突然。
ドゴオオオオオオオオォォォンンン!!!!と、大爆発の音。
ひとつ、サンタミカエラの位置から、直径3ヤードの雷が、天に駆け上がる。
大自然の理とは逆の方向。
地面から天の頂へ、月に届かんばかりの高さまで。
無数のプラズマと放電を、四方八方に撒き散らし、垂直に。
ふたつ、サンタミカエラと、杏寿郎の背後までの50ヤードが、光で直結。
人間大の寸法の、蒼白色の光線の帯が、刃物のような形状で。
それはまるで、急に地面から巨大な刀身が湧き出して横たわったかのよう。
三つ、光の帯の端部、杏寿郎の背中の辺りから、黒い姿が弾き跳ばされる。
人型の影が、全身を電光塗れにして、腹部から“くの字”になって吹っ飛ぶ。
何と。
この3種の現象は、まったく同時。
時間差、寸分違わず。
3つの現象の発する爆音が合体し、たったひとつの音となって丘陵部全体に轟く。
音速を超越した“何か”が、アヴィスパを射る。
アヴィスパ「(苦悶)ゴボアッ!!!」
アヴィスパ、口を全開に、吐瀉物を撒き散らし、宙を舞う。
ダン! ダンッ!と、石切で水面を切るように跳ね、転がり、離れていく異形の身体。
やがて。
15ヤードほどの距離で、漸く停止する。
その軌道上、赤土の煙が朦々と浮遊している。
杏寿郎、正眼の構えで、茫然と凝視。
アヴィスパの躯体が地面に横臥しているのを確認して、振り向く。
サンタミカエラが、いる。
杏寿郎を庇う立ち位置で、左脚を軸に、右脚で蹴りを放った姿勢の状態で。
地面と水平に真正面に突き出し、ぴくりとも振れない、見事に安定したポーズ。
彼女のブーツの金具と、それに仕込まれている滑車が、キリキリキリ・・・と回転して戻る。
右足先から、パチッ・・・と、残留電気が放たれる。
すいっ・・・と右脚を下ろし、両足を肩幅に広げ、体軸を立てるサンタミカエラ。
杏寿郎、言葉もなく、ただ彼女の横顔と姿を両眼に焼き付けている。
サンタミカエラ、杏寿郎を見ていない。
ゴーグル越しに、アヴィスパに視線を固定している。
表情は、極めて冷静なもの。
ただひたすら幾度も繰り返される、深い呼吸音が続く。
少しの、間。
我に返ったように、ガバアッ!と素早く立ち上がるアヴィスパ。
サンタミカエラの姿を目にして、見る見る憤怒の形相。
アヴィスパ「(怒声)きっ・・・貴様ァ!」
口の端に付着した、血の塊が混じった吐瀉物を、喋りで撒き散らす異形体。
まだ蹴りを受けた苦痛が消えないのか、酷く歪んだ顔。
相対するサンタミカエラ、目線を外さず、正面を見たまま。
サンタミカエラ「(静かな口調)アニキは休んでてくれ。あとは、オレっちがやる」
杏寿郎の表情が、僅かに緩む。
弟子から発せられた、勇ましく頼もしい言葉。
ふっ、と、それまで張り詰めていた両眼の緊張を、解く杏寿郎。
対して。
痛みが和らいできたのか、やや畏敬高に胸を反らし、鼻で嗤うアヴィスパ。
アヴィスパ「(嘲笑しつつ)たかだか一度蹴りを入れたくらいで図に乗るな! 我輩の速度に翻弄されて! 毒を喰らってその剣士と同じ目に遭うといい!」
サンタミカエラ「(口端を上げ、はん、と鼻息をつき)速度ぉ? あんなモンで威張るのか? 蝶々の方がよっぽど速ェぜ? 第一てめェ、速ェっつーよか、煙みてェになって逃げ回ってるだけじゃねェか?」
一転。
アヴィスパ、あっという間に怒りで顔を満たしていく。
間を置かず。
アヴィスパ「(切れた様子で)誰が逃げ回ってるだとォォォォ!」
瞬間湯沸かし器の如き、激昂。
サンタミカエラ、あくまで冷徹さを保った雰囲気。
煽りの言葉を口にした時も、感情を抑えながら。
サンタミカエラ「(冷静な声で)アニキ、毒はアンナロッテが解毒出来る。来るまでもうちょっと辛抱してくれ。それまでに、あの野郎を片付ける」
杏寿郎「(サンタミカエラを見詰め)判った。少しの間、任せる」
そして、ゆっくりと左膝を地に着き、片膝立ちになる杏寿郎。
その姿勢で日輪刀を両手で握り締めたまま、下段の構え。
顔色が、悪い。
それでも呼吸は深く、静かに、確実に繰り返されている。
目線は落とすことなく、異形体に据えられたまま。
サンタミカエラ、アヴィスパに目を向けた状態で、すっ、と右手を真正面、水平に挙げる。
右掌を上に向け、人差し指と中指を、ちょいちょい、と内側に折る。
同時に、見下すような視線で異形の吸血鬼を見る。
余りにも明らかな、挑発。
更に一層、顔全部を歪めて憤怒を表すアヴィスパ。
サンタミカエラ「どうした? 早く見せてくれよ? 蝶々より速いとこをよ!」
アヴィスパ「(激怒)舐めるなガキがァァァ!」
ブウォン・・・と、アヴィスパが変化。
漆黒の流動体になった後、完全に不可視となる。
サンタミカエラ、一瞬身体を屈め、腰を落として据え、構えを取る。
途端。
ズッドオオオォォォンンン!!!と、空間を震撼させる爆音。
ひとつ、彼女の位置に、光球が膨れ、弾ける。
ふたつ、左45度前方に、一直線の白銀色の光が、奔る。
長さ10ヤードほどの、刃のような形状の光線。
三つ、その中程で、別の光の球が発生。電光を四散させる。
内側で、黒い人影が顔から地面に叩き付けられ、バウンド。
これらも、まったくの同時の出来事。
爆裂音が鎮まるより早く、連動した事象が区切られる。
アヴィスパ「(顔を歪めて)ブゴォォッ!」
アヴィスパが、頭を赤土に減り込ませ、反動で全身を側転させ、転がる。
全身から、バヂバヂイッ・・・と、電光を撒き散らし。
光線の伸びた先に、既にサンタミカエラがいる。
腰を落とし、次の構えを構築し、しいぃぃぃ・・・と唇の両端から霧の如き呼吸。
もう、身体をアヴィスパに正対させている。
どう考えても、瞬間移動したとしか思えない、時間差。
何が起こったのか、何がどうなっているのか。
誰の目にも見えていない。
アヴィスパ本人にも、杏寿郎にも。
光が帯を成し、地上と宙を奔った事実しか、認識出来ていない。
ふら・・・と平衡を崩しながらも、立ち上がるアヴィスパ。
頬が大きく穿たれ、頭部全体がやや歪になっている。
アヴィスパ「(愕然と)な!・・・何だ貴様ァ!」
相対、6ヤード。
微かに、アヴィスパの輪郭が、ぼやける。
即座。
ガギャアアアアァァァァンンン!!!と、鋭利さを含んだ炸裂音。
ひとつ、サンタミカエラ、光球で覆われる。
ふたつ、アヴィスパの身体に光線が縦の帯状に伸び、120度の角度で反射する。
異形体の全身が、蒼白色の稲光を纏う。
三つ、反射した光線はそのまま元来た軌道を走駆し、別方向に120度で線を描く。
異形の吸血鬼が、もう一度白銀色の光球と電光を被る。
その内側、顔が大きく左に曲がり、腹部が逆に右側にへし折られるアヴィスパ。
これらもまた、すべて同時。
半拍の、後。
爆音が鳴り終わる、前に。
サンタミカエラ、光の筋の軌道が終わった先に、アヴィスパの背後に出現。
戦闘の構えを取っており、しいぃぃぃ・・・という、深遠の如き呼吸が漏れる。
彼女の両拳のナックルダスターが、バチイッ!と火花を放つ。
アヴィスパの体躯が、S字のような形態で動きを停めている。
今度も、バヂバヂバヂイッ・・・と、余韻の如きプラズマを全身に滞留させ。
推測するに、拳の左右を喰らったと思しき。
恐らく、二連撃。
放電が鎮まった、後。
よろ・・・と身体を返し、サンタミカエラに向き直るアヴィスパ。
立ってはいるが、辛うじて、としか言えない様子。
アヴィスパ「(茫然と)は・・・速いなんてものではない! 残像も見えない! あり得ない!」
ブウーン!と、力を振り絞るような動作で、変化する異形の吸血鬼。
またもや、不可視の形態。
直後。
ドゴンンッッ!!!と、一度の重低音。
ひとつ、サンタミカエラが真後ろに翻り、全身が光を纏い、消える。
元の位置から、光線が5ヤードほど延伸。
ふたつ、伸びた光の先に、人間大の光球が発現。稲光が天に向かって伸びる。
三つ、そこから右60度方向に光の帯が折れ、5ヤード進み、そこで再び白光の柱が噴き上がる。
四つ、更に反時計回りに90度、5ヤード延伸する光線。またもや光が炸裂。
五つ、反射する如く、その地点から尚も右30度の角度を成し、蒼白の帯が疾走。
並行して、ドガドゴドガドガゴンッッッ!!!と、連鎖して聞こえる打撃音。
全部の光線の先で、真っ白な光が爆ぜ、漆黒のシルエットが捻じれ、踊る。
サンタミカエラが、爆音が消えない内に、ダンッ!と再出現。
彼女の移動の軌跡が、上空から見るとジグザグの光の形状で残留している。
すべての事象を併せても、三拍にも満たない。
見えていたのは光の線のみで、彼女の姿は捉えられない。
まさに、神速。
何度目かの、戦闘の構えを取り直しているサンタミカエラ。
深い位置から届くような、しいぃぃぃ・・・という呼吸音が、彼女から発せられる。
これだけの攻撃を繰り返しているのにも係わらず、息が乱れていない。
サンタミカエラ「(冷酷な声色で)遅ェよ、のろま」