「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

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我は欣びて、十字架を負わん【第壱章/横濱編】ー8

 店内の空気が割れんばかりに、ビリッ!と震える。

 2階客席の他のテーブルの客たちが、一斉にこちらに目線を向ける。

 サンタミカエラの、感動と歓喜の表情。

 その反応を見て、はち切れそうな笑顔を浮べる蜜璃。

 

蜜璃「(嬉しそうに)でっしょー! 巣蜜とバターがまた格別なの!」

 

 にこにこ、と弾けた笑みのまま、首を縦に振るサンタミカエラ。

 そして、二切れ目を口に運び、パク、と齧り付く。

 蜜璃も負けじと、八分割の一切れを、大きく口を開けて放り込む。

 

サンタミカエラ「(二口目を飲んで)うめェ!」

蜜璃「(一口目を飲んで)美味しい!」

サンタミカエラ「(三口目を飲んで)うめェ!」

蜜璃「(二口目を飲んで)美味しい!」

サンタミカエラ「(四口目を飲んで)うめェ!」

蜜璃「(三口目を飲んで)美味しい!」

 

 まるで競い合いようにパンケーキを切り分け、次々と口の中に詰め込んでいくサンタミカエラと蜜璃。

 その度に、大きな絶賛の声を張り上げる。

 至上の歓び、とばかりに。

 既に、周囲のテーブルからの視線が集中しているのを感じ取っているキリエ。

 ちら、ちら、と周りに視界を飛ばし、困惑の色を隠していない。

 気恥ずかしさが、裡に湧く。

 姿勢を戻し、マグを持ち、湯気の立つミルクを一口含む。

 ゴク、と飲んだ後、パンケーキに齧り付いているサンタミカエラに、目線を送る。

 

キリエ「(ジト目で)・・・前にも同じような場面を見たんだけど・・・」

 

 一拍後。

 サンタミカエラと蜜璃、一段目の最後の一切れを、同時に口腔内に放り込む。 

 そして、同調した動作で、ごっくん!と喉を鳴らすふたり。

 

サンタミカエラ「(凄まじい大発声)うっめェェ!!!」

蜜璃「(凄まじい大発声)美味しいぃぃ!!!」

 

 サンタミカエラ、心底の感嘆の顔で、眦に涙を浮かべている。

 蜜璃、至福の極みと言いた気な、歓びを爆発させたように笑顔を表す。

 キリエ、瞼を瞬かせる。

 サンタミカエラの、本当に嬉しそうな横顔。

 ふ・・・と、キリエの口端が緩む。

 そして、再度同じフロアの方々に目を遣る。

 2階席の各方面から、何事かと問いたそうな目線が届いているのを確認。

 今度は、羞恥心が湧いてこない。

 もう一度、落ち着いた様相で、サンタミカエラに眼差しを結わえるキリエ。

 

キリエ《お腹空かせてたのを付き合わせたから、これくらいはいいわよね・・・》

 

 それから、正面に視線を戻す。

 はっ!と、何かに気付くキリエ。

 小芭内が、右肘を机に乗せ、頬杖を付き、蜜璃の横顔を見詰めている。

 その瞳は、今まで見てきた小芭内の雰囲気ではない。

 

キリエ《(意外そうに)優しい眼差し・・・》

 

 鋭利さ、尖った感じ、ねめつける様子が、まったく存在しない。

 上からでもない、卑下たものでもない、温和そのもの。

 一言では言い表せない、深い、透明で柔らかい眼の光。

 蜜璃に固定された、想いを包括した視線。

 キリエ、思わず小芭内の顔を、じっ、と凝視する。 

 隣のサンタミカエラと、向かいの蜜璃は、今もパンケーキに夢中。

 見る見る減っていく、甘味の塔。

 小芭内、キリエが見ているのに気が付き、目線を向けてくる。

 その時には、以前の通りの据わった眼。

 

小芭内「(訝し気に)何だ?」

 

 何か、楽しみを邪魔されたような、尖った空気を醸す小芭内。

 キリエ、気付かれないほど微かに笑んで、一度、目を伏せる。

 

キリエ「いえ・・・(サンタミカエラと蜜璃に目線を投げ)流石は、煉獄さんの弟子だなぁ、って思って」

小芭内「甘露寺は良く食べるが、煉獄もかなり食べたからな」

 

 キリエ、小さく頷き、再度ミルクを口にする。

 ややあって。

 サンタミカエラと蜜璃、完食。

 カラン、カラン、と食器を皿に置く音が、響く。

 

サンタミカエラ「(ぷはぁ、と満足そうに息をつき)食った食った。すっげー美味かったな!」

蜜璃「(ふふ、と微笑んで)お気に召してもらえて嬉しいわ。私、おかわり頼むけど、ミカエラちゃんは?」

サンタミカエラ「(にっ、と笑って)オレっちも頼むぜ!」

キリエ「ちょっと・・・大丈夫? サンタミカエラ」

 

 思わず制止に入るキリエ。

 勢い余っているか、ノリで注文をするような、サンタミカエラの雰囲気。

 小芭内、短く息を吐き、大きな窓から外へと視線を投げる。

 ピク、と彼の眉が動く。

 少しの間、通りを見下ろし、急に眼の回りを顰める。

 

小芭内「(低い声で)・・・おい、外を見ろ」

 

 キリエ、小芭内と同じように、2階の窓を通して外へと目線を放る。

 通行人を掻き分け、退かし、十数人の法被姿の団体が、港方面より団子になって走って来る。

 何やら、大八車の大きさの、麻の布で覆われた物を転がして運んでいる。

 段々と接近してきて、法被の合わせの文字が読める距離に達する。

 書かれた文字は『石桁組』。

 

キリエ「(鋭い気を込め)あいつら・・・さっきの・・・」

 

 サンタミカエラと蜜璃、その声に振り返る。

 ふたりが窓の外を見下ろしているのを確認すると、ガタ、と椅子を引いて立ち上がる。

 そして、サンタミカエラはキリエの傍らから、蜜璃は小芭内の傍らから、同様に道路に目を向ける。

 

 

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