片や。
鉱山方面から、ドガが回帰。
推進装置の、ボボボボボボッ!という爆音と、ギャギャギャッ!という車輪の回転音。
砲弾より速く、派手に土煙を立て、地に轍を刻み。
こちらに背を向けている杏寿郎目掛けて、一気に距離を詰める。
急に。
杏寿郎とシャガールが対峙する側面、ビュウッ!と、一陣の風と影。
街の方向から、教会真横、そして鉱山への坂道を猛烈な勢いで、奔る。
あっという間に、ドガの走駆直線上に現れるキリエ。
両手で仕込み傘を、ぎゅっ、としっかり構えている。
ブフゥ、と勝ち誇った嗤いのドガ。
ドガ「バカめ! 自分から跳び込むか! このまま殺してやるゥ!」
20ヤード、15ヤード、10ヤードと、瞬く間に接近する双方。
キリエ、動じることなく冷静な表情。凄まじい脚速。
ドガのアフターバーナーの噴出口から、燃料の爆炎が尾を引く。
衝突する点まで、あと5ヤード。
右腕を、ガバアッ、と大きく振り翳すドガ。
ドガ「(割れるような声)喰らええぃっ!!!」
ドガ、右手甲を槍のように尖らせ、ボン!と前面に突き出す。
瞬間。
キリエが、地を蹴る。
疾走の勢いを、綺麗に跳躍に組み込み、鮮やかに宙を舞う。
スカッ・・・と空振りとなり、右腕を伸ばし切って、愕然となるドガ。
ドガの頭上を掠めるほどのギリギリの高さを、キリエが身体を真横にして回転して通過する。
くる、くる、と重力から開放されたように、一枚羽根のように軽やかに。
そして、ドガの背後側を滑り落ちる軌道に入る。
身体を回しながら、既にキリエは傘の引鉄に指を掛け、構えている。
ドガの背中と、キリエの身体が、向き合った刹那。
その距離、2ヤード弱。
ヴォゾーンッ!と、傘の銃口から、浄銀弾が射出。
瞬きの間に、ドガの右脚、膝の真裏に着弾。
フルプレートアーマーで最も装甲の薄い、膝当ての真後ろ。
ボゴォン!と、炸裂する膝関節。
バランスを失い、右方向に、ガックン、と傾くドガ。
重心が一気に右側に負荷を掛け、身体全体が吹っ飛び、地面に放り出される。
肩の推進装置の燃焼の力のまま、ドザザザザザァァァ・・・と、遥かな距離を開いていく。
キリエ、狙撃した後、道路を数回跳ねるように転がる。
そして目線をドガに固定した状態で、スタッ、と地を蹴って身を起こす。
推進が停止し、俯せに、大の字で横臥しているドガ。
全身で滑走した轍を残し、朦々と土煙が漂う。
既に、仕込み傘を構え終えているキリエ。
石突の銃口が、月光に、ギラ・・・と鋭く光る。
相対、約5ヤードの間隔。
ガバ、と無理矢理に上半身を起立させ、ズリズリズリ、と地に座したまま回るドガ。
撃たれた膝関節、回復の為の触手が、ジュルウジュル・・・と中で蠢く。
キリエが、ドガの眉間に照準を合わせている。
ドガ「(歯軋りをして)キリエェ! よくも我の脚をォ!」
キリエ「動きは速いけど、単調。突進を避ければ隙も多いわね・・・(冷酷な目線を向け)ほら、脚もすぐ再生出来るんでしょ? 早くしないと次をブチ込むわ」
ドガ「(激怒)ブガアアアッ! 圧し殺してやるぅ!」
何とか再生を終えた、ドガの右膝。
ズダン!と両足で地面を踏み、再びアフターバーナーに点火。
キリエ、たっ、と赤土を蹴って、後方に跳ねる。
猛烈な殺意で襲い掛かるドガ。
貫手を槍と等しい武器と化し、肩口からタックルするように突っ込んでくる。
鮮やかで浮遊するようなステップで、攻撃を躱すキリエ。
華麗な傘捌きで、ドガの顔面狙って銃撃を繰り返す。
一方、杏寿郎とシャガールも、応酬の最中。
ふたつの激闘が、少しの間膠着する。
突如。
ラーラマリア「(大声で)キリエ! 煉獄さん!」
教会前を通過し、坂道を駆け上がってくるラーラマリアの姿。
両腕で円筒形の武器を抱えている。
双方の相手との闘いと続けたまま、ちら、と彼女を視界に捉えるキリエと杏寿郎。
そして、キリエは杏寿郎を、杏寿郎はキリエを瞬間見遣る。
互いの状況を、即座に確認した模様。
キリエとドガの位置、鉱山側の坂の上部。
杏寿郎とシャガールの位置、それより下方、坂の中程の地点。
空間距離、20ヤード以上。
キリエ、少しずつ歩幅を変え、気付かれないように立ち位置を移動する。
杏寿郎、猛烈な剣技を繰り出しながら、摺り足で方向を修正している。
僅かの、後。
坂の上から、ドガ、キリエ、シャガール、杏寿郎が一本の直線の延長上。
杏寿郎が、一瞬刀を後方に引く。
シャガール、4本の鋼腕を唸らせ、杏寿郎に襲い掛かる。
キリエ、すっ、と身体を沈み込ませて、両足を強く踏み締める。
ドガ、推進装置に点火して、一息でキリエに突進。
かっ、と見開かれたキリエの両の瞳が、赫々と輝く。
ドンッ!という炸裂音と共に、キリエの姿が消える。微かに舞う、土埃。
目標を見失い、息を飲むドガ。
だが、轟輪は急に止まれない。
そのまま、シャガールの背中目掛けて突進。
ズド―――ンッッ!と、激突。
ドガから背中を強烈に押されて、弓形になり、よろめくシャガール。
ドガ「(頬を歪め)ブぎょぅ!」
シャガール「(口を全開にして)ゲはあっ!」
瞬きの後、杏寿郎の後方に、ズザッ!と足を擦りながら、キリエが再出現。
位置が変わり、鉱山側から、ドガとシャガール、杏寿郎、キリエ、そして走り寄るラーラマリア。
2体の眼前の杏寿郎、ズン・・・と気迫を全周囲に放つ。
杏寿郎「炎の呼吸、伍の型・・・(突き抜ける声で)炎虎!」
背中から一拍で、大上段から刃を叩き付ける杏寿郎。
日輪刀が、爆ぜる。
ドゴオオオオンンッッッ!!!と、身体の何十倍の大きさの炎が発生。
紅の炎が、虎の姿となり出現。
直後。
振り下ろした刀の軌跡の延伸で、突撃していく炎の虎。
ゴオオオオオオッッ!と、延焼音を咆哮として。
さながら生きているかの如く。
そのまま、シャガールとドガに齧り付くように牙を剥き、激突。
2体の顔が、炎圧で歪む。
ボゴォ――――ンンンッッ!!!と炎上して吹っ飛ぶ、シャガールとドガ。
杏寿郎は、技を決めて身体を戻す。
刹那の、後。
見事に合致した呼吸で、バッ!と左右に飛び跳ね、展開するキリエと杏寿郎。
その中央、待ってましたと言わんばかりに、ラーラマリアが飛び出してくる。
持参した武器を、ジャギンッ!と両手でしっかりと構える。
それは、月光に銀色に光り輝く、ガトリング砲。
地面に燻った煙と火の粉を上げて転がる2体に、銃口が向けられる。
ラーラマリア「(腹の底からの発声で)浄銀弾の大盤振る舞いだ! 喰らいなあっ!!!」
ラーラマリアの眼光が、ギラ、と煌く。
彼女の右手が銃のクランクをしっかり握り、凄まじい速さで回し始める。
ガガガガガガガガガガガガッッッ!!!と、耳を塞ぎたくなる轟音。
銃口が猛烈な回転をし、無数の銃弾を射出。
雨霰と周囲に降ってくる、空薬莢。
膨大な数の浄銀弾が、すべてを打ち滅ぼす鉄槌となり、2体に浴びせ掛けられる。
ドガブドドドガガガガブブブガガッッッ!!!と、数種の音が混濁して響く。
シャガールとドガの肉が抉られ、顔が弾け、服が裂け、鎧に当たった弾が跳ねる。
やがて。
200発にもなろうという弾丸が、箱型弾倉から供給を終える。
銃身からの熱が空気の揺らぎを作って、ラーラマリアの目の前に漂う。
クランクの回転を止め、ふーっ、と長い、長い溜め息をつく彼女。
射撃の標的付近は、朦々とした燻煙と土煙が充満している。
暫しの、間。
更に、間。
驚嘆の余り目を丸くしたキリエが、ラーラマリアを見詰める。
キリエ「(唖然として)全部浄銀弾?・・・」
ラーラマリア「(ニッ、と口角を上げ)こんなこともあろうかと、ガトリング砲改造して、浄銀弾撃てるようにしたんだよ。予算もへったくれもない、後先考えない趣味の改造だったけど・・・さあて、効果はどうかね?」