ドガの両足の裏から、ズモッ!と車輪が吐出。
ほぼ同時に、肩に載せてある推進装置のアフターバーナーが、ボボボッ!と火を噴く。
地面を、ギャギャギャ!と抉り、ドガが急発進。
杏寿郎、ドガを睨み付ける。
全身の闘気を更に滾らせ、身体を低く構える。
杏寿郎「(重厚な声で)炎の呼吸、参の型・・・」
ドガ「バカめ! 返り討ちだ!」
両腕を伸ばし、手甲で固めた両掌を合わせ、槍のように尖らせるドガ。
馬車の残骸を吹き飛ばして、一気に襲い掛かる。
ダン!と地面を蹴って、前方に大きく跳び上がる杏寿郎。
杏寿郎「(突き抜ける声で)気炎万象!」
赫刀が、唸る。
ボオオオオンッ!!!と爆裂音と大量の炎を放ち、大上段からドガ目掛けて弧を描く。
高温の刃が、ドガの兜と両腕を巻き込んで、垂直に振り下ろされる。
ドガ、猛進の勢いのまま、ドゴボンッ! メギッ!と地面に叩き付けられる。
肩口の推進装置が、ボフン、と停止する。
ドガ「(顔を歪めて)ぶぎょう!」
ズン!と着地した杏寿郎。
続け様に、ゴオッ!と彼の炎刀が、左真横からドガを急襲。
慌てて身体を起こしながら、ガギイッ!と左籠手で防ぐドガ。
甲冑と刀の擦れる金属音が、ギギギギギ・・・と鳴り響く。
睨み合う双方。
方やシャガール、フン、と苛立たし気に鼻息をつく。
シャガール「(不快気にドガを睨み)愚かにも挑発に乗せられおって・・・」
途端。
キュルキュルキュルッ!と、軽快な音で闇を裂く、銀色の刃物とワイヤー。
その対角線、真後ろから、ヴォゾーンッ!と轟く銃鳴。
シャガールの後頭部に、キリエの撃った浄銀弾が命中。
ラーラマリアの右腕、義手の手首が外れた内側から射出された小型鎌が、シャガールに到達。
ドゴボッ!と大きく凹む、シャガールの後ろ頭。
ザシュウッ!と、真横から水平に切断される、シャガールの頸。
いつの間にか、キリエとラーラマリアが、左右に展開して攻撃。
ギュイッン!と、ワイヤーで銀の刃を引き戻しつつ、鋭利な目線を放るラーラマリア。
仕込み傘を構えた状態で、呼吸を鎮めるキリエ。
だが、シャガールは倒れず。頭部も落下しない。
後ろ頭より硝煙を立てながら、ニヤ、と歪に嗤う。
ラーラマリアが斬った頸の内側と、キリエに撃たれた後頭部に、触手が被さって伸びる。
ウジュルウジュルウジュル・・・と不気味極まりない、蠢く音。
その、直後。
ドッバァァン!と、シャガールの背中の服が、破裂する。
突如、その中から顔を出す、4本のドリル。
三段関節で構築された、異様に長い4本の鋼の腕の先端に備わっている。
更に、それに赤黒い触手が、蛇のように絡み付く。
ドリルが、一気にキリエに向かって襲撃する。
即座に、キリエが後方に跳躍。
だが鋼腕は、グイン、と想定以上に延伸する。
高速で回転している尖った先端が、左腕と右脚に到達。
ゾシュウッ! ブジュンッ!と、キリエの肌が裂け、鮮血が迸る。
顔を顰め、地面に転がるキリエ。
広場の一部に、彼女の生き血が撒き散らされる。
シャガールの金属腕、速い動きで空を抉り、キリエに再度襲い掛かろうと伸びる。
ラーラマリア「(息を飲み)キリエっ!」
左腕を上げ、提げていた銃をシャガールに向けるラーラマリア。
引鉄が引かれ、ヴォゾッ!という音を立て、銃身が跳ねる。
顔をこちらに向けているシャガールの、眉間の中心を、ゴボン!と抉る浄銀弾。
頭が後方に、グイン、と大きく傾き、停止するシャガール。
背中の4本の鋼腕も、ピタ、と動きが停まる。
しかし切断された筈の頸は、既に再生が終わっており、頭部が落ちることはない。
シャガール、ゆっくりと顔を元に戻し、ラーラマリアを白濁した眼球で見る。
眉間に深く穿たれた穴からは、体液すら流れていない。
ニンマァ・・・とVの字に、シャガールの口の両端が上がる。
その銃創も、ジュルゥ・・・と湧いた触手で塞がれる。
反対側に倒れたキリエが、いない。
はっ、とラーラマリアが、傍らに立っている彼女に気付く。
一瞬で、こちらに回り込んで移動した模様。
キリエ、シャガールに傘の銃口を向けて、ふーっ・・・と長い息を継ぐ。
ドリルで受けた傷は、既に瘡蓋になって固まっている。
ほっ、と安堵で微かに笑むラーラマリア。
ラーラマリア「傷はどうだい?」
キリエ「(不敵に口角を上げ)平気よ、夜だもの。援護助かったわ」
ラーラマリア「どういたしまして。お安い御用さ」
シャガールの被弾した箇所から、ポロ・・・と弾丸が落下する。
肉が既に盛り上がって、体内から押し出した様子。
シャガール「(厭らしい口調)こおらこおら、不意打ちとは失礼ではないか?」
ラーラマリア「失礼とか、どの口が抜かすんだよ・・・(チッ、と舌打ち)頸を斬ったんだが、やっぱ普通の鎌ではすぐに再生するか・・・浄銀弾も効かないのは解ってんだけどな」
キリエ「でも、まったく同じ状態には再生しない。傷口に、ただ肉を被せただけみたい」
ラーラマリア「決定的じゃないが、無駄でもない、って訳か・・・」
ふたりの銃口が、月光に輝く。
ラーラマリアは右手義手のワイヤー鎌を、いつでも射出出来る構え。
シャガールの鋼の腕が、蟹のように左右に広がり、尖端を彼女たちに向ける。
片や。
杏寿郎が、何度も日輪刀でドガに斬り付ける。
全身甲冑に刃が当たり、ガギィ! ガギャン!と、凄まじい金属音を響かせる。
ドガは、顔と身体の前面を、下腕部を盾のように翳して防御。
ドガ「(圧されて、焦りつつ)ブぬぅぅ・・・いつまで剣技を出すつもりだ、こいつ!」
直接の受傷はないが、ドガの鎧の中に熱気が溜まり始める。
それは、杏寿郎の剣技の炎がもたらしている物。
ドガ、余りの猛攻を受け切るだけで、攻撃を出すことが出来ない。
ブフゥ・・・と熱さに耐え兼ねて、ドガが息を漏らした、瞬間。
日輪刀が、閃く。
ガードを固めていたドガの両腕の隙間に滑り込み、ガギガキッ!と左右に振られる。
ドガ「(驚愕)ブフォッ!」
バアッ!と、両手を思い切り広げた姿勢になってしまう、ドガ。
呆気に取られた彼の眼前、杏寿郎の身体が、すっ、と沈む。
杏寿郎「炎の呼吸、弐の型・・・(破裂するような声で)昇り炎天!」
後方に引いた日輪刀が、劈く。
ゴオオオッ!と紅の炎が、縦の円の軌道で真下から急襲する。
宙に描かれる、鮮やかな炎の真円。
それはドガの下腹部目掛けて激突し、ゴドオォォォンン!!!と炸裂。
足下の車輪が真上に思い切り跳ね上がり、両脚から、グリン!と空に浮くドガ。
振り抜いた炎刀の爆炎を纏って、『くの字』になりながら回転して吹っ飛ぶ。
ドガ「(顔を歪めながら)ブホォォォォッ!」
その様はまるで、地獄の火車の如き。
ゴン!と地面に激突した後、ゴロゴロゴロゴロ・・・と距離を開いていくドガ。
全身炎塗れで、転がる。
10ヤード以上跳ばされ、地に伏すかと思われた、刹那。
ドガ、予想以上に素早く体勢を立て直し、ズガッ、と踵を鳴らして立ち上がる。
しかし、その直後。
背中を向け、ボボボッ!と推進装置に点火するドガ。
ギャギャギャッ!と轟音を立てて、一目散に広場を疾走し始める。
そして鉱山地区への坂道の方向に、一気に離れていく。
僅かの間で、小さくなるドガの姿。
杏寿郎、日輪刀を後方下段に構え、両足を、ぐっ、と踏み締める。
途端。
ドンッ!と爆裂音がして、土煙が上がり、杏寿郎が消える。
シャガール、濁った両眼でそれを確認し、忌々し気な表情。
シャガール「あちらの剣士が厄介と見た。斃すのが先だな」
身体をキリエとラーラマリアに向けたまま、4本の鋼腕を地面に突き刺す。
いきなり、グイーン・・・と宙に引き上がる、シャガールの身体。
ドリル先端を地に刺して、金属の腕を伸ばした反動で、大きく跳ねる。
5ヤードを越える高さで、クル、と鉱山方向に身を翻らせる。
そして身を浮かせたまま、4本の鋼の腕を蜘蛛の脚のように使い、急に走り始める。
ギュインガン! ギュインガン!と、けたたましい金属音で、相当な速度で。
驚くキリエとラーラマリア。
すぐに、銃の照準を合わせる。
だが既に、シャガールとの距離はかなり離れている。
姿が、あっと言う間に、坂道の方に小さくなっていく。
ラーラマリア、キリエに視線を繫げながら、右義手の手首を、カチン、と嵌め直す。
ラーラマリア「キリエ、悪いが先にシャガールを追ってくれ。アタシは別の武器を取ってくる。煉獄さんがやられるとは思えないが、なるべく急いで合流する」
キリエ「(頷いて)判ったわ」
爪先をサルーンの方に向け、タッ、と広場を走り出すラーラマリア。
対して、シャガールの移動した方向に、駆け出そうとするキリエ。
ふと、眼の端に映る、地面の一部の異様な光景。
思わず身体を返し、その場所を凝視する。
2ヤードほどの直径範囲で、点々と、何かが地上で燃えている。
赫紫色の炎。
杏寿郎が放った技の炎は、紅と朱色。
キリエ《紫の炎?・・・彼の技から出た炎とは違う色・・・》
小走りにその場に駆け寄るキリエ。
そこは、先程シャガールに攻撃され、自分が流血した位置。
片膝を着けて屈んで、じっ、と見詰めてみる。
地面に染み込んだ鮮血から、立ち昇る紫色の炎。
キリエ、思わず息を飲む。
キリエ《さっき落ちた私の血が・・・燃えている・・・彼の炎が移って、燃えた?》
まるで燈油が燃えるように、キリエの血の跡から登り立つ炎。
灯りよりも力強く、勢いのある赫紫色の炎。
キリエの両の瞳が、何かに呼応するように赫く輝く。
【 To be continued...『輝く暁の明星の、いと美わしきかな(後編)』】