「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

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試練に耐えうる人は、幸いなり【後編】ー2

 

 そのまま、締め上げる力が加わる。

 ぐうっ、と喉を圧迫される感覚。

 キリエ、奥歯を噛み締め、身体を揺する。

 途端。

 左右両方向から、ズダン! ダン!と地を蹴る大きな音。

 右側から日輪刀を翳した炭治郎、左法面上方から両腕を後方に掲げた禰豆子。

 ふたりが、キリエを縛っている長髪へと。

 僅かに、禰豆子の爪が早い。

 ゾン!と、右掌を鉤爪状にして、叩き付けるように振り下ろす。

 半拍遅れ、炭治郎の刃。

 ザシュッ!と、袈裟懸けに日輪刀で、空を斜めに裂く。

 髪の触手が、三つに分断され、バラッ・・・と撒き散らされる。

 裁断された髪が、炭治郎が斬った側から、チリチリチリ・・・と砂のように崩れていく。

 キリエを窒息させていた髪も解け、地面に落ちる。

 息苦しさから一気に解放され、ほう、と息を継ぐキリエ。

 

キリエ「(ふたりを交互に見て)助かったわ、禰豆子! 炭治郎!」

禰豆子「(きり、と眉を寄せ)んーん!」

炭治郎「呼吸を整えて、次に備えてくれ!」

キリエ「(こくん、と頷き)判ったわ!」

 

 キリエ、檜の樹の陰に身を隠す。

 すうう・・・はーっ・・・と、大きな深呼吸を繰り返す。

 同時に、仕込み傘の弾倉を引き出し、残弾数を確認。

 それを腰のケースに仕舞い、別の弾倉と交換し、ジャゴッ!と装填する。

 片や、炭治郎と禰豆子。

 待ち伏せ鬼と、3メートルほどで相対している。

 相手は、ニッタァ、と余裕の、厭らしい嗤いで、見下すような両眼。

 ズウウウ・・・と、長髪が左右と後方に、触手形状に浮遊。

 ド! ドッ! ドォン!と、三連続の打撃音。

 鬼の髪が三方向から射出され、前方で合流する。

 三つが、ぐる、ぐる、と紙縒り状に巻き付き合い、一気に太くなる。

 直径、およそ20センチ程度。

 まるでドリルのように捩れ、先端が凄まじく鋭利に尖る。

 ズッドォン!!!と、爆音を立て加速し、炭治郎と禰豆子を襲撃。

 ふたりが、タッ、と足を捌き、左右に展開。

 炭治郎が、日輪刀を大上段に振り翳す。

 禰豆子が、右腕を背中側に大きく振り被る。

 その空域の真ん中を、黒髪の束が突き抜けようとする。

 同時に、髪の触手の表面目掛けて、攻撃を繰り出す。

 だが。

 禰豆子、バシイッ!と爪が弾かれ、腕が流され、眉を顰める。

 炭治郎、刃が数センチ喰い込んだところで、ガッ、と日輪刀が止まるのを感じる。

 そのまま、黒髪の杭の勢いに巻かれ、弾かれ、身体ごと吹き飛ぶ。

 

炭治郎「(驚いた様子で)斬れないっ!?」

 

 草叢に、ドサッ、ゴロゴロ・・・と転がる炭治郎。

 太い髪は、突撃槍さながらに、空間を叩き割って直進。

 延長線上に、キリエが裏に潜む檜の樹。

 こちらに飛来する鋭利な尖端を確認し、目を見開くキリエ。

 即座に、ターンッ!と、左側方に大きな跳躍。

 傘を右手にし、左手を地面に着き、とっ、くるっ、と側転して身を翻す。

 軽業師の如き、見事さ。

 直後。

 キリエの居た樹の幹に、黒髪の杭が激突。

 ボゴオオォン!!!と、破裂音が轟く。

 思わず振り向くキリエ。

 直径50センチはあろう樹が、炸裂。

 待ち伏せ鬼の髪が、樹の幹を文字通り木っ端微塵に吹き飛ばす。

 樹皮と生木の破片が、宙に四散して広がる。

 

キリエ「(蒼褪めた表情)・・・嘘・・・」

 

 地面から1メートル半ほどの位置で、上下に分離する檜の樹。

 全体が15メートルほどの上方が、重力に従って倒れ始める。

 ミギッ、ズウッ・・・と傾き、ザザザザ・・・と葉を靡かせ。

 空気を震わせ、待ち伏せ鬼の方向へと。

 炭治郎と禰豆子、ダッ!と地面と草を蹴り、跳ね、それぞれが落下線上から脱出する。

 待ち伏せ鬼、一歩も動く気配がない。

 シュウッ、と伸ばした全部の髪を、解きながら引き戻す。

 そして、長さ5メートルくらいの、十数本の触手形状へと変化させる。

 そこに覆い被さるように、倒木。

 途端。

 待ち伏せ鬼、髪の触手全部を、目にも留まらぬ速度で、鞭のように振り回す。

 まさに倒れんとしていた檜の枝葉が、そこに巻き込まれる。

 ドゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!!と、轟音。

 縦横無尽の触手の動きに、元の枝葉の形は失われ、散華する。

 猛烈な髪の舞で、鬼の周囲3メートル四方に入ってくる物体は、ない。

 待ち伏せ鬼には、檜の葉一枚すら当たっていない。

 そこから根元側、幹の大木が、地面に倒れる。

 ズゥゥゥ――――ンンン!!!と、地を震わす大音響。

 二度、大きくバウンドする倒木。

 粉微塵の枝と葉が、反動で舞い上がり、宙に浮く。

 草叢を震動させ、もわあっ・・・と朦々とした土煙を上げる。

 一気に、視界が効かなくなる、夜の山中。

 夜の闇と、土の粒子と砕かれた樹木の塵が混じり、煙幕の如し。

 待ち伏せ鬼の姿が、可視出来なくなる。

 茫然としているキリエの横に、右方から炭治郎、左方から禰豆子が駆け寄る。

 三人が、地面に片膝立ちになり、互いを確認し合う。

 

炭治郎「怪我はないか? キリエ」

キリエ「(頷きながら)ええ、大丈夫」

 

 それから、待ち伏せ鬼がいた付近に目を遣り、眉を寄せるキリエ。

 

キリエ「このままじゃ埒が明かない。髪は斬ってもすぐ伸ばしてくる。樹を盾に出来るかと思ったけど、まさかあんな力業まで使えるなんて思わなかった。倒木の下敷きになったら洒落にならないわ。もう少し開けた場所じゃないと・・・(炭治郎を見て)夕方に見た、あの〝祈りの山〟って場所まで誘い込んで闘えない?」

炭治郎「堂山か・・・(キリエに目線を向け)判った、やってみよう。少し距離があるけど、全員で連携しながら移動するんだ。(禰豆子に視線を移し)いいな? 禰豆子」

禰豆子「(頷いて)んっ!」

 

 踵を返し、ダッ!と、一斉に地面を蹴る三人。

 中央に炭治郎、右の傾斜の高い方に禰豆子、左側の傾斜の緩い方にキリエ。

 4メートルほどの間隔に広がり、鶴翼のように『くの字』の陣形に、展開。

 炭治郎が様子を窺いつつ、一歩一歩、少しずつ移動。

 禰豆子とキリエは、それぞれ周囲を警戒しながら、炭治郎よりやや速めに移動。

 暫くして。

 土煙が今も滞留する場所より、ダダダダダダダ・・・と足音。

 真っ直ぐに、炭治郎に向って来る。

 待ち伏せ鬼、あっという間に可視範囲まで到達。

 右側の髪を、ドォン!と延伸し、襲い来る。

 ザッ!と、足を停める炭治郎。

 ヒュウウウゥゥ・・・と、白い霧のような尾を引き、深く呼吸をする。

 日輪刀を、チャッ、と大上段に構える。

 刃から、ザザザザ・・・と音を立て水が湧き、幾筋の帯となって尾を引く。

 髪の触手が、眼前まで迫る。

 ダァン!と、草叢を蹴って、大きく跳ねる炭治郎。

 

炭治郎「水の呼吸・・・弐の型・・・(弾けるような声で)水車!」

 

 炭治郎が、空中で前方に日輪刀を振り下ろす。

 そのまま身体を、一回転。

 ザッシュウウウウッッッ!!!と、水の輪が縦に、炭治郎を中心に鮮やかに描かれる。

 待ち伏せ鬼の髪は、前端からふたつに裂け、左右に離れていく。

 ダン!と、炭治郎が着地。

 直後。

 斜め前方から、ズオッ!と、別の髪が急伸して来る。

 炭治郎が、ターン!と後方に跳躍。

 同時に、待ち伏せ鬼の髪の目掛けて、バッ!とキリエが飛び込んでくる。

 宙を舞い、斜め下後方から、仕込み傘を最短距離で振り抜く。

 傘の先端のバヨネットが、閃光の軌跡を描く。

 ゾンッ!と切断される、髪の触手。

 上方にばらけながら、散り散りになっていく。

 タン、と地面に着き、すかさず傘の銃口を構えるキリエ。

 そこに、ズオッ!と別の髪が飛来する。

 キリエ、身体の軸をずらし、それを躱しつつ、傘全体を使って捌く。

 ズイン、と軌道が反れる、待ち伏せ鬼の髪。

 地面を蹴り、右側方に離れるキリエ。

 左側方から、禰豆子が跳ね、来る。

 入れ替わる位置に、空間を泳ぐように移動。

 キリエが捌いて逸らした髪の束を、ザシュッ!と、右手の爪で叩き付けるように切り裂く。

 禰豆子、着地するや否や、ドッ!と草地を蹴り、再跳躍。

 待ち伏せ鬼へと、距離を詰める。

 今度は死角から、別の触手が錐状になって飛来。

 右脚を捉えようと、ズオッ!と延伸してくる。

 気付いた禰豆子、即座に反応。

 ザン! ザスッ!と、左右の爪で斬った後、タンッ!と樹の陰に回り込む。

 待ち伏せ鬼、前方奥に、炭治郎の姿を見付ける。

 左片方の長髪を、ドォン!と一気に伸ばす。

 日輪刀が、キラ、と闇夜に光り、袈裟懸けに振り降ろされる。

 髪が裂かれる音。

 同時に、右前方の樹から半身になり、仕込み傘の銃口を向けるキリエ。

 一瞬で、右片方の髪を、グルン、と丸めて塊を作る待ち伏せ鬼。

 射程角度の、延長線上の空間に、盾のように。

 キリエ、傘を下ろして樹の幹に隠れ、姿勢を低くして踵を返す。

 禰豆子、待ち伏せ鬼との距離を取って、炭治郎のいる方向へと動く。

 三人は、鶴翼の隊形を維持しつつ、少しずつ移動している。

 待ち伏せ鬼、堂々とした、悠然とした歩き。

 時折姿を見せる三人に、髪の触手を繰り出し、攻撃している。

 余裕綽々という感じの、嗤い。

 

待ち伏せ鬼「ほらほら、髪は伸びるのよ。ちょこまか逃げ回っても無駄」

 

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