キリエとデス、はっ!として振り向く。
そこには、回転式拳銃を握った左腕を真っ直ぐに伸ばしているラーラマリアの姿。
キリエ「(目を丸くして)・・・ラーラマリア!」
硝煙が漂う、銃口の向こう。
ラーラマリアの両眼は細く切れ、顔の上半分に陰を落としている。
瞳が冷酷な色に染まり、ただそこには殺意だけが存在する。
ぞく・・・と、一瞬寒気を覚えるキリエ。
ラーラマリアの斜め後方、彼女の横顔に目線を向けているハイエロファント。
暫くした後、悲し気な色彩を湛え、目を伏せる。
ハイエロファントに視線を繫げた後、再び正面に向き直るデス。
前方に、妙な雰囲気。
アプローズは、頭を真後ろに倒したまま、立っている。
両腕は垂れ下がることなく、広げられて力が入っている模様。
足の幅も動くことなく、肩幅に開いた状態。
デス「(アプローズを睨み)様子がおかしい・・・」
その声に、再度アプローズを見る他の3名。
少しの、間。
アプローズの背中方面に、ポトン・・・と何かが落下する。
それは、撃ち込んだ銃弾。
突然。
グワバッ!と反動を付けて戻ってくる、アプローズの顔。
弾丸が減り込んだ筈の額が、やや凹んで僅かに瘡蓋が残るだけ。
一斉に驚いた表情となる、4人。
ラーラマリア「(息を飲み)嘘だろっ! 額のド真ん中だった筈だ!」
アプローズ「フヌゥゥゥン・・・痛くなあアアいィィ・・・(恍惚とした表情)むしろ気持ちイイですねェェェェ・・・流石は『黒衣の者』のチカラァ・・・」
キリエ/ラーラマリア「「(驚愕)『黒衣の者』っ!?」」
アプローズ「言い忘れてましたァがァ・・・私は『黒衣の者』の身体の一部を取り込ませてもらったんですよォォォ・・・(ニイイイ、と口角を目一杯上げ)素晴しい吸血鬼の身体となったんですヨォ!!!」
アプローズ、愉悦の極みといった表情。
開いた口の中には、ズラリと尖った牙が並んで揃う。
牙と牙の間を、ダラアァ・・・と涎が繋いでいる。
チッ、と舌打ちをして、左腕を下ろすラーラマリア。
キリエ「(デスを、ちら、と見て)デス、下がってて。吸血鬼相手は初めてよね。まずは・・・私が行く」
デス「(頷き)判った」
くる、と身を反転させるデス。
すかさず、入れ替わりにラーラマリアが、タッ、とキリエの横に寄る。
ラーラマリアの立ち位置と、デスの立ち位置が入れ替わった状態。
デスはハイエロファントの傍らに立ち、視線を結びながら再度アプローズに向き直る。
ハイエロファントはデスに視線を結わえ、それからアプローズに目を遣る。
ハイエロファント「(静かに息を継ぎ)・・・闘いは避けたかったけど・・・」
デス「(ハイエロファントの横顔を見て)止むを得まい。それにしても・・・(近くの駅舎を見て)やはり周りには、生命力も魂も感じられないが、今までにない違和感を感じる。嫌な予感も、だ。こういう時の感覚は、よく当たる」
ハイエロファント「(デスと眼差しを繋ぎ)うん。警戒は、しておこう」
ラーラマリア、キリエの側方から、彼女の耳元に顔を近付ける。
キリエ、正面のアプローズに鋭い目線を固定し、仕込み傘の銃口を向けたまま。
ラーラマリア「『黒衣の者』関係となると、浄銀弾も通用しないか」
キリエ「でも通常弾よりマシ。(ラーラマリアを見て)どれくらい残ってるの?」
ラーラマリア「アタシの手持ちで、1丁6発、残りは積み荷に50くらいってとこ。そろそろどっかで補填しなきゃと思ってたから、間が悪いコトに今は少なめだ。煉滅弾が2発。だがこれは『黒衣の者』用の虎の子だ。使いたかないねぇ」
キリエ「(少し考えて)判ったわ。何とかやってみる」
ラーラマリア、先程撃った銃をホルスターに仕舞い、別に差してあるもう一丁の銃を引き出す。
カチャ、と撃鉄を起こし、銃身の延長線上にアプローズの顔面を捉える。
アプローズ「(顎を、クイ、と上げ)おおっとォ! 貴様たちの相手はまず、こいつらからですよォ!」
スイッ、と右腕を真っ直ぐ天に向け、拳銃を垂直に掲げるアプローズ。
アプローズ「(大声で)出てきなさァァァいィ! 街の住人どもォッ!!!」
アプローズ、引鉄を引く。
ヴォズォォォ――――ンッ!・・・と、宙に発射される銃弾。
残響が、街全体に広かっていく。
一時、キリエたち4人が固唾を飲む。
アプローズの銃からの硝煙が、風に消された、頃合い。
ガタッ! ガタガタガタッ!と、一斉に建屋の内部からけたたましい物音。
駅舎内から、線路を挟んだ建屋から、大きなタンクの物陰から、何かが動き始める音。
直後。
近くの駅舎の扉を、ギイイイ・・・と押し開いて、誰かが出てくる。
のそっ、のそっ、と緩慢な動作。
ズルッ、ズルッ、と引き摺るような足取り。
全員が目視出来る位置に、複数の影が現れる。
人間。
目は反転してほぼ白目、だらしなく開いた口元から牙が見え隠れしている。
全身の肌が蒼白く、僅かな血色すら感じない。
腐臭を纏い、身体のあちこちには、噴き出した血の塊がこびり付く。
それが次から次へと、建物から歩み出してきて、線路に向けて歩き始めている。
4名が見渡せる範囲に、20数体の姿。
更に数を増す。
男性、女性、老若と様々な様相。子供のような風体もある。
陽の当たる場所を物ともせず、キリエとラーラマリアに近付き始める。
ラーラマリア「(ぐる、と見回し)何だこいつらっ!」
アプローズ「(下衆な嗤いで)ッヒャッハハハッ! 私ィがァ! 血ィ吸って殺してェあげたンですよォ! 何人かブッ殺してやったァら、後は勝手にィ増えて! 住人みーんな下僕ってワケでェす!」
ギリ・・・と、奥歯を噛み締め、射るような眼光を飛ばすキリエ。
そんな彼女の肌に、強い陽光が、ジリッ、と降り注ぐ。
キリエ、はあ・・・と、やや重い溜め息を吐く。
片や、デスとハイエロファントの後方にも、目視出来る範囲に現れる数体。
それらの人型は、ふたりの姿に顔を向けると、ビク、と反応して立ち止まる。
じっ、と異様な人々を凝視しているデス。
デス「(冷静に眺め)皆、魂が存在しない。既に屍だ」
ハイエロファント「(注意深く周囲を見回し)遺体が動くってこと、あるのかな?」
デス「マジカルランドではあり得ないが・・・ここでは動くこともある、ってことなのか」
一方、キリエとラーラマリアの前方。
様々な場所から登場し、緩慢ながらも確実に接近してくる人体の群れ。
アプローズとこちらの間に、まるで盾になるように集まってくる。
キリエ「(前方を睨んだまま)デス、エロファント、この人たち『死兵』よ」
デス「しへい?」
ラーラマリア「一度死んでるんだ。死んでいる兵隊、つまり『死兵』ってこと。しかも全員吸血鬼だ」
ハイエロファント「何故動いてるの?」
ラーラマリア「以前アタシらは闘ってるが、そん時は『黒衣の者』が近くに居て、狂血病になって死んだ連中が吸血鬼になり、そいつらが街の連中を襲い、吸血鬼を増やして、倍倍であっちゅー間にソリアの9割が死人の軍隊になったコトがあった。だがあん時、吸血鬼たちは『黒衣の者』の支配下にあった。そして『黒衣の者』が去った後、朽ちて斃れていったんだ」
デス「つまり・・・(視線だけを左右に飛ばし)こいつらは、あのアプローズという奴が使役している、ということか」
ハイエロファント「さっき『黒衣の者』の身体の一部を取り込んだ、って言ってたから、影響があるんだろうね」
ラーラマリア「(後方のハイエロファントを見て)冷静な観察はいいが、緊張感に欠けるな・・・」
ラーラマリア、10ヤードほど後ろの駅舎角、3頭の馬が繋がれている場所を確認。
馬たちは、死人の群れを目の当たりにして、竦み上がっている様子。
ヒヒィン! ブルルッ!と怯えた嘶き。
ラーラマリア「(張りのある声で)エロファント! デス! 悪いが馬たちのトコに行ってくれ! あいつら襲われたらこの先の道中が厳しくなる! 何とか死兵を寄せ付けないでほしい! 行けるか!?」
デス「(素早く頷き)判った」
ハイエロファント「(続けて頷き)何とかやってみるよ」
くる、と踵を返して、たっ、と地面を蹴るデスとハイエロファント。
瞬く間に3頭の間近まで寄り、ハイエロファントは馬のすぐ側に立つ。
デスは馬たちに背を向け、大鎌を構えて周囲を窺う。
安堵したように短く息を継ぎ、キリエと並んで前方を見るラーラマリア。
ラーラマリア「(改めて周囲を見回し)そう簡単には終わりそうもないね」
キリエ「だとしても、答えは出ている。アプローズを斃せばいい。(ラーラマリアを、ちら、と見て)援護して」
ラーラマリア「(キリエと目線を合わせ)任せな、相棒」
にひっ、と不敵に笑うラーラマリア。
こくん、と頷きで返すキリエ。
それからジャゴッ、ガシャッ、と、一度傘のカートリッジを抜き、取り出す。
キリエ、入れ替わりに銀色の銃弾の詰まった弾倉を、ガシャコ、と装填する。
確認したラーラマリア、左手の銃を構え直す。
死兵が大きな壁となったように集い、その向こうにアプローズが立っている。
既に勝ちを確信したような、歪んだ嗤い。
アプローズ「(大音声で)さあアッ! ブッ殺してしまいなさい下僕どもォッ!!!」