「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

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試練に耐えうる人は、幸いなり【前編】ー2

★ 大正四年・日本国・東京府・山中

 

 宵の口。陽が完全に沈んで、一時間ほど。

 雲ひとつない、夜空。

 上弦寄りの半月が、天空のほぼ真上に達している。

 果てしなく広がる、広葉樹林。緑深い山の中。

 樹々の間を縫うように、黒土が剥き出された、幅2メートルほどの山道が不規則に伸びている。

 突如。

 ヴォゾーンッ!・・・と、銃声が木霊する。

 音が轟いた付近、三人の人影。

 道に俯せに伏して倒れている、編み笠を被った旅装束の男性。

 それを庇うような位置で、銃を右手で構え、左手に傘を下げている、黒髪、黒い洋服の少女。

 キリエ。

 銃口から湧き立つ硝煙越しに、前方の人物を睨む。

 2メートルほどで対峙する、短髪の若い男性。

 全身、硬質の皮膚。肌色だが、爬虫類のような表面。人間の浴衣のような衣服を着ている。

 両眼が灰黒色、瞳がくすんだ黄褐色。

 凹凸が大きい顔面、額に血管が浮き出て、表皮を這う。

 血で染まった口元から、鋭く尖った牙が見える。

 それは、人を襲い、血肉を喰らう存在―――『鬼』。

 一発の銃弾を放ち、少し間を空け、はあ、と息をつくキリエ。

 

キリエ「・・・ウザい」

 

 男性の鬼の胸付近の衣服に、ジワァ・・・と広がる出血。

 だが、彼は倒れる気配がない。

 胸部に着弾した後、右手で胸を軽く押さえて、目を丸くする。

 キリエ、銃を下ろす。

 彼女の行動に、狼狽えている様子の男性鬼。

 信じ難い、という表情へと転化する。

 

鬼「(惑っている口調)な・・・何で鬼のくせに鉄砲使ってんだよぉ!」

キリエ「知る必要はないわ。(冷酷な声で)もうじき殺してあげるから」

 

 その僅かの後、鬼に異変が起きる。

 身体の平衡感覚を崩したように、ぐら、と上半身が揺らぐ。

 頭を、ぐりん、と一度大きく振り、戻し、両脚に力を込めて踏ん張っている。

 被弾した胸の付近が、ジュワァ・・・と茹ったような湯気を立て始める。

 眉を顰め、右手で頭を押さえ、キリエを睨む男性鬼。

 

鬼「何だ・・・眩暈か・・・何撃ちやがった?」

 

 キリエ、無言で冷たい視線を放る。

 男性鬼、ゼエ・・・ゼエ・・・と、激しい息を始め、苦悶の顔。

 二拍の、後。

 ダッ!と、渾身の力で地面を蹴り、左側方の藪に飛び込もうとする男性鬼。

 間髪入れず、ドン!と、突き上げるような音。

 瞬間移動したかの如く、キリエが男性鬼の真横に出現。

 彼女は既に、銃をホルスターに仕舞い、仕込み傘を両手で握った状態。

 傘の先端には、スパイク型バヨネットが装備されて、固定されている。

 藪に入ろうとした男性鬼、驚愕。

 真円に眼球を開いて、急激に接近したキリエの姿を目に映す。

 キリエ、更に鬼の真後ろに位置し、ザッ、と両足を一度踏み締め、身体を沈める。

 同時に、突撃槍を操るように、渾身の力で仕込み傘を衝く。

 斜め下方向から、殺気を漲らせた刃が、一直線。

 ヒュッ! ズブシュッ!と、男性鬼の頸椎に深々と刺さるバヨネット。

 

鬼「うがあッッ!!!」

 

 瞬間、バヨネットは鬼の喉を貫通し、前面まで達する。

 キリエ、鋭利な目線を、男性鬼の後頭部に固定。

 両者が、止まる。

 

鬼「(苦し気に)この・・・餓鬼ィ・・・」

 

 キリエの赫い瞳が、ギラ、と輝く。

 傘が、ボンッ!と開く。

 既に傘の銃身部トリガーに掛かっている右人差し指が、動く。

 ヴォッゾーォォォンッッ!!!と、一際大きな銃声。

 仕込み傘先端の石突から、銀色の銃弾が射出し、バヨネットの延長線上に減り込む。

 即、ゴボォン!と、男性鬼の喉仏付近が破裂し、大量の血を撒き散らす。

 こちら側にも血が噴き出し、ビシャァ、と広げた傘に飛び散る。

 

鬼「(絶叫)ごばあッッ!!!」

 

 銃弾は鬼の頸を貫通し、樹々の闇へと消える。

 キリエ、流れるような動作で、バヨネットを引き抜き、傘を閉じつつ戻して、体側に下げる。

 男性鬼の頸、5センチほどの風穴が開く。

 少し、間を置き。

 ぐりん、と鬼の眼球が反転し、灰黒色のみとなる。

 そして、糸が切れたように、前のめりに倒れていく。

 ドザァッ・・・と、俯せで全身を地面に伏す男性鬼。

 それを見届け、傘を、ブン、と振って、バヨネットと傘面に付着した血を掃うキリエ。

 鬼の背中に、冷ややかな目線を放り投げている。

 

キリエ「(突き放した口調で)・・・誰がガキよ」

 

 男性鬼、ぴくりとも動かなくなる。

 頸の風穴から、シュウウ・・・と、灼けているような薄い湯気が立つ。

 それを凝視して、ふう、と短く息を継ぐキリエ。

 

キリエ《やっぱり最低2発・・・浄銀弾が効くにせよ、効率が悪いわね・・・》

 

 少し離れたところに放り出した、自分のトロリーケースに目を遣る。

 それから、周囲の樹々を見渡す。

 

キリエ《それにしても、こんなに緑が多い国だとは思わなかった。何処に行っても樹ばっかり。水の匂いもずっとしてる・・・西部じゃ見掛けない風景・・・》

 

 ゆっくりと、天空の半月を見上げる。

 思い出したように、少し困った表情になるキリエ。

 

キリエ《43年後の、ジャパン・・・》

 

 夜風が、緩やかに彼女の身体に纏っていく。

 

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