「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

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輝く暁の明星の、いと美わしきかな【前編】ー3

★ (1時間後)アントラーピーク山麓・バトルマウンテン鉱山地区・街中・サルーン

 

 完全に夜の帳が落ちている、最頂部に残雪を冠したバトルマウンテン山脈。

 その中の頂のひとつ、アントラーピークの麓。

 大小いくつかの坑道や施設が点在する、バトルマウンテン鉱山。

 鉱山地区から、なだらかな土地が広がり、そこに小規模な街がある。

 街道からの入口には、特に名を記した看板はない。

 簡単に組まれた木柱と木の板だけが、街の区画を示している。

 十数件の建屋が、メインストリートと思しき通りの左右に、点在。

 その中で、一際大きな二階建てのサルーンが、街の奥、広場の近くに建つ。

 ウッドデッキからスウィングドアを開けて入る店内、ランプの灯りが煌々と照っている。

 カウンターに座席はなく、丸や角のテーブルが6台程度、椅子が20台ほど。

 客は10名前後、給仕をしている中年の女性が、忙しく動いている。

 カウンターの中では、キリエたちに救けられたサルーン主人が、料理を作っている。

 カジノマットを敷いたような台も置いてあり、数名がカードゲームをしている模様。

 漂う煙草の煙と、男たちの笑い声。

 風体は鉱山労働者であろうか、作業服のまま酒を呑む者もいる。

 その一角、丸テーブルを囲んで椅子に座している、キリエとラーラマリア、杏寿郎。

 それぞれの目の前には、飲み物が入ったグラスが置かれている。

 キリエにはミルク、ラーラマリアにはバーボンウィスキー、杏寿郎にはビール。

 ラーラマリア、時折ウィスキーを口にしながら、杏寿郎に質問をしている。

 杏寿郎が回答している。ビールには手を伸ばさず、腕組みをしてきちんとした姿勢。

 それを手持ちのメモパッドに、万年筆を走らせて書き留めていくラーラマリア。

 キリエ、ミルクを時々口にしながら、ふたりの様子を窺っている。

 暫くの時間が過ぎ。

 サルーン主人が、前掛けで手を拭きながら、3人が座るテーブルに歩み寄って来る。

 

サルーン主人「飲み物はおかわりあるから、遠慮なくどうぞ」

杏寿郎「ありがたい! 馳走になる!」

ラーラマリア「(主人に目線を送り)ここの街って、どんくらいの人が住んでんだい?」

サルーン主人「家は10数軒で、住んでるのは50人くらいかね。少し離れたセントラルパシフィック鉄道の駅の近くにはもっと住んでるが、ここは鉱山のすぐ麓の街だから、そんなに大勢はいないな」

ラーラマリア「そっか・・・それと、この街に電信線は通ってるかい?」

サルーン主人「全部の家には来てないけど、ウチには入ってるね」

ラーラマリア「悪ぃケド、あとで貸してくれないか? 通信機は持ってるから線だけ借りたいんだ」

サルーン主人「(頷いて)ああ、気兼ねなく使っておくれ。貴方らは命の恩人だからな」

 

 ニマ、と顔を綻ばせるサルーン主人。

 

サルーン主人「それじゃ、拵えてんで暫く待っとくれ」

 

 主人、踵を返し、再びカウンターの向こう側に戻る。

 キリエ、それを見届けた後、店内を、ぐる、と見渡す。

 そして身体を傾げて、ラーラマリアに目線を送る。

 

キリエ「(声を落として)やっぱり街の人に迷惑は掛けたくないわ。ムルシェラゴが襲撃してくるかも知れない」

ラーラマリア「来る前に言ったろ? 奴らが襲ってくれば、アタシたちで闘ってやろうじゃないか」

杏寿郎「『むるせらご』が来るならば、俺も日輪刀を振るう!」

ラーラマリア「頼もしいね。あんたみたいな強い人が味方なら、助かるよ」

キリエ「(短く、ふう、と息を継いで)・・・仕方ないわね」

 

 ミルクをもう一口喉に流し込み、杏寿郎に視線を繫げるキリエ。

 杏寿郎は身動ぎもしない、威風堂々とした姿勢で腰掛けて、口角を上げたまま正面を向いている。

 

ラーラマリア「さてと、ジャパンの様子は大体判った。(万年筆で、トントン、とメモパッドを叩いて)煉獄さん、いろいろ聞かせてもらったケド、この情報って他に伝えても差し支えないかい? 陸軍本営ならジャパンの情報も何かしら入ってるだろうから、あんたの国に連絡出来る手掛かりが掴めるかも知れない」

杏寿郎「(首を大きく縦に振り)構わん!」

ラーラマリア「何か判ったら、すぐに知らせる」

杏寿郎「ありがたい! 世話を掛けるが、よろしく頼む!」

キリエ「立て続けになるけど、私からも質問、いい?」

杏寿郎「(キリエを見て)うむ! 聞いてくれ!」

 

 キリエ、手にしていたグラスを、コト、とテーブルに置く。

 

キリエ「私のことを『オニ』って言ってたけど・・・(重みのある声で)それって吸血鬼のこと?」

杏寿郎「鬼は鬼だ! 『きゅうけつき』ではない!」

キリエ「あなたのいた場所の『オニ』って、どんな連中?」

杏寿郎「人を殺し喰らう! 身体能力が高い! 傷はたちまち塞がり、斬り落とした手足も再生する! 太陽の光を浴びるか、日輪刀で頸を落とさない限り滅することが出来ない!」

キリエ「吸血鬼と同じような存在・・・(据えた目で)でも狂血病で吸血鬼になった人は、日光でも死なない。日光と十字架で弱るけど、浄銀弾で脳か心臓を撃たない限り、殺せない」

 

 一度だけ瞼を瞬かせる杏寿郎。表情に変化はない。

 

キリエ「この国には、狂血病って病気があって、罹ると血肉を欲する吸血鬼になるの」

杏寿郎「何と! 鬼になる病があるのか! 初耳だ!」

キリエ「吸血鬼に血を吸われると狂血病患者になる。発病して自我を失うと吸血鬼になって、誰かを襲う・・・そうやって吸血鬼は増えていくわ」

杏寿郎「(短く息を継いで)それはきついな!」

キリエ「それだけじゃない。吸血鬼に血を吸われて死んだ人は、“死兵”という屍の兵隊となって、身体が朽ちてようがまた人を襲っていく・・・(杏寿郎を見て)あなたが斬ったムルシェラゴも、異形だけど吸血鬼の一種よ。他にも黒衣の者の肉体の一部を埋め込まれて、吸血鬼となる奴もいる・・・ここでの吸血鬼は、あなたの言う『オニ』と同じ、と考えてもらっていいと思う」

 

 杏寿郎、こくん、とはっきりとした動作で頷く。

 それからキリエとラーラマリアに、交互に視線を投げる。

 

杏寿郎「俺の国の鬼は、始祖である鬼舞辻無惨しか増やすことが出来ない! 人から人へ感染して鬼になる病とは、何という脅威!」

ラーラマリア「ムザン? 聞いたコトない名だケド・・・黒衣の者と同じような存在が、他にもいるってのか」

杏寿郎「先程から出ている『こくいのもの』とは、どういう輩なのだ?」

キリエ「(鋭い眼差しで、重厚な声で)すべての始まり・・・旧大陸からこのアメリカに来て、狂血病をばら撒いた吸血鬼の王・・・」

杏寿郎「『きょうけつびょう』という病を治す手段はあるのか?」

キリエ「(こく、と首を縦に振り)ええ、たったひとつ・・・黒衣の者の心臓から搾り出した血清が、狂血病を治療するワクチンの、唯一の材料・・・」

杏寿郎「つまり! 『こくいのもの』は、この国の鬼である『きゅうけつき』の始祖で、斃さない限り『きゅうけつき』は増え続ける! 無惨と同様の存在と考えて良いのだな!」

ラーラマリア「(ヒュウ、と短く口笛を吹き)理解が早いねぇ。それでOKさ。煉獄さんの言うムザンって奴も“すべての始まり”って訳だ。まさか他にも黒衣の者と似た奴がいるたぁ、世界は広いね」

キリエ「(小さく溜め息をつき)呑気なこと言ってるわね・・・」

 

 チラ、と横目で店内を見回す杏寿郎。

 店内は賑やかだが、中には時折こちらを窺って見ている客もいる。

 杏寿郎、キリエに視界を向ける。

 

杏寿郎「ところでキリエ少女!」

キリエ「(据えた目線を送り)だから、キリエ、でいいって・・・」

杏寿郎「君から感じる気配について、後ほど話を聞かせてほしいのだが!」

 

 はっ、と顔を上げるキリエ。

 騒がしい店内から感じ取れる、数名の視線。それらがすべて、胡乱と言いたげな雰囲気。

 明らかに別世界の風体の杏寿郎や、異相の空気を醸している自分を見ている。

 キリエ、真っ直ぐにこちらを見ている杏寿郎に目を向ける。

 

キリエ《ここで話さない方がいいって、判断してくれたんだ・・・》

 

 小さく奥歯を噛むキリエ。僅かに唇の端が緩む。

 そして、目線を卓上に落とし、瞼を軽く伏せる。

 

キリエ「(申し訳なさそうに)・・・食事の後、何処かで話すわ・・・」

杏寿郎「(頷き)うむ! 頼む!」

 

 直後。

 大きな平皿を持ったサルーン主人が、3人のテーブルに来る。

 

サルーン主人「お待ちどうさま! 1品目が出来たよ!」

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