僅かの、沈黙の後。
しのぶに視界を向け、姿勢を少し正すキリエ。
キリエ「改めて確認したいんだけど・・・こっちのオニの斃し方って何があるの?」
しのぶ「まず、太陽の光。浴びれば即死です。それと、我々鬼殺隊が持つ日輪刀で頸を斬り落とす。この二択です。(キリエを見て)確か、銀の銃弾も効果があったんですよね?」
キリエ「(首を縦に振り)ええ。でも浄銀弾では最低2発。吸血鬼は1発で斃せるけど」
炭治郎「俺が駆け付けた時に斃した鬼には、ちゃんと急所を撃ってたじゃないか」
キリエ「(意外そうに)急所? 何処?」
炭治郎「しのぶさんが言った通り、頸が鬼の急所なんだ」
しのぶ「腕や脚を斬り落としても再生しますが、頸を両断すれば斃せます」
キリエ「あ・・・(思い出したように)確かに煉獄さん、ずっと頸を狙って斬ってたわね。でもそれはただのナイフや刃物じゃ駄目なんでしょ? 貴方たちのカタナみたいに、特別なのじゃなきゃ」
炭治郎「君の持ってる銃や傘からは、日輪刀と同じ〝匂い〟がする。もし頸を撃つことが出来たら、今度は一撃で斃せるかも知れないな」
キリエ「成程・・・次は狙ってみるわ」
キリエの返答に、ふう、と大きな息を継ぐ炭治郎。
炭治郎「結局は、鬼も『吸血鬼』も同じってことなんだな」
キリエ「そう考えるのが、妥当ね。狂血病患者や吸血鬼はキサツタイのカタナで、オニは浄銀弾で浄滅させることが出来る。ふたつとも、ほぼ同一の存在と見ていいと思う」
炭治郎「それとは別に、しのぶさんは別の方法で鬼を斃せるんだ」
キリエ「(しのぶに目を遣り)何?」
しのぶ「私は柱の中で唯一、鬼の頸が斬れません。その代わり、毒を使います」
しのぶ、事務机の窓寄り、引き出しの傍らに立て掛けている日輪刀を取る。
右手で柄を、左手で鞘を握り、キリエと炭治郎の眼前に、水平に掲げる。
白地に金の装飾が施された鞘、鍔は朱色の縁の花弁が四枚開いたような形状。
彼女の腕が左右に展開され、すーっ・・・と、音もなく刀が抜かれる。
現れた刀身は、中程の部分がほとんど存在しない、鍔の近くと切っ先だけに刃が残る物。
片刃の矢の如き、一種異様な造り。刀身は灰色地に薄い水色。
柄側に残る刃部に「悪鬼」、裏側には「滅殺」と刻印されている。
それを垂直に掲げ直し、自分の膝上に立てるしのぶ。
鞘を持った左手を、体側に下ろす。
キリエ、刀の抜き身を眼前にして、ごく、と唾を飲み込む。
しのぶ「この日輪刀を鞘の中に収める時に、藤の花から作った毒を調合します。それを鬼に見舞うのです。毒は鬼によって毎回変えています。私は薬学に精通していますので、毒を作ることも出来るんですよ」
炭治郎「これが出来るのは、鬼殺隊ではしのぶさんだけなんだ」
キリエ「(感心したように)へぇ・・・凄いのね、しのぶさん」
しのぶ「(にこっ、と笑い)そうなんですよ。私、ちょっと凄い人なんです。(嬉しそうに)えっへん!」
しのぶ、どうだとばかりに胸を反らして張る。
同時に、左掌を鞘を握ったまま拳にして、腰に当てる。
キリエ、固まる。
炭治郎、腕組みをして、うんうん、と何度も頷きを繰り返す。
暫く、そのまま。
更に、間。
はあ、と溜め息を漏らして、呆れたような顔になるキリエ。
キリエ「(ジト目で)・・・自分で『えっへん』って言う人、初めて見た・・・」
直後。
目を細めた笑みを湛え、再度、日輪刀と鞘を水平に持ち直し、切っ先を鯉口に当てるしのぶ。
素早く、カシュン!と刀身を鞘に収め、カタン!と流れるように机に立て掛ける。
しのぶ、改めてキリエに向き直る。
にこにこ、と笑顔のまま。
それから、何事もなかったかのように、事務机のもう一冊の書物に右手を乗せる。
しのぶ「・・・では、次です」
自然過ぎる流れに、幾度か目を瞬かせる、キリエと炭治郎。
しのぶの指が、厚紙のファイルの表紙を捲り、数頁、同じ動作で展開させる。
しのぶ「それとは別に、この帳面、同じ明治五年の新聞記事を集めて貼り込んだ物です」
キリエと炭治郎が、再び覗き込むように、書物を凝視する。
ファイルの黄土色の紙面に、新聞記事の切り抜きが、糊で貼付。
それは頁面に、隙間なくびっしりと埋められている。
キリエ「スクラップブック?」
しのぶ「米国ではそう呼ばれているのでしたね。(帳面を広げて、記事を指差し)ここなんですが、明治五年壱月拾七日、見出しに『恩方村で原因不明の集団感染発生』―――結構長い記事で、内容は先程の公的文献とほぼ同じです。府内で一番発行部数の多い大新聞に載っていたのですが、こちらには更に興味深いことが書かれてます。記事の後半に(新聞記事を右手人差し指でなぞりながら)『この集落内で角を生やした怪しい人物を見たとの目撃情報多数有。真黒な衣を着た大柄な風体。住民達は恐れ戦く』・・・どう思います?」