 

 直後。

 ふわっ・・・と緩やかに、キリエが微笑む。

 心の淵からの歓喜、魂の奥底からの嬉しさを、抑えることなく。

 まさに、聖女の笑み。

 傍で見ていたラーラマリア、ぐっ、と唇を噛む。

 感嘆を満たした両目を、ほんの僅か潤ませ。

 暫くの、間を置き。

 更に、置き。

 思い切ったように目線を掲げ、デスとハイエロファントを見詰めるラーラマリア。

 喜びの笑みから、寂寞の微笑みへと変わっていく、キリエ。

 

ラーラマリア「(名残惜しそうに)元気でな。ふたりとも」

ハイエロファント「ふたりも、元気でね」

デス「またな」

キリエ「(寂し気に)また、ね」

 

 互いに交わされる、4人の視線。

 長い、時間。

 やがて。

 振り切るような動作で、ばっ!と背を向け合うキリエとラーラマリア、デスとハイエロファント。

 目を伏せたまま、傘の陰に隠れるようにして、一頭の馬に跨るキリエ。

 間髪を入れず、唇を引き締めたまま、一頭の馬に跨るラーラマリア。

 キリエが、荷馬としているもう一頭の手綱を持った、瞬間。

 前方から、ぶわあっ、と突然駆け抜ける、一陣の風。

 キリエ、開いた傘を取られそうになり、ぐいっ、と力を込めて引き戻す。

 ラーラマリア、思わず一度目を閉じ、キリエの様子を窺いながら後方に目線を投げる。

 無人。

 誰も、いない。

 過ぎていった疾風が、砂埃を巻き上げて、遥かな距離を開いていくだけ。

 両眼を正円に見開くラーラマリア。

 

ラーラマリア「(息を飲み)・・・いない!」

 

 すかさず振り返るキリエ。

 枝分かれしている轍の先、周囲、霞んで見える地平の端まで、動く者はいない。

 黄褐色の土だけが、可視範囲に存在している。

 デスとハイエロファントの姿が、ない。

 

キリエ「(息を飲み)嘘・・・さっきまでいたのに・・・」

ラーラマリア「(ぐるり、と周囲を見回し)姿を隠す場所なんてないぞ! ホントに消えちまった!」

 

 辺りにあるのは、広大に拓けた荒野。

 間近には小振りな岩や、樹々などは存在せず、ましてや影を潜めるなど不可能。

 たった一瞬で、デスとハイエロファントは、姿を消した模様。

 茫然とする、キリエとラーラマリア。

 尚も、動かず。

 尚も、動かず。

 漸く、疑念が入り混じった表情を浮かべるキリエ。

 

キリエ「本当に・・・元の世界に戻ったの?」

ラーラマリア「いや、判らない。(両の瞼を閉じ)あちらの世界から急に呼び戻された、ってコトなんだろうなぁ・・・」

 

 再度、黙るふたり。

 ラーラマリア、目を開けて、遥か彼方を眺めるような視線を放る。

 そして、ふうう、と大きな溜め息をひとつ吐く。

 

ラーラマリア「なーんか、この数日、夢みたいな感じだったな、思い出してみればさ」

キリエ「でも・・・(ラーラマリアに目線を向け)夢じゃなかった」

ラーラマリア「(コク、と頷き)ああ、夢じゃなかった。確かに、アタシらは曲を奏でたさ。ゴードバンジョーみたいに、4本の弦が競うように鳴り交わした、相和せる旋律を、な」

 

 キリエも、コクン・・・と首を上下に振る。

 暫くして。

 何かを振り切るように、手綱を同時に馬の首に、パシ!と当てるふたり。

 合図を受け、馬が並足で、カッポ、カッポ・・・と蹄を鳴らして進み出す。

 デスとハイエロファントが向かおうとした方向とは別の、もう一方の轍に沿って。

 段々と、4人が別離を交わした地点から遠ざかる。

 キリエ、ふと、思い出した様子でラーラマリアを見る。

 

キリエ「そう言えば、持ってこなかったの? バンジョー」

ラーラマリア「ああ。元々あの孤児院の物だし、壊したら修理も大変かな、と思ってね。銃の修理なら何てことないが、楽器の修理は難しくってさ。(にひっ、と笑い)もっと聴きたかったかい? アタシの演奏」

キリエ「(かあっ、と頬を紅色に染め)そんなこと言ってない! ウザいっ!」

 

 真っ赤になって、別方向に目線を逸らすキリエ。

 愉快そうに彼女を見詰めるラーラマリア。

 そして。

 ラーラマリア、真っ直ぐに前方、進行方向に視界を固定する。

 

ラーラマリア「『黒衣の者』を斃して、狂血病を治す“明日”が見えたらさ・・・」

 

 その真摯な声色に、彼女の横顔に視線を戻すキリエ。

 少しの、間。

 静かに、ぶれない眼差しをキリエに向けるラーラマリア。

 

ラーラマリア「(清廉な、真剣な声で)ふたりで戻ろう、あの孤児院へ。そして・・・聴かせてやるよ、アタシの演奏と唄を、さ」

 

 キリエの両目が、ゆっくりと見開かれる。

 瞳が、限りなく透明に赫く輝く。

 ふたりの目線が、宙で絡み、融合し、一本の不変なものとなる。

 箍を外したように、緩んでいくキリエの表情。

 

キリエ「(穏やかに)・・・うん」

 

 ラーラマリア、聖母の如き微笑で、キリエを見詰める。

 キリエ、紛うことなき聖女の微笑で、ラーラマリアを見詰める。

 やがて。

 揺るぎない、深い想いを秘めた両眼を、進む先に据えるふたり。

 そのまま、3頭の馬を並べて、行く。

 彼方の風景が、砂塵で霞んでいる。

 太陽の光は、厚い雲の隙間から注がれており、天への階段のように地上とを結んでいる。

 それは。

 キリエとラーラマリアの来たるべき日の、福音の如く。

 

 

 

クロスオーバー番外編【 鳴り交わす絃の、相和せる競いよ:了 】

 

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