ルビーは地元の中学とは違うって言ってたので、陽東高校って苺プロダクションからはそれなりに離れたところにあるんでしょうか。
何で登校してるんでしょう?徒歩?電車?
「(とりあえず順調か…いや、順調すぎるといっていい)」
もうすぐ放課後になる時間帯。
アクアは休み時間を駆使して月宮逢に関する情報を集め、昼休みには一緒に帰る約束を取り付けることにも成功していた。芸能科の妹と1年上の先輩が一緒になることも伝えて了承を得ている。
「(性格は決して暗くはないが、目立つほど明るいわけでもない。基本的には誰とでもフレンドリーだが、相手に深く踏み込まない、踏み込ませない。しかし疎外されているわけではない…立ち回りがうまいのか?)」
容姿が良いのは人間関係にプラスに働くことが多いが、同時に致命的な軋轢を生んでしまう原因にもなりかねない。まだ入学して日が浅いとはいえ、伝え聞く情報では彼女はうまく学校生活を送れているようだ。
「(しかし妙だな。集めた情報と俺と接していた時の彼女の反応が随分違う。昼休みに話した時は周りのクラスメートが戸惑っていたし…どういうことだ?)」
彼女はおかしかったのは昨日だけと言っていたが、今日の昼休みに話した際も中々のハイテンションっぷりだった。しかも…
「(スキンシップが多いんだよな…こっちが何もしなくとも向こうからガンガン距離を詰めてくるし…周りの連中に注目されて正直気まずかった)」
彼女は肩が触れるかどうかという距離でアクアと話し、なぜか頭を撫でたり、あやすように背中をポンポンと叩いたり…まるで…
「(まるでアイみたいだ…くそっ、調子が狂う…!)」
そうしてアクアが悶々としている内に放課後になった。これから月宮逢とともに校門へ向かい、そこでルビーと合流する流れになっている。残念ながら、有馬かなは芸能関係の用事があるとのことで今日は早退している。
荷物をしまっていざ廊下に向かおうとすると、教室の入り口から件の少女の声が聞こえて来た。
「アクアくーん!帰ろー!」
「(大声で呼ぶのはやめてくれ…)あぁ、今行くよ」
周りの注目を浴びながらも、合流した二人は校門へ向かって歩き始めた。
「今日はアクアくんの妹ちゃんも一緒なんだよね!名前はルビーちゃんだっけ」
「そ。キラキラネームだが俺よりはだいぶマシな名前だろ」
「えー?二人とも似合ってるよ…あっ、バカにしてるわけじゃないからね!本当に似合ってるって思ってるから」
「そうか…まぁ礼は言っとく」
「どういたしましてっ」
そうこうしている内に校門の近くまで来た。どうやらルビーは先に来て待っているようだ。
「あ…(本当にママにそっくり…)」
「悪い、待ったか…?少しのんびり歩いちまった」
「うぅん、いいよ別に…そっちが、その…」
紹介する流れだと思ったのだろう。少女は少し前に出て名乗り始めた。
「アクアくんの妹さんだよね。初めまして、月宮逢です。私もアクアくんと同じ一般科なの。クラスは違うけど」
「こ、こちらこそ。芸能科1年の星野ルビーです。いつも兄がお世話になってます…」
「別に世話になってないが」
「お兄ちゃんうるさい」
双子の掛け合いを眺め、優しく微笑みながら少女は語り掛けた。
「二人とも仲いいんだね。なんだか私も嬉しくなっちゃう」
「嬉しくなるのか…?」
「うん。なんでだろうね…不思議…」
「と、とりあえずもう行こう…なんか見られてるし」
「あ、そうだね。行こう行こう!」
3人で歩き始めるが、待ちきれないとばかりに少女はルビーに話しかけた。
「ルビーちゃん芸能科なんだよね!?すっごく可愛いし、スタイルいいし…仕事は何やってるの?」
「え、えぇとその…」
「待った!私が当てるからちょっと待って…」
考え込む少女をよそに、アクアとルビーはこっそりと話し合う。
「…ねぇ、今日はどうだったの?」
「情報はそれなりに集まったが…」
「なに?もったいぶらずに教えてよ」
「俺と話している時と、教室でいる時の普段の彼女はまったく違う…まるで別人みたいだってクラスメートも言ってる」
「うーん?どういうこと?」
「まだ確実には言えないが……?」
「?あっごめん。話し込んじゃって…月宮さん?」
ふと気づくと少女は足を止めて二人を見つめていた。
「(なんだ…?雰囲気がなにか違うような)月宮?」
戸惑う二人に向けて、どこか虚ろな目をした少女は静かに告げた。
「…ルビーはアイドルで…アクアは役者さん…?」
「っっ!!」
「っお兄ちゃん!」
少女の言葉を耳にして、アクアは一気に呼吸が荒くなった。動悸も激しく、思わずその場でうずくまってしまう。
「(い、今のは…声音も…表情も…雰囲気も…あの時の…!?)」
アクアは少女の言葉を聞いて、母親である星野アイが亡くなった時のことがフラッシュバックしていた。アクアにとってその時の記憶は決して忘れることが出来ないものであり、相当なトラウマとして今も精神を蝕んでいる。
妹のルビーも母の言葉は覚えているが、直接母の最期を見届けていないのでアクアほど酷いトラウマにはなっていない。とはいえ、少女の言葉には衝撃を受けたが、それよりも兄への心配が勝っていた。
「お兄ちゃんしっかりして!」
兄に声をかけるルビーのすぐ隣に、恐らく兄がこうなった原因であろう少女が来た。
「ご、ごめんなさい。今はちょっと…」
「…」
少女はうずくまるアクアを正面から包み込むように抱きしめた。
「よしよし…いい子いい子」
「あ…」
まるで母親が幼い子をあやすように、優しく背中を撫でながら声をかける。
「ママはここにいるからね…」
「アイ…!」
「もう大丈夫だから…」
その光景を見ながらルビーは唖然とした表情を隠せなかった。
「(ママだ…間違えるわけない…この人は…)」
…それからどれくらいそうしていたのか。数分か、あるいはそれ以上か。
気づくと少女の声は止んでおり、アクアの背中に置いてある手も動きが止まっていた。
「アイ…?」
「…」
アクアが小さく声をかけるも反応がなく、恐る恐る顔を上げるとぼんやりとした表情の少女と目が合った。
「アイ?どうし…!?アイ!」
少女がそのままアクアにもたれかかってきた。慌てて体を支えるも、意識がないようでぐったりとしている。
「アイ?…眠っているのか…おいルビー、ルビー!」
「……ハッ…え、あ、何!?」
「眠ってしまったみたいだ…とりあえずうちに運ぼう。人通りが少ないとはいえ、さすがに目立ち過ぎた」
たまたま人通りのない道だったからよかったものの、それでも数人の通行人から何事かと見られている。
「俺が背負っていくから、ルビーはミヤコに連絡してくれ」
「そ、それはいいけど、なんて言えばいいの?」
「クラスメートが下校中に体調崩した、とかでいいだろ」
「よし、わかった!」
今も事務所にいるであろう、母親代わりの人物へ電話をしているルビーを見ながら、アクアは内心で歓喜していた。
「(アイだ!この子はアイだったんだ!アイは生きてたんだ…よかった、本当によかった)」
電話が終わったルビーが、背中の少女を起こさないよう小さな声で話しかけてくる。
「電話終わったよ。ママはどんな感じ?」
「特に呼吸や脈にも異常はない…本当に眠ってるだけみたいだ」
「そっかぁ、よかった」
心底ホッとした様子でルビーは胸をなでおろした。
「…ママだったね」
「あぁ」
「起きたら何話そっか」
「焦らなくていいさ、今は同い年なんだ…時間はまだまだある」
「そうだね…これまでのこと、これからもこと。いっぱい話そう」
「そうだな…」
兄妹は、失ってしまったはずの幸せを取り戻せることを確信し、笑顔を浮かべながら家へと向かった。
月宮逢
一般女子生徒。
感情が高ぶっているときだけ両目が白星になる。アクアとルビーが一緒の時は常時白星で性格もかなり変わる。