タイトルは、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ作曲、教会カンタータBWV207「鳴り交わす絃の、相和せる競いよ Vereinigte Zwietracht der wechselnden Saiten」より。
登場人物:「キリエ~吸血聖女~」より、キリエとラーラマリア、及び敵キャラ1名。「デスとハイエロファントの物語:REBOOT」より、デスとハイエロファント。
注:小説ではなく、脚本風読み物です。
残酷・残虐なシーンが長い間続きます。大量の血の描写もあり。
同一内容を、下記サイトにも掲載しております。
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【挿絵表示】
キリエ~吸血聖女~×デスとハイエロファントの物語:REBOOT
クロスオーバー番外編【 鳴り交わす絃の、相和せる競いよ(後編) 】
BWV207 Vereinigte Zwietracht der wechselnden Saiten
★ (翌朝)サン=ベルナルディノ・孤児院(教会)・庭先
早朝の陽射しが降り注いでいる、教会の庭。
冷えた空気が残っており、風がそよぐと幾分寒いほど。
庭中の樹に、手綱で繋がれている3頭の馬。
その近くに、出発の支度を終えて立っているキリエとラーラマリア、デスとハイエロファント。
ヒヒン! ブルルルル・・・と大きく嘶き、寄り添うようにしている馬たち。
全頭、落ち着きがない。息も荒い。
何気に、デスから顔を背けている様子。
一頭の馬のたてがみを撫で、訝し気にその横顔を見ているラーラマリア。
ラーラマリア「怯えているな・・・昨日もそうだった」
デス「(ふう、と息を継ぎ)判るんだ、こいつらは。あたしが死神だってことが。説明などしなくとも、本能が感じ取ってるんだ。死を避けるのは生物として当然の反応だからな」
キリエ、デスの顔を見詰め、微かに憂いを浮かべる。
すっ、とハイエロファントが前に出る。
ラーラマリアの横に並び、馬の太い首に右掌を当てる。
ハイエロファント「(馬の首筋をゆっくりと撫で)大丈夫。怖がらなくても、いいんだよ」
ハイエロファントの手が動くのに従って、その馬は穏やかな目線となっていく。
呼吸も落ち着いてきて、静かなものへと戻る。
やがて。
まるで伝染したかのように、他の2頭も平常時の状態へと回帰していく。
間近で雰囲気が変化していくのを見ながら、感心したような顔で腕組みをするラーラマリア。
デス、ありがたそうな、また申し訳なさそうな眼差しをハイエロファントに結ぶ。
キリエ「大人しくなった・・・」
ラーラマリア「エロファントは逆に宥められる、と・・・」
デス「(キリエとラーラマリアを見て)馬の一頭は荷運びで空けられないだろう。あたしは徒歩でも充分追いていける。お前たちふたりが一頭に乗って、ハイエロファントに一頭預けてくれないか?」
ハイエロファント「(デスを見詰めて)僕も歩くよ。馬には、キリエとラーラマリアで乗ってってもらって」
ラーラマリア「(唸るように)んー・・・アタシらだけってのもなぁ・・・」
ラーラマリア、困ったように眉間に皺を寄せ、唇を固く結わえる。
キリエ、一旦3頭の馬に目を投げ、全員を見回す。
キリエ「提案が、あるの」
他の3名が、一斉にキリエに視線を繋ぐ。
★ (半時後)サン=ベルナルディノ駅への線路沿いの街道
太陽が、上昇軌道に乗っている。
雲ひとつない、晴天。
赤茶けた土が晒された地面の、街道。
道の横に、錆びたレールが真っ直ぐに、遠くに霞む街の建屋まで延びている。
カッポ、カッポ・・・と、一定の調子で並んで進んでいる、3頭の馬。
一頭の馬にはキリエとラーラマリアが跨り、手綱はラーラマリア、彼女の前にキリエが乗る。
一頭の馬にはデスとハイエロファントが跨り、手綱はハイエロファント、彼の前にデスが乗る。
もう一頭は荷を積載し、その手綱はキリエが握っている。
ラーラマリア、左手に手綱、右手にはキリエの傘を差し、傘の陰にキリエが入るようにしている。
体勢としては、ラーラマリアがキリエを、ハイエロファントがデスを後ろから抱くような形。
デス、頬を真っ赤にしたまま、ただ真正面に目線を向けている。
極度に緊張したような顔。凍て付いたような表情。
隣から、満面の笑みでふたりに視界を向けるラーラマリア。
ラーラマリア「(デスとハイエロファントをしげしげと見て)いやーいいねぇ、見てるコッチまで照れちまうね」
キリエ「(デスとハイエロファントに視線を向け)思った通り。ふたりで乗れば、馬も落ち着くんじゃないかと」
ハイエロファント、穏やかな微笑みを返す。
一方、デスは口元を、きゅうう・・・と結んだ状態で身動ぎすらない。
ハイエロファント「(デスの耳元で)大丈夫?」
デス「(頬を染め上げたまま)だ、大丈夫だ・・・だが・・・」
ハイエロファント「(小首を傾げ)だけど?」
デス「(消え入りそうな声で)・・・人前で身を寄せ合うことが、あまりなかったから・・・」
一度瞼を瞬かせ、それから、にこ、とデスの項を見詰めるハイエロファント。
ラーラマリア「(にひっ、と笑って)いい表情だな、デス。でも、そこまで照れなくてもいいんだぞー」
デス「(ぐぅっ、と息を詰まらせるように)照れたくて照れてる訳じゃない・・・」
ふと、隣を並行しているキリエに視線を向けるデス。
彼女と目が合った瞬間、和やかな目線を送ってくるキリエ。
微かに口角を上げ、何気に喜ばしいという様子。
デス、それでも縮こまらせた身を解くことなく、恥ずかし気に視線を逸らす。
ラーラマリア「それにしても・・・(キリエの後頭部に目をやり)なーんでキリエは照れないんだよ?」
キリエ「(前方に目を向け、無愛想な顔で)照れる要素がある?」
ラーラマリア「(はあ、と溜め息を吐き)へいへい・・・期待したアタシが馬鹿だったよ」
キリエ「解ってるじゃない」
並足の3頭の馬は、そのまま道を行く。
段々と先の風景が近付いてきて、土埃で霞んでいた街並みが明瞭に確認出来る。
乾いた風が、砂を舞い上げて馬の足元を流れていく。
★ (更に十数分後)サン=ベルナルディノ駅・駅舎構内線路
駅構内の敷地。
二階建ての駅舎が、二本の線路と平行に建っている。
いくつかの建屋が線路の左右に並び、大きなタンクも確認出来る。
その敷地内を通過し、駅舎の端に辿り着くキリエたち4名。
馬から降り、3頭を建物の角、突き出した庇を支える柱に繋ぐラーラマリア。
デスとハイエロファント、周囲を見回し、観察している模様。
更に、50ヤードほど先の線路上の一本には、3両立ての蒸気機関車が鎮座している。
乾いた風が、そよぐ。
沈黙が、ある。
周囲の建物、近くの駅舎、察知出来る範囲のすべてに、動く気配がない。
ラーラマリア「(眉を顰めて)妙だな・・・静か過ぎる・・・」
キリエ、駅舎の二階部分に傘の端越しに目をやり、じっ、と暫く凝視する。
ハイエロファントは、周りを見回した後、離れた位置の汽車に目線を固定する。
デス、進んできた敷地上を一度見て、それから忙しく周囲に視線を投げる。
デス「ここは廃墟なのか?」
ラーラマリア「(首を左右に振りながら)いや、そんなことはない。鉄道の駅・・・(左人差し指で示し)これがそうなんだけど、ここを中心に結構住人もいて、こんな田舎でも結構な賑わいがあった・・・筈なんだが・・・」
いずれの建物にも、朽ちた様子はない。
駅舎の出入り口付近も綺麗に清掃してあり、並べてある樽も新しめな物。
水が張ってある桶も見受けられる。
ただ、何処にも生物が存在している様子が確認出来ず。
機関車からも、蒸気の音が聞こえない。
キリエ「(くん、と鼻を鳴らし)死臭がする・・・」
デス「(頷いて)ああ。それに・・・この周囲の建屋からは、生命力も、魂の気配も感じ取れない」
ラーラマリア「まさか・・・誰かに襲撃されたのか? それにしては・・・(周囲を、ぐる、と見回し)破壊された様子も、弾痕も見当たらない・・・」
ハイエロファント、じーっ、と珍し気な目線を機関車に繫げている。
ハイエロファント「(汽車を指差し)あれが『汽車』っていう乗り物なの?」
ラーラマリア、ハイエロファントの示す方向に視界を向ける。
ラーラマリア「そうだよ。蒸気機関で走ることが出来るヤツでさ、たくさんの人数を長距離移動出来る・・・」
デス「(ばっ、と振り返って)誰か来る!」
デスの声に、一斉に身体を返す全員。
既に、デスは身構え、大鎌を正面に両手で握って持つ。
4人の視線が集まる、駅舎の陰から。
ズウッ・・・ズウッ・・・と、極めて重たい調子で登場する人物。
くすんだ白い背広の上下、オールバックの髪型、丸く跳ねた揉み上げ。
細長い三角型の眼鏡に、厭らしく歪み、濁った両眼がある。
両手に拳銃を下げ、ズウッ、ベタ・・・ズウッ、ベタ・・・と引き摺るような足取り。
その人物、線路近くの位置に立ち止まり、ゆっくりと身体を向けてくる。
足を肩幅に広げ、緩慢な動作で顔を上げ、頭を右に30度ほど傾ける。
薄気味悪い嗤いが、へばり付いている。
途端。
キリエ、目を見開いて息を飲む。
キリエ「(驚愕して)アプローズ!!!」
ハイエロファント「(キリエの横顔に目線を繫げ)知ってる人?」
コク、と一度頷き、差していた傘を一度畳み、チャキッ、と前方に構えるキリエ。
直射日光が彼女に直接降り注ぎ、当たる。
キリエ、一瞬だけ顔を顰める。
キリエ「(深く重い声で)鉄道屋・・・セシリア母さんたちを殺すよう仕向けた奴・・・」
途端。
ラーラマリア、これ以上ないほど両眼を丸くして、アプローズを見る。
呼吸を忘れたかの如く、息を止める。
そして、見る見る鋭利な状態へと変化する、ラーラマリアの目。
尖り切って、触れれば斬れそうなほどの視線で、睨む。
アプローズ、ニイヤアッ・・・と盛大に歯を剥き出し、歪に嗤う。
アプローズ「(愉快そうに)久し振りでぇすぅねぇ、キリエェ・・・私ィはァ・・・本社から戻って来ましたよォ?」
キリエ「(腹の底からの大声)お前っ! 生きていたのかっ!?」
アプローズ「(歪んだ爆笑)ヒャアッハハハハ!!! 私をォ見逃したのはァ大失態でしたねェ! カネで雇った連中をォ貴様にぶつけておいてェ大正解でしたァ! 弾除けがいっぱいでしたからァ、上手いトコ逃げきれたんですケドねェッ!」
言葉の狭間と狭間に、歪んだ音質が混ざる、アプローズの声。
ガシャッ、ジャゴッ、と銃弾を装填し、傘の先端をアプローズに狙って据えるキリエ。
傍らのデス、ちら、とキリエを見て、すぐに正面に目線を戻す。
デス「(低音の声で)奴は敵か?」
キリエ「敵・・・孤児院のみんなの、仇・・・」
デス「銃を両手に持っているようだが、両方使うつもりか?」
キリエ「(アプローズを睨んで)アプローズが銃を持ってるの、見たことない」
アプローズ、唇をUの字に、ニンマアア・・・と引き上げる。
そして胸を張り、銃を持った両手を翼のように広げる。
アプローズ「さあァ! 工事の再開です! 孤児院をブッ壊してェ線路を引きますよォ! その為に邪魔な神父と尼僧とガキどもを皆殺しにしたので・・・」
直後。
ヴォズォォ――――ンッ!と、けたたましい銃声。
同時に、アプローズの額の中心が、ボンッ!と窪む。
彼の頭部が、後方に傾いていく。