「キリエ~吸血聖女~」二次創作読み物   作:桁石スミオ

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我は欣びて、十字架を負わん【第壱章/横濱編】ー13

★ (同時刻)横濱税関新港埠頭保税倉庫(赤レンガ倉庫)付近

 

 赤レンガ第一倉庫前の広場、その端にある小屋の前。

 カンテラの灯りを囲んで、四人の男性が、木箱を椅子代わりに座っている。

 紺色の揃いの法被姿。『石桁組』の組長と組員三名。

 全員が、身体の何処かしらに包帯を巻き付け、顔を突き合わせて腰を下ろす。

 組長は顎に包帯、血が滲んでおり、痛そうな顔。

 他の組員もあちこちに怪我をしている様相。

 四人は項垂れ、無言で煙草を燻らせ、何度も溜め息を吐いている。

 

組員/弐「(組長を見て)・・・これからどうするんですかい、組長」

組長「(苛ついた声で)うるせぇ! これからのこたぁこれから考えるんだよ! テメーらも考えろ!」

 

 三名の組員、肩を窄め、一際大きな嘆息を漏らす。

 組長は、一度煙草を咥え、ふーっ、と煙を吹く。

 それから身体を縮ませ、ブルッ、と震える。

 

組長「(思い出して、ゾッ、としながら)あの赫い目ん玉のガキ・・・人間じゃねぇな・・・」

組員/弐「(ごく、と生唾を飲み)噂に聞いたことがあんですが、あれが『鬼』って奴じゃねぇですか?」

青年「(闇の奥から、響く声で)鬼がどうかしましたか?」

 

 ビクッ、と四人が声のした位置に目線を投げる。

 新港橋の方向から、カツ、カツ、カツ・・・と靴音。

 漆黒の闇から、カンテラの灯りが届く範囲へと現れた、人影。

 波打った黒い短髪、長身、眉目秀麗の青年。

 肌が蒼白く、両眼は紅梅色、瞳孔が猫のように縦に長い。

 白いボルサリーノハット、漆黒のシャツ、真っ白いネクタイ。

 黒地で襟に柄が入っているジャケット、純白のスラックス、革靴。

 綺麗な形の眉を下げ、穏やかで、落ち着いた雰囲気。

 四人が座っている箇所の2メートルまで近寄り、立ち止まる。

 その顔を見た途端、ガトン、と木箱を鳴らし、組長が弾かれたように立ち上がる。

 吸っていた煙草を足元に落とし、草履で踏んで消す。

 腰を屈め、両手を身体の前で合わせ、揉み手をするような態度。

 他の三名も煙草を消し、起立し、青年に向き直る。

 

組長「(機嫌を窺うように)こ、これは社長! 月彦様! 如何なされました?」

月彦「取引が予定より早く終わったのでしてね、久し振りの港街を散策していたのですよ。それより・・・(一段低い声で)今、鬼、とか言ってましたか?」

組長「(言い澱んで)い、いえ、よく解らねぇんですが・・・」

 

 組長、チラ、と他の組員に目配せする。

 戸惑った様子で、視線を行き交わせ、再度青年に目線を送る。

 

組長「お恥ずかしい話、実は今日、ある娘と諍いがありまして・・・真っ黒い服に、銃を仕込んだ傘を使う娘でして、とんでもねぇ身体能力だったんですよ。しかも両目が血のように真っ赫で・・・」

組員/弐「で、ありゃあ人間じゃねぇ、噂に聞く『鬼』って奴じゃねぇですか、って・・・」

月彦「(関心したように)ほお・・・」

 

 口角を上げ、静かな笑みを浮かべる月彦。

 両手を身体の背面に回し、後ろ手に組み、四人を見渡す。

 

月彦「皆さん、ご覧になったのですか? その『鬼』の娘を」

組長「(何度か頷き)え、ええ、ここにいる全員・・・」

 

 次の、瞬間。

 ヒュッ!と、裂空音。

 月彦と、四名の男性の間の空域が、真横に払われる。

 高さは、全員の頸の辺り。

 

組長「(絶句して)・・・え?」

 

 目の前で、右手人差し指と中指を尖らせ、右腕を水平に振り切った格好で立つ、月彦。

 気が付かない内に、左に振り被って、一瞬で真横に薙いだ模様。

 月彦は、顔に陰を下ろし、両眼を爛々と輝かせている。

 何が起きたのか、判らない。

 少しの、間。

 数拍後。

 ブッシャアアアッッ!!!と、四人の男性の頸から、血が噴き出す。

 全員の喉仏の辺りが抉られ、パカァ、と皮膚が上下に割れる。

 グルン、と目が反転し、ドサ・・・ドサ・・・と時間差で倒れていく、組の者。

 石畳に臥した内、二名からは呼吸音がしない。

 即死したらしい。

 残す二名、組長と組員/弐、ビクン、ビクッ、と身体を痙攣させている。

 月彦、右手を下げ、そのふたりを見下ろしている。

 両の瞳の周囲の血管が、地割れのように奔る紋様に変化。

 その眼光は、氷点下。

 塵か虫を見ているかの如き、冷酷。

 

組員/弐「(苦悶の顔)ウ・・・ウガァ! ガアッ!」

組長「(苦悶の顔)ガハァ・・・ガァ!」

 

 組長と組員/弐が、身体を捩らせ、路面を藻掻く。

 息はあるが、風体が急変。

 皮膚が硬質化、眼球が黒色、瞳が濁った金色、額に血管が浮き出る。

 

月彦「(低く、冷めた声)4人中、ふたりか・・・残った方だな・・・」

 

 暫くして、変化が治まり、身体を起こす組長と組員/弐。

 その姿は『鬼』。

 当たり前のような動きで、石畳の上に正座をする二名。

 月彦、右手人差し指を、自分の右側こめかみに当てる。

 

月彦「今のお前らには、見えるだろう? これは私が鬼にした者が最後に見た記憶だ」

 

【イメージ映像】

 

 背景奥に、森が見える。

 足元は、枯れ山の頂上付近。

 キリエは、ずっとこちらを見ている。

 対峙距離、2メートル前後、斜め上から。

 山頂の縁に、真っ直ぐ立って視線を向けている。

 眉を顰め、苦しそうに荒い呼吸をしている。

 

【イメージ映像終了】

 

月彦「この娘・・・黒い服に、傘、赫い眼・・・お前らが見たのは、こいつか?」

 

 虚ろな表情で、組長[鬼]と組員/弐[鬼]が、首を縦に振る。

 月彦の両眼が、鈍く輝く。

 

月彦「・・・来ていたのか、ここに」

 

 右手を体側に下げ、改めて眼前のふたりの鬼を見下す月彦。

 

月彦「(一段と冷たい声で)この娘を捜せ。生かしたまま私の前に連れて来い。いいな」

組長[鬼]・組員/弐[鬼]「・・・はい」

 

 地面に額を擦り付けんばかりに、深々と土下座をする鬼二名。

 くる、と月彦が踵を返す。

 ズオン・・・と、空気が凄まじい重圧で、凹む。

 月彦を中心とした空域の気温が、一気に急降下。

 足元が靄立ち、周囲に円周上に拡散し始める。

 そして、スラックスのポケットに手を突っ込み、悠然と歩き始める月彦。

 鬼ふたりに背を向け、視線を真っ直ぐ、新港橋方面に据え。

 月彦の歩きに従って、足下の靄が絡み、彼の脚に纏わり付いている。

 さながら、雲海の上を歩行しているよう。

 更に、朧の如き歪んだ幽気が、月彦の全身から溢れ、後方に流れて行く。

 彼の表情は、永久に融けぬ氷さながら。

 紅梅色の瞳が、漆黒に浮かび上がり、深い闇の先に向けられている。

 

 

 

【 To be continued...『我は欣びて、十字架を負わん(第弐章/駒澤編)』 】

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