「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

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閃光少女【後編】ー6

 アヴィスパの身体が、降って来る。

 空間距離、5ヤード。

 サンタミカエラ、一瞬、両足で強く地面を踏み締める。

 直後。

 ズドンッ!と、爆裂音。

 光と化し、一歩の踏み込み。

 同時に、右拳が下方より、縦の円弧を描く。

 アヴィスパの真下に潜り込み、鮮烈なアッパーカット。

 バギャアアッ!という音と、凄まじい純白のスパークが拳から散る。

 異形の体躯の背中中央に、サンタミカエラの右。

 真下から突き上げられた拳が、アヴィスパの身体を仰向けの弓形に反らす。

 ボギイッ!・・・と、脊椎が砕ける嫌な音。

 

アヴィスパ「(嘔吐するほど口を全開にし)おご・・・」

 

 構わず、拳を振り抜くサンタミカエラ。

 ブゥ―――ンッ!!!と、風が巻き起こる音。

 アヴィスパ、彼女の右アッパーにより、そのまま吹っ飛んでいく。

 垂直に、頭を地面に向けて、脚を上空に向け、ブンブンブンブンブンッッ!!!と猛烈な錐揉み。

 サンタミカエラの一撃の勢いが、怒涛の回転運動を与える。

 まるで、人型の独楽。

 異形の躯体が、玩具さながら。

 打撃を受けた地点から、尚も5ヤードの放物線を画す。

 重力に従い始めた、次の瞬間。

 サンタミカエラ、素早く、すううう・・・と呼吸。

 腰を落とし、両拳を構える。

 途端。

 爆雷。

 ドゴオオオオオンンッッ!!!と、天に昇る電光の柱。

 発光し、姿自体が光に溶けるサンタミカエラ。

 同時に、光の帯が疾走し、蒼白い焔とプラズマを全方位に四散させる。

 先端が、アヴィスパを捕獲。

 異形体を、瞬時に光球で飲み込む。

 そこを起点に。

 蒼白色の光線が、離れては戻り、また離れ戻る、縦横無尽な動きを発生。

 更にその周囲に、直径3ヤードの正円の軌道の残影光が湧き立つ。

 アヴィスパを含んだ光球の位置を、中心。

 そこから360度全方向への放射直線の光が、無数。

 外周をぐるりと、別の白色光の帯が環状を形成。

 一筆書きの如く、次から次へと、光線が疾風迅雷と等しく動く。

 恐らく、サンタミカエラの移動。

 これぞ、光速。

 まるで。

 上から見ると、光の残像が“車輪”となったような、形状。

 それが、瞬きの間に鮮やかに、夜の闇に描かれる“絵”となる。

 並行して轟く、ズドドドドドドドドドドドドドドドッッッッ!!!という、何かを連打する音。

 合奏する如く、バリバリバリバリバリバリッッッッ!!!と、稲妻が奔る音。

 白色光を中心点に、蒼白い烈火と雷光が、ありとあらゆる方向に迸る。

 赤土の地面が、波打つように揺れる。

 空気も激しく振動し、約20ヤード以上四方の宙が、ビリビリビリビリ・・・と震撼で満たされる。

 中心にあたる光の球の内側で、黒い影が翻弄されて、前後左右上下の猛回転。

 アヴィスパらしき姿が、天地逆さまの状態で、打撃されている。

 腕が、あり得ない方向に、曲がる。

 腹部と背中が正反対になったように、捻じれる。

 脚が、膝の辺りから、関節駆動域を越えてツイストしている。

 頭部が既に凸凹で、巨大な眼球が破裂して体液が空を舞う。

 攻撃を喰らっている間、異形体は空中に留まり続けている。

 全方向から受ける打撃の苛烈な力で、一度も地面に触れることがない。

 今やアヴィスパは、翻弄され続けている、肉の塊。

 これは。

 サンタミカエラが『閃光』となった、乱舞。

 彼女が『閃光』と化した、必殺の技。

 今、サンタミカエラは、刃そのものとなっている。

 悪鬼を屠る、白銀の刃となっている。

 一方、その後方。

 余りの光量に、瞼を半分閉じ、眼前の激戦を凝視している杏寿郎。

 両膝を地に着け、両腕を体側に垂らしたまま、白色光の内に視界を固定している。

 呼吸を深く何度も行っているが、顔色の悪化は隠せていない。

 それでも、弟子の成す超絶技巧を、しっかりと見ている。

 杏寿郎、ふっ、と口角の両端を緩やかに上げ、笑みを浮かべる。

 片や。

 ザザアッッ!と、地面を靴底で擦り、サンタミカエラが急出現。

 狙っていた獲物から、約2ヤードほど離れた位置。

 光が解けて四散した中心点に、アヴィスパと思しき躯体が、今も、くるくるくる・・・と回転して浮遊。

 バヂッ! バヂバヂッ・・・と、放電も治まっていない。

 数え切れないほどの電撃の拳で殴打され、帯電中。

 アヴィスパからは、言葉が聞こえてこない。

 人間大の肉玉のような形状で丸められ、宙で自転するのみ。

 サンタミカエラ、腰を落とし、地を踏み締めた構え。

 突然。

 彼女が胸の前で、両の拳を、手の甲を上にして左右から突き合わせる。

 ドバジイッ!!!と、新たなるスパークが弾け、電夾の双極同志をプラズマが結ぶ。

 そして、更に腰を落とし、右脚を全力で、ズザアッ!と後方に引く。

 同時に右拳を、ぐいん、と真後ろの下方向に、身体を広げて振り被る。

 右のナックルダスターから、光球が発現。

 バジバジバジバジッ・・・ゴゴゴゴゴ・・・と、火花を伴って膨れ上がる。

 左拳は腰に据え、ゴーグル越しの眼光は刺すように。

 その全身は、矢を射る前の弓の如し。

 弦を渾身まで引き絞り、射出せんとばかりに。

 しいぃぃぃ・・・と、サンタミカエラの噛み締めた歯の隙間から、霧のような呼吸。

 尚も空中で回り続ける、アヴィスパの身体。

 

サンタミカエラ「(深く響く声で)シエラマドレまで・・・」

 

 対空距離、2ヤード半。

 異形体の肉塊が、僅かに落下軌道に入る。

 直後。

 

サンタミカエラ「(爆発するような大発声)吹っ飛びやがれェェェェっっ!!!」

 

 弓矢が、放たれる。

 全身をバネとし、右の拳を最短距離で振り抜くサンタミカエラ。

 すべての呼吸、すべての技術、すべての力をナックルダスターに注入し。

 ボオオオンッ!!!と、空気が叩き割られる。

 球となったアヴィスパの躯体の真芯に、電撃塗れの光球が叩き付けられる。

 グワッ!と、急膨張する白色光。

 一瞬。

 空域のすべての音が、消失。

 刹那の、後。

 ズッドオオオオオ―――――ムッッッッッッ!!!と、蒼白色の光線が発生。

 直径1ヤードの超える太さで、大砲の如き爆音を奏でて延伸。

 サンタミカエラの右ストレートが、累積したエナジーを遺憾なく発揮。

 直撃されたアヴィスパが吹き飛び、光線内に飲まれる。

 最早、身体の形態を成していないそれが、崩壊し始める。

 光の内部で、蒼白い炎に巻かれ、蒼白い稲光を散らし。

 躯体の中に蓄電された電気が連動し、皮膚が捲れ上がり、粉々になっていく。

 肉体は砂が流れて拡がる如く崩れ、光線に乗って散り散りとなる。

 やがて。

 アヴィスパ、無となる。

 悲鳴すら、断末魔の声すら、出せず。

 蒼白色の光線は、異形体を完全に消し去り、更に伸びていく。

 仰角30度で、光輪を纏わせ、雷光を靡かせ、空を劈く。

 そして、総延長100ヤード近くの、斜めの、一本の光の柱を構築。

 ゴゴゴゴゴゴゴ・・・と、究極の技の余韻が、残響を伴う。

 サンタミカエラ、右拳を突き出した姿勢で口端を引き締め、じっ、とそれを見詰めている。

 光線が、緩やかに鎮まっていく。

 そして、消える。

 代わりに、下弦の月光が、穏やかに降り注いでくる。

 沈黙が降り、静寂。

 静寂。

 静寂。

 長い、間。

 長い、間。

 更に、間。

 漸く構えを解き、起立し、ふううう・・・と大きな溜め息を漏らすサンタミカエラ。

 すかさず、バッ!と鮮やかに踵を返し、ダッ!と地面を蹴る。

 杏寿郎に駆け寄りながら、ゴーグルを上げ、表情を変え。

 それまで我慢していた感情。

 不安と心配を顔全体に表し、杏寿郎の眼前に屈み込む彼女。

 彼は息が激しく乱れ、顔面は蒼白。

 それでも尚、口元の緩やかな笑みを湛えた状態。

 

サンタミカエラ「(腹の底からの声)アニキぃ!!!」

杏寿郎「・・・見事だ、サンタミカエラ・・・『閃姫』の名の通りだ」

サンタミカエラ「毒喰らったんだろ!?」

杏寿郎「(ふううう・・・と、深呼吸)・・・呼吸で毒の巡りを遅らせている。心配には及ばん・・・」

 

 サンタミカエラ、即座に杏寿郎の右脇下に潜り込む。

 そして彼の右腕を自分の肩に回し、しっかりと引き付けて固める。

 左腕で杏寿郎の腰を、がしっ、と抱え込んで、そのまま立ち上がる。

 驚いた表情の杏寿郎を支えながら、一歩右足を踏み出すサンタミカエラ。

 

サンタミカエラ「(勇ましく)すぐに・・・アンナロッテんとこに連れてってやるから!」

杏寿郎「(静かに笑い)・・・心配ない。キリエもラーラマリアも、俺は死なないと言っていた・・・」

サンタミカエラ「(張りのある声で)当たり前だろっ! オレっちが死なせねェ! ぜってェ死なせねェっ!」

 

 丘陵部の、今しがた駆け登って来た坂道の方向へと、歩を進めるふたり。

 眉を顰めて口を結び、杏寿郎を介助して足を運ぶサンタミカエラ。

 そして、背中越しに彼の左肩に視線を繫げ、羽織の上に拡がる血を見て、ぎり、と奥歯を噛む。

 やや穏やかな安らいだ顔で、サンタミカエラと一体化した状態で歩く杏寿郎。

 少し、進行した後。

 背後から、声が飛ぶ。

 

修道会兵C[面の奥から]「(大声で)おふたりとも! こちらです!」

 

 サンタミカエラと杏寿郎、思わず振り返る。

 約50ヤードほど後方に、修道会兵士が走り寄って来るのが確認出来る。

 方角は、登坂の道路方面から、丘を挟んだ反対側。

 陸軍基地施設のある、方向。

 立ち止まって顔を向けたまま、それを凝視しているふたり。

 兵士の遥か後方には、基地近くから立ち昇る煙が揺らいで見える。

 すぐ近くまで駆け寄り、息を切らして、ふたりを見遣る兵士。

 

修道会兵C[面の奥から]「薬読様のご指示で、基地側から縄梯子を設置しました! 道路より早く下に降りられます! 今、薬読様が解毒薬の準備をされてます! 急いで下さい!」

 

 心底の驚嘆を覚え、顔を見合わせるサンタミカエラと杏寿郎。

 そして、示し合わせたように同時に、ふっ、と笑みを浮かべる。

 

サンタミカエラ「(感嘆したように)やっぱアンナロッテ、すっげーな!」

杏寿郎「(苦しそうだが、感嘆して)うむ。流石としか言いようがない」

 

 それから、身体を寄せ合ったまま、進む先を180度返す。

 修道会兵士が、杏寿郎の左横に並び、彼の歩きを補助するような動作。 

 3名が、基地へ繋がる縄梯子へと、移動していく。

 後には。

 半月光が降り注ぐ、無人の丘陵地。

 先程の激闘が嘘のような、静けさ。

 散っていった異形体の粒子すら、見当たらない。

 ただ夜風が吹き、遠くの地平は、夜明けの近い薄明るさを帯び始める。

 

 

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