「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

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我は欣びて、十字架を負わん【第壱章/横濱編】ー9

★ 横濱山下地区・ミルクホール『ピンキヰズ』・正面

 

 港から街中に延びる通り。幅員5メートルほど。

 その突き当たりのT字路目掛け、駆け寄って来る男性十数人。

 全員が揃いの法被、その下は統一されていない服装。

 その団体が、バタバタバタバタ・・・と荒っぽい走りで固まって動いていく。

 眉間に皺を寄せ、醜く歪んだ面構え。

 男たちに囲まれるように、中央に、大八車のような両輪の台車が、押され、引かれている。

 ガラガラガラガラ・・・と、猛烈な勢いで回る車輪。

 麻布が被され、紐で周りを括られているので、何が乗っているかは判らない。

 通行人たちは驚き、道の左右に離れて道を譲る。

 やがて。

 真正面に『メイドミルクホール/ピンキヰズ』を確認し、各人が速度を落とす。

 全員が脚を停め、台車を、店舗正面扉の4メートルほど手前に置く。

 T字路の交差する真ん中、むさ苦しい出で立ちの集団が並ぶ。

 一歩前に出てきたのは、新港地区で伸された筈の、組員/弐。

 肩で風を切るように、ずい、ずい、と店の玄関前に進む。

 

組員/弐「(怒声)出て来やがれ! ガキども! この店に入ったのは判ってんだ!」

 

 周辺にいた通行人たち、距離を置き、遠巻きに見ている。

 皆が、ざわ、ざわ・・・と物々しい様子で、固唾を飲む。

 組員がミルクホールの入口を睨み付ける中、集団の後方から、一名の人物。

 他の連中より、少しだけ風格が見受けられる。

 法被の下は黒の着物、髪は薄く、生え際がかなり後退している。

 年令は、還暦の頃合い。

 どうやら、この団体の長らしい。

 その男、台車の真後ろに立ち、腕組みをして胸を反らす。

 

組長「(ドスを効かせた声)子分達が世話になったそうだな! 落とし前付けてもらうぞ! 出て来ねぇとこいつを店にブチ込む!」

 

 組長の周りの組員四人が、紐を解き、覆った麻の布に手を掛ける。

 バッサァ!と、思い切り剥がされる布。

 そこには、黒光りの武器。

 台車と思われたそれは、車輪が直接備わった、兵器。

 長さ1メートル強の十門の銃身が環状に配置され、車輪に渡された台座に据え付けられている。

 銃身から垂直に装備された、円筒状のロックシリンダーが、どっしりと重厚感を放つ。

 その根元、右側横には、クランクが備え付けられている。

 居並ぶ銃口が、陽の光を反射させ、ギラ、と殺気を含んで光る。

 姿を現した武器を見て、周辺の通行人が騒めく。

 組員以外の、路上にいる人々は、距離を取り後退りし始める。

 揉め事が起こるのを、察知した様子で。

 それらを見回し、勝ち誇ったように、ニヤァ、と歪な嗤いを浮かべる組長。

 

 

★ 横濱山下地区・ミルクホール『ピンキヰズ』・2階客席

 

 キリエ、息を飲んで、ガタン!と椅子を鳴らして立ち上がる。

 

キリエ「(驚いた様子で)ガトリング砲! ジャパンにもあったの!?」

 

 サンタミカエラ、窓ガラス越しに、鋭い目線で組員たちを凝視する。

 小芭内、忌々し気に眉を顰め、チッ、と舌打ちをする。

 蜜璃、口を結び、奥歯を、ぐっ、と噛み締めている。

 

小芭内「塵共が。よっぽど痛い目に遭いたいと見える・・・(蜜璃を見て)甘露寺、蹴りを付けるぞ」

蜜璃「(きり、と眉を寄せ)ええ、お店に迷惑掛ける前に、終わらせましょう」

キリエ「(小芭内と蜜璃を見渡し)待って、ふたりは出ないで」

 

 キリエが、真剣な眼を向ける。

 小芭内と蜜璃は、キリエに視界を移動させる。

 

キリエ「しのぶさんが言ってたけど、鬼殺隊って公認されてない組織なんでしょ? 国の政府から認可されてなくても、それでも人々の為に刀を振るって鬼を斃す。そんな鬼殺隊の柱が・・・上位剣士のふたりが、街の人が見ている前で、あんな連中相手の騒ぎを起こすと、後々大変なことになると思う・・・さっき港では、あの因縁付けた連中と仲間くらいだったけど、今は通りすがりの人もいっぱいいる。余りに悪目立ち過ぎるわ」

 

 宙で絡む、目線。

 サンタミカエラも、キリエの横顔を見詰めている。

 キリエ、右手を胸の前に当て、ぎゅっ、と強く握る。

 

キリエ「私たちの所為で、これからの鬼殺隊の活動に影響が出るかも知れない・・・それじゃ、恩を仇で返すようなもの・・・右も左も判らないジャパンで、いろいろと親切にしてもらったのに、そうなったら余りに申し訳ない・・・」

 

 声に仄かな湿り気が包括される。

 一度顔を見合わせ、少し身体の力を緩める、小芭内と蜜璃。

 ふたり、それから改めて、キリエに目線を注ぐ。

 何度も頷き、小芭内と蜜璃に身体を向け、腕組みをするサンタミカエラ。

 

キリエ「最初に揉め事に巻き込んでしまって、今更だけど・・・(真摯な表情で)後は、私たちで終わらせる」

サンタミカエラ「(真剣な声質で)だな。もともとこの喧嘩は、オレっちが言い返したんで売られたモンだ。さっき奴ら『ガキども』って言ってたな。狙いはオレっちとキリエだろうよ。これ以上アネキたちに迷惑掛けらんねェ。折角うめェモン食わせてくれた店にも、指一本触れさせねェ。(キリエに視線を送り)オレっちは正面から出る。雑魚は任せろ。てめェは親玉とガトリング砲黙らせてくれ」

キリエ「(こく、と頷き)ええ、私はここから仕掛ける」

 

 サンタミカエラ、屈み込み、テーブルの下に置いたボストンバッグに手を伸ばす。

 ジッパーを開け、中からナックルダスター装備の耐電グローブを一組取り出す。

 素早く両手に嵌め、電夾を左右3本ずつ、チャッ、チャッ、とテンポ良く差し込む。

 キリエ、同時並行で、椅子の後ろに置いたトロリーケースを開け、長いカートリッジを出す。

 立て掛けてある仕込み傘の柄に、ジャギッ!と装填。

 そして右手に持ち、左手を窓の留め具に伸ばす。

 

小芭内「相手は兵器だ。傘で闘うつもりか?」

キリエ「(頷いて)そうよ。アメリカではずっとそうだった。吸血鬼でも、人でも、ね」

蜜璃「(ふたりを交互に見て)無理しないで、キリエちゃん、ミカエラちゃん」

サンタミカエラ「(にっ、と笑い)心配いらねェよ、アネキ。戻って来たらパンケーキのおかわり貰うぜ」

 

 くるっ、と身体を返し、背を見せるサンタミカエラ。

 右拳で左掌を、パァン!と打ち、自信に満ちた不敵な笑みを浮かべる。

 そして床を、タッ、と蹴り、螺旋階段へと歩を進める。

 他の2階の来店客も、店の前の物々しさに気付いた模様。

 喧噪が、大きくなってくる。

 ざわ・・・ざわ・・・と波打つように広がり、やがてホール全体を覆っていく。

 それを背後に、窓から下に、刺すような視線を投げるキリエ。

 赫い瞳が、鮮やか光を帯びる。

 

 

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