「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

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閃光少女【中編】ー4

★ カリフォルニアストリート・路上

 

 街灯の数本が、ジジジ・・・と音を立て、一時小さくなる。

 路上を、ブウウウォ・・・と震動音を撒き散らし、黒い渦が空中を流れていく。

 渦は幾重の帯のような構成で、拡大すると極小の点の集合体にも見える。

 それとは別に、側道の角に、ボオオオオッ!と炎の塊が発生。

 即座にそれが宙を伸び、一直線に、螺旋を描きながら急接近。

 漆黒の渦が、人型の影に成型されようとしている。

 その場に到達した炎が解かれ、中から杏寿郎が現れる。

 日輪刀が凄まじい速度で、宙を薙ぐ。

 人型の身体を刃が斬ろうとした、刹那。

 ブウォン!と、一瞬で躯体が四散する。

 刀は、ヒュウン!と空気を分断したのみ。

 

杏寿郎「(目を見開き)む!」

 

 ダン!と路面を踏み締め、杏寿郎は散らばった影を凝視する。

 すぐに日輪刀を引き戻し、正眼に構え直す。

 その5ヤードほど離れた空域に、一度広がった黒い影が、再度集結していく。

 ブウォン・・・と、寒気のするような音を上げ、見る見る人の型を形成する。

 あっという間に、偽者のブルックスが出現。

 ニタ・・・と勝ち誇ったような、歪んだ嗤い。

 胸を反らし、顎を上げ、杏寿郎を見下すような目線を放り投げる。

 

偽ブルックス「ジャパンのサムライよ! 貴様の速度では斬れぬぞ!」

杏寿郎「(撥ね付けるように)それはどうかな?」

 

 杏寿郎、ふううう・・・と深い呼吸を一度する。

 両脚に力を込め、路面を、ぐっ、と踏み締め、身体を前屈みに据える。

 

杏寿郎「炎の呼吸、壱の型・・・(弾ける発声で)不知火!」

 

 ズドン!と、地を震わせる爆裂音。

 杏寿郎の姿が消え、ボボボボボボッ!と路上を炎が連鎖して走駆する。

 瞬時に、偽のブルックスの眼前に到達。

 間髪入れず、烈火を纏った日輪刀が、相手の頸目掛けて空を裂く。

 しかし。

 偽ブルックス、雲霧のように四散する。

 ブウォン!と、一拍で全身を空間に溶解させ、距離を開ける。

 日輪刀の紅蓮は、影の一部を幾分か巻き込んで、延焼させる。

 だが大部分の変化体は逃れ、5ヤードほど後方に離れて、再度人影を成型。

 手応えがなかったと察知し、即座に刀を正眼に構え直す杏寿郎。

 改めて離れた位置で、対峙する2名。

 

偽ブルックス「なかなか速い・・・(ニヤ、と嗤い)だが斬れんな!」

 

 直後。

 別方向から、ドンッ!と弾ける爆音。

 刹那の間を置き。

 偽ブルックスの左側方に、ザン!とサンタミカエラが現れる。

 出現と同時に、振り被った右拳を、相手目掛けて全力で突く。

 脇目でそれを捕捉し、ブウーン・・・と姿を崩して、空を離脱する偽ブルックス。

 虚しく宙を振り抜く、サンタミカエラの拳。

 それでも彼女は、すいっ、と体勢を戻し、落ち着いて腰を落として構えを取る。

 偽ブルックス、液体を撒いたような形態で、空間を素早く移動。

 サンタミカエラからも杏寿郎からも離れた路上の反対側に、再度人型を構築する。

 

サンタミカエラ「(ぎっ、と歯軋り)にゃろうっ!」

偽ブルックス「(嘲笑いつつ)フハハハ! 貴様に至ってはてんでのろい!」

 

 3名が、三角形の配置で、それぞれ6ヤードほどの間。

 鋭利な目線で偽ブルックスに視線を向ける、サンタミカエラと杏寿郎。

 同時に、ハッ!と目を見開く。

 街灯の灯りに、偽ブルックスの実体が晒されている。

 背広姿ではあるが、それを着用している身体は、今まで見ていた人物とは違う。

 全身の肌が黒褐色で、角質化してゴワゴワと波打っている。

 頭部が、爬虫類のように細長く、尖った口。

 頭髪はなく、地肌が完全に剥き出し。

 両眼が昆虫のように丸く巨大で、赤黒い眼球を突出させている。

 袖口から出ている両手は、五指が異様に長く、恐竜のような鋭利で硬質そうな爪。

 

杏寿郎「(ギン、と睨み)正体を現しているようだな! 最早人の姿ではない!」

偽ブルックス「そうだとも! 我輩は黒衣の者から血肉を賜った! 名を『アヴィスパ』! 死ぬ前に魂に刻んでおけ!」

杏寿郎「何故領事に擬態していた? 姿と名を騙る理由がある筈だ!」

アヴィスパ「(ニヤ、と嗤い)貴様に語る謂れなどないわァ!」

 

 今度は、アヴィスパから動く。

 モワ・・・と全身の輪郭を崩し、瞬間、透明に近いほど姿を薄くする。

 そして、ブウーン!と羽根を震わすような震動音を上げ、移動。

 一拍の後に、杏寿郎のすぐ手前に出現。

 実体化するのと同時、右手を尖らせて、槍のようのように刺してくる。

 ガッキーン!と、金属音。

 杏寿郎、すかさず日輪刀を閃かせ、アヴィスパの爪先を弾く。

 次の瞬間、ブウォン・・・と、姿を歪めて移動するアヴィスパ。

 杏寿郎の真後ろ。

 再び実体するのと、爪を槍先の如くした腕の突きが、同時。

 ガキン!と、それも刃で弾き飛ばす杏寿郎。

 アヴィスパ、既に杏寿郎の左側方に再出現し、攻撃。

 杏寿郎、それを凌いで、日輪刀で防ぐ。

 段々と、丁々発止の速度が上がり始める。

 ガキガキガキガキガキッ!!!と、猛烈な硬質音が轟く。

 まるで杏寿郎を取り囲む煙と見紛う、アヴィスパの形態。

 その中に浮かんでは消える黒い影が、まるで分身の術を使っているかのよう。

 対して、華麗と言うべき足捌きと、壮絶な反応速度で防御している杏寿郎。

 

アヴィスパ「(高揚したように)どうしたどうした! 躱してばかりでは我輩は斬れぬぞ!」

 

 サンタミカエラ、両拳を腰に据えて構えたまま。

 眼前の異様な戦闘に、介入する機会を窺っている様子。

 しかし、アヴィスパの不安定な姿に、何処で仕掛けるべきか判断が付かない。

 

サンタミカエラ《畜生! 狙い目が判らねェ! 下手に手を出せばアニキに当たる!》

 

 尚も繰り返されている、杏寿郎とアヴィスパの格闘。

 

杏寿郎「(アヴィスパを捕捉したまま)サンタミカエラ!」

サンタミカエラ「(ハッ!と我に返ったように)おうっ!」

杏寿郎「気遣い無用! むしろ俺ごと貫く気構えで来い! 今から言う通りに動け!」

 

 サンタミカエラ、不敵に微笑む。

 一度、大きく深呼吸をして、眉を、きり、と寄せる。

 

サンタミカエラ「(大声で)判った! 指示をくれ!」

杏寿郎「呼吸を脚に溜めろ! 意識を足下に集中させ! 脚の筋肉と血管すべてに空気を巡らせ! 溜めて一気に爆発させろ! 空気を切り裂け!」

 

 その発言の間も、アヴィスパの爪は杏寿郎を抉ろうと繰り出されている。

 だが、全攻撃は一度も届かず、寸前で日輪刀の剣技で受け流される。

 アヴィスパの移動する羽音と、刃と爪が放つ金属音だけが響く。

 

アヴィスパ「(苛ついたように)何を訳の解らんことをほざいてる!」

 

 サンタミカエラ、ゴーグルを下げ、両眼に装着する。

 右脚を前に踏み出し、左足を大きく引き、拳を両腰に固定。

 前屈みに身体を沈め、両足の裏に、ぐっ、と力を込める。

 すううう・・・と、長く深く空気を肺に取り入れる。

 

サンタミカエラ《脚の筋肉に・・・血管に・・・》

 

 両脚の腿とふくらはぎが、バン!と膨れ上がるように太く硬くなる。

 しいぃぃぃ・・・と、噛み締めた歯の隙間から、霞の如き息を放出するサンタミカエラ。

 

サンタミカエラ《力を・・・脚だけに溜めて・・・》

 

 更に、ぐううっ・・・と重心を下げる。

 彼女の立っている路上の地下から、ズズズズ・・・と何かが湧き上がるような音。

 僅かの、後。

 顔を真っ直ぐに上げ、カッ!と両眼を見開くサンタミカエラ。

 

サンタミカエラ《空気を! 切り裂けっ!》

 

 サンタミカエラの足元が、クワアッ!と、直径2ヤードほどの円型に発光。

 ズン!と重低音が路面深くから突き上げ、地上へと達する。

 直後。

 サンタミカエラ、全身から発光。

 路面を渾身の力で、蹴る。

 ズッド――――ンンンッッッ!!!と、大爆発の轟音。

 彼女の姿が、消滅。

 半拍の、刹那。

 バリバリバリィッ!!!と、猛烈な電光が、路面を走駆。

 一直線に、ブラズマを纏った光の帯が、空域を縦に裂く。

 それと同時。

 杏寿郎とアヴィスパが闘う位置に、蒼白い光球が膨れ上がる。

 瞬時にそれが解け、中からサンタミカエラが出現。

 バチイッ!と火花を伴い、彼女の右のナックルダスターが最短距離で振り抜かれる。

 ボンッ!と空気を叩き割り、宙を貫くストレート。

 途端。

 黒い霧のような空間の内部から、ドン!と炸裂音を残し、杏寿郎が消える。

 実体化したアヴィスパの右腕が、その場に現れる。

 そこに、サンタミカエラの右。

 激突。

 ドバジイッッ!!!と、四方八方に稲光が奔る。

 メギッ!と骨が軋む、嫌な音。

 アヴィスパの右肘に、サンタミカエラのナックルダスターが減り込む。

 実体化したアヴィスパの顔が、痛みで酷く歪む。

 

アヴィスパ「(愕然として)なッ・・・・」

 

 変化することも忘れたように動作を凝固させ、口をだらしなく開けるアヴィスパ。

 尚も加圧する、サンタミカエラの拳。

 ミギィ・・・と関節が逆方向に反り、更に曲がろうとしている状態。

 僅かの、後。

 ドンッ!と爆音を伴い、アヴィスパの側方に、ボウン!と炎が噴き上がる。

 即座にそれが解け、杏寿郎が飛び出してくる。

 アヴィスパの頸目掛けて、宙を薙ぐ日輪刀。

 しかし。

 一瞬で、ブウーン!と高周波の音を散らし、アヴィスパの姿が反転し、溶解。

 すぐさま空中を靄のように漂い、急激にその場を離脱していく。

 まさに、羽虫の群れが固まって移動するのと、瓜二つ。

 漆黒の帯が渦を巻きながら、通りを流れ去り始める。

 可視範囲から、見る見る遠ざかっていく。

 サンタミカエラ、ゴーグルを頭に上げ、アヴィスパの影を睨む。

 

サンタミカエラ「また逃げやがるんかっ!?」

杏寿郎「(日輪刀を体側に下ろし)追うぞ! 気配を辿る!」

サンタミカエラ「(こくん、と頷き)っしゃっ! 行こうぜ!」

 

 タッ!と石畳を蹴って、肩を並べて走駆し始めるふたり。

 双方、まったく息が乱れていない。

 タタタタタ・・・と軽やかで、流水のような足運び。

 杏寿郎、サンタミカエラを見詰め、ふっ、と笑みを浮かべる。

 

杏寿郎「言われた通り! 全集中の移動が出来たな! 良い呼吸だった!」

サンタミカエラ「(見詰め返し、鼻を鳴らし、嬉しそうに)へへっ、アニキのお陰だよっ!」

杏寿郎「更に今度は! 移動の後に攻撃へ呼吸を転化させてみろ! 全集中を脚から腕、全身へ巡らせる! 君なら出来る! 気合を入れろ! サンタミカエラ!」

サンタミカエラ「(ぐっ、と両の拳を握り)おうっ! 気合入れんぞっ!」

 

 深夜のサンフランシスコを、師弟が疾る。

 カリフォルニアストリートの長い距離の下り坂を、波止場に向けて。

 

 

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