★ (翌日)東京府南多摩郡恩方村・口留番所跡
陽が西に傾き、仰角四十五度ほどの位置にある。
前後左右に緑の山、その中を伸びている、道幅4メートルほどの街道。
左側に川が流れ、樹々が岸に連なって並んでいる。
その道、右側に草地があり、蒼黒い庭石が多数点在して鎮座。
更にその内のひとつの石の上に、1メートル半ほどの、御影石の石柱が立つ。
前面に『関所址』と刻印。
この敷地の手前の路上に、三人の人影。
キリエと炭治郎が並んで立ち、竹籠を背負った壮年男性と向かい合う。
キリエは、右手で傘を差し、左手でトロリーケースを引いている。
炭治郎は、禰豆子が中にいる霧雲杉の背負い箱を担いでいる。
壮年男性は、農夫の出で立ち。竹籠には、胡瓜と茄子が半分ほど入っている。
三人は、会話中。
キリエの話に、幾度か首を上下に振る男性。
農夫「(頷いて)ああ、昔のその疫病の話、場所はこの先の森久保だったな」
身体を返して、西側、太陽が降りつつある方向を、右手人差し指をで示す。
農夫「こっから西にもちっと行くと、道が二又に分かれてな、南に陣馬街道がそのまま続いて、北に醍醐街道、その醍醐街道の途中に、森久保の集落がある。集落の山側にお寺さんがあってな、瑞雲山龍泉寺っちゅうお寺さんだ。そこの和尚さんが、疫病の話を知っとる筈だ、確か」
同時に視線を互いに交わし合う、キリエと炭治郎。
炭治郎、笑みを浮べて、ぺこ、と頭を下げる。
炭治郎「ご親切に、ありがとうございました」
農夫「(思い出したように)あ、ちょっと待ち。夜は山に入らん方がいい。昨今、街道沿いで・・・(声を落として)夜中、襲われて亡くなる人が随分出とるとかで・・・危ないから、街道越えは昼にしときなさい」
キリエ「そうね、心得とく。感謝するわ」
キリエと炭治郎、踵を返す。
ふと、農夫の男性が、何かに気付いたように目を瞬かせる。
農夫「お嬢さん、つかぬ事を聞くが・・・」
キリエ「(立ち止まって振り返り)何?」
農夫「街中じゃ、そんな短い腰巻が流行ってるのかい?」
一瞬、訝し気に眉を顰め、ちら、と自分のスカートを見るキリエ。
すぐに目線を上げ、男性に投げる。
キリエ「もしかして、このスカートのこと? 私はアメリカから来たから、ジャパンの流行とか知らないんだけど」
農夫「(意外そうに)ほお! 米国から! ここいらじゃ洋服は珍しいから、道理で! お嬢さん、綺麗な黒髪だから日本人かと思ったよ。いや、失敬失敬!」
途端。
キリエ、ぐうっ、と大きく息を飲み込んで、凝固する。
頬が瞬時に綺麗な紅に染まり、両目が正円に見開かれている。
そのまま、停止。
炭治郎、彼女を横顔を見詰め、柔らかい微笑みを湛える。
数拍の、後。
突然、くるっ! ザッ!とブーツの底を擦らせ、キリエが反転する。
そして背を向け、ゴロゴロ、とトロリーケースを引き摺り、大股で歩き始める。
少し前傾姿勢になり、速足で、傘に隠れるように。
すぐに炭治郎も、ザッ、と草履を擦り、歩を進める。
脚を前に向け、振り返って農夫を視界に映す。
段々と距離を開けていく、ふたりと男性。
農夫「(大声で)くれぐれも夜道は気を付けてなぁ!」
炭治郎「(それ以上の大声で)ありがとうございました!」
キリエに追い付き、再び隣になる炭治郎。
即座に、歩行速度を落とし、並足になるキリエ。
唇の両端を結び、目線を斜め前方に放った状態。
頬の赫みは、尚も取れていない。
炭治郎「(キリエを見て、微笑んで)キリエから、嬉しさの〝匂い〟がする」
キリエ「(消え入りそうな声で)髪、褒められたことなかったから・・・」
肩を並べて歩き続け、街道を西進するふたり。
既に後方の農夫の姿は、遥か東方向に小さくなっている。
キリエ「それより、私のスカートってそんなに短い?」
炭治郎「(右手人差し指を曲げて、顎に当て)うーん・・・確かに鬼殺隊の隊服は基本は袴だしな・・・甘露寺さんの隊服は、君と同じくらいの長さだった覚えがある」
キリエ「カンロジさん? キサツタイの人?」
炭治郎「甘露寺蜜璃さん。煉獄さんやしのぶさんと同じ〝柱〟で、恋柱なんだ。(キリエに目線を向け)もしかしたら逢うこともあるかも知れないからな、覚えておくといいよ」
炭治郎、背負い箱の肩紐に両手を置き、握り直す。
キリエの頬は、いつの間にか平素の彩りを戻している。