★ 横濱山下地区・ミルクホール『ピンキヰズ』・正面
港から街中に延びる通り。幅員5メートルほど。
その突き当たりのT字路目掛け、駆け寄って来る男性十数人。
全員が揃いの法被、その下は統一されていない服装。
その団体が、バタバタバタバタ・・・と荒っぽい走りで固まって動いていく。
眉間に皺を寄せ、醜く歪んだ面構え。
男たちに囲まれるように、中央に、大八車のような両輪の台車が、押され、引かれている。
ガラガラガラガラ・・・と、猛烈な勢いで回る車輪。
麻布が被され、紐で周りを括られているので、何が乗っているかは判らない。
通行人たちは驚き、道の左右に離れて道を譲る。
やがて。
真正面に『メイドミルクホール/ピンキヰズ』を確認し、各人が速度を落とす。
全員が脚を停め、台車を、店舗正面扉の4メートルほど手前に置く。
T字路の交差する真ん中、むさ苦しい出で立ちの集団が並ぶ。
一歩前に出てきたのは、新港地区で伸された筈の、組員/弐。
肩で風を切るように、ずい、ずい、と店の玄関前に進む。
組員/弐「(怒声)出て来やがれ! ガキども! この店に入ったのは判ってんだ!」
周辺にいた通行人たち、距離を置き、遠巻きに見ている。
皆が、ざわ、ざわ・・・と物々しい様子で、固唾を飲む。
組員がミルクホールの入口を睨み付ける中、集団の後方から、一名の人物。
他の連中より、少しだけ風格が見受けられる。
法被の下は黒の着物、髪は薄く、生え際がかなり後退している。
年令は、還暦の頃合い。
どうやら、この団体の長らしい。
その男、台車の真後ろに立ち、腕組みをして胸を反らす。
組長「(ドスを効かせた声)子分達が世話になったそうだな! 落とし前付けてもらうぞ! 出て来ねぇとこいつを店にブチ込む!」
組長の周りの組員四人が、紐を解き、覆った麻の布に手を掛ける。
バッサァ!と、思い切り剥がされる布。
そこには、黒光りの武器。
台車と思われたそれは、車輪が直接備わった、兵器。
長さ1メートル強の十門の銃身が環状に配置され、車輪に渡された台座に据え付けられている。
銃身から垂直に装備された、円筒状のロックシリンダーが、どっしりと重厚感を放つ。
その根元、右側横には、クランクが備え付けられている。
居並ぶ銃口が、陽の光を反射させ、ギラ、と殺気を含んで光る。
姿を現した武器を見て、周辺の通行人が騒めく。
組員以外の、路上にいる人々は、距離を取り後退りし始める。
揉め事が起こるのを、察知した様子で。
それらを見回し、勝ち誇ったように、ニヤァ、と歪な嗤いを浮かべる組長。
★ 横濱山下地区・ミルクホール『ピンキヰズ』・2階客席
キリエ、息を飲んで、ガタン!と椅子を鳴らして立ち上がる。
キリエ「(驚いた様子で)ガトリング砲! ジャパンにもあったの!?」
サンタミカエラ、窓ガラス越しに、鋭い目線で組員たちを凝視する。
小芭内、忌々し気に眉を顰め、チッ、と舌打ちをする。
蜜璃、口を結び、奥歯を、ぐっ、と噛み締めている。
小芭内「塵共が。よっぽど痛い目に遭いたいと見える・・・(蜜璃を見て)甘露寺、蹴りを付けるぞ」
蜜璃「(きり、と眉を寄せ)ええ、お店に迷惑掛ける前に、終わらせましょう」
キリエ「(小芭内と蜜璃を見渡し)待って、ふたりは出ないで」
キリエが、真剣な眼を向ける。
小芭内と蜜璃は、キリエに視界を移動させる。
キリエ「しのぶさんが言ってたけど、鬼殺隊って公認されてない組織なんでしょ? 国の政府から認可されてなくても、それでも人々の為に刀を振るって鬼を斃す。そんな鬼殺隊の柱が・・・上位剣士のふたりが、街の人が見ている前で、あんな連中相手の騒ぎを起こすと、後々大変なことになると思う・・・さっき港では、あの因縁付けた連中と仲間くらいだったけど、今は通りすがりの人もいっぱいいる。余りに悪目立ち過ぎるわ」
宙で絡む、目線。
サンタミカエラも、キリエの横顔を見詰めている。
キリエ、右手を胸の前に当て、ぎゅっ、と強く握る。
キリエ「私たちの所為で、これからの鬼殺隊の活動に影響が出るかも知れない・・・それじゃ、恩を仇で返すようなもの・・・右も左も判らないジャパンで、いろいろと親切にしてもらったのに、そうなったら余りに申し訳ない・・・」
声に仄かな湿り気が包括される。
一度顔を見合わせ、少し身体の力を緩める、小芭内と蜜璃。
ふたり、それから改めて、キリエに目線を注ぐ。
何度も頷き、小芭内と蜜璃に身体を向け、腕組みをするサンタミカエラ。
キリエ「最初に揉め事に巻き込んでしまって、今更だけど・・・(真摯な表情で)後は、私たちで終わらせる」
サンタミカエラ「(真剣な声質で)だな。もともとこの喧嘩は、オレっちが言い返したんで売られたモンだ。さっき奴ら『ガキども』って言ってたな。狙いはオレっちとキリエだろうよ。これ以上アネキたちに迷惑掛けらんねェ。折角うめェモン食わせてくれた店にも、指一本触れさせねェ。(キリエに視線を送り)オレっちは正面から出る。雑魚は任せろ。てめェは親玉とガトリング砲黙らせてくれ」
キリエ「(こく、と頷き)ええ、私はここから仕掛ける」
サンタミカエラ、屈み込み、テーブルの下に置いたボストンバッグに手を伸ばす。
ジッパーを開け、中からナックルダスター装備の耐電グローブを一組取り出す。
素早く両手に嵌め、電夾を左右3本ずつ、チャッ、チャッ、とテンポ良く差し込む。
キリエ、同時並行で、椅子の後ろに置いたトロリーケースを開け、長いカートリッジを出す。
立て掛けてある仕込み傘の柄に、ジャギッ!と装填。
そして右手に持ち、左手を窓の留め具に伸ばす。
小芭内「相手は兵器だ。傘で闘うつもりか?」
キリエ「(頷いて)そうよ。アメリカではずっとそうだった。吸血鬼でも、人でも、ね」
蜜璃「(ふたりを交互に見て)無理しないで、キリエちゃん、ミカエラちゃん」
サンタミカエラ「(にっ、と笑い)心配いらねェよ、アネキ。戻って来たらパンケーキのおかわり貰うぜ」
くるっ、と身体を返し、背を見せるサンタミカエラ。
右拳で左掌を、パァン!と打ち、自信に満ちた不敵な笑みを浮かべる。
そして床を、タッ、と蹴り、螺旋階段へと歩を進める。
他の2階の来店客も、店の前の物々しさに気付いた模様。
喧噪が、大きくなってくる。
ざわ・・・ざわ・・・と波打つように広がり、やがてホール全体を覆っていく。
それを背後に、窓から下に、刺すような視線を投げるキリエ。
赫い瞳が、鮮やか光を帯びる。