少しの、間。
更に、間。
発言の意味が解らず、眉を顰めるキリエ。
キリエ「(胡散臭そうに)・・・ごめんなさい。誰のこと?」
その台詞の、すぐ後。
対峙しているふたりの近くに、騎乗したラーラマリアが戻ってくる。
男性剣士が下げてる剣を確認した途端、目を見開いてかなり驚いた顔になる。
即、下馬してキリエの傍らに歩み寄っていくラーラマリア。
正面の男性剣士は、悠然とした雰囲気で、こちらのふたりを見ている。
ラーラマリア「(少し興奮した口調)その剣! 『カタナ』か?」
男性剣士「如何にも! これは俺の日輪刀だ!」
ラーラマリア「もしかして・・・『サムライ』か!? 最近本営から、今“イワクラ使節団”って連中がジャパンって国から来てる、っつー連絡が前にあって・・・あんた、その一行のひとりかい!?」
男性剣士「使節団ではない! それに俺は侍ではない! 鬼殺隊だ!」
ラーラマリア「そっかい。詳しくはアタシも知らないケド、そういう武器を持って闘うのは、ジャパンのサムライだって聞いたことがあるんでね・・・(朽ちた異形の遺骸を見て)それにしてもコイツらを一撃で斬って仕留めるとは、あんた、相当腕が立つねぇ」
男性剣士「鬼殺隊の炎柱であるからには最低限の責務だ! 空を飛ぶ『鬼』とは初めて闘った!」
ラーラマリア「この、蝙蝠みたいな羽根が生えたヤツか? 防疫修道会の連中は『ムルシェラゴ』って呼んでたっけ。(キリエに目を遣り)あんたもソリアで闘ったんだよな?」
キリエ「(目線を返し)そうよ」
男性剣士「『むるせらご』という名か! ここも『鬼』の脅威に晒されているのだな!」
ラーラマリア「(にひっ、と笑って)いちいち声がでかいケド、気持ちいい喋りだね!」
キリエ「(ややうんざりしたように)もうちょっと音量落としてくれないと、ウザい・・・」
視線を宙で繋いだまま、向かい合う3人。
男性剣士「名乗るのが遅れた! 俺の名は煉獄杏寿郎! 鬼殺隊、炎柱だ!」
ラーラマリア「アタシはラーラマリア=クリストフォロス。アメリカ合衆国陸軍第一葬兵連隊、葬兵少佐さ。(キリエに顔を向け、右手親指で指し)こっちはキリエ、アタシの相棒。一緒に旅をしている」
こくん、と小さく首を上下に振るキリエ。
ただ、微かな警戒を瞳に宿したまま。
対して杏寿郎、口角を上げたままで、大きな動作で頷く。
それから、右手に下げた日輪刀を、カシュン、と鞘に収める。
更に腕組みをして、両足を肩幅に広げてしっかりと立つ。
杏寿郎「ところで尋ねたい! ここは日本ではなく、米国なのか?」
ラーラマリア「米国? あ、そっか。あちらじゃそう呼ばれてんだっけ・・・ここはアメリカ合衆国ネバダ州ってトコさ。ええと、レンゴ・・・ちょっともっかい名乗ってくれるかい?」
杏寿郎「煉獄杏寿郎! 煉獄、で構わない! サンタマリア女史!」
ラーラマリア「(苦笑い)ラーラマリア、だよ、煉獄さん・・・あんたはジャパンから来た、のは間違いないか?」
杏寿郎「米国での日本の呼び名だな! (頷き)うむ! そうだ!」
ラーラマリア「使節団の一行じゃないって言ってたケド・・・個人でこの国まで来たのかい?」
杏寿郎「個人だが! 実はどうやって来たのか判らんのだ!」
キリエ「(訝し気に)・・・どういうこと?」
杏寿郎「俺は上弦の参、猗窩座との闘いで死んだ! だが気が付いた時! 赤茶けた岩山に囲まれた大地にいた! それから一昼夜経って、今ここにいるという訳だ!」
キリエとラーラマリアの表情が、凍て付いたように固まる。
さも当然のような顔の杏寿郎を、見開いた両眼で見詰めている。
沈黙。
沈黙。
更に、間をおいて。
キリエ「(眉を顰め)何・・・それ・・・」
ラーラマリア「(眉を顰め)死んだ? 嘘だろ? だってアタシたちは生きてるし死んだことはない!」
杏寿郎「俺が死んだのは事実! 鳩尾に奴の右腕が貫通し、出血も止められなかった! 竈門少年たちに後事を託し、亡くなった母上にも逢った!」
理解力を超越した話が、杏寿郎から連続して語られる。
最早、何と応対して良いか完全に見失う、キリエとラーラマリア。
再度の、沈黙。
間。
尚も、間。
漸く。
ラーラマリア、ふーっ、と長い溜め息をつく。
ラーラマリア「(眉間に皺を寄せ)やばいね・・・久々に頭が混乱してきたよ」
キリエ「おかしな話だけど・・・(横目でラーラマリアを見て)嘘はついてないと思う」
キリエの落ち着いた表情。冷静さを既に取り戻している模様。
視線を合わせたラーラマリア、自分の裡にも沈着さが回帰してくるのを感じる。
そして、正面の杏寿郎を再度見る。
杏寿郎、変わらず悠然とした佇まい。
その、直後。
幌馬車に乗っていた中年男性が、歩み寄って来る。
キリエとラーラマリア、杏寿郎の立ち位置と三角形を成す地点で停まる。
中年男性、安心した顔で3人を見回す。
中年男性「話の最中悪いけど・・・さっきは本当に救かった。礼を言わせてもらう」
ラーラマリア「(安堵した笑みで)怪我は大丈夫かい?」
中年男性「(首を上下に振って)お陰さんで・・・馬車から落っこちた時に打ったけど、大したことはない。(キリエに目を向け)黒髪のお嬢さんが、身体張ってあの化け物から護ってくれたからな」
キリエ「(ぷい、と顔を背け)別に・・・大層なことやってない」
杏寿郎「いや! キリエ少女の身を挺した行動! 傘を用いて鬼を仕留めた技! 実に見事だった!」
キリエ「(杏寿郎を見て)わざわざ少女って付けないで。キリエ、でいいわ」
頬を微かに薄く染めるキリエ。
中年男性、左手の人差し指で、前方に見える山脈を示す。
中年男性「自分はこの先のバトルマウンテン鉱山の街で、サルーンを経営してる者だ。仕入れから戻る途中で、あの化け物に襲われたところを、貴方らに救けてもらった、って訳なんだ・・・(3人を見渡し)お礼と言っちゃ何だが、せめて夕餉くらいは食ってってくれないかね?」
杏寿郎「それはかえって申し訳ない! 当然の責務を果たしたまでだからな!」
中年男性「いやいや、このまま帰してしまってはこっちが申し訳ない。(再度3人を見渡し)救けてもらった礼をさせてくれ。(頭を下げ)この通り!」
90度の角度まで、深々と頭部を下ろし、懇願した表情の中年男性。
ふっ、と口元を緩めて、目を細めるラーラマリア。
ラーラマリア「そこまで言われちゃあ、お邪魔するのもアリかもな」
キリエ「(ラーラマリアを見て)でも・・・」
ラーラマリア「(キリエに目線を送り返し)“そん時”は、アタシたちで何とかしよう」
キリエ「(渋々という感じで)・・・解ったわ」
中年男性、バッ、と顔を上げ、晴れ晴れとした顔になる。
良い機会を得たとばかりに、嬉しそうな笑みを浮かべる。
中年男性「(杏寿郎に目を遣り)ジャパンからのおサムライさんも、是非来て頂きたい」
ラーラマリア「(頷いて)そうだね、煉獄さんも来な。いろいろと聞きたいこともあるし」
杏寿郎「(即答)判った! そこまでの誘いを無下に出来ん! お相伴に与ろう! アヴェマリア女史!」
一瞬、ラーラマリアの微笑みが引き攣る。
それから見る見る呆れたような表情へと転化し、杏寿郎に据えた目線を放る。
ラーラマリア「(ジト目で)・・・覚えづらい名前だって解ってっけどさぁ・・・」
はあ、と息を継いでから、キリエを促して自分たちの馬の近くへと移動する。
歩きながら、暫く杏寿郎の姿を、じっ、と見詰めているキリエ。
杏寿郎は中年男性と共に、先で待機している幌馬車の方向に歩いている。
キリエ《変わった人・・・だけど、悪い感じはしない・・・》
そして、キリエとラーラマリア、再度馬上の人となる。
ふたりが、パシ、と手綱を打つ。
宵の口の薄暗さが増している街道を、並足で前進し始める3頭の馬。