「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

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我は欣びて、十字架を負わん【第壱章/横濱編】ー2

★ (10分後)横濱港・横濱税関新港埠頭保税倉庫(赤レンガ倉庫)付近

 

 大桟橋の海を挟んだ西側に、巨大な埋め立て地。

 第二期拡張工事の中心となっている、面積37ヘクタールを超える『新港埠頭』。

 多くの係留用岸壁、大小の倉庫群が建ち並び、貨物用の鉄道まで敷設。

 この広大な地区の大部分は石畳が整備されており、物流が滑らかに実施されている。

 全体の工事は今も各所で行われているが、完成が近い雰囲気。

 その中で一際目立つ、二棟の煉瓦造りの倉庫。通称『赤レンガ倉庫』。

 一号倉庫、それよりも大きな二号倉庫が並列して鎮座。

 双方の岸壁側には、荷下ろし用の上屋が設置され、港湾労働者が倉庫との往復をしている。

 倉庫に挟まれた広い区域から、陸側へと、建設途中の鉄道。敷かれる前のレールが、点在して各所に置かれる。

 大桟橋から繋がる新港橋を渡った位置、一号倉庫の手前に、石畳の広場がある。

 そこの端に立ち、二棟の赤レンガ倉庫と、周囲を見渡している、キリエとサンタミカエラ。

 広場を囲むように、数棟の小屋が建つ。詰所と見受けられる。

 ここには、旅客の姿はない。視界に存在するのは、港湾労働者と思しき男たち十数名ほど。

 ほとんどが揃いの、紺色の法被。

 作業着自体は揃いではなく、鳶服、ニッカポッカ、ツナギ、着流し、地下足袋、草履など、多彩。

 ただし法被姿のほぼ全員が、仕事をしている様子がない。

 詰所の前で荷箱を椅子代わりに、車座になり、一升瓶を片手に酒盛りをしている。

 四、五人の塊で、椀に酒を注いでは呷り、卑下た嗤い声を上げる。

 詰所の前、広場をうろついている紺色の法被姿の男たちは、どう見ても勤務しているように見えない。

 距離を置いた場所から、荷運びをしている別の労務者が、呆れた目線を彼らに投げている。

 

サンタミカエラ「(眉間に皺を寄せ)何かこの辺、真面な連中がいそうにねェな・・・」

キリエ「(眉を顰め)関わらない方がいいわね。倉庫の奥には、ちゃんとしてそうな人がいるわ」

 

 右手人差し指で、二号倉庫の海側付近を差すキリエ。

 法被を着用していない荷役員が、作業をしているのが確認出来る。

 同時に、歩行を開始するふたり。

 キリエ、ゴロゴロゴロ・・・とトロリーケースを右手で引き、左手に傘を差す。

 サンタミカエラ、左手にボストンバッグを持ち、提げている。

 肩を並べて、一号倉庫と二号倉庫に挟まれた区域に進んでいく。

 前方から、三人の男性。いずれも紺色の法被姿。

 法被の襟、合わせの部分に『石桁組』と書かれている。背中には家紋のような印。

 三人は横に広がって歩き、こちらに向かっている。

 その内の一名の顔は真っ赤、足取りも怪しく、ふら、ふら、と左右に泳ぐ。

 泥酔している模様。

 身振り手振りも大きく、けたたましい嗤いと共に、奇妙な踊りのような動作。

 キリエとサンタミカエラ、敢えて気付かないように、歩を進める。

 双方が広場の中央辺りで、擦れ違おうという位置まで接近。

 急に。

 三人側の酔っ払いの男、身体を回転させる動きで、大きく平衡を崩す。

 身を投げ出すように、キリエに向かって飛び込んでくる。

 気が付く前に、男の体当たりが斜め前方から直撃するキリエ。

 ドン! ガシャッ! ズザーッ・・・と、トロリーケースが石畳を滑る音。

 キリエも後方に跳ね飛ばされ、ケースと一緒にもんどり打って転がっていく。

 ハッ!と振り返って、視界を移すと同時に、踵を返すサンタミカエラ。

 

サンタミカエラ「キリエっ!」

 

 サンタミカエラ、間髪を入れず、即座にキリエの傍らに屈み込む。

 一方、キリエが元いた位置に寝そべっていた泥酔男、身体を起こして、数回頭を振る。

 痩せ型で長髪、法被の下は着流し。背は低め。

 

組員/弐「(甲高い怒声)痛ぇな! 何処見て歩いてんだ!」

 

 キリエとサンタミカエラを睨み付ける組員/弐。

 それを足を停めて眺め、ニヤニヤ、と厭らしい嗤いを浮べている残りの男二名。

 片や、それには応答せず、キリエを、じっ、と見詰めているサンタミカエラ。

 間を置かず、身体を起こして石畳に座り、軽く頭を振るキリエ。

 背中から落下した様子で、僅かに顔を顰め、すぐに落ち着いた表情になる。

 

キリエ「(サンタミカエラを見詰め返して)・・・大丈夫よ」

 

 サンタミカエラ、それでも心配気な視線を固定している。

 組員/弐、ふらつきながら起き上がり、憎々し気にふたりを見遣る。

 別の男の片方、蔑んだような目で、顎を上げ、見下す。

 中肉中背の角刈り、ツナギ姿に法被を着ている。

 

組員/壱「雨も降ってねぇのに傘なんか差してんじゃねぇ! 邪魔臭ぇ! バカかテメー!」

 

 直後。

 サンタミカエラ、目を見開く。

 一瞬、茫然とした顔。

 キリエ、くっ、と喉を鳴らし、顔を伏せ、微かに悔しそうな表情。

 それを目の当たりにし、サンタミカエラ、顔上部に影を落とす。

 ぶるっ、と彼女の肩と両腕が、震える。

 三名の男、卑下た嗤いを発し、キリエを舐めるように眺めている。

 すっ、と静かに立ち上がり、悠然と身体を返すサンタミカエラ。

 

サンタミカエラ「(冷徹そうな声で)今のはてめェからぶつかって来たんじゃねェか?」

 

 その声色に、驚いた様子で彼女を見上げるキリエ。

 身体の芯、深い位置から放たれるような、静かだが鋭利な憤怒。

 ハンマーのような圧迫感ではなく、細身の刃のように尖り、両断するような。

 さながら、日本刀の抜き身の如く。

 それが彼女の表情から、全身から溢れ出て、前方の男たちに向けられている。

 途端。

 一瞬で、三名の男たちの顔から、嗤いが消える。

 

組員/壱「(ドスを効かせた声)ああん?」

サンタミカエラ「そっちの奴、随分と千鳥足だな。酔っぱらってんのか? 真っ直ぐ歩いてなかったぞ。見たトコ荷役みてェだけどよ、こんな真っ昼間っから仕事もしねェで酒かっ食らって、いいご身分だな?」

組員/壱「(がなり声)何だテメー! 喧嘩売ってんのか!」

 

 組員/壱、ペッ、と斜め前方に唾を吐き、路面に落とす。

 三人が横に並び、顔を歪めて、脅すような表情。

 

キリエ「(はあ、と溜め息を吐き)ウザいのに巻き込まれたわね・・・」

 

 傘を拾い上げて差し直し、すっ、と滑らかな動作で立ち上がるキリエ。

 その仕草を横目で見て、短い安堵の息をつくサンタミカエラ。

 先程までの鋭い怒りの雰囲気を鎮め、口角を少し上げる。

 急に、思い付いた様子で、組員/弐が左下腕を右手で押さえ、口端を歪める。

 

組員/弐「(わざとらしく)あーあ痛ぇな! 折れちまったかもな! 痛ぇ痛ぇ!」

キリエ「そう・・・本当に折れた人、見たことあるけど、とてもそんな余裕のある態度じゃなかったわ」

組員/弐「(カッ、となって)んだとコラ! ふざけんじゃねぇ!」

組員/壱「おうおう、ガキの癖にいきがってんじゃねぇぞ。横濱新港地区を仕切る『石桁組』に喧嘩売って生きてた奴はいねぇ。詫び入れて、治療代と慰謝料置いてくんなら、テメーみてぇなガキの命までは取らねぇ」

組員/参「舎弟に怪我させたんだ。有り金は全部出しとけ。ガキだろうか何だろうが、ケジメは付けろや」

 

 三人の男の一名、背がかなり高く、筋骨隆々。頭髪はない。ダボシャツの上に法被。

 鼻で、フヌ、と息を吐き、見下した目を投げている。

 

キリエ「結局、恐喝、って訳ね。ウザい」

 

 キリエとサンタミカエラ、三名の男と向き合って、赤レンガ第二倉庫を背に対峙。

 そこに、近付いてくる姿。

 広場の詰所の前で酒盛りをしていた、同じ法被の五名の組員、こちらに歩いて寄って来る。

 更に、赤レンガ第一倉庫付近にいた、同法被の数名も、こちらに接近中。

 全員、歩き方や動作の放っている空気が、チンピラやゴロツキの雰囲気。

 それに気付いた男三名、援軍を得たとばかりに、ニタァ、とひしゃげた嗤いを貼り付ける。

 

キリエ「・・・集まってくるみたいね」

サンタミカエラ「(チッ、と舌打ち)かーっ、面倒臭ェな」

キリエ「鬼とか吸血鬼だったら銃が使えて楽なんだけど・・・ジャパンの街中じゃ流石に使えない。本当、面倒ね」

サンタミカエラ「(左手を右掌で包み、グギ、グギ、と関節を鳴らしながら)ま、オレっちに任せとけよ。この人数なら5秒、いや、2秒ありゃあ充分だ」

 

 三人の背後まで、八名の組員が寄って来る。

 どの男も捻くれた、歪で、且つ威張ったような顔。

 キリエとサンタミカエラ、その連中を見渡し、両眼を鋭く据える。

 突然。

 上空から、声。

 

雌鴉「黒イ服ニ赫イ眼! 傘ヲ持ツ鬼ノ娘! キリエ! 見付ケタワ!」

 

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