★ カリフォルニアストリート・在サンフランシスコ日本国領事館・玄関ホール受付
目抜き通りであるカリフォルニアストリートに面する、2階建ての木造のこじんまりとした建屋。
入口と思しきの扉の左右に、日章旗と星条旗が掲揚されている、日本領事館。
扉を入ってすぐに、小規模な玄関ホールがあり、受付のカウンターが鎮座している。
ホールの中程に立ち、カウンターの机に向いて立つ3人。
しん・・・とした沈黙だけが、部屋中に満ちる。
それはその部屋だけではなく、建屋全体を支配している様相。
アンナロッテ、懐中時計の蓋を、パカ、と開けて時間を確認する。
アンナロッテ[面の奥から]「(怪訝そうに)おかしいですね。まだ受付の終わる時間ではないのですが・・・」
サンタミカエラ「(大声で)おーい! 誰もいねェのか?」
パチン、という、アンナロッテが時計の蓋を閉める音が響く。
ややあって。
ホールから右手奥に延びる廊下の奥から、パタパタパタ・・・と足音。
中肉中背の、中年と思しき男性が、小走りにこちらに寄って来る。
立派な揉み上げが耳の前面に伸び、髭は伸ばしていない。
全体的に、威厳を帯びたような雰囲気の動作。
ただ今は、何となく急いたような、慌てた空気を纏っている。
中年男性「・・・どちら様ですか?」
アンナロッテ[面の奥から]「防疫修道会のアンナロッテと申します。旅券を再発行して頂きたく伺ったのですが、今日の受付は終了してますか?」
中年男性「(思い出したように)あ、いえ、そろそろ時間が近いですが、まだ受付出来ます」
アンナロッテ[面の奥から]「ではお願いします。急で申し訳ありませんが、(杏寿郎を右手で示し)こちらの方がハポンに帰国する為の旅券を紛失してしまい、再発行を申請しに参りました」
杏寿郎「煉獄杏寿郎という! 日本国東京府荏原郡駒澤村在住! 二十歳!」
中年男性「(杏寿郎を見てから)これはこれは・・・我輩はここの領事を務めております、チャールズ=ブルックスと申します」
ピク、とアンナロッテの被っているペストマスクの長鼻が、動く。
そのまま、領事の姿に目線を向け、短い時間停止する。
サンタミカエラと杏寿郎、真っ直ぐにブルックスを凝視している。
アンナロッテ[面の奥から]「・・・貴方がセニョールブルックスですか。お名前とお噂は耳にしております。大変な親ハポン家で、ハポンから渡航してきた船で亡くなった水夫を弔い、石碑まで建立したとか」
杏寿郎「(感心したように)何と! それはありがたいことだ! 水夫の御霊も浮かばれよう!」
ブルックス「(首を左右に振り)いえいえ、大したことでは・・・」
謙遜した顔付きで、薄く笑うブルックス。
彼の目線が、チラ、と後方に向けられ、すぐさま元に戻る。
そして杏寿郎に視線を放り、愛想笑いのような固い表情となる。
ブルックス「旅券の再発行ですね? では、書類をお持ちいたしますので、ご記入頂けますか?」
杏寿郎「承知した! 世話を掛ける!」
ブルックス、空かさず踵を返し、再び廊下を小走りに戻り出す。
その後ろ姿が奥に消えるまで、ずっと目線を固定し続けるアンナロッテ。
それに気付き、アンナロッテの横顔を見るサンタミカエラ。
サンタミカエラ「どうかしたんか?」
アンナロッテ[面の奥から]「(重めの声で)いえ・・・少し気になることが・・・」
サンタミカエラ、アンナロッテと同じ方向に視界を移す。
暫く、そのまま。
アンナロッテ、ふう、と大きく息を継ぐ。
アンナロッテ[面の奥から]「今は、手続きが先です」
★ カリフォルニアストリート・在サンフランシスコ日本国領事館・玄関前路上
領事館の扉から、3人が姿を現す。
既に陽は相当傾き、林立する無数の建屋の影が、路上に長くなり始めている。
ただ、日没までにはまだ時間があるようで、晴れた空が頭上に明るく拡がる。
くりん、と軽やかな回転で、アンナロッテと杏寿郎を振り向くサンタミカエラ。
サンタミカエラ「少し早ェけど、飯、行かねェか?」
アンナロッテ[面の奥から]「(少し考えて)・・・そうですね。(杏寿郎に視線を向け)如何ですか? エンバシラ」
杏寿郎「俺は一向に構わん!」
サンタミカエラ「(笑顔で)うしっ! んじゃあ、行くか! 一度食ってみたかったモンがあるんだよ! (アンナロッテを見て)前から言ってたヤツ、店の心当たりねェか?」
アンナロッテ[面の奥から]「では、チャイナタウンに行きましょう。ちょうど私も別件で用事がありますので」
今度は、アンナロッテが先導して通りを歩き始める。
サンタミカエラと杏寿郎、肩を並べて彼女に追いていく。
杏寿郎の横顔を、ちら、と見て、心底嬉しそうな笑顔を浮べるサンタミカエラ。