「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

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我は欣びて、十字架を負わん【第壱章/横濱編】ー4

 残った八名の組員、得物を手にしたまま、凝固。

 眼前で起こった出来事に、理解が追い付いていない。

 キリエとサンタミカエラ、女性剣士の背中を見詰め、驚きを隠していない。

 

サンタミカエラ「(目を丸くして)凄ェ!」

キリエ「(目を丸くして)一振りで、人が飛んでった・・・」

サンタミカエラ「(唖然としたままで)それに! あれ鉄道の線路だろ! 鉄の塊だろ! あんなんを軽々と振るなんざ・・・何てチカラだよ・・・」

 

 女性剣士、振り抜いたレールを戻し、今度は身体の前に、足元と水平に両手で持つ。

 仁王立ちで、残存組員に対して揺るがない視線を注ぐ。

 誰も、動く気配がない。

 その中で組員/参が、空威張りのように無理矢理怒り顔を拵え、女性剣士を見る。

 

組員/参「(やや引き攣った声)このアマァ!」

 

 そして、右拳を強く握り、長身の頭上から女性剣士目掛けて殴り掛かっていく。

 半拍後。

 女性剣士の持っていたレールが、ぐるん!と縦に、下からの軌道で回転する。

 先端が組員/参の顎を的確に捉え、ボグッ!と跳ね上げる。

 

組員/参「(天を仰ぎ)ぶぎゅっ!!!」

 

 顔の下半分を歪め、組員の巨躯が石畳から離れ、浮く。

 それが引力に従うよりも速く、女性剣士、バトンのように軽やかに、レールを回す。

 今度は真上から、ビュン!と空を裂き、組員/参の禿げた頭頂に叩き付ける。

 まるで、中国拳法の棒術と見紛うばかり。

 ドベシャッ!と、全身ごと路面に貼り付き、一度バウンドする組員。

 女性剣士、ゆっくりとした動作で、レールを手元に引き戻す。

 足元には、完全に意識を飛ばした組員/参が横たわる。

 白目を剥き、ビク、ビク、と痙攣し、蛙が轢かれたような体勢で。

 沈黙。

 沈黙。

 残った七名の組員、血の気を失っている。

 得物を体側に下げ、誰ひとり続こうとしない。

 

組員/弐「(声を震わせ)な・・・何だテメー! 何モンだ!?」

 

 漸く声を搾り出した男に目を遣り、それから組員たちを見回す女性剣士。

 重量を感じさせない動作で、レールを右腕に抱え、半身になる。

 一瞬、後方のキリエとサンタミカエラを見て、再び組員に視界を戻す。

 

女性剣士「ふたりの女の子に寄ってたかって、恐喝して、因縁吹っ掛けて、集団で襲い掛かってくるなんて・・・」

 

 女性剣士、眉根を締め、きっ、と厳しい眼光を、放つ。

 

女性剣士「(重圧のある、深く響く声)そんなの、全然キュンっとしない!」

 

 途端。

 ズン!!! ズズズズズ・・・と、凄まじい圧迫音。

 女性剣士の足下、深淵の底より噴き出すように、地鳴り。

 彼女の全身から、空気を押し退けるような気迫が溢れ、広場の空間を埋めていく。

 それは、女性剣士の強靭さを具現化したような、気の塊。

 残存組員、一斉に蒼褪める。

 冷や汗が、顔、全身を伝い流れ、身震いが始まる。

 少しずつ、後退り始める組員たち。

 それでも、組員/壱は抗うように顔を歪め、足を踏ん張る。

 

組員/壱「(傍らの組員を見て)お、おう、もっと人呼んで来い! あ、あと、チャカも持って来い!」

組員/肆「(ビクッ!と肩を跳ねさせ)ヘ、ヘイ!」

組員/壱「(裏返った声で)まずこのアマから片付けろ! 全員で掛かれぇ!」

 

 しかし、誰も行こうとしない。

 歯の根が合わず、腰が引け、足が竦んでいる残りの組員。

 そこから、若い風体の組員/肆が身を翻し、木刀を提げて、詰所の倉庫に向かって駆け出す。

 手足を、バタバタ、とさせながら、広場を一直線に横切って行く。

 そこへ。

 シュルルルルル・・・と、路面を這うように、何かが急接近。

 幽体のような、黒い影。

 大桟橋方面より、新港橋を渡河した付近から、凄まじい速度で、組員/肆へと一気に距離を詰める。

 瞬きの間に、影は組員の走行線上に回り込む。

 そして一瞬で、ずぬぅ・・・と人の形を成し、組員の眼前に立ちはだかる。

 剣士の風体の、若い男性。

 

男性剣士「(地の底から響くような声)・・・何処へ行くつもりだ?」

組員/肆「(ビクッ!と跳び上がり)ヒイッ!」

 

 突如、自分の眼前に現れた姿に、慄く組員/肆。

 ズザーッ!と草履を擦りながら急停止。

 すかさず、男性剣士が動く。

 ズバン!と右脚で、組員の両脚を前方から足払いし、蹴り、跳ね上げる。

 俯せの格好で、刹那、宙に浮く組員/肆。

 男性剣士、スルンッ!と組員の真上に跳び、左肘を真下に向け、体重を預ける。

 組員/肆、ズンッ!と、身体前面から石畳に叩き付けられる。

 メギイッ!と、男性剣士の左肘が、楔のように背中に減り込む。

 

組員/肆「(悶絶)グハッ!」

 

 口から泡を噴き、目が反転し、それきり動かなくなる組員/肆。

 彼が握っていた木刀が、カラン・・・と乾いた音を立てて、転がる。

 男性剣士、流れるような動作で木刀を拾い上げ、広場中心に身体を向ける。

 直毛の髪を肩口まで伸ばしており、前髪は眉付近で揃えている。真っ直ぐで細い眉。吊り目。

 眼の色が、左右で違う。右が黄金色で瞳が小さく、左が青緑色で瞳が大きい。

 鼻から下、首に掛けて包帯を巻き付けている。口元は見えない。

 身の丈は、先の女性剣士よりやや低め。

 黒い軍服のような詰襟の着衣に、黒と白の縦縞模様の羽織。

 下は袴、足元は包帯を固めたような白い脚絆、紫の紐の草履。

 腰に、日本刀らしき革製の鞘を差す。柄は紫と白が交互に織り込まれた片手巻き、鍔は蛇の地透かしの丸形。

 そして首元に、一匹の白蛇が巻き付いている。蛇の両眼は、鮮やかな赫。

 男性剣士、広場を、ぐるっ、と見渡す。

 赤レンガ第二倉庫前、レールを構えた女性剣士に目線を繫げる。

 それから、彼女に対峙している、法被姿の七人の組員。

 その男性たちが、匕首やアイスピックなどの得物を持っているのを、確認。

 途端。

 男性剣士の身体、ぶおん・・・と輪郭がぼやけ、霞む。

 姿が溶けた、次の瞬間。

 シュルルルルルルッッッ!!!と、路面擦れ擦れに、薄紫の影が奔る。

 軌道はS字を描くように、滑らかで、且つ猛烈な速度。

 走駆する影の突端が、一瞬で右端の組員に達する。

 ズパン! パァン! パパパン!と、木刀の連撃。

 一人目は、脛、右腕、更に頸椎を斜め上方から打たれる。

 隣の二人目が、眉間と鳩尾、右腕、右踝をほとんど同時に打撃される。

 男性剣士の使う木刀は、一筆書きのような太刀筋で、計七箇所の部位を猛打。

 凄まじい勢いの剣撃に、打たれた組員ふたりが、得物を弾かれ、側転して宙を舞う。

 ここまで、僅か二拍。

 残存組員五名、ハッ!とそれに気付く。

 

組員/弐「(驚いて)え? え? 何だ!?」

 

 刹那。

 組員/弐、そして三名の組員に、剣撃が襲い掛かる。

 パパパパパパパパパパッッッ!!!と、四人を強襲。

 上下前後左右、ありとあらゆる方向から、男性剣士の木刀が渾身の打撃。

 流暢な剣の軌道、止まることなく一本の線を空間に描く。

 その線が、大蛇の姿となって可視され、空を薙ぐ。

 ひとりに対し、数発の打ち込み。

 その何れもが、木刀の太刀筋とは思えない、異様な曲がり方。

 同時に急所を狙い、僅かな間隙すら、するり、と入り込むような正確さ。

 二拍で、四人の組員が得物を弾かれて、身体を吹っ飛ばされる。

 連続して、ドサ・・・ドサ・・・と石畳に落下し、動きを停める。

 ひとり残された組員/壱、血の気を完全に失う。

 眼前の女性剣士、そして急に現れた男性剣士の攻撃。

 何が起きているのか、理解が追い付いていない。

 直後。

 ずぬぅ・・・と、いきなり姿を明瞭化させ、組員/壱の眼前に屈んでいる男性剣士。

 

組員/壱「(顔面蒼白で)ヒッ!」

 

 男性剣士の木刀が、唸る。

 正面、真下から、垂直に顎へと。

 ドバギッ!と、真上に跳ね上げられ、一瞬浮かぶ組員/壱の体躯。

 

組員/壱「(顔を歪めて)ごふう!!!」

 

 返す刀で、木刀は真後ろの頸椎に振り下ろされる。

 ドベシャッ!と、路面に顔から叩き付けられる、最後の一名。

 組員/壱、顎を砕かれた吐血を漏らし、白目を剥き、気を失う。

 しーん・・・と、広場に静けさが訪れる。

 沈黙。

 暫く、沈黙。

 男性剣士、身体を起こし、ポイ、と木刀を放り投げ、捨てる。

 地に転がっている組員たちを、凄まじい気迫を込めた目線で睨む。

 

男性剣士「(冷酷な声色)・・・甘露寺に近寄るな、塵共」

 

 一部始終、その光景を見詰めていたキリエとサンタミカエラ。

 ふたりも、完全な理解までは至っていない。

 ただひたすら、驚嘆の表情。

 

サンタミカエラ「(ごく、と唾を飲んで)速ェ・・・剣捌きが見えなかった・・・しかも何だあの、予想が付かねェ太刀筋・・・」

キリエ「(周囲を見渡し)7人の相手を、一息で倒した・・・」

 

 キリエとサンタミカエラ、女性剣士と男性剣士を交互に見遣る。 

 

キリエ「(感嘆した様子で)このふたり、強い・・・」

サンタミカエラ「(頷いて)ああ、半端ねェ」

 

 キリエ、バサ、と改めて傘を広げて差し、陽光を遮る。

 女性剣士、タタタタ・・・と小走りに男性剣士に駆け寄る。

 弾むような、軽やかな歩調。

 頬は紅潮し、嬉しそうな笑顔。

 

女性剣士「(明るい声)伊黒さん!」

 

 すい、と身体を正対させ、視線を緩める男性剣士。

 ふたりが、向かい合う。

 

男性剣士「すまない、到着が遅れた。大丈夫か?」

女性剣士「(首を縦に振って)うん! ありがとう!」

男性剣士「(地面に転がる組員たちを見渡し)この塵共は何者だったんだ?」

女性剣士「それがね、ふたりに因縁付けて、恐喝して絡んでたんだって」

 

 くるっ、とふたりの剣士が踵を返し、向き直る。

 男性剣士の視線が、キリエに繋がり、睨み付けるように鋭くなる。

 

男性剣士「・・・こいつか・・・お館様の御下命にあったのは。米国の鬼、と聞いているが・・・」

 

 女性剣士、はた、と、未だに抱えているレールに気付く。

 徐に、スタスタスタ・・・と移動し、レールを元の置き場に、ドン、と重ねる。

 そして何事もなかったかのように、男性剣士の傍らに戻って来る。

 キリエとサンタミカエラ、女性剣士と男性剣士が、2メートルほどで対面。

 

女性剣士「自己紹介、遅れっちゃたわね・・・(にこ、と明るい笑みで)鬼殺隊、恋柱、甘露寺蜜璃です!」

男性剣士「(冷静で凪いだ声で)同じく鬼殺隊、蛇柱、伊黒小芭内だ」

キリエ「カンロジ、ミツリ・・・(はっ、と思い出して)炭治郎が話してた人!」

蜜璃「(息を飲んで)炭治郎くんを知ってるの!?」

キリエ「(頷いて)ええ。炭治郎と禰豆子と私で、鬼と闘ったわ。しのぶさんにもお世話になった」

 

 小芭内、両眼が更に鋭利に、刺すような尖りを帯びる。

 

小芭内「竈門禰豆子と同じく、鬼と闘う鬼・・・(キリエを睨んで)お前も血鬼術を使うのか?」

キリエ「(首を左右に振り)私は禰豆子みたいな技は使えない。この傘と銃で闘うの。吸血鬼・・・鬼に通用する銃弾でね」

小芭内「(眉を顰めて)・・・傘? (キリエの傘を見て)それで闘うのか? とても鬼に通用するとは思えない」

キリエ「見せて上げられればいいけど、鬼も吸血鬼もいないし、今は機会がなさそうね」

 

 不審そうな目線のまま、今度はサンタミカエラに視界を移す小芭内。

 

小芭内「ところで、こっちの小僧は何者だ?」

サンタミカエラ「(むっ、とした様子で)小僧じゃねェよ。サンタミカエラだ。防疫修道会七会士、吸血鬼退治やってる」

キリエ「防疫修道会って、アメリカでの鬼殺隊、と考えてもらっていいと思う」

蜜璃「(こくこく、と頷き)しのぶちゃんも言ってた。米国には吸血鬼って鬼がいて、それと闘う組織があるって。(キリエを見て)キリエちゃんも入ってるの?」

キリエ「(首を振って)いえ、私は所属してない。ひとりよ。(サンタミカエラを見て)今は彼女と組んでいるけど」

小芭内「(僅かに目を広げ)お前、男ではないのか?」

サンタミカエラ「(チッ、と舌打ちして)違ェよ!」

 

 サンタミカエラ、即座に、ふう、と息を吐き、腕を組み。

 やや諦念したような顔。

 

サンタミカエラ「ま、いいや。間違われるのも初めてじゃねェし・・・(蜜璃を見て)カンロジさん、だっけ? さっき初めて逢った時、よくオレっちが女だって判ったな」

蜜璃「(きょとん、として)え? すぐ判ったわよ。(にこ、と笑顔で)だってすっごくカッコいいし!」

キリエ「(ジト目で)・・・格好いい、が女の子への褒め言葉とは思えないけど・・・」

小芭内「(眉間に皺を寄せ)女が自分のことを『俺』とも言うまい」

サンタミカエラ「いいじゃねェかよ、別に自分をどう呼ぼうがよ。(両手を頭を後ろで組んで、はあ、と溜め息)ま、アニキにも最初、男だって思い切り間違われたしなぁ」

キリエ「(サンタミカエラを見て)そうだったの? まあ確かに、煉獄さんは間違えそうね」

 

 突然。

 眼を一種で正円に見開き、驚愕の表情となる、蜜璃と小芭内。

 

蜜璃「(跳び上がらんばかりの発声)煉獄さんですって!!!」

小芭内「(喰い掛からんばかりの発声)煉獄だと!!!」

 

 蜜璃と小芭内、ドン!と右足を踏み込んでくる。

 ビクッ、と身体を反らすキリエとサンタミカエラ。

 相対する距離が、一気に詰められる。

 僅かの、後。

 瞼を瞬かせ、小さく息を漏らすキリエ。

 

キリエ「・・・そう言えば、まだ説明してなかったわね・・・」

 

 眼前のふたりは、最早落ち着きが吹き飛んでしまっている。

 

蜜璃「(喰いつくように身を乗り出し)煉獄さんと逢ったの!? 煉獄さん生きてるの!?」

小芭内「(半分怒りながら)貴様! 妄言をぬかすとただでは済まさんぞ!!!」

 

 一刻も早く説明を要求している気迫の、ふたりの剣士。

 キリエとサンタミカエラ、顔を見合わせ、戸惑った表情へと転化させる。

 

サンタミカエラ「(はあ、と息を吐いて)話、長くなりそうだな」

キリエ「(頷き)ええ、何処かで落ち着いて話しましょう」

 

 広場には、今も法被姿の組員が、石畳の方々に転がる。

 気絶したまま、丸太のように。

 しかし、広場を挟んだ第一倉庫の角や、詰所、倉庫の陰から、様子を窺っている幾人かの姿。

 まるで、嵐が過ぎ去るのを待っているかのように、動かず。 

 

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