★ 鉱山地区・街中・中央通り上空から広場→昇り坂
ムルシェラゴたち、既に大部分が街の周辺空域に到達。
街を取り囲むような位置を、高さ20~50ヤード付近で、不規則に旋回している。
獲物が顔を出すのを待っているかのように、眼下の建屋や通りを、濁った眼で目視。
街の中央を抜けるメインストリートに、数名の人影。
ムルシェラゴ数体が、急激に高度を下げる。
途端。
ヴォズッ! ドゴッ!と、けたたましい発砲音が響く。
音に続いて、ボゴォン!とムルシェラゴの頭部が炸裂し、体液を空に四散させる。
錐揉みしながら、建屋から離れた位置へと墜落していく異形の遺骸。
地上では、ラーラマリアが銃のシリンダーを開け、空薬莢を捨てている。
彼女のすぐ傍らを、サルーン主人が住人3人を誘導して駆ける姿。
銃撃を躱し、広場の方面に向かっていく1体のムルシェラゴ。
一度、ラーラマリアの立つ位置を窺い、地上に接近しようと翻る。
ヴォズーン!という銃鳴が、鉱山の方向より轟く。
ドゴボッ!と、そのムルシェラゴの後頭部が凹み、顔の前面が破裂する。
誰から攻撃されたか知らず、その異形の屍は引力に従って降下。
広場の端の付近に、ドザァ・・・と墜落する。
それを鋭利な目付きで見る、仕込み傘を構えたキリエ。
赤土が剥き出しの広場の中程で、すっ、と傘を下ろす。
直後。
ゴウオッ! ザシュウッ!と、紅の炎と白銀の閃光が、街の入口方面に発生。
即座に顔を向け、それを一瞬だけ確認するキリエ。
微かに、ドサッ・・・という何かが地に伏す音。
鉱山から街を挟んだ反対側。ここからははっきりと見えない。
恐らく、杏寿郎の剣撃。
彼の姿は目視出来ず、後には沈黙と闇がある。
キリエ《さっき山の方で炎が見えたのに、もうあんなところで・・・何て速さ・・・》
キリエ、感心し、くる、と身体を返す。
既に4軒の住人をサルーンに誘導しており、次が5軒目。
広場に面して建っている平屋の窓越しに、不安そうに外を見ている老婆の姿。
素早く窓を叩き、外に出るように促すキリエ。
老婆が頷いて、寝間着にガウンを羽織って扉から出てくる。
急に、こちらに接近する1体のムルシェラゴの影。
垂直方向、真上からキリエ目掛けて突撃してくる。
老婆に背を向けて庇い、チャキッ、とホルスターから銃を抜いて構えるキリエ。
ヴォズ! ボゴンッ!という音。
浄銀弾が殺意を持って、ムルシェラゴの口腔に飛び込み、貫通。
ただの有機物となり、平屋の側に墜落する異形。
ムルシェラゴを見て、声も出せず怯えた様子の老婆。
キリエ「(落ち着いた雰囲気で)サルーンにみんないるから、そこに逃げる。着いてきて」
老婆、キリエを凝視し、コク、と震えながら頷く。
サルーンに向けて、覚束ないながらも小走りで駆け出す。
キリエ、銃を右手に提げて、周囲、上空を見回しながら、彼女に随伴する。
警戒しているのか、次の襲撃を控える様子の、高空のムルシェラゴたち。
広場を横切り、サルーン前まで到達するふたり。
街の入口方面では、ラーラマリアが上空のムルシェラゴを狙撃している姿。
サルーンのスウィングドアが開き、主人が手招きをする。
安堵と感謝の眼差しをキリエに向ける、老婆。
老婆「(震える声で)あ、ありがとね・・・お嬢ちゃん、神様のご加護がありますように・・・」
キリエ「(重い声で)私の為に祈らないで。さあ、早く」
彼女の姿が、店内に消えるのを確認し、たっ、と地面を蹴るキリエ。
駆けながら、銃をホルスターに仕舞い、左手の傘を眼前に持ち直す。
キリエ《(鋭い目線で)あとは、教会だけ》
再び広場を横切り、老婆の家の近くに達する。
広場から鉱山地区へと昇る坂道のすぐ手前に、小さな教会が建つ。
キリエ、そこに向かって一気に駆けていく。
屋根に十字架を冠した建屋が目に入る。
そこの扉が開け放たれた、数ヤード前の路上。
寝間着のまま、脚をもたつかせながら走り出そうとしてる、大小ふたつの影。
その背後、1体のムルシェラゴ。
若い女性「(悲鳴)きゃああああっ!!!」
幼い少女「(怯えた声で)ママっ! 怖いよぉっ!」
目を見開くキリエ。
キリエ《(短く息を吸い)親子!?》
その、刹那の後。
ムルシェラゴの右腕が、振り下ろされる。
覆い被さるように少女を抱きかかえる、若い女性。
ゾブウッ!と、肉が抉られる裂創音。
若い女性「(苦悶)があっ!」
宙に、鮮血が花弁のように開く。
キリエ、これでもかというくらい、瞳孔を見開く。
瞬間、彼女の脳裏に、幼い時の記憶が回帰する。
【回想シーン】
男たちの、一斉に放たれる銃撃。
隙間のないほど空間を埋め尽くす銃弾の中、自分を抱きかかえる女性。
キリエの母の背に、無数の弾丸が減り込み、肉を散らし、血を噴出させている。
一辺の慈悲もなく、自分と母を抉っていく弾幕。
朽ちていく母の身体。
最後の言葉。
赫に染まる視界。
【回想シーン終わり】
教会前までの距離、10ヤードほど。
ギンッ!と開かれたキリエの両の瞳、血よりも赫く染まる。
僅かの間、彼女の身体が沈み込むように、動きを停める。
途端。
ドンっ!と、凄まじい爆音。
土煙が派手に舞い上がるのを後に、キリエの姿が消える。
襲われた親子が地面に伏す。
その背後のムルシェラゴの眼前、ボッ!と空気を叩き割って現れるキリエ。
愕然とする異形に、砲弾以上の速度で突っ込んでいく。
両手でしっかりと仕込み傘を構え、身体ごと。
スパイク型バヨネットが、ムルシェラゴの喉元に突き刺さる。
声も息も立てられず、ズブン! バァーン!と吹き飛ぶ異形。
キリエ、バヨネットを刺したまま全体重を勢いに預ける。
ボズッ!と貫通する銃剣。
間髪入れず、右手を、グリン、と捻るキリエ。
ブシュウ、と赤褐色の体液が噴き出すムルシェラゴの喉。
今度は、キリエの腕が一旦左に動き、異形の頸を半分割く。
すかさず、大きく右に振り抜かれるキリエの両腕。
直後。
ゾウンッ!と、ムルシェラゴの頭と胴体が斬り分けられ、別々になって吹っ飛ぶ。
激突の勢いで、それは10ヤード以上も地面を跳ね、転がっていく。
ズザザザァッ・・・と両足を擦り、見事な体勢で着地するキリエ。
身体を起こし、すぐに異形の頭部に近寄る。
二分割されたムルシェラゴ、赤土の路上に横たわる。
身体も頭部も、ピク、ピク、と痙攣しているが、まだ生存している模様。
頭の部分の濁った両眼に、キリエの姿が映る。
満月の蒼白色の光を背に、ザッ、ザッ、と足音を立て近付いてくる彼女。
キリエのシルエットが漆黒の闇になっている。
彼女の眼が、血よりも赫く、爛々と輝く。
絶対の睥睨感。
眼前にいるのは、自分が平伏してきた『王』と同じ威圧を持つ者。
ムルシェラゴの頭部、恐怖のあまり悲鳴を上げようとする。
しかし既に喉がない。ただ口を大開きにして、固まる。
次の、瞬間。
キリエの腕が上がり、仕込み傘の石突が向けられる。
ヴォズォーン!・・・と余韻を残す、銃鳴。
音と同時に、ムルシェラゴの頭部を砕く浄銀弾。
それきり、異形は永遠の沈黙を得る。
いつの間にか胴体の方も動かなくなり、肉組織の塊と成り果てて鎮座している。
静寂。
静寂。
漸く、ふう、と大きな息をつくキリエ。
くる、と身体を返して振り向く。
瞳は既に、落ち着いた光を宿している。
攻撃された若い女性が、何とか上半身を起こそうともがいている。
傍らで、それを補助しようと母親にしがみ付いている幼い少女。
キリエ、小走りで駆け寄る。
キリエ「立てる? 肩を貸すわ」
若い女性「(ぜいぜい、と息を荒げ)あ・・・ありがとうございます・・・」
幼い少女「(えぐ、えぐ、と泣きながら)ママぁ・・・死なないで・・・死んじゃやだ・・・」
キリエ「(幼い少女を見て)死なせたくなかったら、しっかりママに着いてあげなさい」
厳しい口調の端に、励ますような彩り。
少女が涙を、ぐいっ、と右手で拭って、コクン、と大きく頷く。
キリエと少女に両脇を支えられ、ゆっくりと立ち上がる若い女性。
女性の右腕を自分の肩に回し、ちら、と背後を見遣るキリエ。
母親の、斬られた傷が結構深い。夥しい血が、今も背を伝って流れている。
キリエ、ドクン、と大きな心拍を覚える。
自分の中の何かが、ざわつき始めるのを感じ取る。
しかし平静を装い、きりっ、と前方の広場に目線を投げる。
一歩一歩、3人が歩を進めていく。