「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

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閃光少女【中編】ー5

★ フェリー桟橋

 

 海霧が、暗闇のサンフランシスコ湾の海上に漂う。

 緩やかな夜風に乗り、それは桟橋を乗り越え、港湾地区一帯を覆う。

 その波止場に、街中から一気に駆け下りてくる、サンタミカエラと杏寿郎。

 先行して、逃走するように、高速で空間を飛んでくる、朧な影。

 アヴィスパと思しき、黒い流動体。

 可視出来たり、見えなくなったりを繰り返し、小型船の桟橋へと移動する。

 一息で、留まることなく、係留してある一隻の武装艇に吸い込まれる。

 小型艇のエンジン音が、鳴る。

 サンタミカエラと杏寿郎、それを確認して、ぐん!と走りを加速させる。

 桟橋に踏み込んで、すぐ後。

 ブルルルルル・・・と重く強い音を上げ、小型武装艇が離岸する。

 ふたりが桟橋の端に着いた時、既に沖合の海霧に紛れていこうとしている。

 

サンタミカエラ「(ちっ、と舌打ちして)野郎っ! ボート準備してたのかよっ!」

 

 立ち止まったふたりの後方から、走り寄るひとりの人物。

 気付いて振り向く、サンタミカエラと杏寿郎。

 

アンナロッテ[面の奥から]「(大声で)ふたりとも! 無事でしたか!」

サンタミカエラ「(目を丸くして)アンナロッテ! いつの間に先回りしてたんだ?」

 

 すぐ目の前まで達し、別の桟橋を右手人差し指で示すアンナロッテ。

 

アンナロッテ[面の奥から]「こんなこともあろうかと、船を出す準備をしてました。急ぎ奴を追います。我々の船なら、振り切られる前に捕捉出来る筈。ふたりも乗船して下さい。こちらへ!」

 

 アンナロッテ、踵を返し、再び元来た方向へと駆け出す。

 サンタミカエラと杏寿郎、後続して走駆し始める。

 

杏寿郎「(後に続きながら)彼奴は『あびすぱ』と名乗っていた! 聞いたことはあるか?」

アンナロッテ[面の奥から]「『アヴィスパ』ですか?・・・(少し間を置き)いえ、存じません。本名か渾名かは判りませんが、『アヴィスパ』とはスペイン語で『スズメバチ』を意味します」

サンタミカエラ「(据えた目で)嫌な感じしかしねェ名前だな」

 

 3人が、別の桟橋に到達。

 防疫修道会のガスモーターボートが接岸されており、既に機動音が鳴り響いている。

 アンナロッテ、サンタミカエラ、杏寿郎の順に、足場板を踏んで乗船。

 甲板に待機していた1名の修道会兵士が、すかさず板を外し、船上に置く。

 そして、操縦室を兼ねた広めの船室に入り、ステアリングを握る。

 

修道会兵C[面の奥から]「出航します!」

 

 既に入室していた3人の内、アンナロッテが頷く。

 ボボボボボ・・・とエンジンの燃焼音を高め、ボートが離岸し、沖への航路に入る。

 船室の屋根に備えられている投光器が、サーチライトを沖合へと飛ばす。

 波を掻き分け、段々と加速していく船舶。

 暫く、湾上を進行。

 やがて、武装艇らしい船影が投光に浮かび上がり、全員の目に映る。

 距離はかなり遠いが、しっかりと捕捉出来る。

 

サンタミカエラ「(船影を凝視し)あんにゃろ、何処へ逃げるつもりだ?」

アンナロッテ[面の奥から]「イェルバ=ブエナ島と思われます」

杏寿郎「(感心して)もう察しがついているとは! 流石だな!」

アンナロッテ[面の奥から]「いえ、単に情報を得ているだけです。チャイナタウンの情報網のお陰です」

 

【回想シーン】

 

 チャイナタウンの薬局。

 狭い店内の奥、机の前に立ち、20枚ほどのレポート用紙に目を通しているアンナロッテ。

 向かいの椅子に深く腰掛け、腕組みをしてその様子を見ている店主。

 卓上には、用紙大の封筒と、10枚ほどの写真。

 店主は、やや緊張した面持ち。

 ペラ、ペラ、とアンナロッテが紙を捲る音だけが、店内に響く。

 半分ほど読み終え、一旦手を停めるアンナロッテ。

 タイプライターの整列した文章の一部を、何度か目で追う。

 

アンナロッテ[面の奥から]「(重めの声で)・・・なるほど。ハポン国領事は別人、しかも頻繁にイェルバ=ブエナ島に渡っている・・・基地の大尉と行動しているのも目撃されている、ですか・・・」

店主「ワタシも一度遭ってるのを見ましたケド、大尉サンが極端にオドオドしてましたっけ。何かをネタに脅されてる感じでしたぜ」

 

 アンナロッテ、再度、レポートを読み始める。

 また数ページ捲って、再び停める。

 

アンナロッテ[面の奥から]「陸軍基地との遣り取り、太平洋郵船会社への貨物の依頼書、送り先は・・・(疑念を持った声で)ハポンですか」

 

 机の上の写真を一枚取り上げ、じっ、と見詰めるアンナロッテ。

 暫くして、写真を卓上に置き、読み進めるのを再開する。

 そして残り1ページになり、顔を上げて、彼女が店主に目線を送る。

 

アンナロッテ[面の奥から]「本物のセニョールブルックスが、イワクラ使節団に同行する為に臨時領事を任命する筈だった、と・・・しかし本人が領事館に戻ってきたと、職員の方々は思っていたのですね」

店主「何しろ本人の身形ですからね、だーれも疑わなかったようで」

アンナロッテ[面の奥から]「それが半月ほど前・・・それに並行して、領事館周辺での不審者の目撃情報と行方不明者・・・」

 

 アンナロッテ、報告書を中程まで、パラパラ、と戻し、一部を再読する。

 それから紙束を纏め、机の封筒を取り上げ、レポートと写真をすべて滑り込ませる。

 左手で封筒を抱え、右手を懐に差し入れ、小袋を取り出し、卓上に置くアンナロッテ。

 ジャラッ!とコインの崩れる音。

 袋の大きさは、依頼時に渡した物と同程度。

 恐らく、前回に近い金額が封入されている模様。

 

アンナロッテ[面の奥から]「ご苦労様でした。情報提供感謝します」

店主「(ふーっ、と長い息を吐いて)ちっとばっかし今回は危ない目にも遭い掛けたし・・・仕事は選ばないとですなァ・・・」

 

 頭を掻きながら、苦笑して報酬の袋を手に取る店主。

 

【回想シーン終了】

 

 防疫修道会のガスモーターボートのエンジン音が、重く轟く。

 その船室で、アンナロッテの話を聞き終え、前方に目を向けるサンタミカエラと杏寿郎。

 サーチライトが、先に逃走する小型艇を捕捉したまま。

 

アンナロッテ[面の奥から]「明確な理由は判明していませんが、基地の司令官である大尉はアヴィスパとやらに協力しています。(逃走するボートを指差し)多分、彼がボートを操縦してますね」

サンタミカエラ「(据えた目でボートを睨んで)脅されて、か・・・」

アンナロッテ[面の奥から]「(ふたりを見回し)以前私たちが基地に行った際に、死兵が襲ってきましたよね。狂血病による死者は、亡くなっただけでは死兵にならない。死兵が動けるのは、黒衣の者、もしくは奴の肉体を埋め込まれた者の影響下にある時だけです」

サンタミカエラ「ってことは・・・(はっ、と何かに気付き)まさかあん時!」

アンナロッテ[面の奥から]「いたのですよ。アヴィスパとやらが、あの島に」

杏寿郎「前回上陸した時は! 司令官からは鬼の気配は感じなかった! 滅した者以外からもだ! その後、領事と直接会った時も、奴からは鬼の気配はしなかった! 実際に対峙して判ったのだが、あの『あびすぱ』は気配を隠す術を持っている! 俺たちを欺き! 姿を潜めていたのだな! なるほど!」

サンタミカエラ「(眉を顰めて)気配が感じずれェ上に、姿を変化したり出来る、か・・・(杏寿郎を見て)動きが速ェってよか、煙みてェになっちまってたよな?」

杏寿郎「(サンタミカエラを見て)うむ! 日輪刀の手応えがほとんどない! まるで靄を斬っているようだった!」

サンタミカエラ「一回だけ当てられたけど・・・」

杏寿郎「実体化した時だな! 奴は実体と変化の二種の形態がある! 昨日の夜に遭遇した奴が同じであれば! 『あびすぱ』は不可視の変化の術をこなしている! 姿を四散させ! 離れた場所に実体を移動させて出現させる!」

アンナロッテ[面の奥から]「街を警ら中にウェイトレスの方を救けた時、ですね」

サンタミカエラ「(拗ねたような口調)水臭ェぜ、アニキ。オレっちにも一声掛けてくれれば、交代でも巡回出来たのにさ」

杏寿郎「すまん! 俺が勝手に回っていたのでな!」

サンタミカエラ「(にっ、と笑って)アニキらしいけどな!」

 

 一瞬、綻んだ空気になる3人。

 だがすぐに、引き締まった表情を戻し、前方の海原に視線を投げる。

 

サンタミカエラ「(真剣な眼で)アヴィスパを斃すにゃ、実体になった瞬間を狙うしかねェってことだな」

杏寿郎「(頷き)うむ! 変化する前! あるいは実体化した直後! その二択だ!」

アンナロッテ[面の奥から]「それと、領事館を探索した結果、地下室より血肉を喰らわれた複数の遺体が発見されました。現在、死兵になる前に浄滅している最中です。恐らく、我々がサンフランシスコに到着する前に被害に遭ったものかと」

サンタミカエラ「(ぎり、と歯を噛んで)野郎・・・」

アンナロッテ[面の奥から]「もうひとつ、判明したことが・・・遺体には、毒を受けた形跡がありました」

杏寿郎「(口を一度結んで)毒か! 人々を毒で弱らせ喰らっていたとは! まさに卑劣!」

サンタミカエラ「(ぐっ、と右拳を握り)これ以上被害者が出る前に、斃してやるっ!」

アンナロッテ[面の奥から]「くれぐれも気を付けて下さい。毒の使い手は、厄介です」

 

 サンタミカエラ、勇ましく、凛々しい表情。

 アンナロッテ、落ち着いて毅然とした佇まい。

 杏寿郎、瞬きひとつせず、射るような闘気を放つ。

 3名の不屈の意志が、船室の空間に満ち満ちている。

 やがて。

 逃走中の武装艇が、緩やかに進路を変える。

 修道会兵士が操縦するボートも、追随して舵を切る。

 イェルバ=ブエナ島の灯台の灯りが、段々と近付いてくる。

 

 

 

【 To be continued...『閃光少女(後編)』】

 

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