★ チャイナタウン・ドラゴンゲート付近
既に陽が落ち、宵の口。
薄暗い帳が空を覆い、巨大な街全体に影を落とし始める。
街灯に灯が入り、煌々と光を放ち、デュポンストリートの路面を照らし出す。
通りを南下した、チャイナタウンの南の端に、巨大な門がある。
黒塗りの中華風建築の門。上部には、2頭の龍が向かい合っている像が乗る。
『唐人街』サンフランシスコチャイナタウンの看板と言うべき、ドラゴンゲート。
サンタミカエラと杏寿郎が街中から、肩を並べて歩いて来る。
そして、門を数歩出た場所で、示し合わせたように立ち停まる。
サンタミカエラ「(腹部を撫でながら)はーっ、食った食った・・・ちっと食い過ぎたかなぁ」
杏寿郎「(満足そうに)大変美味だった! どの料理も素晴しかった! うまかった!」
振り向いて、ドラゴンゲートを見上げる杏寿郎。
杏寿郎「実は日本の横浜新田という場所にも、南京街があるのだ! 俺が日本にいた時には一度も行ったことがなくてだな! 中国の料理は初めて食した!」
サンタミカエラ「(杏寿郎を見て)へえー、そうなんだ。ハポンにもチャイナタウンが、ねェ」
ふと、視線を外すサンタミカエラ。
何事か考えている雰囲気を、少しの時間醸し出す。
頬が、綺麗な紅色に染まる。
僅かに唇が動くが、言葉が出て来ない。
杏寿郎、顔を戻してサンタミカエラに向き直る。
数秒の、間。
サンタミカエラ「(言いづらそうに、照れ臭そうに)もしさ、オレっちがハポンに行く時があったらさ・・・一緒に行かねェか?」
杏寿郎「(頷き、通る声で)よかろう! また食べに行こう!」
くるっ、と鮮やかな仕草で、身体を返して杏寿郎に向くサンタミカエラ。
ぱあっ・・・と快晴の空のような、爽快な笑顔。
サンタミカエラ「(凄く嬉しそうに)おうっ!」
その言葉を合図にしたかのように、再度、通りを歩き始めるふたり。
モンゴメリー地区へ向かう道沿いに、街路灯が点々と燃え、導いているかのよう。
★ (同時刻)チャイナタウン・薬局
一軒の、看板も出していない、極めて狭い薬局の引き戸が、ガラ、と開く。
真っ直ぐに細長く、奥に延びる店内。
両脇には細かく段が刻まれた棚が、天井まで備えられている。
棚には、紙袋が無数に、極めて無造作に詰め込まれている状態。
中には、薬包紙を折って袋状にした物が、管理すら怪しくそのまま放置。
そこの入口に、アンナロッテが現れる。
店舗の一番奥、書類や何かの紙束が堆く山積した机の、更に奥。
でっぷりとした体格の男性が、丸い小さな眼鏡を擦り下げ、こちらを見る。
黄色いシャツにサスペンダー、オールバックの髪には白いものが混じる。
椅子に座ったまま身体を揺らし、厭らしい目付きでアンナロッテに顔を向ける。
店主「(ニイ、と笑い)誰かと思ったら・・・久し振りですなァ、薬読サン。いいブツあるよ?」
アンナロッテ[面の奥から]「(ふう、と溜め息をつき)私は阿片はやらないと、何度も言ってますよね?」
カツ、カツ、とブーツの足音を高く、店内を一気に奥へと進むアンナロッテ。
そして店主の机の前で、懐に右手を差し入れる。
アンナロッテ[面の奥から]「いつもの煙草を、いつものカートン分・・・それと・・・情報を頂きたい」
店主「(ねめつける目線で)人ですかィ? 物ですかィ?」
アンナロッテ[面の奥から]「ひとりの人物の、ここ1ヶ月ほどの動静と行動先を、出来るだけ詳細に」
言葉が終わるのと同時に、アンナロッテの右手が動く。
修道服の内側から表われたのは、掌大の小袋。
それを、店主の眼前の卓上に、ジャラン!と据え置く。
店主の両目が、丸く大きく開かれて固定される。
それは、過去にアンナロッテから差し出された中でも、最大の大きさの袋。
袋の口から、金貨の一部が見えている。恐らく、ダブルイーグル金貨。
驚愕の表情のまま、口を半開きにして、アンナロッテを凝視する店主。
店主「(ゴクリ、と唾を飲み込み)こんなに・・・ってことは・・・ヤバ目の人ってことです?」
アンナロッテ[面の奥から]「(頷き)ええ、それなりに。期限は六日・・・いえ、五日で。成功報酬は別途払います」
店主、信じ難い、と言いたげな顔。
金貨の袋とアンナロッテのペストマスクを交互に、何度も見る。
急に、真剣な表情に変わって、鋭利な目線を飛ばす店主。
店主「(重厚な声で)で・・・相手は?」