「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

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鳴り交わす絃の、相和せる競いよ【後編】-2

 キリエとデス、はっ!として振り向く。

 そこには、回転式拳銃を握った左腕を真っ直ぐに伸ばしているラーラマリアの姿。

 

キリエ「(目を丸くして)・・・ラーラマリア!」

 

 硝煙が漂う、銃口の向こう。

 ラーラマリアの両眼は細く切れ、顔の上半分に陰を落としている。

 瞳が冷酷な色に染まり、ただそこには殺意だけが存在する。

 ぞく・・・と、一瞬寒気を覚えるキリエ。

 ラーラマリアの斜め後方、彼女の横顔に目線を向けているハイエロファント。

 暫くした後、悲し気な色彩を湛え、目を伏せる。

 ハイエロファントに視線を繫げた後、再び正面に向き直るデス。

 前方に、妙な雰囲気。

 アプローズは、頭を真後ろに倒したまま、立っている。

 両腕は垂れ下がることなく、広げられて力が入っている模様。

 足の幅も動くことなく、肩幅に開いた状態。

 

デス「(アプローズを睨み)様子がおかしい・・・」

 

 その声に、再度アプローズを見る他の3名。

 少しの、間。

 アプローズの背中方面に、ポトン・・・と何かが落下する。

 それは、撃ち込んだ銃弾。

 突然。

 グワバッ!と反動を付けて戻ってくる、アプローズの顔。

 弾丸が減り込んだ筈の額が、やや凹んで僅かに瘡蓋が残るだけ。

 一斉に驚いた表情となる、4人。

 

ラーラマリア「(息を飲み)嘘だろっ! 額のド真ん中だった筈だ!」

アプローズ「フヌゥゥゥン・・・痛くなあアアいィィ・・・(恍惚とした表情)むしろ気持ちイイですねェェェェ・・・流石は『黒衣の者』のチカラァ・・・」

キリエ/ラーラマリア「「(驚愕)『黒衣の者』っ!?」」

アプローズ「言い忘れてましたァがァ・・・私は『黒衣の者』の身体の一部を取り込ませてもらったんですよォォォ・・・(ニイイイ、と口角を目一杯上げ)素晴しい吸血鬼の身体となったんですヨォ!!!」

 

 アプローズ、愉悦の極みといった表情。

 開いた口の中には、ズラリと尖った牙が並んで揃う。

 牙と牙の間を、ダラアァ・・・と涎が繋いでいる。

 チッ、と舌打ちをして、左腕を下ろすラーラマリア。

 

キリエ「(デスを、ちら、と見て)デス、下がってて。吸血鬼相手は初めてよね。まずは・・・私が行く」

デス「(頷き)判った」

 

 くる、と身を反転させるデス。

 すかさず、入れ替わりにラーラマリアが、タッ、とキリエの横に寄る。

 ラーラマリアの立ち位置と、デスの立ち位置が入れ替わった状態。

 デスはハイエロファントの傍らに立ち、視線を結びながら再度アプローズに向き直る。

 ハイエロファントはデスに視線を結わえ、それからアプローズに目を遣る。

 

ハイエロファント「(静かに息を継ぎ)・・・闘いは避けたかったけど・・・」

デス「(ハイエロファントの横顔を見て)止むを得まい。それにしても・・・(近くの駅舎を見て)やはり周りには、生命力も魂も感じられないが、今までにない違和感を感じる。嫌な予感も、だ。こういう時の感覚は、よく当たる」

ハイエロファント「(デスと眼差しを繋ぎ)うん。警戒は、しておこう」

 

 ラーラマリア、キリエの側方から、彼女の耳元に顔を近付ける。

 キリエ、正面のアプローズに鋭い目線を固定し、仕込み傘の銃口を向けたまま。

 

ラーラマリア「『黒衣の者』関係となると、浄銀弾も通用しないか」

キリエ「でも通常弾よりマシ。(ラーラマリアを見て)どれくらい残ってるの?」

ラーラマリア「アタシの手持ちで、1丁6発、残りは積み荷に50くらいってとこ。そろそろどっかで補填しなきゃと思ってたから、間が悪いコトに今は少なめだ。煉滅弾が2発。だがこれは『黒衣の者』用の虎の子だ。使いたかないねぇ」

キリエ「(少し考えて)判ったわ。何とかやってみる」

 

 ラーラマリア、先程撃った銃をホルスターに仕舞い、別に差してあるもう一丁の銃を引き出す。

 カチャ、と撃鉄を起こし、銃身の延長線上にアプローズの顔面を捉える。

 

アプローズ「(顎を、クイ、と上げ)おおっとォ! 貴様たちの相手はまず、こいつらからですよォ!」

 

 スイッ、と右腕を真っ直ぐ天に向け、拳銃を垂直に掲げるアプローズ。

 

アプローズ「(大声で)出てきなさァァァいィ! 街の住人どもォッ!!!」

 

 アプローズ、引鉄を引く。

 ヴォズォォォ――――ンッ!・・・と、宙に発射される銃弾。

 残響が、街全体に広かっていく。

 一時、キリエたち4人が固唾を飲む。

 アプローズの銃からの硝煙が、風に消された、頃合い。

 ガタッ! ガタガタガタッ!と、一斉に建屋の内部からけたたましい物音。

 駅舎内から、線路を挟んだ建屋から、大きなタンクの物陰から、何かが動き始める音。

 直後。

 近くの駅舎の扉を、ギイイイ・・・と押し開いて、誰かが出てくる。

 のそっ、のそっ、と緩慢な動作。

 ズルッ、ズルッ、と引き摺るような足取り。

 全員が目視出来る位置に、複数の影が現れる。

 人間。

 目は反転してほぼ白目、だらしなく開いた口元から牙が見え隠れしている。

 全身の肌が蒼白く、僅かな血色すら感じない。

 腐臭を纏い、身体のあちこちには、噴き出した血の塊がこびり付く。

 それが次から次へと、建物から歩み出してきて、線路に向けて歩き始めている。

 4名が見渡せる範囲に、20数体の姿。

 更に数を増す。

 男性、女性、老若と様々な様相。子供のような風体もある。

 陽の当たる場所を物ともせず、キリエとラーラマリアに近付き始める。

 

ラーラマリア「(ぐる、と見回し)何だこいつらっ!」

アプローズ「(下衆な嗤いで)ッヒャッハハハッ! 私ィがァ! 血ィ吸って殺してェあげたンですよォ! 何人かブッ殺してやったァら、後は勝手にィ増えて! 住人みーんな下僕ってワケでェす!」

 

 ギリ・・・と、奥歯を噛み締め、射るような眼光を飛ばすキリエ。

 そんな彼女の肌に、強い陽光が、ジリッ、と降り注ぐ。

 キリエ、はあ・・・と、やや重い溜め息を吐く。

 片や、デスとハイエロファントの後方にも、目視出来る範囲に現れる数体。

 それらの人型は、ふたりの姿に顔を向けると、ビク、と反応して立ち止まる。

 じっ、と異様な人々を凝視しているデス。

 

デス「(冷静に眺め)皆、魂が存在しない。既に屍だ」

ハイエロファント「(注意深く周囲を見回し)遺体が動くってこと、あるのかな?」

デス「マジカルランドではあり得ないが・・・ここでは動くこともある、ってことなのか」

 

 一方、キリエとラーラマリアの前方。

 様々な場所から登場し、緩慢ながらも確実に接近してくる人体の群れ。

 アプローズとこちらの間に、まるで盾になるように集まってくる。

 

キリエ「(前方を睨んだまま)デス、エロファント、この人たち『死兵』よ」

デス「しへい?」

ラーラマリア「一度死んでるんだ。死んでいる兵隊、つまり『死兵』ってこと。しかも全員吸血鬼だ」

ハイエロファント「何故動いてるの?」

ラーラマリア「以前アタシらは闘ってるが、そん時は『黒衣の者』が近くに居て、狂血病になって死んだ連中が吸血鬼になり、そいつらが街の連中を襲い、吸血鬼を増やして、倍倍であっちゅー間にソリアの9割が死人の軍隊になったコトがあった。だがあん時、吸血鬼たちは『黒衣の者』の支配下にあった。そして『黒衣の者』が去った後、朽ちて斃れていったんだ」

デス「つまり・・・(視線だけを左右に飛ばし)こいつらは、あのアプローズという奴が使役している、ということか」

ハイエロファント「さっき『黒衣の者』の身体の一部を取り込んだ、って言ってたから、影響があるんだろうね」

ラーラマリア「(後方のハイエロファントを見て)冷静な観察はいいが、緊張感に欠けるな・・・」

 

 ラーラマリア、10ヤードほど後ろの駅舎角、3頭の馬が繋がれている場所を確認。

 馬たちは、死人の群れを目の当たりにして、竦み上がっている様子。

 ヒヒィン! ブルルッ!と怯えた嘶き。

 

ラーラマリア「(張りのある声で)エロファント! デス! 悪いが馬たちのトコに行ってくれ! あいつら襲われたらこの先の道中が厳しくなる! 何とか死兵を寄せ付けないでほしい! 行けるか!?」

デス「(素早く頷き)判った」

ハイエロファント「(続けて頷き)何とかやってみるよ」

 

 くる、と踵を返して、たっ、と地面を蹴るデスとハイエロファント。

 瞬く間に3頭の間近まで寄り、ハイエロファントは馬のすぐ側に立つ。

 デスは馬たちに背を向け、大鎌を構えて周囲を窺う。

 安堵したように短く息を継ぎ、キリエと並んで前方を見るラーラマリア。

 

ラーラマリア「(改めて周囲を見回し)そう簡単には終わりそうもないね」

キリエ「だとしても、答えは出ている。アプローズを斃せばいい。(ラーラマリアを、ちら、と見て)援護して」

ラーラマリア「(キリエと目線を合わせ)任せな、相棒」

 

 にひっ、と不敵に笑うラーラマリア。

 こくん、と頷きで返すキリエ。

 それからジャゴッ、ガシャッ、と、一度傘のカートリッジを抜き、取り出す。

 キリエ、入れ替わりに銀色の銃弾の詰まった弾倉を、ガシャコ、と装填する。

 確認したラーラマリア、左手の銃を構え直す。

 死兵が大きな壁となったように集い、その向こうにアプローズが立っている。

 既に勝ちを確信したような、歪んだ嗤い。

 

アプローズ「(大音声で)さあアッ! ブッ殺してしまいなさい下僕どもォッ!!!」

 

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