ゆっくりと、箱の中の銃剣のソケット部を、右手で摘まんで取り出すキリエ。
それを垂直に立てて持ち、自分の眼前に掲げる。
すると。
ズズズズズ・・・と、小さな空気振動。
キリエが持ったソケット部から、バヨネットが変色を始める。
キリエ「(息を飲んで)え?・・・色が・・・」
下から競り上がるように、刃の表面が段々と。
黒。
闇と見紛うような、漆黒。
数秒で、それまで鉄色だったバヨネットが黒色に成り代わる。
呆気に取られ、完全に言葉を失っているキリエとサンタミカエラ。
蜜璃、目を大きく開き、口を結んで驚いた顔。
小芭内、半分眼を閉じ、複雑な視線。表情は落ち着いている。
少しの、間。
暫くして。
蜜璃「(小さく上擦った声で)黒っ!」
小芭内「(凪いだ声で)黒いな」
キリエ「(慌てたように、ふたりを見て)え? え? 黒いと問題あるの?」
サンタミカエラ「(驚きつつ)そんなことより! 色変わったぞ! 何だこれ!」
蜜璃「日輪刀は別名〝色変わりの刀〟って言ってね、最初は鉄の色だけど、持ち主によって色が変わるのよ」
サンタミカエラ「そう言や、アニキのカタナは炎みてェに真っ赤だった。最初っから真っ赤だった訳じゃねェんだ・・・」
小芭内「しかし余り見ないな、漆黒は」
キリエ、はっ、と何かを思い出した顔になる。
それから、じっ、と漆黒の刃を凝視し、遠くを見るような目線へと転化。
キリエ「(呟くように)炭治郎の刀、黒かった・・・」
視線を銃剣から上げ、キリエに視界を戻す小芭内。
小芭内「日輪刀は、ある程度の剣術を身に付けないと色が変わらない。お前は剣術を会得しているようには見えないが」
蜜璃「でも、それと同じくらいの実力がある、って、銃剣が証明してくれたのよ。日輪刀と同じに作られたもの。お館様の見立てに間違いはなかったのね!」
小芭内「(ふう、と息をつき)・・・まあ、そういうことにしておこう」
ギラ、と突き刺すような尖った目線を、キリエに放つ小芭内。
小芭内「(きつめの口調)お館様が認めて下さったという恩義に、報いることだ。命懸けで鬼を狩れ。死ぬまで闘え。お前のような者でもいないよりマシだ」
キリエ「(頷いて)ええ。それに、しのぶさんに感謝しなきゃ・・・(しみじみと)何から何まで・・・」
キリエ、口元を僅かに緩め、瞼を閉じ、噛み締めるような表情。
小芭内、ほんの微か眉を動かし、キリエを真っ直ぐ見ている。
自分の言い方にも動じず、謝意の空気を纏う彼女が、意外とばかりに。
蜜璃は、微笑ましい様子で、キリエに暖かい目線を注ぐ。
少しして、キリエがバヨネットを箱の中に丁寧な仕草で戻し、蓋を閉める。
それから大事そうに、椅子の後ろ、自分のトロリーケースに収納する。
サンタミカエラ、身体を反らし、両手を頭の後ろで組み、背凭れに身体を預ける。
サンタミカエラ「(羨ましそうに)あーあ、オレっちもアニキやキリエみてェに、色変わる強ェ武器持ちてェな」
蜜璃「(はた、と思い出したように)・・・そうそう、サンタミカエラちゃんって、煉獄さんの継子になったのよね?」
サンタミカエラ「全集中は教わったけど、正確にはまだ継子じゃねェなんだ。正式に継子になるつもりで来たんだけどよ・・・」
口角を思い切り上げ、にっこぉ、と太陽のような笑みを浮かべる蜜璃。
蜜璃「まだ言ってなかったけど・・・(輝く声質で)私も煉獄さんの継子だったの!」
途端。
ガッタッ!と、椅子から弾かれたように立ち上がるサンタミカエラ。
蜜璃を見詰め、驚愕の顔。
サンタミカエラ「な! じゃあ! アニキの前の継子の女性って・・・」
蜜璃「(続けて、ガタン、と椅子を下げて立ち上がり)そう! 私!」
サンタミカエラ「(跳び上がらんばかりの発声)マジかっ!!! じゃあよ! オレっちの姉弟子、ってことになるんだな!」
蜜璃「(こくこく、と頷いて)ええ! あなたは妹弟子、ってことよね!」
サンタミカエラ「(感嘆したように、眦を緩ませ)くぅーっ・・・そっかぁ・・・(ふん!と鼻息荒く)そんじゃそんじゃ、今からアネキって呼ばせてもらうぜ! 甘露寺のアネキ!」
蜜璃「(はしゃいで、凄く嬉しそうに)うん! よろしくね! ミカエラちゃん!」
起立したまま机を挟んで、互いに感動したような眼差しを絡め合う、サンタミカエラと蜜璃。
綺羅星のような煌きを、周囲に振り撒きながら。
それを傍らから見上げ、釣られたように表情を緩和させるキリエ。
小芭内は、静かな目線を蜜璃に結び、眉を下げる。
キリエ、小芭内に目を向け、小さく息を吐く。
キリエ「繋がるところがあったのね、ふたりは」
小芭内「(キリエに視線を移し)・・・元々甘露寺は誰とでも仲良くなれるからな」
その、すぐ後。
2階フロアの奥より、ゴロゴロゴロ・・・とワゴンを引っ張って、ひとりのメイド姿の店員が来る。
銀色掛かった褐色の髪、茶色と赫色の中間色の瞳、濃く真っ直ぐな眉。
左眼に、医療用パッドを×型に貼り、目を覆っている。
他の店員より、黒のワンピースのスカート丈が短い。
ロープのような紐を、ネクタイのように首元に結わえている。
白いエプロンの左前に、桃色のハート型の名札を括り付けている。
サンタミカエラと蜜璃がそれに気付き、椅子に腰掛け直す。
そのメイド姿の店員が、ワゴンを背に、4人がいるテーブルの横に立つ。
そして両手を腰の前で組み、ぺこ、と頭を下げる。
店員「(にこやかに)お待たせいたしました。ご注文の品です」