サンタミカエラ、目線を登り坂の上部に向け、ダッ!と思い切り地面を蹴る。
そして、大きな歩幅で、飛ぶような勢いで疾走し始める。
アンナロッテ、彼女の姿が夜と同化するまで、視界を向けて見詰めている。
面越しの表情は、窺い知れない。
すっ、と正面に顔を向ける。両手は修道服の下、体側に下ろしたまま。
眼前には、死兵の軍団。
総勢30体ほど。
相対距離、現在10ヤード程度。
こちらを圧し潰すような団子状となり、塊となって群れ動く。
アンナロッテ、極めて冷静な動作で、修道服の中から一丁の銃を取り出す。
砲身が太い、全長20インチほどのガスグレネードランチャー。
両手で持ち直し、スイッ、と70度くらいの仰角に構える。
死兵たちが、ゴオオオオオオッ!と咆哮。
それを合図に、弾かれたように一斉に、両腕を広げて襲い掛かって来る。
途端。
アンナロッテ、引鉄に掛けた指に力を入れる。
ドッゴォォ―――ン!!!と、大音響を放ち、カートリッジが発射。
硝煙を引き連れ、一度急上昇し、弓形の放物線を描いて、落下軌道に入る。
死兵軍団の上空に到達。
直後。
ゴバン!と、カートリッジが炸裂。
一瞬で10ヤード四方の空間に、小型ダイナマイトが撒き散らされる。
しかもそれらは、爆竹のように10数本が連なった束。
その束がいくつも空域を舞い、落ちていく。
繋がった導火線には、既に点火されている。
目も呉れずに襲撃する死兵の群れの頭上に、雨霰と降り注ぐ。
刹那の、後。
ババババババババババババババババババンンッ!!!と、耳が割れそうな音。
爆竹型ダイナマイトが、連鎖して爆発。
一本が弾ける毎に、死兵一体一体が砕ける。
ある者は、頭部が炸裂。
ある者は、腕が吹き飛ぶ。
ある者は、胸が大きく抉られ、体液を四散させる。
ある者は、足元で炸裂した爆破で両脚が歪に曲がる。
時間差を持って、ダイナマイトが、バン! バン!と発破を続ける。
暫く、続く。
アンナロッテ、その様を、じっ、と凝視している。
やがて。
爆発を逃れた後方の数体を残し、死兵の大部分が地に伏す。
7割ほどは浄滅した模様。
ただ、爆破を受けて躯体を損壊させても、地面を蠢く者が多数。
行動は不能となったが、オオオオオオ・・・と呻きながら、のたうち回っている。
グレネードランチャーを、ポイ、と横に放り投げるアンナロッテ。
アンナロッテ[面の奥から]「チャイナタウンで買った爆竹を改造した物ですが、音が大きい割に破壊力は今ひとつですね。更なる改造の余地がありそうです」
台詞を言い終える前に、ホルスターから銃を引き抜くアンナロッテ。
ヴォゾーンッ!と、銃声。
残兵の一体の頭部の眉間が正確に射抜かれ、真後ろに倒れていく。
ヴォゾッ! ヴォゴッ!と連続した音と共に、リボルバーが回り、銃弾が空を裂く。
アンナロッテの銃が、人ならざる者を次々と餌食にしていく。
辛うじて起立していた最後の一体の頭部を、砕く。
その躯体が、ドザッ・・・と、地に崩れ、そして動かなくなる。
死兵の軍、行動不可。
ふう、と息を吐いて、銃を持った右腕を体側に下ろすアンナロッテ。
ゆっくりと、右側に身体を返す。
遺体の山から離れた場所に、一体の影。
既に絶命している筈の、基地司令官『大尉』が立っている。
血塗れの身体、白濁した両眼を剥き、顎を落として牙を曝け出し。涎を垂らす。
皮膚はまだ人の色をしているが、生体としての雰囲気ではない。
正対した距離、6ヤードほど。
双方動かず。
そのまま、少しの時間。
ズズッ・・・と足を引き摺り、死兵となった大尉が接近し始める。
アンナロッテ、その様を見詰めている。
アンナロッテ[面の奥から]「(憐憫さを湛えた口調で)脅されていたのなら、ひと言相談して下さってもよろしかったのですよ。防疫修道会と陸軍が連携している今なら、救えたかも知れませんのに・・・」
大尉は、何も答えない。
両腕を上げ、アンナロッテに方向を定めて近付くのみ。
相対、4ヤード。
右手の銃をホルスターに仕舞い、別のホルスターから別の銃を抜くアンナロッテ。
チャキッ、と銃身を真っ直ぐに、大尉の眉間に照準を合わせる。
僅かの、後。
アンナロッテ[面の奥から]「(清廉な響きの声)お然らばです、大尉」
ヴォゾーンッ!!!・・・と、長く尾を引く銃声。
一発の銃弾が、大尉の眉間に刺さる。
それは浄銀弾でも、通常の弾丸でもない。
注射器の形状をした、特殊な弾。
針の部分が根元まで抉り込み、即座に、チューッ・・・と何かを注入する。
次の、瞬間。
ドッバァァァン!!!と、大尉の頭が、風船みたいに破裂し、爆散。
ゆら・・・と首から下の躯体が揺れ、緩やかに背後に倒れていく。
その後、ドザッ・・・と仰向けに伏し、大尉は完全に沈黙する。
アンナロッテ、銃口の硝煙に揺らめきを、暫く眺めている。
長い、間。
更に、間。
漸く。
銃を懐に仕舞い、徐にペストマスクを上げ、煙草を一本咥え、マッチで火を点ける彼女。
すう・・・と一度吸い、唇の端から、ふう・・・と煙を吐く。
目の前では、今も藻掻く死兵の呻きが、オオオオォォン・・・と湧いている。
アンナロッテ、2本の発火筒を右手で取り出し、右手と左手で1本ずつ持ち直す。
咥えている煙草で、導火線に点火。
そして、ブン、ブン、と左右交互に腕を振り抜き、発火筒を放り投げる。
それが放物線を描き、死兵の躯体の山に落下。
直後。
ボボボオオオオッ!!!と、紅蓮の猛火が噴出。
落ちた周辺の死兵を黒炭化しながら、一瞬で死兵全体を飲み込む。
断末魔の悲鳴が、方々から上がる。
地獄の業火で焼かれる、亡者の如く。
煙草を静かに燻らし、沈着で静かな目線を向けているアンナロッテ。
暫く、そのまま。
尚も、そのまま。
やがて。
誰の声もしなくなり、赤銅色の烈火が盛る音だけが、鳴っている。
アンナロッテ、ふううう・・・と、溜め込んだ息をすべて吐き出す。
瞳が、慈愛を湛える。
それから両手を胸の前で合わせて組み、少し俯き、瞼を閉じる。
アンナロッテ「(深遠な響き)主よ、憐み給え・・・」
天をも焦がす勢いで、紅蓮の焔が立つ。
アンナロッテの祈りの、透明で澄んだ声が、慰めのように纏われている。