★ 横濱山下地区・ミルクホール『ピンキヰズ』・正面
バァン!と、両手で勢い良く、観音開きの扉を押すサンタミカエラ。
歩行の勢いを緩めることなく、店舗前に登場する。
扉が左右に一度完全に開放され、反動で戻って閉じていく。
サンタミカエラ、T字路の交差点に集まった団体を、見回す。
揃いの『石桁組』の法被を着た人数は、十二人。
中央、ガトリング砲の後ろに立つ組長以外は、眉を歪め、への字に口を曲げて眼を据えている。
その中から、ズズイッ、と摺り足で出て来る、組員/弐。
サンタミカエラをここぞとばかりに睨み、顎を突き出す。
組員/弐「(濁った声で)テメーひとりか? 他はどーした?」
組員/弐を見て、はん、と鼻で笑って、呆れた表情になるサンタミカエラ。
サンタミカエラ「(煽るように)おや? 骨折してたんじゃねェのか? 随分元気そうだな」
ピキッ、と額に青筋を立てる組員/弐。
徐に、懐に右手を突っ込む。
それが合図のように、一斉に他の組員も法被の内側に手を入れる。
握って取り出した、リボルバー式の短銃。
組長以外の全組員が次々と構え、カチ、カチン、と撃鉄を起こしていく。
十一丁の銃口が、サンタミカエラに照準を向ける。
組員/弐、怒りの余り、プルプル・・・と震えながらも銃を突き出す。
組員/弐「(口を全力で歪め)・・・ブッ殺す」
サンタミカエラ、がっかりしたような顔。
腰に両手の甲を当て、肩を落とし、はああ・・・と全力の溜め息。
サンタミカエラ「・・・ガトリングの挙句に、全員銃持ちかよ。入念なこったな」
顔を上げ、きり、と眉を引き締めるサンタミカエラ。
短銃で狙われていても、兵器を向けられていても、怯んだ気配はない。
むしろ、威風堂々としている。
組長、ガトリング砲のクランクを右手で握り、両足を踏ん張って立つ。
十門の銃口が、殺意を含んでミルクホールを標的にしている。
組長「(威張った声で)怖くねぇのか、ガキ。このガトリングで店ごと蜂の巣にしてやって・・・」
直後。
黒い、影。
何かの影が、ガトリング砲の上に被さる。
組長「(ハッ、と上を見上げ、思わず)・・・え?」
組長が上空に顔を向け、気付いた残りの組員も同じ動作。
2階客席の窓が上に引き上げられて、開放された位置から、更に上。
膝を抱えるような姿勢で、くるっ、と前転している、黒い衣服の姿。
キリエが、跳ぶ。
仕込み傘を右手に、窓枠を蹴って宙を舞う。
ふわっ・・・と、重力を断ち切ったかの如く、軽やかに、羽根のように。
スカートから伸びる白い肌の太腿が、黒い服とのコントラストで鮮やかに映える。
両脚が、綺麗な円の、縦の軌道を描く。
全組員、驚嘆。
我を忘れたように、目が釘付けになる。
組員/弐「(上擦った声)おおっ!?」
キリエ、ガトリング砲の先端、銃口が並ぶ位置に、スト・・・と着地。
バレリーナのように、ブーツの先で爪先立ちに。
視線が、キリエのみに集中。
途端。
靴底を乗せ、身体を屈め、ズザッ!と、砲身の上を一気に加速して滑るキリエ。
滑り台を降りるように、ガトリング砲銃口からシリンダー付近まで。
キリエの赫い瞳が、透過の光を直線で残す。
静から、一瞬で動に切り替えた動き。
半拍に満たない時間で、距離を詰める。
眼前のキリエに、思わず全身を硬直させる組長。
全組員が声を上げるより速く、キリエの傘が翻る。
くるっ!とバトンのように下から回転させ、クランクを握る組長の腕を狙う。
バシイッ!と右手が跳ね上げられ、クランクから手をひっぺ剥がされる組長。
痛みよりも、キリエの動きに唖然とした、彼の顔。
キリエ、間髪を入れない。
ロックシリンダーに左足を、タン!と乗せて踏み付け、右足は砲身に乗せたまま。
ガシャコッ!と仕込み傘のレバーを起こして、戻し、リロードさせる。
そして、ライフルと同様に構え、石突を組長の眉間に突き出す。
そこまでで、漸くキリエが動きを停止させる。
全組員が、ざわつく。
キリエの持っている傘が武器であることに、気が付いた模様。
組長、凍て付いている。
彼の眉間の真ん前、10センチほどの位置に、銃口が見える。
傘の石突の形状の、弾丸の射出口が、こちらを狙う。
仕込み傘の延長線上、照準を合わせるキリエの、両眼。
血のような、赫。
陰を落とした彼女の顔に、爛々と光を放って浮かび上がる。
ゾワアッ!と、全身が総毛立つ組長。
ブワアッ・・・と、額から、顔から、全身から冷や汗が垂れ、皮膚を湿らせる。
死を突き付けられた如き、恐怖。
目線も、眉ひとつも動かせない。
組長、身体を凝固させた状態で、ガタガタガタ・・・と小刻みに震え始める。
キリエ「(殺気を込めて)お店に一発でも撃ったら、この人の脳味噌を撃ち抜くわ!」
姿勢を保持したまま、左右に素早く視線を投げるキリエ。
他の組員が、我に返ったように、行動。
腕を振り、サンタミカエラに向けていた短銃を、一斉にキリエに向ける。
キリエと組長がいる位置へ、十一丁の銃口が照準を置く。
組員/弐「(怒声)てめー! 舐めんじゃねぇ!」
組長「(焦って、悲鳴に近い大声)待て待て! 撃つな撃つな! 俺にも当たる!」
その声と、並行して。
サンタミカエラ、ゴーグルを下げ、右足を引き、脇を締め、拳を握り、腰を落とす。
上半身を前傾に、顔を伏せ、目を閉じ、歯を食い縛る。
口の両端から、しいいぃぃぃぃ・・・と深い息を漏らす。
サンタミカエラ「(唸るような声)全集中・・・閃の呼吸・・・」
太腿が、パン、と張り、彼女の周囲の空気が、ビリッ、と震動。
ゆらあっ・・・とオーラ状の光の帯が、足元から昇り立つ。
一拍後。
カッ!と両眼を見開くサンタミカエラ。
サンタミカエラ「(突き上げるような大発声)伍ノ型! 電龍!!!」
瞬間。
ズッドオオオォォォォンンン!!!と、爆発音。
T字路の全域が、純白光に満たされる。
ひとつ、サンタミカエラのいた位置から、右斜め前に閃光が走駆。
ガトリング砲の周囲、右端の組員を飲み込み、炸裂。
最初に喰らった組員が、グルン!とその場で側転。
ふたつ、光の束は蜷局を巻き、一気に縦の帯を成し、左方向へと疾走。
地面から、何かの刃物が突き出したような形状で。
三つ、次々と銃を構えた組員に激突し、その度に稲光が湧く。
ある組員は、悲鳴を上げる間もなく、その場で地面に顔から叩き付けられる。
ある組員は、全身を錐揉みに、独楽のように回転させて吹っ飛ばされる。
ある組員は、顎を割られ、真上に跳ね上げられる。
それらの男たち全員が、銃を持つ手を弾かれ、打たれ、武器を離している。
四つ、光の刃は、ガトリング砲の後方の数人を、薙ぐ。
顔が固まった組長の後ろの空間を、見下ろしているキリエ。
目の前を撃ち抜く、蒼白いプラズマ。
白色の光の回りに纏わり、バリバリバリッ!と猛烈な放電をばら撒く。
五つ、それは更に、左方面の組員たちを丸飲みにし、稲妻を発生させる。
左端の、十一人目の組員まで餌食となった、瞬間。
光の軌跡が、龍の姿となって具現化。
まるで、龍が降臨し、組員たちに神罰を下したが如く。
その龍の現れた先、左奥に、サンタミカエラの姿。
ゴーグルをしたまま、腰を落とし、しいいぃぃぃぃ・・・と深い息を、歯の隙間から吐いている。
ガトリング砲に身体を向けており、既に次の攻撃の体勢。
発動からここまで、僅か3秒。
爆音の余韻が、残留している時間で。
サンタミカエラの身体を、ゆら、と湯気のような気が覆う。
キリエ、目を正円にして、彼女を見詰めている。
キリエ《(感嘆して)凄い・・・一瞬で・・・》
光の龍が、霞ながら姿を消す。
路上には、十一人の組員が、伏す。
全員が銃を弾き飛ばされ、全身に何らかの打撃、衝撃、電撃を当てられ。
白目を剥いて、気を失っている者、八名。
意識はあるが、ピク、ピク、と身体を痙攣させ、藻搔いている者、三名。
様子を窺っていた周囲の通行人たちも、物陰から茫然とした表情。
誰も、声を立てられない。
少しの、静寂。
ややあって。
組長、周囲を見渡し、顔面蒼白。
キリエに銃を突き付けられたまま、一層、身震いを強める。
組長「(泣きそうな声)な・・・何だ今のは!?」
キリエが左足をロックシリンダーに乗せたまま、右足を浮かせる。
半拍後。
ブン!と凄まじい勢いで、後方から下回転で前方に振り抜かれる右脚。
爪先が、組長の顎を強襲。
ドバギッ!と、骨が軋む激突音。
そのまま右足を真上から後方に、縦回転し、身体をバク転させるキリエ。
見事な、サマーソルトキック。
組長、顔の下半分を潰され、跳ばされ、後方に倒れていく。
キリエ、宙を回転しながら、転倒していく組長に向け、重心を移す。
ドザッ・・・と、路上に背後から落ちる組長。
その腹の辺りに、スタン、と足を広げて着地するキリエ。
倒れた組長を跨いで見下ろし、改めて仕込み傘を構える。
銃口の軸線上、キリエの両眼。
ギラッ・・・と深く鋭い、赫い光。
問答無用で命を獲らんとする、覇気の彩。
組長、地面に寝たまま、キリエの両目を再度見て、顔を歪める。
歯が割れた口から、血が滴って流れ出ている。
組長「(怯え)ヒイッ!」
キリエ「(顔に影を落とし、低音の声で)ガトリング置いて今すぐ帰って。二度と来ないで」
ずいずいずい、と尻を地に着けた状態で、キリエから距離を取る組長。
そして、残る力を振り絞るように立ち上がり、駆け出す。
足をばたつかせ、空を掻くように手を動かし、一目散に。
他の、意識がある三人の組員が、続く。
組員/弐「(瘦せ我慢の声色)お・・・覚えてやがれぇッ!」
満身創痍の四人の法被姿が、港への道を疾駆。
その後ろ姿は、威張りも、尊大も何もない、ただの負け犬。
遥か遠くに足音が去り、見えなくなる。
一旦、落ち着いた空気になる、T字路。
一部始終を見ていた通行人たちも、騒めきを取り戻す。
キリエ、仕込み傘を体側に下ろし、サンタミカエラに近付く。
サンタミカエラ、ゴーグルを額に上げ、キリエに近付く。
今も鎮座するガトリング砲の横で、向かい合うふたり。
キリエ「(感嘆した声で)さっきの技、凄かったわね。煉獄さんから教わったの?」
サンタミカエラ「(にかっ、と歯を見せて笑って)アニキから教わった全集中の呼吸に、オレっちの技を組み込んだんだ。型の構成とかは一緒に考えたけど、名前はアニキが付けてくれた。(得意そうに)凄ェだろ?」
キリエ「(大きく頷いて)ええ、速くて見えなかった」
更に、にっこぉ、と満面の笑みになるサンタミカエラ。
目を細め、至上の嬉しさとばかりに。
直後。
ガチャッ、とミルクホールの正面の扉が開き、小芭内と蜜璃が登場。
真っ直ぐに、ふたりに歩み寄って来る。
蜜璃は驚いた表情で、小芭内は冷静さを保った顔で。
小芭内「(据えた目線で)まさかとは思ったが、全集中を使えるとはな。電撃が出てたが、雷の呼吸とは違う。どんな理屈だ?」
サンタミカエラ「(チャキッ、とグローブの電極を鳴らし)このナックルダスターと電夾で技を出す。全集中の呼吸と、全身の動きと同時にな」
蜜璃「(驚いたまま)じゃあこれって、炎の呼吸の派生なの?」
サンタミカエラ「ああ。アニキが『閃の呼吸』って名前付けてくれた」
蜜璃「(目を瞬かせ)ひらめき?」
キリエ「貴方の二つ名が『閃姫』だものね」
蜜璃「(笑顔になり、はしゃいだ口調で)すっごーい! 私とミカエラちゃん、派生でも姉妹なんだ!」
サンタミカエラ「(嬉しそうに)おう!」
突然。
ピピィ―――ッ・・・と、何処かしらか聞こえてくる、高周波の音。
キリエ、サンタミカエラ、蜜璃、顔色を変え、周囲を見回す。
キリエ「(眉を顰め)・・・笛?」
小芭内「官憲か・・・騒ぎになるぞ」
小芭内も同様に周りを見ているが、落ち着き払っている。
一拍の、後。
ギイッ、と店舗の入口を開け、ひとりの男性が出て来る。
細い眼に、眼鏡。チョビ髭。黒の蝶ネクタイにベストの、執事姿。
4人の視線が、集まる。
蜜璃「(少し驚いた声で)店長さん!?」
店長「(急いた声色)皆さん! 中へ! 早く!」
一瞬、互いに顔を見合わせ、即座に踵を返す、4人。
店舗内に姿が吸い込まれ、バタン・・・と両開きの扉が閉まる。
後には、物言わぬガトリング砲と、気絶した組員たち、野次馬の喧噪、走って来る官憲の足音が残される。