「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

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我は欣びて、十字架を負わん【第壱章/横濱編】ー11

★ 横濱山下地区・ミルクホール『ピンキヰズ』・1階

 

 店舗1階の客席の視線が、外部と、今しがた入ってきた5人を交互に往復している。

 玄関前の騒動に、全員が気が付いている模様。

 その中、ホール中央の螺旋階段の近くに、くるりが立っている。

 彼の横には、キリエのトロリーケースと、サンタミカエラのボストンバッグが置かれている。

 店長がくるりと肩を並べ、向かい合ってキリエたち4名が横並びに揃う。

 

店長「騒ぎに巻き込まれる前に、裏口から出て下さい。後は私たちがやっておきます」

キリエ「でも、それじゃ・・・」

店長「石桁組は、横濱じゃ悪名以外聞こえてこない連中ですからね。この店も随分脅された。(表を見て)あんな兵器まで引っ張り出して、物証もある。官憲にとっちゃガサ入れのいいネタです。(キリエとサンタミカエラを見て)お嬢様方が上手く立ち回ってくれました。ありがとうございました。(くるりを見て)くるりちゃん、皆さんを案内して」

くるり「(頷いて)はい、店長。(4人を見回し)こちらです!」

 

 すいっ、とスカートの襞を翻し、くるりが半身になって、店の奥を左手人差し指で示す。

 一瞬、4人の目線が、宙で絡み合う。

 間を置かず。

 ほぼ同時に、こく、と頷きを交わす、4名。

 キリエはトロリーケースの引手を握り、サンタミカエラはボストンバッグを取り上げる。

 くるりが先行し、床を蹴る。

 小芭内とキリエが続き、蜜璃とサンタミカエラが追従。

 脚を運びながら、顔を店長に向ける蜜璃とサンタミカエラ。

 

蜜璃「ごめんなさい店長さん! ご迷惑をお掛けしました!」

店長「いいえ! 迷惑どころか、店を護って頂けたんです! ありがとうございました! それに、甘露寺さんにはいつも贔屓にしてもらってますからね! お代は結構ですよ! お気を付けて!」

サンタミカエラ「パンケーキ美味かったぜ! また来るからな!」

 

 笑顔で右手を肩の辺りまで差し上げ、左右に振る店長。

 それから、両手を前で組み、深々と頭を下げる。

 店舗奥、厨房横の扉が開き、くるり、小芭内とキリエ、蜜璃とサンタミカエラの順でくぐる。

 扉が、パタン、と閉まる音を確認し、キュッ、と靴を鳴らして踵を返す店長。

 そのまま正面玄関扉を開け、堂々とした足取りで、外へと出て行く。

 

 

★ 横濱山下地区・ミルクホール『ピンキヰズ』・裏口

 

 T字路から一区画山側の、大き目の通りに面して、店舗の横幅分、5メートルほどの奥行きの空き地。

 『ミルクホール/ピンキヰズ』の裏口がある、地面がモルタル打ちの場所。

 木箱や、空になったミルクタンクが整然と積まれ、並ぶ。

 5名が、円となって立ち、身体を向け合っている。

 くるり、目の前の路地を、右手人差し指で差す。

 

くるり「この道路を左方面に行けば、中華街朝陽門が左前に見える交差点があります。そこを右に折れ、中華街を回り込むように真っ直ぐ進むと、今度は朱雀門があります。門をくぐると川があって、橋を渡ると、港から反対の山手地区に出られます。お気を付けて」

蜜璃「(申し訳なさそうに)本当にごめんね、くるりちゃん。落ち着いたら、また来るからね」

サンタミカエラ「(申し訳なさそうに)オレっちの後始末押し付けるのは気が重いけど、後は頼んだ」

くるり「(笑顔で)ご心配なく。任せて下さい」

 

 キリエ、一旦屈んで、トロリーケースの蓋を、パチ、と外す。

 右手を中に突っ込み、少し、ゴソ、とさせた後、右腕を抜き、起立する。

 握られていたのは、一丁のリボルバー銃。

 鈍い鉄色、茶色のフレア状グリップ。貫通式チャンバー。

 銃創を覗き込み、それから持ち替え、グリップ側をくるりに差し出すキリエ。

 

くるり「(驚いて)銃?・・・ボクに?」

キリエ「せめてものお詫びで置いておくわ。持ってきたけど、浄銀弾が装填出来ないので私は使わないから。いざという時は使って。口径は22、装弾数7、シングルアクション。装填はしてある」

 

 僅かの、間の後。

 徐にグリップを右手で握り、短銃を受け取るくるり。

 左手で弾倉を、チャキッ、と回転させ、じっ、と凝視している。

 妙に落ち着いた、静かな表情。

 まるで、かつて扱った経験があるような、冷静な雰囲気。

 暫く、銃を見詰めるくるり。

 顔を上げ、柔らかく笑みを浮かべ、少し困ったように眉を下げる。

 

くるり「使う機会がなければ、それが一番ですけどね」

 

 やがて。

 小芭内、ミルクホールの建屋を挟んだ通りが、騒めいているのを察知。

 蜜璃、キリエ、サンタミカエラを見回し、ざっ、と踵を返す。

 

小芭内「(重めの声で)行くぞ」

 

 4人、同時に路面を蹴る。

 店舗裏から、一斉に道路へ駆け出し、左側へと進路を取る。

 くるり、手にした銃を、背中のエプロンの結び紐に差し込む。

 全員がこちらに視線を残している間に、両手を腰の前で重ねて握る。

 

くるり「(にこ、と笑顔で)いってらっしゃい、ご主人様、お嬢様方」

 

 くるりが深々と頭を下げ、それが建物の陰で見えなくなる。

 気を張るように、4名の表情が引き締まり、脚が速度を増す。

 キリエの引くトロリーケースの、ゴロゴロゴロ・・・という車輪の音が鳴り響く。

 暫く、走駆。

 尚も、走駆。

 眼前の進行方向には、まばらに通行人が行き交っている。

 その、上空。

 すいーっ・・・と、黒い小さな影が、飛行。

 一羽の鴉が、前方から一気に、こちらに向かって斜めの軌道で滑空してくる。

 

雌鴉「蜜璃チャン!」

蜜璃「(はっ、と上を見上げ)麗ちゃん! おいで!」

 

 4人が、自然と速度を落とし、やがて立ち止まる。

 蜜璃が左手を差し上げ、左下腕を地面と水平にする。

 一息の後、彼女の腕を止まり木に、鴉が着地。

 キリエとサンタミカエラ、間近の鴉を、じっ、と見詰める。

 小芭内、腕組みをして、鴉を凝視する。

 

キリエ「この鴉・・・甘露寺さんが来る前に来た・・・」

サンタミカエラ「アネキの鴉か?」

蜜璃「そうなの! 紹介するわ。名前は『麗』ちゃん!」

麗[鎹鴉]「(恥ずかし気に)ヨ、ヨロシクネ」

 

 右羽根で顔を隠し、俯く麗。

 山羊のような横長の瞳、羽根は艶やかに光る。

 頭に鶏冠のような三つ葉型の装飾を、嘴の下、顎に当たる位置で蝶結びにして紐付け。

 

キリエ「(珍しそうに)冠を付けた鴉は初めて見たわ。お洒落ね」

蜜璃「でしょう? 素敵な子なのよ!」

小芭内「(落ち着いた声で)次の御下命か?」

 

 麗、思い出したように、バッ、と羽根を下ろす。

 

麗[鎹鴉]「(思い切ったような発声)指令ヨ! 指令! 蜜璃チャン! 蛇柱様! 鬼ノ娘キリエ! ソノ共サンタミカエラ! 全員デ煉獄家ニ向カッテ!」

 

 途端。

 キリエとサンタミカエラ、両目を大きく見開き、息を飲む。

 暫く、そのまま。

 尚も、間。

 同時に、ゆっくりと、何かを取り戻すような様子で呼吸を再開する、ふたり。

 

キリエ「(唖然として)・・・煉獄家って・・・」

サンタミカエラ「(茫然として)まさか・・・アニキの家?・・・」

 

 蜜璃と小芭内、視線を結んでいる。

 双方、真剣な顔。言葉を発さず、ただ互いの瞳から目を逸らさず。

 

 

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