「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

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閃光少女【前編】ー2

 バァン!と、けたたましい音を立ててドアが開き、一名の兵士Bが現れる。

 そして転がるように駆け出し、息を切らせて大尉の元へと走り寄る。

 

兵士B「(怯えた顔付きで)大尉! 奴の遺体が! 急に生き返って!」

 

 兵士Bの、酷く蒼褪めた表情。震える声。

 対してアンナロッテ、冷静な雰囲気で兵士に目線を結ぶ。

 

アンナロッテ[面の奥から]「それは『死兵』です。しかし、黒衣の者の影響下でないと、活動出来ない筈・・・」

 

 それを耳にした大尉、ビクッ、と眉を跳ねさせ、視線を泳がせる。

 一瞬だけその表情を目にして、改めて倉庫らしき建屋に身体を向けるアンナロッテ。

 途端。

 

兵士C「(悲鳴)うわあああっ!」

 

 別の兵士Cが、同じ扉から飛び出して来る。

 必死の形相で、脚を縺れさせながら、荒い息で。

 続いてその後方から、のそり、と姿を見せたひとりの兵士A。

 生気が感じられない。

 白濁した両眼。大きく開いた口から、腐臭を放つ体液を漏らしている。

 皮膚はまだ肌色が残っているが、全身から放つ雰囲気が生物のそれではない。

 ゆら、ゆら、と身体を揺らして、両腕を、だらり、と体側に垂らす。

 兵士C、半泣きの顔で、地面に倒れそうな勢いで、こちらに駆け寄って来る。

 杏寿郎、日輪刀の柄に右手を掛けて、腰を落とす。

 

杏寿郎「(キッ、と睨んで)鬼の気配!」

アンナロッテ[面の奥から]「(杏寿郎を見て)あれも吸血鬼の一種、一度死んだ人間が再吸血鬼化する『死兵』です!」

サンタミカエラ「(ちっ、と舌打ち)四の五の言ってねェで、とにかくブッ斃さねェと!」

 

 ダッ、と地面を蹴って走り出すサンタミカエラ。

 逃げて来る兵士Cとすれ違い、建屋の扉から接近してくる死兵目掛けて距離を詰める。

 サンタミカエラに顔を向けて、グワッ、と身体を大きく反らす兵士A。

 

兵士A[死兵]「(咆哮)ゴオオオオオオォォォッ!」

 

 そして両腕を大きく振り被り、サンタミカエラに向かって歩を進める死兵。

 相対距離、2ヤード。

 サンタミカエラ、素早くゴーグルを下げ、右の拳を後方に引いて強く握る。

 彼女の両拳に装備されているナックルダスターの電莢が、バチイッ!と火花を散らす。

 

サンタミカエラ「(大声で)炭になっちまいなっ!」

 

 右拳を兵士Aの頭部を狙って、真っ直ぐに突き出すサンタミカエラ。

 ボンッ!と空気が割れる音。

 直後。

 死兵の姿が、揺らぐ。

 ブオォン・・・と不気味な音と残像を残し、黒い影の帯が左方向に流れる。

 虚しく宙を通過する、サンタミカエラの拳。

 愕然として、右腕を伸ばしたまま、彼女が凝り固まる。

 

サンタミカエラ「(驚いて)なっ・・・速ェ!」

 

 次の瞬間。

 ブオォン・・・と奇妙な音と同時に、黒色の流動体が半円周に動く。

 ぐりん、と素早い動作で、元の立ち位置から180度反対に再出現する兵士A。

 サンタミカエラの真後ろ。

 はっ!とそれに気が付いて、慌てて振り返るサンタミカエラ。

 距離を開けようと、そのまま後退ろうとする。

 しかし勢いで身体を返した為、バランスを崩し、後方に倒れていく。

 そして、ドスン、と尻餅を突いてしまう。

 サンタミカエラ、一瞬、痛みで顔を顰める。

 次に視線を上げた彼女の瞳に、口を大きく開けて襲い掛かってくる死兵が映る。

 一方、アンナロッテ、即座に修道衣の内側から、銃を引き抜く。

 

アンナロッテ[面の奥から]「(銃を構えつつ)今までの死兵の動きではありませんね」

 

 途端。

 ドォン!と、凄まじい爆音が、アンナロッテの近くから轟く。

 同時に、紅の炎が渦を巻き、一直線に死兵に延びる。

 ゾウンッ!と裂空音。

 大量の朱色と山吹色の烈火が、兵士Aのいる空域を袈裟懸けに薙ぎ払う。

 ザシュウウウッ!と、死兵の頸が切断される。

 頭部と胴体が完全に分離して、どちらも空間を数ヤード吹き飛ばされる。

 それらは炎に塗れながら、地面に落下していく。

 赤土の地表を転がりながら、チリチリチリ・・・と切断面から崩壊していく亡骸。

 茫然と、その様を見詰めているサンタミカエラ。

 アンナロッテも、大尉も、他の兵士も、ただただその様を凝視している。

 そして。

 全員が、サンタミカエラのすぐ近くに、杏寿郎の姿を確認する。

 彼は、日輪刀を振り下ろしたままの格好で、こちらに背を向けて屈んでいる。

 やがて。

 空間の炎がすべて消え、死兵の躯体が完全に塵と化す。

 

杏寿郎「(深遠な声質で)炎の呼吸、壱の型・・・不知火!」

 

 地面に座したまま、杏寿郎の背中を見詰めているサンタミカエラ。

 瞬きひとつせず、唇を僅かに開けて、茫然自失たる表情。

 しかし、揺るぎない眼差し。

 片や、アンナロッテ、銃を体側に下ろし、杏寿郎の姿を凝視している。

 

アンナロッテ[面の奥から]「(茫然とした声で)炎を発する剣技・・・凄まじい速度と足捌き・・・何という・・・」

 

 それから、静かな動作で、腰のホルスターに銃を収納するアンナロッテ。

 大尉や他の兵士は、異様な物を見た驚きを顔にへばり付かせている。

 少しの、間を置き。

 すっく、と悠然とした動きで立ち上がり、身体を返す杏寿郎。

 

杏寿郎「(穏やかな笑みで)怪我はないか? サンタミカエラ少女」

 

 ゴーグルを頭上に戻し、見上げるサンタミカエラ。

 杏寿郎と、目線が絡まる。

 唖然とした顔のまま、ただただ見詰める。

 長い、間。

 更に、間。

 

サンタミカエラ「(震える声で)か・・・」

 

 サンタミカエラ、漸く声を絞り出した後、ごくん、と一度唾を飲み込む。

 再び、間。

 暫くの、後。

 ダァーン!!!と、破裂したような勢いで立ち上がるサンタミカエラ。

 一瞬で、歓喜の表情を浮かべる。

 

サンタミカエラ「(大発声で)かっけェェェェっ!!! 何だ今の! かっけェっ!!!」

 

 満面で、快晴のような笑顔。

 両の瞳が、キラキラ、と大量の綺羅星を包した如く輝く。

 杏寿郎、彼女と正対し、日輪刀の刃先を、自分の腰の鞘の口に掛ける。

 

サンタミカエラ「(興味津々に)なあなあ! 今の技何だよ!」

杏寿郎「(日輪刀を、カシュン、と鞘に収め)『炎の呼吸・壱の型・不知火』と言う! 炎柱として俺が受け継いでいる技のひとつだ!」

サンタミカエラ「(眼を大きく見開き)すっげー・・・炎がブワーッって出て、一瞬で死兵を斃して・・・」

 

 サンタミカエラ、両腕で拳を作って胸の前に掲げる。

 

サンタミカエラ「(懇願するように)オレっちもあんな技出してェ! 教えてくれねェか!?」

杏寿郎「なら! 俺の継子になってみるか?」

サンタミカエラ「『ツグコ』? 駅でも言ってたけど、何のことだ?」

杏寿郎「技を伝承する為の弟子のことだ! 全集中の呼吸の技は! そうやって受け継がれてきた!」

 

 一度、目線を外して、下に向けるサンタミカエラ。

 口元を引き締め、眉を寄せて、何かを考えている様子。

 何拍かの、間の後。

 サンタミカエラ、ばっ、と思い切ったように顔を上げ、真剣な眼差しを杏寿郎に送る。

 

サンタミカエラ「(強い口調で)強くなりてェんだ! オレっちを弟子にしてくれ!!!」

杏寿郎「(即答)よかろう! 俺が鍛えてあげよう! もう安心だ!」

サンタミカエラ「(喜色満面で)本当か!? ホントにいいのか!?」

杏寿郎「ああ! 全部面倒みてやろう!」

 

 一方、一部始終を見ていたアンナロッテ、一歩だけ足を踏み出す。

 

アンナロッテ[面の奥から]「(嗜める口調で)これ、サンタミカエラ・・・」

 

 サンタミカエラは、それに気付いていない。

 溢れんばかりの笑みで、杏寿郎に視線を結んでいる。

 その、刹那。

 突然、サンタミカエラの表情が転化。

 今度は、頬を真っ赤に染め、目を伏せ、両手をもじもじと絡ませ始める。

 それはまるで、恋の告白をする寸前の雰囲気。

 

サンタミカエラ「(恥ずかしそうに)それでさ・・・その・・・ついでと言っちゃ何だけどさ・・・アニキ、って呼びてェんだけど・・・(上目遣いで)いいか?」

杏寿郎「(快活に)うむ! 是非そう呼んでくれ! サンタミカエラ少女!」

サンタミカエラ「(ぱあっ、と晴れやかな笑顔)やったぁ! これからよろしくな! 煉獄のアニキ! それと、オレっちにわざわざ“少女”って付けなくていいぜ。呼び捨ててくれ!」

杏寿郎「(大きく頷き)判った! こちらこそよろしく頼む! サンタミカエラ!」

 

 爽快な笑みの杏寿郎と、歓喜の笑顔のサンタミカエラが、向かい合っている。

 それを、やや距離を置いた傍から眺め、アンナロッテが長い溜め息をつく。

 

アンナロッテ[面の奥から]「(諦めたように)やれやれ・・・勝手に話が進んでしまいましたね」

 

 そして、安堵したような小さな息を漏らす。

 それから振り向くアンナロッテの視界に、大尉の表情が捉えられる。

 目線が方々に流れており、一戸の建屋を何度も見ては、また外すことの繰り返し。

 冷や汗が額を伝い、怯えているような顔。

 司令官としての重みや、威厳は見当たらない。

 サンタミカエラと杏寿郎の遣り取りを見ている様子はない。

 

アンナロッテ[面の奥から]「(怪訝そうに)どうかしましたか?」

大尉「(ビクッ、と肩を跳ねさせ)あ! いや・・・ちょっと驚いてしまって・・・」

アンナロッテ[面の奥から]「そうですね。私も初めてみる剣技でしたから、驚きました」

 

 その後、踵を返し、場を離れていく大尉。

 何かに煽られていくかの如き、急いた足取りで。

 残った兵士2名も、その後に慌てたように続く。

 その後ろ姿を、じっ、と凝視し続けるアンナロッテ。

 ペストマスクによって、彼女の表情は窺い知れない。

 サンタミカエラと杏寿郎の、明るい調子の会話が鳴り響いている。

 

 

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