刹那の、後。
オオオオオオォォォォ!!!と、不気味でおぞましい発声。
目に見える範囲の死人たちが、一斉に咆える。
そして、身体を屈ませ、地を蹴り、一気にキリエとラーラマリアに襲い掛かってくる。
遺骸とは思えないほど、俊敏な速さ。
両腕を開き、キリエに跳び掛かる一体。
次の、瞬間。
ドゴオッ!と、雷のような発射音。
同時に、死兵の額が割れ、頭蓋が砕け、身体が吹っ飛んでいく。
キリエの仕込み傘の先端から、硝煙。
間を置くことなく銃口が翻り、隣の吸血鬼に向けられ、火を噴く。
ドゴッ! ヴォゴーン!と、連続して発射される弾丸と、延長線上で貫かれる屍の身体。
ラーラマリア、別方向からキリエに急接近してくる一体に、銃身を向ける。
間髪入れず、ゴヴォン!と爆音を発する拳銃。
額の中心を確実に射抜かれ、死人の頭が炸裂する。
それが地に伏せるのを見届けることなく、別の躯体に照準を向けるラーラマリア。
血飛沫が宙に拡散され、雨のように地面に降り注ぐ。
その中を、まるで踊るように身体を舞わせる、キリエ。
ただその両の瞳は、鮮血よりも赫く輝き、透過の光を残像として空に残している。
キリエ、止めることなく、襲撃してくる死兵に銃弾を叩き込んでいる。
キリエ「(怒声で)ウザい! ウザい! ウザぁいっ!」
確実に築かれていく、遺骸の山。
太陽の光は、情け容赦なく天空からキリエの上に射している。
はあ・・・はあ・・・と、肩で息をし始めるキリエ。
凄まじい疲労感を覚えている雰囲気。
それでも、一歩、また一歩と、襲い来る吸血鬼の群れを斃しながら前進を続ける。
ラーラマリア、手持ちの残弾を確認し、キリエを見る。
ラーラマリア「(張りのある声で)一旦馬の荷まで下がる! すぐに戻る!」
キリエ「(やや苦しそうに)・・・判ったわ!」
クルッ、と身体を反転させ、後方に駆け出すラーラマリア。
デスは、ハイエロファントと3頭の馬を背に、大鎌を正面に構えて少し腰を落としている。
前方の闘いと、周囲を交互に見回しているハイエロファント。
近くの建屋の物陰や、駅舎の角の方から、こちらを窺っている十数体の死兵。
ただし、5~6ヤードほど距離を置いたまま、それ以上接近して来ない。
ハイエロファント「デス、ここは大丈夫。キリエの元に行ってあげて」
デス「(こくん、と頷き)判った」
即座に、たん!と地面を蹴るデス。
フシュッ、と姿が消える。
駆け寄って来るラーラマリアのすぐ横を、疾風が駆ける。
彼女の髪が、ぶわっ、と風圧で上がる。
ハッ!と驚いて振り向くラーラマリア。
擦れ違いでキリエに急接近していく、デスの後ろ姿が目に映る。
ラーラマリア、思わず立ち止まって、右手をデスの背後に伸ばす。
ラーラマリア「おいおいっ! そっちはアタシらに任せてくれ!」
一方、吸血鬼の軍を相手にしているキリエ。
ドゴドゴドゴッ!と、仕込み傘の銃口から連続で発砲され、その度に崩れ落ちる吸血鬼たち。
それでも怯むことのない死人の兵士は、続々とキリエに向かってくる。
陽を避ける暇すらない、波状攻撃。
キリエの顔は段々と蒼褪めていっており、はーっ・・・はーっ・・・と息苦しそう。
傘の弾が尽き、ジャゴッ、ガシャコッ、と素早く別のカートリッジと交換するキリエ。
ヴォズッ!と近くの吸血鬼の頭部を吹き飛ばす。
その倒れる陰から、現れる影。
小柄な姿をした、死人。
キリエ、銃を向けた瞬間、はっ!として固まる。
年齢は幼そうな、男の子。だが、明らかな死兵の風体。
牙を剥き、ガバァ、と大きな口を開けてキリエに襲い来る。
引鉄に当てた彼女の指が、躊躇する。
ダン!と地を蹴り、両腕を大きく広げて跳び上がる少年吸血鬼。
直後。
キラッ、と三日月型の刃が煌く。
ぞん!と凄まじい斬撃が、男児死兵の首を切断する。
キリエが目を見開く眼前、ズダバンッ!と全身を地面に叩き付けられる、骸。
その身体と頭部は、余りの衝撃で一度大きくバウンドし、数ヤードも転がっていく。
目で追った後、視線を戻すキリエ。
そこには、大鎌を改めて構え直しているデスの姿。
デス、キリエと目線を合わせ、こく、と小さく頷く。真剣な表情。
キリエ、デスと目線を合わせ、コク、と短く頷く。引き締まった表情。
今も群れを成す死兵の軍団の向こう、それを眺めて不快そうに顔を歪めるアプローズ。
オオオオオオォォォォ!!!と、吸血鬼の軍勢が、咆える。
再び、銃弾を浴びせ始めるキリエ。
一瞬、デスの姿が揺らぐ。
次の瞬間、ザシュウウウッ!!!と螺旋状の軌跡と共に、数体の死人の首が刎ねられる。
キリエとデスの攻撃は、更なる血の雨を大地に吸わせている。
それらの一部始終を見ていたラーラマリア、少し安心したような表情。
身体を戻して、繋がれている馬の方に走り寄る。
しかし、ハッ、として思わず立ち止まる。
一頭の馬のたてがみを、優しい仕草で撫でているハイエロファント。
3頭の馬は身を寄せあうようにしている。怖がっている様子。
それらを取り囲むような位置、5~6ヤード付近で、数体の吸血鬼がいる。
ハイエロファントに目を向けているようだが、襲撃せず、それ以上接近する気配がない。
何となく、死人たちは怯えている模様。
ラーラマリアに気付いた一体が、身体を返して、ゴオオ!と奇声を上げて向かってこようとする。
素早く銃口を向け、引鉄を引くラーラマリア。
ボンッ!と頭蓋を割られ、崩れ落ちる吸血鬼。
ラーラマリア、その合間にハイエロファントの近くまで駆け寄り、再度周囲を見回す。
残りの死兵は、やはり距離を取ったまま。
ラーラマリア「(不思議そうな目線で)な・・・何で死兵たちが近寄って来ないんだ?」
ハイエロファント「多分、僕の力だと思うよ。こっちの世界でも通用するとは思わなかったけど」
ラーラマリア「(拍子抜けしたように)チカラ? あんたが何か使ってる様子はなさそうだが?」
ハイエロファント「わざわざ使わなくても、解るんだよ。彼らにはきっと」
前方の奥、戦闘中のキリエとデス越しに、汽車に視界を向けてくるアプローズ。
それから、拳銃を握った左腕を垂直に掲げ、上方に銃口を向ける。
ニタァッ、と厭らしい嗤い。
アプローズ、引鉄を引く。
ヴォズォォォ――――ンッ!・・・と、宙に発射される銃弾。
残響が、街全体に広かっていく。