ハッ、と4名の視線が同時にアプローズに繋がれる。
途端。
後方、50ヤードほど先の線路上の一本に鎮座する、3両立ての蒸気機関車。
その列車内から、オオオオオオォォォォ!!!と、空気を震わす咆哮。
間髪を入れず、車両内部から、ガタガタガタッ!と何かが動き出す音。
ガシャーン・・・と窓ガラスが割れ、ドゴッ!と扉が蹴破られる。
客車の窓から、乗降口から、一斉に死兵たちが飛び出してくる。
溢れ零れるように続々と地面に降り、その数、約30~40。
それらが、ぐるうり、とラーラマリアに視線を放り投げてくる。
ラーラマリア「(サアッ、と血の気が引き)げっ! 汽車にもいっぱいいやがったっ!」
後方のその展開に目を向け、ぎり、と奥歯を噛むキリエ。
デス、傍らで一体の吸血鬼を屠った後、キリエに目線を結わえる。
デス「(落ち着いた声で)心配いらない。後方はハイエロファントとラーラマリアに任せておけ」
キリエ「でも・・・エロファントは武器を・・・」
デス「(ふっ、と笑みを浮かべ)大丈夫だ。こちらはこちらの闘いに集中しろ」
一方の、3頭の馬の付近。
ラーラマリア、慌ただしく積み荷から浄銀弾を探り出し、手持ちの拳銃に片っ端から装填を始める。
列車から登場した死兵軍団を見ても、尚も冷静な状態のハイエロファント。
馬たちは恐慌を覚え、ブルルルッ! ヒヒーン!と悲鳴に近い啼き。
ハイエロファント「(馬の首を軽く撫で)大丈夫、怖がらないで。僕は近くにいるからね」
3頭が、緩やかに落ち着きを取り戻す。
ハイエロファント、馬から離れ、機関車から真っ直ぐこちらに延びる線路を跨いで立つ。
身体を汽車に向け、両足を肩幅に広げる。
ハイエロファント「後衛は、任せてくれるかな?」
ラーラマリア「(驚いて)ちょっと待て! 銃も持ってないのに、どうやって!?」
ハイエロファント「(振り向きながら)銃も武器も持ってないけど、護る力は持ってるよ」
再び向き直り、きりっ、と眉を寄せるハイエロファント。
両方の掌を、すっ、と正面に向けて、両腕を真っ直ぐ伸ばす。
掌を垂直に立て、親指同志を付ける。
ハイエロファント「(凛とした大声で)聖なる力!」
キュイィィィ・・・と、鮮やかな白色の光を放ち出す、ハイエロファントの両掌。
左右に手を広げる。すると、掌と掌の間に棒状の光が繋がる。
その中から、ハイエロファントのバクルス(司教杖)が出現する。
杖の端部に備わっている青い石が、純白の光と蒼白い放電を帯びる。
完全に実体化したバクルスを、くるっ、ぱしっ、と鮮やかに回して持つハイエロファント。
ラーラマリア、弾薬補充中の手を停め、目を丸くしてそれを見詰める。
ラーラマリア「なっ!・・・(驚愕して)どっから出したんだよっ! その杖!」
ハイエロファント、ちら、とラーラマリアを見て、にこ、と微笑む。
すぐさま、正面の機関車に目線を返す。
付近の吸血鬼の軍勢は、暫く停止していたが、一気に動き出す。
先に地面に出た数十体が、ヴォオオオオ!と雄叫びを発して駆け寄り始める。
次から次へと客車から外に降り、線路上に並んで一直線に向かってくる。
バクルスを頭上に、両手で大上段に振り翳し、一際眉を寄せて表情を引き締めるハイエロファント。
僅かの、間の後。
ハイエロファント「(腹の底からの声)ミラクルビームっ!!!」
渾身の力で振り下ろされる、ハイエロファントのバクルス。
直後。
クワアァァッッッ!!!と、直径1ヤードほどの光球が前方に湧き上がる。
即座に、ズッドオオオオオムッッッ!!!と爆音を放ち、純白の光線が射出される。
一瞬で、向かってくる先頭の死兵に当たる。
全身を腹部から『くの字』に曲げ、ボンッ!と吹き飛ばされる身体。
後続の死人たちも、ボンッ! ボンッ!と次々に光に飲み込まれて、飛ぶ。
数体を巻き込んだまま、凄まじい勢いで蒸気機関車の先頭に衝突する、純白光。
途端。
ドガガガガガッッッ!!!と、地震のような猛烈な震動で、上下する汽車。
光線が一気に、倍以上に膨らむ。
ハイエロファントの放った光線は、白色光のドーム形状となり、更に先へと伸びる。
そして、獲物を頭から丸呑みする蛇の如く、一気に車両全体を包括していく。
バリン! バリン! ガシャーン!と、窓ガラスの弾け飛ぶ音。
客車内に残る死兵、弾かれ、ズドガーン!と座席や床に叩き付けられる。
外部に出ようとした吸血鬼は、ボンッ!と無理矢理引き摺り出され、宙を舞う。
そしてそのまま、台風で吹き飛ばされる看板のように、後方に飛来していく。
更に、バリバリバリッ!と、凄まじい電撃が死兵たちを襲う。
同時に、ゴオオォッ!と、爆炎も容赦なく浴びせらせる。
猛烈な光線は、数十体を飲み込んだまま、吹っ飛んでいく。
まるで石で水切りをするように、ダンッ! ダンッ!と、地面を弾け跳んでいく吸血鬼の躯体。
身体が錐揉みし、後転し、側転し、翻弄され続け、遥かの距離を開いていく。
そしてそれらは、ハイエロファントから200ヤードほどの場所で、漸く止まる。
純白の光線は、静かにその径を縮めていき、遥か遠くの地平へと消える。
やがて。
しーん・・・とした沈黙が、訪れる。
機関車は線路から完全に脱線し、W型に置き換わっている。
客車内と汽車周辺、ずっと先の地面に大量に転がる、元吸血鬼の遺骸の数々。
ただ、それら一体一体の顔は、死兵のそれではない。
まるで眠っているかのような、安らかなもの。
憑き物が落ち、浄化された如く。
誰もが言葉を発しない。
キリエ、ラーラマリア、一部始終を見た後、茫然と立ち竦む。
周囲の死兵の軍勢も、ハイエロファントを見て動きを停止させている。
キリエの隣に立つデスだけが、ハイエロファントに背を向けて、アプローズを睨んでいる。
アプローズ、あんぐり、と口をだらしなく開いたまま凍て付いている。
眼の端が、プルプル、と震え、怯えを隠そうともしない。
それを確認し、にっ、と不敵な笑みを浮かべるデス。
そのまま、暫く。
長い、間。
更に、間。
汽車の窓ガラスの残骸が落下する、カシャーン・・・という音が、響く。
ラーラマリア「(唖然としながら、引き攣った笑み)ははっ・・・嘘、だろ・・・纏めて倒しやがった・・・」
ハイエロファント「(振り返り、笑顔で)後方とこの周辺は、僕が防ぐ。君はデスとキリエの援護をお願いするね、ラーラマリア」
その言葉に、ハッ、と我に返ってハイエロファントを見るラーラマリア。
そして、にひっ、と愉快そうな笑みを浮かべ、弾薬の補充を再開する。
ラーラマリア「(意気揚々と)まかせなっ!」
ラーラマリア、素早く的確に浄銀弾を弾倉に込め始める。