バァン!と、けたたましい音を立ててドアが開き、一名の兵士Bが現れる。
そして転がるように駆け出し、息を切らせて大尉の元へと走り寄る。
兵士B「(怯えた顔付きで)大尉! 奴の遺体が! 急に生き返って!」
兵士Bの、酷く蒼褪めた表情。震える声。
対してアンナロッテ、冷静な雰囲気で兵士に目線を結ぶ。
アンナロッテ[面の奥から]「それは『死兵』です。しかし、黒衣の者の影響下でないと、活動出来ない筈・・・」
それを耳にした大尉、ビクッ、と眉を跳ねさせ、視線を泳がせる。
一瞬だけその表情を目にして、改めて倉庫らしき建屋に身体を向けるアンナロッテ。
途端。
兵士C「(悲鳴)うわあああっ!」
別の兵士Cが、同じ扉から飛び出して来る。
必死の形相で、脚を縺れさせながら、荒い息で。
続いてその後方から、のそり、と姿を見せたひとりの兵士A。
生気が感じられない。
白濁した両眼。大きく開いた口から、腐臭を放つ体液を漏らしている。
皮膚はまだ肌色が残っているが、全身から放つ雰囲気が生物のそれではない。
ゆら、ゆら、と身体を揺らして、両腕を、だらり、と体側に垂らす。
兵士C、半泣きの顔で、地面に倒れそうな勢いで、こちらに駆け寄って来る。
杏寿郎、日輪刀の柄に右手を掛けて、腰を落とす。
杏寿郎「(キッ、と睨んで)鬼の気配!」
アンナロッテ[面の奥から]「(杏寿郎を見て)あれも吸血鬼の一種、一度死んだ人間が再吸血鬼化する『死兵』です!」
サンタミカエラ「(ちっ、と舌打ち)四の五の言ってねェで、とにかくブッ斃さねェと!」
ダッ、と地面を蹴って走り出すサンタミカエラ。
逃げて来る兵士Cとすれ違い、建屋の扉から接近してくる死兵目掛けて距離を詰める。
サンタミカエラに顔を向けて、グワッ、と身体を大きく反らす兵士A。
兵士A[死兵]「(咆哮)ゴオオオオオオォォォッ!」
そして両腕を大きく振り被り、サンタミカエラに向かって歩を進める死兵。
相対距離、2ヤード。
サンタミカエラ、素早くゴーグルを下げ、右の拳を後方に引いて強く握る。
彼女の両拳に装備されているナックルダスターの電莢が、バチイッ!と火花を散らす。
サンタミカエラ「(大声で)炭になっちまいなっ!」
右拳を兵士Aの頭部を狙って、真っ直ぐに突き出すサンタミカエラ。
ボンッ!と空気が割れる音。
直後。
死兵の姿が、揺らぐ。
ブオォン・・・と不気味な音と残像を残し、黒い影の帯が左方向に流れる。
虚しく宙を通過する、サンタミカエラの拳。
愕然として、右腕を伸ばしたまま、彼女が凝り固まる。
サンタミカエラ「(驚いて)なっ・・・速ェ!」
次の瞬間。
ブオォン・・・と奇妙な音と同時に、黒色の流動体が半円周に動く。
ぐりん、と素早い動作で、元の立ち位置から180度反対に再出現する兵士A。
サンタミカエラの真後ろ。
はっ!とそれに気が付いて、慌てて振り返るサンタミカエラ。
距離を開けようと、そのまま後退ろうとする。
しかし勢いで身体を返した為、バランスを崩し、後方に倒れていく。
そして、ドスン、と尻餅を突いてしまう。
サンタミカエラ、一瞬、痛みで顔を顰める。
次に視線を上げた彼女の瞳に、口を大きく開けて襲い掛かってくる死兵が映る。
一方、アンナロッテ、即座に修道衣の内側から、銃を引き抜く。
アンナロッテ[面の奥から]「(銃を構えつつ)今までの死兵の動きではありませんね」
途端。
ドォン!と、凄まじい爆音が、アンナロッテの近くから轟く。
同時に、紅の炎が渦を巻き、一直線に死兵に延びる。
ゾウンッ!と裂空音。
大量の朱色と山吹色の烈火が、兵士Aのいる空域を袈裟懸けに薙ぎ払う。
ザシュウウウッ!と、死兵の頸が切断される。
頭部と胴体が完全に分離して、どちらも空間を数ヤード吹き飛ばされる。
それらは炎に塗れながら、地面に落下していく。
赤土の地表を転がりながら、チリチリチリ・・・と切断面から崩壊していく亡骸。
茫然と、その様を見詰めているサンタミカエラ。
アンナロッテも、大尉も、他の兵士も、ただただその様を凝視している。
そして。
全員が、サンタミカエラのすぐ近くに、杏寿郎の姿を確認する。
彼は、日輪刀を振り下ろしたままの格好で、こちらに背を向けて屈んでいる。
やがて。
空間の炎がすべて消え、死兵の躯体が完全に塵と化す。
杏寿郎「(深遠な声質で)炎の呼吸、壱の型・・・不知火!」
地面に座したまま、杏寿郎の背中を見詰めているサンタミカエラ。
瞬きひとつせず、唇を僅かに開けて、茫然自失たる表情。
しかし、揺るぎない眼差し。
片や、アンナロッテ、銃を体側に下ろし、杏寿郎の姿を凝視している。
アンナロッテ[面の奥から]「(茫然とした声で)炎を発する剣技・・・凄まじい速度と足捌き・・・何という・・・」
それから、静かな動作で、腰のホルスターに銃を収納するアンナロッテ。
大尉や他の兵士は、異様な物を見た驚きを顔にへばり付かせている。
少しの、間を置き。
すっく、と悠然とした動きで立ち上がり、身体を返す杏寿郎。
杏寿郎「(穏やかな笑みで)怪我はないか? サンタミカエラ少女」
ゴーグルを頭上に戻し、見上げるサンタミカエラ。
杏寿郎と、目線が絡まる。
唖然とした顔のまま、ただただ見詰める。
長い、間。
更に、間。
サンタミカエラ「(震える声で)か・・・」
サンタミカエラ、漸く声を絞り出した後、ごくん、と一度唾を飲み込む。
再び、間。
暫くの、後。
ダァーン!!!と、破裂したような勢いで立ち上がるサンタミカエラ。
一瞬で、歓喜の表情を浮かべる。
サンタミカエラ「(大発声で)かっけェェェェっ!!! 何だ今の! かっけェっ!!!」
満面で、快晴のような笑顔。
両の瞳が、キラキラ、と大量の綺羅星を包した如く輝く。
杏寿郎、彼女と正対し、日輪刀の刃先を、自分の腰の鞘の口に掛ける。
サンタミカエラ「(興味津々に)なあなあ! 今の技何だよ!」
杏寿郎「(日輪刀を、カシュン、と鞘に収め)『炎の呼吸・壱の型・不知火』と言う! 炎柱として俺が受け継いでいる技のひとつだ!」
サンタミカエラ「(眼を大きく見開き)すっげー・・・炎がブワーッって出て、一瞬で死兵を斃して・・・」
サンタミカエラ、両腕で拳を作って胸の前に掲げる。
サンタミカエラ「(懇願するように)オレっちもあんな技出してェ! 教えてくれねェか!?」
杏寿郎「なら! 俺の継子になってみるか?」
サンタミカエラ「『ツグコ』? 駅でも言ってたけど、何のことだ?」
杏寿郎「技を伝承する為の弟子のことだ! 全集中の呼吸の技は! そうやって受け継がれてきた!」
一度、目線を外して、下に向けるサンタミカエラ。
口元を引き締め、眉を寄せて、何かを考えている様子。
何拍かの、間の後。
サンタミカエラ、ばっ、と思い切ったように顔を上げ、真剣な眼差しを杏寿郎に送る。
サンタミカエラ「(強い口調で)強くなりてェんだ! オレっちを弟子にしてくれ!!!」
杏寿郎「(即答)よかろう! 俺が鍛えてあげよう! もう安心だ!」
サンタミカエラ「(喜色満面で)本当か!? ホントにいいのか!?」
杏寿郎「ああ! 全部面倒みてやろう!」
一方、一部始終を見ていたアンナロッテ、一歩だけ足を踏み出す。
アンナロッテ[面の奥から]「(嗜める口調で)これ、サンタミカエラ・・・」
サンタミカエラは、それに気付いていない。
溢れんばかりの笑みで、杏寿郎に視線を結んでいる。
その、刹那。
突然、サンタミカエラの表情が転化。
今度は、頬を真っ赤に染め、目を伏せ、両手をもじもじと絡ませ始める。
それはまるで、恋の告白をする寸前の雰囲気。
サンタミカエラ「(恥ずかしそうに)それでさ・・・その・・・ついでと言っちゃ何だけどさ・・・アニキ、って呼びてェんだけど・・・(上目遣いで)いいか?」
杏寿郎「(快活に)うむ! 是非そう呼んでくれ! サンタミカエラ少女!」
サンタミカエラ「(ぱあっ、と晴れやかな笑顔)やったぁ! これからよろしくな! 煉獄のアニキ! それと、オレっちにわざわざ“少女”って付けなくていいぜ。呼び捨ててくれ!」
杏寿郎「(大きく頷き)判った! こちらこそよろしく頼む! サンタミカエラ!」
爽快な笑みの杏寿郎と、歓喜の笑顔のサンタミカエラが、向かい合っている。
それを、やや距離を置いた傍から眺め、アンナロッテが長い溜め息をつく。
アンナロッテ[面の奥から]「(諦めたように)やれやれ・・・勝手に話が進んでしまいましたね」
そして、安堵したような小さな息を漏らす。
それから振り向くアンナロッテの視界に、大尉の表情が捉えられる。
目線が方々に流れており、一戸の建屋を何度も見ては、また外すことの繰り返し。
冷や汗が額を伝い、怯えているような顔。
司令官としての重みや、威厳は見当たらない。
サンタミカエラと杏寿郎の遣り取りを見ている様子はない。
アンナロッテ[面の奥から]「(怪訝そうに)どうかしましたか?」
大尉「(ビクッ、と肩を跳ねさせ)あ! いや・・・ちょっと驚いてしまって・・・」
アンナロッテ[面の奥から]「そうですね。私も初めてみる剣技でしたから、驚きました」
その後、踵を返し、場を離れていく大尉。
何かに煽られていくかの如き、急いた足取りで。
残った兵士2名も、その後に慌てたように続く。
その後ろ姿を、じっ、と凝視し続けるアンナロッテ。
ペストマスクによって、彼女の表情は窺い知れない。
サンタミカエラと杏寿郎の、明るい調子の会話が鳴り響いている。