光球も稲光も打撃音も消滅した後、アヴィスパの躯体が可視化。
今回も、バヂバヂッ・・・バヂバヂッ・・・と、異形の表皮に放電が残る。
まるで、身体全体が帯電した如く。
アヴィスパ、だら・・・と両腕を身体前面に垂らし、体軸が左右に、ふら、ふら、と揺れる。
よく見ると、腕と脚があらぬ方向を向いて捻じれている。
先程は恐らく、移動しての四連撃。
漸く身体の向きを変え、サンタミカエラを視界に映すアヴィスパ。
双方の距離、現在5ヤード。
眼前の少女から、凄まじい気迫と重圧。
アヴィスパ、急に小刻みに全身を震わし始める。
サンタミカエラ「煙になろうが何だろうが、もう逃げられねェし、逃がさねェ。見えるんだよ、てめェの動きなんざ」
アヴィスパ「(ブルッ、と大きく震え)う、嘘だ! 我輩の動きが見える筈など、な、ない!」
サンタミカエラ「(更に圧を込めた口調)オレっちの姿は見えてっか?」
ぐうっ、と言葉を一瞬飲み込むアヴィスパ。
僅かの、後。
何とか言い返そうと、口を開く異形の吸血鬼。
アヴィスパ「(必死さを伴い)な、何故ぇ・・・何故そんなに速いぃ!? 光の筋しか見えないぃ!」
アヴィスパ、言葉尻が覚束なくなっている。
サンタミカエラは、それに返事をしない。
代わりに、彼女の両拳のナックルダスターの電極が、バチイッ!と音で返信する。
異形体の口端が、引き攣り出す。
両手の爪先まで伝わった震えが、治まらない。
目の前の少女に、ある感情を覚えてしまった模様。
恐怖。
それも、生命連鎖の上位から受ける理と、等しき。
天敵を目の当たりにした、問答無用さ。
何をどう足掻いても超えられないという、絶対。
腰を落として、拳を体側に着けたサンタミカエラが、ゴーグルの奥から睨む。
サンタミカエラ「(重圧を含んだ声で)さぁて・・・こっから本気出すぜ・・・」
ビクウッ!と、意図せず身体を跳ねさせるアヴィスパ。
最早、感情は限界を突破寸前。
サンタミカエラ、すううう・・・と肺いっぱいに空気を充満させる。
全身を包むように、薄明るい白色光がオーラの形状で纏わり出す。
一段身体を屈め、しいぃぃぃ・・・と深い呼吸を、食い縛った歯の間から吐く彼女。
サンタミカエラ「(覇気を込め)全集中・・・」
アヴィスパ、口を全開にする。
遂に。
アヴィスパ「(怯え)ヒイイイ――――ィッ!!!」
異形の悲鳴。
尊厳どころか、恥も外聞もかなぐり捨てた、心底の叫び。
とうとう。
アヴィスパ、下策を取る。
あらぬ方向に曲がった自分の右足で、地面を思い切り掃き、横薙ぎに蹴り上げる。
ズザアッ!と赤土が抉れ、土埃が湧き、砂粒と小石が空間を吹っ飛ぶ。
それは、サンタミカエラの顔面に直接到達する。
ゴーグルの防御で目には入らなかったが、細かな石と砂は、幾分彼女の歯と唇に当たる。
反射的に、顔に被った砂を右手で拭い、歯に付着した分を唾と一緒に、吐き出す。
サンタミカエラ「(不快そうに)ぺっ!・・・んにゃろうっ!」
ハッ!と、即座に気が付くサンタミカエラ。
アヴィスパが、いない。
一方。
彼女から後方、約10ヤードに片膝立ちの状態を維持している、杏寿郎。
ふううう・・・と、大きな呼吸音を放ち、息を長く伸ばす。
日輪刀を、スッ、と身体の右の脇構え。
着いた左膝を浮かし、ずいっ、と左足裏を地面に擦り付ける。
杏寿郎「(静かに、深く響く声で)炎の呼吸、弐の型・・・」
前方のサンタミカエラ、ぐるん!と鮮やかに踵を返す。
そして間髪を入れず、ダンッ!と地面を蹴る。
サンタミカエラ「(杏寿郎を凝視して)アニキぃっ!」
途端。
くわあっ!と、爛々とした眼光で見開かれる、杏寿郎の両目。
彼の身体が瞬間だけ沈み、その反作用のように、全身を伸び上げ、一気に跳躍。
杏寿郎「(破裂するような発声)昇り炎天!」
日輪刀が、唸る。
ボオオオオッ!と猛烈な烈火を放ち、下から真上に、焔で半円の軌道を描く。
その斬撃の、先の宙。
突如、アヴィスパが出現。
ブイン・・・と羽音が湧いた空間の点に、襲い掛かる紅蓮。
まるで、実体化する空域を予知していたような、杏寿郎の剣技。
眼前の炎を見て、息を飲んで、驚愕で固まる異形の顔。
大きく跳んだアヴィスパの真下から、日輪刀が薙ぐ。
直後。
ザシュウウウッ!!!と、股下から胸元まで、情け容赦なく斬り上げられる異形の吸血鬼。
アヴィスパ「(絶叫)ギャアアッッッ!!!」
炎は、速攻で異形を喰らう。
全身を炎塗れで、空間を吹き飛ばされていくアヴィスパ。
それは放物線を描き、背中側から地面に落下していく。
着地した杏寿郎、途端に左膝から崩れ、がくり、と項垂れる。
しかし、振り絞った気迫を放ち、顔を上げ、サンタミカエラを凝視する。
杏寿郎「(突き抜けるような声で)行け! サンタミカエラ!」