★ 東京府・蝶屋敷・門の前
一層、夜が深まっている。
尚も雲がない、半月の光に満ちる、山の中。
キリエ、炭治郎、禰豆子、木製の門の前に並んで立っている。
炭治郎「着いたよ。ここが蝶屋敷だ」
立派な白木で組まれた、数寄屋門。
門の左右には、竹製の塀が延々と伸びて続いている。
塀に沿って黒土の道が整備され、三人はそこを移動してきた模様。
門の格子戸が閉まっているが、そこから邸内の、艶々とした石畳が目に入る。
石畳の両脇には、夜露を被ったような鮮やかさで、蒼と紫の紫陽花が咲き誇る。
その奥、キリエが今まで見たことのない、二階建ての巨大な邸宅。
幅、奥行き、共に、感嘆すべき規模。
それらを、キョロ、キョロ、と見渡すキリエ。
キリエ「(はあ、と息をつき)広いわね。山奥なのに、これだけの家と庭・・・」
一拍の、後。
女性剣士「(遠方から響くような声)・・・もしもーし」
突如。
キリエの背後から、声。
即座に、キリエが踵を軽やかに返し、くるっ、と身体を反転させる。
続いて、隣に立つ炭治郎、その横の禰豆子が振り返る。
キリエの真後ろ、至近距離に、ひとりの若い女性が立っている。
キリエ《(目を丸くして)いつの間に! 気配を感じなかった!》
背丈は、キリエとほぼ同じ。
漆黒の髪の毛先が薄紫色に染まっており、それを固めた夜会巻きにしている。
後頭部の髪留めは揚羽蝶の形状をしており、虹色に煌く。
瞳が大きく、深紫に薄黒が掛かっている。
驚くほど端正な顔立ちで、大変な美人。
蝶の前翅の模様の、羽織。透き通るような白地で、端方向に段階的に色が着いている。
服は炭治郎と同様の、黒い詰襟、袴。脚絆には蝶の前翅文様。
静かで、柔らかい笑みを湛え、キリエを見詰めている。
女性剣士「こんばんは、可愛いお嬢さん。今夜は月が綺麗ですね」
何故か、言葉を発せないキリエ。
悠然と身体を返し、居住まいを正す炭治郎。
兄に続いて向きを変えて、女性剣士と対面する禰豆子。
炭治郎「(微笑んで)しのぶさん、只今戻りました」
しのぶ「(微笑みを返して)おかえりなさい、炭治郎くん。任務お疲れ様でした。禰豆子さんも、お疲れ様」
禰豆子「(こく、と頷いて)んん!」
しのぶ「そして・・・(キリエに視線を固定して)こちらが、キリエさん・・・ですね」
しのぶ、真っ直ぐに凝視。
穏和そうな微笑を浮かべ、じーっ・・・と振れない目線。
途中まで見詰め返していたが、不意に顔を伏せるキリエ。
それから、気恥ずかしそうに上目遣いで、しのぶの顔を窺う。
キリエ「(籠った声で)あの・・・あんまり見詰めなくても・・・」
直後。
キリエ、眉間に、チリッ・・・と、灼けるような感覚を味わう。
はっ、と顔を上げたと同時に両眼に映った、しのぶの瞳の奥。
刹那の間だけ奔った、異様に昏い影。
だがそれは、次の瞬間には消え失せ、元の薄紫の眼光が戻っている。
しのぶの顔には、柔和な微笑が湛えられたまま。
キリエ《(眉を寄せて)今・・・一瞬だけど・・・》
不可解そうな表情を貼り付かせて、しのぶを見るキリエ。
対して、ニコッ、と満面の笑みで、キリエを見るしのぶ。
しのぶ「(明るい声質で)お話、中で聞かせて下さい」