★ (翌朝)モンゴメリー地区・グランドホテル・中庭
晴れ渡る青空の、朝5時半。
3人が宿泊しているグランドホテルにも、朝光が降り注ぐ。
建屋に囲まれた一区画に、芝を張って、低木が十数本植えられた中庭がある。
そこに、アンナロッテが足を踏み入れてくる。
ウィンプル(頭巾)もベールも被っていない、素顔のまま。
いつもよりも更に眠たげな顔で、小さく生欠伸を、時折しながら。
ふと、先客がいるのに気が付く。
中庭の芝生の中央付近に、サンタミカエラと杏寿郎が、向かい合って立っている。
ふたりの着ている服が、今まで見たことのない物。
アンナロッテ、足早にふたりに接近していく。
アンナロッテ「おはようございます、エンバシラ、サンタミカエラ」
杏寿郎「(振り返り、爽快に)おはよう! 君も早起きだな!」
サンタミカエラ「(元気そうに)おはようっ!」
ふたりがアンナロッテに向き直り、身体を返して立ち直す。
サンタミカエラも杏寿郎も、まったく同じ形態の和装。
純白の道着を右前で合わせ、上半身に着用。
紺色の袴を腰から下に着ており、足には足袋と草履を履いている。
サンタミカエラは、いつも装備しているゴーグルをしていない。
アンナロッテ「(興味深そうに眺め)ふたりとも、その服は・・・」
杏寿郎「このホテルの客室係に出してもらった! ここは岩倉使節団が宿泊した宿屋だそうだ! その際に日本人向けに準備した、部屋着代わりの道着を拝借させてもらった!」
サンタミカエラ「初めてハポンの服着たけどよ、結構スースーするんだな。風通しがいいっつーか・・・(杏寿郎を見詰め)でもおんなじ格好してっと、アニキの本当に弟子になれた気分だ」
アンナロッテ「(微笑んで)よく似合ってますよ、サンタミカエラ」
途端。
ボワッ!と、一瞬で茹で上がったように真っ赤になるサンタミカエラ。
それから確認するように、自分の身体のあちこちに視線を飛ばす。
再度アンナロッテを見て、嬉しそうな、恥ずかしそうな微笑みを浮かべる。
サンタミカエラ「(頬を染めたまま)そ・・・そぉかな?」
アンナロッテ「稽古の途中でしょうが、拝見させて頂いても?」
杏寿郎「(頷き)構わん! 見学しててくれ!」
アンナロッテ、踵を返し、少し離れた位置に手を後ろに組んで立つ。
杏寿郎「では、続けよう!」
サンタミカエラ「(弾けるような声)おうっ!」
即座に、真剣そのものの表情となるサンタミカエラ。
ふたりが再び向かい合い、胸を張って起立する。
杏寿郎「全集中の呼吸は、とにかく肺を大きくする。全身を流れる血に、とことん空気を取り込む。すると血が吃驚し、筋肉も骨も慌てたように熱くなる。その時、人間のまま鬼を凌駕する力を発揮出来るのだ! その為の近道はない! 死ぬほど鍛える! それが確実な道だ!」
サンタミカエラ「(大きく頷いて)おう!」
杏寿郎「ではもう一度!」
サンタミカエラが、両の瞼を閉じ、両腕を体側に垂らす。
両足を肩幅に広げ、芝面をしっかりと踏み締める。
杏寿郎の右手が上がり、人差し指を真っ直ぐに伸ばす。
ピタ、と彼の指先が、サンタミカエラの額の中心に付けられる。
杏寿郎「(重圧のある声で)集中」
すううう・・・と、大きな深呼吸をするサンタミカエラ。
続いて、しいいい・・・食い縛った歯の隙間から、息を長く吐く。
それを数度、繰り返す。
一度に吸う量が、段々と増えている様子。
彼女の両肩が連動して上下するが、その幅が大きくなっている。
何度目かで、すううううう・・・と、膨大な空気を吸い込もうとするサンタミカエラ。
突然。
ぐううっ!と喉を鳴らし、眉間に皺を寄せる彼女。
瞬間、蒼褪めた顔になる。
そして弾けたように口を思い切り明け、両眼を開く。
サンタミカエラ「(激しく息を継いで)ぶはあっ!・・・はーっ・・・はーっ・・・」
杏寿郎が、静かに腕を降ろす。
サンタミカエラ、肩を何度も上げ下ろし、荒い呼吸を続けている。
サンタミカエラ「(息を整えながら)は・・・肺が破裂するみてェだ・・・集中して息すんのがこんなにしんどいって・・・」
杏寿郎「最初は目を瞑りながらで構わん! 呼吸に意識を置け! 慣れてくれば目を開け、動きを取り入れながら呼吸を行う! まず今日は、徹底して呼吸を教える! 続けるぞ!」
サンタミカエラ「(眉を寄せ、きっ、と強い眼差し)うしっ!」
不屈の闘志を、全身に漲らせるサンタミカエラ。
大きく首を上下に振り、口角を上げて彼女を見詰める杏寿郎。
ふたりに視界を向けたまま、静かに微笑を浮かべるアンナロッテ。