「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

77 / 111
試練に耐えうる人は、幸いなり【後編】ー3

 

 炭治郎の進行方向、傾斜となっている。

 杉と檜が林立する中、全員が徐々に斜面を昇っていく状態。

 待ち伏せ鬼の髪が空を裂き、各人が防ぎ、また攻めを繰り出しながら。

 何度も行き交う、攻防の技。

 地面の傾斜角度が、20度から30度へと増す。

 いつの間にか、三人の配置が変化している。

 斜面の昇り方面、炭治郎が先行する立ち位置。

 右側後方にキリエ、左側後方に禰豆子。

 待ち伏せ鬼を中心に、三角形を描く陣形。

 それでも、三方向への髪の延伸を連続させる待ち伏せ鬼。

 キリエ、樹の陰から陰へ、素早く移りながら距離を詰める。

 自分へ飛んで来る長髪の触手を、傘で跳ね上げ、斬り落としながら。

 鬼の攻撃が、炭治郎と禰豆子に向けられた、頃合い。

 相手の死角から、ダン!と地を蹴り、一気に飛び込む。

 傘を左手に持ち替え、右手でホルスターの銃を引き抜くキリエ。

 鬼の襟首が、見える。

 距離、約3メートル。

 杉の木陰から、身を低くして照準を合わせる。

 瞬間、シュルッ・・・という音が、狙っている空域から湧き起こる。

 キリエ、構わず引鉄を引く。

 ヴォゾーンッ!・・・と、劈く銃鳴。

 だが。

 発射された浄銀弾は、効果を失う。

 何かに当たり、妨害され、ポロッ・・・と地面に落下していく。

 両眼を見開くキリエ。

 待ち伏せ鬼、伸ばしている内側の髪を移動させ、自分の頸に巻き付けている。

 さながら、何周も重ねられたマフラーのよう。

 弾は、それに阻まれ、頸に達するどころか喰い込みもせず。

 

キリエ「(ぎり、と奥歯を噛んで)またっ!?」

 

 キリエ、思わず声を上げる。

 こちらを振り向いて、ニッタァ・・・と厭らしい嗤いを浮かべる待ち伏せ鬼。

 突如。

 待ち伏せ鬼の背後に、ドン!と空気を叩き割り、禰豆子が出現。

 既に後ろに右腕を振り被っており、姿を見せた後、腕を振り下ろす。

 バネで弾かれるような速度で、右手爪が宙を薙ぎ払う。

 待ち伏せ鬼は、軌道上から体軸をずらす。

 スイッ、と躱したかと思うと、禰豆子の腕目掛けて髪を、シュルッ、と巻き付ける。

 驚く禰豆子。

 右前腕から上腕まで絡まれ、締められたと同時。

 ブオン!と、長髪の触手が大きく、振り子のように回される。

 全身を逆さまに、バッ!と、放り投げられる禰豆子。

 6メートルほど先の大木の幹目掛けて、他の樹々の間を吹っ飛んでいく。

 身を捩って態勢を戻そうとするが、遅れる禰豆子。

 そこへ、キリエが急接近。

 仕込み傘を、樹の根元に、ぽい、と転がす。

 ズダーン!と、草叢を踏んで全力で蹴り、跳躍。

 地から空に直線状の、軌跡。

 一瞬で、禰豆子の落下線上に。

 両腕で、ガシッ!と、禰豆子を側方から抱きかかえる。

 樹への衝突を免れ、ふたりは横に軌道を変える。

 息を合わせる如く、同調した身体の動作で、スタ・・・と着地するキリエと禰豆子。

 キリエ、ふう、と息を吐いて、腕を解き、禰豆子の様子を確認。

 特にダメージは、ない模様。

 

キリエ「怪我はない?」

禰豆子「(ふーっ・・・と長い息を吐き、頷き)んんっ!」

キリエ「今度はふたりで同時に仕掛けてみましょう。行ける?」

禰豆子「(再度首を縦に振り)ん!」

 

 即座に揃って、タッ、と踵を返すふたり。

 キリエの傘が落ちている場所まで、走る。

 一方、炭治郎。

 傾斜の上方から、待ち伏せ鬼の髪を捌きつつ、立ち位置を変えている。

 髪の触手が、炭治郎の動きを追い掛けるように、次々に伸びてくる。

 それは樹の陰に入っても、ぐりん、ズオッ!と、蛇のように回り込む。

 しかし、ある一時。

 急に飛来してきた髪の先端を、炭治郎が避け、タン! ターンッ!と二度、後方に跳ねる。

 互いの間隔が、大きく開く。

 突然、伸びている髪が、ピタ、と停止。

 待ち伏せ鬼との直線距離、約12メートル。

 少し驚いた顔の、炭治郎。

 すぐに日輪刀を、チャッ、と正眼に構え直す。

 チッ、と舌打ちして、一気に髪を引き戻す待ち伏せ鬼。

 炭治郎、距離を保ったまま、スッ・・・スッ・・・と摺り足で移動。

 斜面に対して、水平方向、直線で対峙する二者。

 長髪の蠢く、ズズズズズ・・・という音が、地を這う。

 まるで、神話の怪物のような、髪の触手の挙動。

 数拍の、後。

 ズッドォン!!!と、爆音。

 連続して、ボゴオオォン!!!と、破裂音が轟く。

 思わず、音のした場所を見る炭治郎。

 山肌の傾斜、高い箇所。

 待ち伏せ鬼、自分の右横4メートルほどの場所に聳える樹に、攻撃。

 直径50センチ程の檜が、爆裂。

 鬼の長髪がドリルのように捩れ、またもや樹の幹を貫通している。

 木っ端微塵に吹き飛ばされ、樹皮と生木の破片が、宙に四散して広がる。

 地面から1メートル半ほどの位置で、上下に分離する檜の樹。

 待ち伏せ鬼、口角を思い切り上げ、勝利を確信したような嗤い。

 身を躱し、スウッ、と砕いた樹から後方の闇へと消える。

 途端。

 全体が20メートルほどの樹の上側が、斜面の下り方向、重力に従って倒れ始める。

 ミギッ、ズウッ・・・と傾き、ゾゾゾゾゾゾ・・・と葉を騒めかせ。

 空気を震わせ、キリエと禰豆子のいる上方へと。

 

炭治郎「まずいっ!」

 

 キリエと禰豆子、一拍遅れて、上方に視線を向ける。

 即座に、ふたりが地面を蹴り、倒れてくる延長線上から右方向へと逃げる。

 しかし、樹が不規則な動き。

 周辺の樹の枝葉をも巻き込み、軌道が変わり、右方に傾いていく。

 ゴン! ゴン!と、他の樹の幹に当たりながら。

 ゾゾゾゾゾゾ・・・と、キリエと禰豆子目掛けて迫る倒木。

 炭治郎、斜面を駆け下り、ふたりに全力で駆け寄る。

 ふと、右手側の先に、凹みを発見。

 木の根と木の根の間に、窪みがある。

 

炭治郎「(鋭い声で)キリエ! 禰豆子! こっちだ!」

 

 炭治郎に目線を繋ぎ、すかさず方向転換するキリエと禰豆子。

 姿勢を低くしながら、三人が並走。

 先の窪みを、チャッ、と日輪刀で示す炭治郎。

 僅かの、後。

 潜るように身を屈め、禰豆子、キリエが飛び込み、炭治郎が続く。

 直後。

 窪みの2メートルほど横の位置に、巨木が転倒。

 ズゥゥゥ――――ンンン!!!と、地を震わす大音響。

 辺り一面の空域が震動し、草叢が波打つ。

 三度大きく跳ね、ゴロッ・・・と横に動く倒木。

 斜面下方向に枝葉を投げ出し、幹を横たえる。

 多量の枝葉と、もわあっ・・・という土煙が、一気に斜面全体へと拡散。

 再び、夜の闇と混ざって、視界が効かなくなる。

 倒木の音が、木霊となって山間に広がっていく。

 三人が隠れた窪みは、木の根が籠のようになった構成。

 幅2メートル程度、深さは1メートル半ほど。

 身を寄せ合って、互いの無事を確認する。

 キリエ、二丁の銃の回転弾倉を開け、チャララッ・・・と空薬莢を地面に落とす。

 続けて腰ベルトのケースから、チャッ、チャッ、と浄銀弾を装填し始める。

 炭治郎と禰豆子、窪みの縁越しに、斜面の上方を窺う。

 待ち伏せ鬼は、ここから15メートルほど離れている模様。

 

炭治郎「(ふう、と息を整え)髪が斬れる時と斬れない時がある。多分、太腿以上の太さに纏まると、日輪刀が通らない硬さになる。ただ、伸びるのは五間くらいが限度のようだな。無制限に長くなってはいない」

キリエ「とは言っても、ずっと距離を取り続けては頸を狙えない・・・あいつ、厄介なことに、髪を頸に巻き付けてる。浄銀弾も弾かれたわ。(炭治郎を向き)どうする? 同じ展開は通用しなさそうよ」

炭治郎「頸を狙うまでに、髪の攻撃を防ぐか、髪を斬ってからの再生を遅らせれば、機会が生まれるんだけど・・・」

 

 直後。

 炭治郎の眼が強い光を帯び、眉が引き締まる。

 また、何かの覚悟を決めたような、凛とした表情。

 

炭治郎「・・・ヒノカミ神楽なら、通用すると思う」

キリエ「(訝し気に)何、それ?」

炭治郎「(キリエを見て)さっき使った水の呼吸とは別の呼吸なんだ。威力は格段に上がる。しかし水の呼吸から無理に切り替えると、反動で身体が動かなくなる。会得した時より体力は向上してるとは言え、連続だと二手が限界だと思う。一太刀目で髪、二太刀目で頸・・・(きっ、と眉を寄せ)とにかく狙ってみせる」

キリエ「でも、炭治郎だけにやらせる訳にはいかない。3人で連携して、連続して仕掛けるのが確実、でしょ?」

禰豆子「(深く頷き)んっ!」

 

 きり、とした勇ましい顔で炭治郎を見詰める、キリエと禰豆子。

 ふたりを見て、より一層の気迫を込めた視線となり、頷く炭治郎。

 

キリエ「それと、考えがあるの。以前使った手・・・上手くいけば、私でもオニの頸を斬れるかも知れない」

 

 キリエ、ちら、と山向こうに目線を遣り、それから上空を一瞬見上げる。

 

キリエ「ただ、時間との勝負になると思う。(炭治郎を見て)手を貸してくれる?」

炭治郎「(こく、と頷き)判った、指示をくれないか」

キリエ「(禰豆子に視線を向け)禰豆子、煉獄さんから聞いたんだけど・・・貴方の血は燃えるのよね?」

禰豆子「(少し目を見開いて、首を縦に振り)んっ!」

炭治郎「『血鬼術・爆血』っていう技で、鬼を燃やせる炎を起こせるんだ」

キリエ「(驚いた口調)自分で燃やせるの?」

禰豆子「(こく、こく、と二度頷き)んーん!」

キリエ「判った。私の方には、合図した時にお願い出来る?」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。