炭治郎の進行方向、傾斜となっている。
杉と檜が林立する中、全員が徐々に斜面を昇っていく状態。
待ち伏せ鬼の髪が空を裂き、各人が防ぎ、また攻めを繰り出しながら。
何度も行き交う、攻防の技。
地面の傾斜角度が、20度から30度へと増す。
いつの間にか、三人の配置が変化している。
斜面の昇り方面、炭治郎が先行する立ち位置。
右側後方にキリエ、左側後方に禰豆子。
待ち伏せ鬼を中心に、三角形を描く陣形。
それでも、三方向への髪の延伸を連続させる待ち伏せ鬼。
キリエ、樹の陰から陰へ、素早く移りながら距離を詰める。
自分へ飛んで来る長髪の触手を、傘で跳ね上げ、斬り落としながら。
鬼の攻撃が、炭治郎と禰豆子に向けられた、頃合い。
相手の死角から、ダン!と地を蹴り、一気に飛び込む。
傘を左手に持ち替え、右手でホルスターの銃を引き抜くキリエ。
鬼の襟首が、見える。
距離、約3メートル。
杉の木陰から、身を低くして照準を合わせる。
瞬間、シュルッ・・・という音が、狙っている空域から湧き起こる。
キリエ、構わず引鉄を引く。
ヴォゾーンッ!・・・と、劈く銃鳴。
だが。
発射された浄銀弾は、効果を失う。
何かに当たり、妨害され、ポロッ・・・と地面に落下していく。
両眼を見開くキリエ。
待ち伏せ鬼、伸ばしている内側の髪を移動させ、自分の頸に巻き付けている。
さながら、何周も重ねられたマフラーのよう。
弾は、それに阻まれ、頸に達するどころか喰い込みもせず。
キリエ「(ぎり、と奥歯を噛んで)またっ!?」
キリエ、思わず声を上げる。
こちらを振り向いて、ニッタァ・・・と厭らしい嗤いを浮かべる待ち伏せ鬼。
突如。
待ち伏せ鬼の背後に、ドン!と空気を叩き割り、禰豆子が出現。
既に後ろに右腕を振り被っており、姿を見せた後、腕を振り下ろす。
バネで弾かれるような速度で、右手爪が宙を薙ぎ払う。
待ち伏せ鬼は、軌道上から体軸をずらす。
スイッ、と躱したかと思うと、禰豆子の腕目掛けて髪を、シュルッ、と巻き付ける。
驚く禰豆子。
右前腕から上腕まで絡まれ、締められたと同時。
ブオン!と、長髪の触手が大きく、振り子のように回される。
全身を逆さまに、バッ!と、放り投げられる禰豆子。
6メートルほど先の大木の幹目掛けて、他の樹々の間を吹っ飛んでいく。
身を捩って態勢を戻そうとするが、遅れる禰豆子。
そこへ、キリエが急接近。
仕込み傘を、樹の根元に、ぽい、と転がす。
ズダーン!と、草叢を踏んで全力で蹴り、跳躍。
地から空に直線状の、軌跡。
一瞬で、禰豆子の落下線上に。
両腕で、ガシッ!と、禰豆子を側方から抱きかかえる。
樹への衝突を免れ、ふたりは横に軌道を変える。
息を合わせる如く、同調した身体の動作で、スタ・・・と着地するキリエと禰豆子。
キリエ、ふう、と息を吐いて、腕を解き、禰豆子の様子を確認。
特にダメージは、ない模様。
キリエ「怪我はない?」
禰豆子「(ふーっ・・・と長い息を吐き、頷き)んんっ!」
キリエ「今度はふたりで同時に仕掛けてみましょう。行ける?」
禰豆子「(再度首を縦に振り)ん!」
即座に揃って、タッ、と踵を返すふたり。
キリエの傘が落ちている場所まで、走る。
一方、炭治郎。
傾斜の上方から、待ち伏せ鬼の髪を捌きつつ、立ち位置を変えている。
髪の触手が、炭治郎の動きを追い掛けるように、次々に伸びてくる。
それは樹の陰に入っても、ぐりん、ズオッ!と、蛇のように回り込む。
しかし、ある一時。
急に飛来してきた髪の先端を、炭治郎が避け、タン! ターンッ!と二度、後方に跳ねる。
互いの間隔が、大きく開く。
突然、伸びている髪が、ピタ、と停止。
待ち伏せ鬼との直線距離、約12メートル。
少し驚いた顔の、炭治郎。
すぐに日輪刀を、チャッ、と正眼に構え直す。
チッ、と舌打ちして、一気に髪を引き戻す待ち伏せ鬼。
炭治郎、距離を保ったまま、スッ・・・スッ・・・と摺り足で移動。
斜面に対して、水平方向、直線で対峙する二者。
長髪の蠢く、ズズズズズ・・・という音が、地を這う。
まるで、神話の怪物のような、髪の触手の挙動。
数拍の、後。
ズッドォン!!!と、爆音。
連続して、ボゴオオォン!!!と、破裂音が轟く。
思わず、音のした場所を見る炭治郎。
山肌の傾斜、高い箇所。
待ち伏せ鬼、自分の右横4メートルほどの場所に聳える樹に、攻撃。
直径50センチ程の檜が、爆裂。
鬼の長髪がドリルのように捩れ、またもや樹の幹を貫通している。
木っ端微塵に吹き飛ばされ、樹皮と生木の破片が、宙に四散して広がる。
地面から1メートル半ほどの位置で、上下に分離する檜の樹。
待ち伏せ鬼、口角を思い切り上げ、勝利を確信したような嗤い。
身を躱し、スウッ、と砕いた樹から後方の闇へと消える。
途端。
全体が20メートルほどの樹の上側が、斜面の下り方向、重力に従って倒れ始める。
ミギッ、ズウッ・・・と傾き、ゾゾゾゾゾゾ・・・と葉を騒めかせ。
空気を震わせ、キリエと禰豆子のいる上方へと。
炭治郎「まずいっ!」
キリエと禰豆子、一拍遅れて、上方に視線を向ける。
即座に、ふたりが地面を蹴り、倒れてくる延長線上から右方向へと逃げる。
しかし、樹が不規則な動き。
周辺の樹の枝葉をも巻き込み、軌道が変わり、右方に傾いていく。
ゴン! ゴン!と、他の樹の幹に当たりながら。
ゾゾゾゾゾゾ・・・と、キリエと禰豆子目掛けて迫る倒木。
炭治郎、斜面を駆け下り、ふたりに全力で駆け寄る。
ふと、右手側の先に、凹みを発見。
木の根と木の根の間に、窪みがある。
炭治郎「(鋭い声で)キリエ! 禰豆子! こっちだ!」
炭治郎に目線を繋ぎ、すかさず方向転換するキリエと禰豆子。
姿勢を低くしながら、三人が並走。
先の窪みを、チャッ、と日輪刀で示す炭治郎。
僅かの、後。
潜るように身を屈め、禰豆子、キリエが飛び込み、炭治郎が続く。
直後。
窪みの2メートルほど横の位置に、巨木が転倒。
ズゥゥゥ――――ンンン!!!と、地を震わす大音響。
辺り一面の空域が震動し、草叢が波打つ。
三度大きく跳ね、ゴロッ・・・と横に動く倒木。
斜面下方向に枝葉を投げ出し、幹を横たえる。
多量の枝葉と、もわあっ・・・という土煙が、一気に斜面全体へと拡散。
再び、夜の闇と混ざって、視界が効かなくなる。
倒木の音が、木霊となって山間に広がっていく。
三人が隠れた窪みは、木の根が籠のようになった構成。
幅2メートル程度、深さは1メートル半ほど。
身を寄せ合って、互いの無事を確認する。
キリエ、二丁の銃の回転弾倉を開け、チャララッ・・・と空薬莢を地面に落とす。
続けて腰ベルトのケースから、チャッ、チャッ、と浄銀弾を装填し始める。
炭治郎と禰豆子、窪みの縁越しに、斜面の上方を窺う。
待ち伏せ鬼は、ここから15メートルほど離れている模様。
炭治郎「(ふう、と息を整え)髪が斬れる時と斬れない時がある。多分、太腿以上の太さに纏まると、日輪刀が通らない硬さになる。ただ、伸びるのは五間くらいが限度のようだな。無制限に長くなってはいない」
キリエ「とは言っても、ずっと距離を取り続けては頸を狙えない・・・あいつ、厄介なことに、髪を頸に巻き付けてる。浄銀弾も弾かれたわ。(炭治郎を向き)どうする? 同じ展開は通用しなさそうよ」
炭治郎「頸を狙うまでに、髪の攻撃を防ぐか、髪を斬ってからの再生を遅らせれば、機会が生まれるんだけど・・・」
直後。
炭治郎の眼が強い光を帯び、眉が引き締まる。
また、何かの覚悟を決めたような、凛とした表情。
炭治郎「・・・ヒノカミ神楽なら、通用すると思う」
キリエ「(訝し気に)何、それ?」
炭治郎「(キリエを見て)さっき使った水の呼吸とは別の呼吸なんだ。威力は格段に上がる。しかし水の呼吸から無理に切り替えると、反動で身体が動かなくなる。会得した時より体力は向上してるとは言え、連続だと二手が限界だと思う。一太刀目で髪、二太刀目で頸・・・(きっ、と眉を寄せ)とにかく狙ってみせる」
キリエ「でも、炭治郎だけにやらせる訳にはいかない。3人で連携して、連続して仕掛けるのが確実、でしょ?」
禰豆子「(深く頷き)んっ!」
きり、とした勇ましい顔で炭治郎を見詰める、キリエと禰豆子。
ふたりを見て、より一層の気迫を込めた視線となり、頷く炭治郎。
キリエ「それと、考えがあるの。以前使った手・・・上手くいけば、私でもオニの頸を斬れるかも知れない」
キリエ、ちら、と山向こうに目線を遣り、それから上空を一瞬見上げる。
キリエ「ただ、時間との勝負になると思う。(炭治郎を見て)手を貸してくれる?」
炭治郎「(こく、と頷き)判った、指示をくれないか」
キリエ「(禰豆子に視線を向け)禰豆子、煉獄さんから聞いたんだけど・・・貴方の血は燃えるのよね?」
禰豆子「(少し目を見開いて、首を縦に振り)んっ!」
炭治郎「『血鬼術・爆血』っていう技で、鬼を燃やせる炎を起こせるんだ」
キリエ「(驚いた口調)自分で燃やせるの?」
禰豆子「(こく、こく、と二度頷き)んーん!」
キリエ「判った。私の方には、合図した時にお願い出来る?」