★ (30分後)横濱山下地区・ミルクホール『ピンキヰズ』
横濱新田地区の中華街の手前、海側に区画されている、山下地区。
外国人居留地であり、輸入品の主力である生糸の問屋が多く軒を連ねる。
中華街ほどでもないが、飲食店も目立つ。
通りを人々が行き交い、賑わっている。
その中、大桟橋から伸びた通りの突き当たり、T字路に面して建つ、一軒の洋風建築。
大きな観音開きの正面扉を、港への道路に向けて据え、二階建て。
全体がセピア色の木造建屋で、扉の上には『メイドミルクホール/ピンキヰズ』の看板。
店内もドーム状で広め、1階と2階に客席があり、アンティーク調の家具で統一されている。
中央に設置された螺旋階段を昇ると、天井の高い2階フロア。窓から港方面も眺められる。
昼過ぎの時間も相まって、店内の座席はほぼ満席。
給仕する店員は、全員、黒のワンピース、白のフリル付きエプロン、フリル付きカチューシャ姿。
何処からか、蓄音機が奏でる音楽が流れ、聴こえてくる。
その店内、2階席の窓寄りの4人掛けのテーブルを囲んだ椅子に、座っている4名。
窓側にキリエと小芭内が向かい合い、内側にサンタミカエラと蜜璃が向かい合う。
現在の時間は、窓から陽は差し込んでいない。
落ち着いた様相で、小芭内と蜜璃に話をしているキリエ。
時折相槌を打ち、自分も話を付け加えているサンタミカエラ。
驚きで目を丸くしたまま、言葉を失っている蜜璃。
ずっと据えた目線で、キリエとサンタミカエラを胡乱気に見遣る小芭内。
やがて。
キリエが話を終わらせ、ふうう・・・と長めの溜め息をつく。
キリエ「・・・以上が、今までの経緯」
サンタミカエラ「オレっちからも、ざっくりだけど話した通りだ。アニキと出逢ってから、この国に来るまでの」
蜜璃、数回瞬きをし、茫然とした顔。
少し、間を置き。
蜜璃「(驚きの響きで)・・・信じられない」
小芭内「甘露寺、信じなくていい」
小芭内、ずぬぅ、と右人差し指でキリエとサンタミカエラを指差し、眼光を鋭くさせる。
小芭内「信用しない信用しない。お前らが米国から渡って来た、まではいい。だが43年前? 時間を超えて過去から来た? 煉獄が米国に飛ばされた? 虚言妄言にしても酷い。作り話にしても余りに突拍子もない。俺たちを騙すにしては幼稚で、脈絡も何もあったものではない。仮に証拠があるとしても、信に足りる物であるとはとても思えん。誰が聞いても白日夢にしか聞こえんな。煉獄の名を出せば信じるとでも思ったか? だとしたら甘く見られたものだ。謀るのならもっと上手く謀れ」
ネチネチ、と纏わり付くような湿り気を帯び、言葉を繫げる小芭内。
対して、キリエもサンタミカエラも、さも当然、といった様子で、視線を向けている。
キリエ「(清んだ声で)正しい感覚よ」
小芭内「(短く息を停め)何だと?」
キリエ「伊黒さん、だったわね。貴方の言う通り、とても信用出来ない話。貴方の捉え方は当たり前だし、意見も正論よ」
何も反論しないふたりを見て、意外そうな目線を送る蜜璃と小芭内。
キリエ「私も、信じてもらえると思って話していない。逆の立場だったら、まず信じないでしょうし」
サンタミカエラ「(キリエを、ちら、と見て)だな。想像の上過ぎて、はいそうですか、って言えねェよな」
居住まいを正し、改めて向かいのふたりを見詰めるキリエとサンタミカエラ。
キリエ「信じられないでしょうけど、これは言っとくわ。(凛とした声で)私もサンタミカエラも、嘘はついてない」
サンタミカエラ「(真剣な表情で)オレっちも、嘘は言ってねェ。騙すつもりなんざさらさらねェ。誓って」
少しの、間。
更に、間。
小芭内は、未だに疑念の色を払拭していない。
片や蜜璃、柔らかい仕草で、口角を緩やかに上げる。
蜜璃「・・・炭治郎くんと、一緒に闘ったのよね?」
キリエ「(こくん、と大きく頷き)ええ」
蜜璃「(明るい声で)じゃあ、信じるわ。ふたりの話」
小芭内、蜜璃に眼差しを結ぶ。
小芭内「(少し角が取れたような口調)甘露寺・・・」
蜜璃「(小芭内を見詰め返し)キリエちゃんの話を真実だって判ったから、炭治郎くんは一緒に闘ったんだと思う。ホラ、炭治郎くん鼻が利くから、嘘付いてる人って判るのよね?」
卓上に目線を落とし、目を閉じて、ふーっ・・・と長い息を吐く小芭内。
両眼の左右に、諦めたような色が浮かんでいる。
小芭内「・・・甘露寺は甘い」
蜜璃「(ぽり、と右手人差し指で頬を掻き)まあ、余り難しく考えないから、私」
恥ずかしそうに、眉を垂れさせ、両頬を紅に染める蜜璃。
すいっ、と顔を上げ、キリエとサンタミカエラに視線を投げる小芭内。
先程よりも、僅かだが尖りが小さくなった様子。
小芭内「やはりまだお前らを認めない。お前らの話は信用しない。しないが、甘露寺は信用した。この件では、俺もこれ以上問い詰めるまい。何より、お館様からの御下命がある。(蜜璃に視線を戻し)持ってきたか?」
蜜璃「(こくん、と大きく頷き)ええ」
蜜璃、腰のベルトに結わえた巾着袋の口を開ける。
そして、中から長さ30センチほどの、桐製の平たい箱を取り出し、テーブルに乗せる。
蜜璃「これ、しのぶちゃんから預かってきたの。キリエちゃんにって」
キリエ「私に?」
ずい、とキリエの目の前まで箱を押し、差し出す蜜璃。
暫く、木箱を凝視して、動きを停めるキリエ。
そして、おずおず、と遠慮がちに両手で、箱の蓋を開ける。
キリエ、両眼を大きく開く。
中には、一本のスパイク型バヨネット。白い布が敷かれ、鎮座している。
刃は、鉄色に薄い蒼を含んだ波の模様。キラ、と店内の照明が、反射する。
キリエが使っていたバヨネットと、ほぼ同じ形状。
サンタミカエラも覗き込み、目を見開いている。
サンタミカエラ「バヨネットじゃねェか」
キリエ「(短く息を継ぎ)・・・驚いた。いつの間に・・・」
蜜璃「キリエちゃんの銃剣、闘いで折れちゃったんでしょ? それでしのぶちゃん、お館様に許可頂いて、刀鍛冶の里に日輪刀研ぎ直しに行った時に、鉄珍様にお願いして打ってもらったんだって。それがこの銃剣なの!」
小芭内「これは、俺たちの日輪刀と同じ猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石で作られたと聞いた」
キリエ「(顔を上げて)え?」
引き続き、驚いた表情のキリエ。
小芭内、腕組みをして、やや顎を引き、下方からねめつけるような視線を送る。
小芭内「本来であれば、日輪刀が鬼殺隊以外の者に渡ることも、持つこともない。藤襲山での最終戦別に生き残った者が手に出来る。ましてやお前は鬼。自分を殺せる刃を持つことになる。皮肉な話だがな」
口調に、突き放した、且つ冷たい雰囲気を込める小芭内。
キリエ、自嘲気味に、ふ、と僅かに口端を上げ、自分の腰のベルトに手を伸ばす。
革製のカートリッジホルダーから卓上に、1発の弾丸を、コト、と置く。
弾頭に溝が入り、薬莢に十字架が刻まれ、リムに時計回りに『I.C.R.N』と刻印された、銀色の弾丸。
蜜璃、興味深げに弾丸を見る。
小芭内、一度強めに瞬きをし、眉を顰めて弾丸に目を移す。
サンタミカエラ、向かいのふたりの反応を見回し、それから弾丸に目を遣る。
キリエ「これは、法儀式浄化済みの銀で鋳造された、浄銀弾・・・吸血鬼を殺せる弾丸。ジャパンの鬼も、これで斃せた。同じ弾丸が、傘に仕込んだ銃にも充填してある」
蜜璃「(短く息を飲んで)嘘・・・じゃあ、これってキリエちゃんにも・・・」
キリエ「(据えた目線で、小芭内と蜜璃を見て)そう、これで撃たれると、私は死ぬの」
間。
ややあって。
目を閉じ、ふう、と息を吐き、眉根を心持ち緩める小芭内。
小芭内「成程、お前はずっと、自分に致命的な武器を使っていたという訳か。動揺しない筈だ」
蜜璃「(小芭内を見て)きっとお館様は、キリエちゃんを認めて下さったのよ。鬼殺隊の一員として・・・禰豆子ちゃんのように」
キリエ、机に置いた浄銀弾を、再び腰のホルダーへと戻す。
目を伏せて、申し訳なさそうな顔。
キリエ「認めてもらえるようなこと、何もしてない・・・」
サンタミカエラ「(キリエを覗き込むようにして)アニキと同じように、ハポンで〝鬼退治〟してきたんだろ? ありがたく受け取っとけよ。こういう武器だったら、もしかしたら黒衣の者に通用すっかもな」
キリエ「(微かに、表情を緩和させ)じゃあ・・・折角だから・・・」