作品の主人公キャラになった系の作品はたくさんあるのに。
アクアとルビーの脳を破壊するには一番良いポジションだと思うんですよね。
「(いい拾い物をしたな)」
無事に今ガチの収録を終えたアクアは、いつも通り学校へと来ていた。
なんとか炎上騒ぎも収まり、黒川あかねも収録に復帰した。
そこまではよかったのだが、問題はアクアも予想できなかった黒川あかねの女優としての才能である。あかねはアクアの理想の女性像がB小町のアイであることを知ると、驚異的なプロファイリング能力でアイの情報を集め、あまつさえ集めた情報をもとにした『アイ』を演じて見せたのだ。
「(あの時は思わず動揺してしまったが、黒川あかねの才能は本物だ。うまく使えば俺たちの父親までたどりつくための道標になってくれる)」
あかねが『アイ』を演じることで、アクアが理解しきれなかったアイの内面を探ることが出来る。
あかねの才能を利用するべく、アクアは最後の収録であかねと恋人関係になった。
「(今の逢は相当記憶が戻っているはずだし、父親のことも思い出しているかもしれないが…あいつは巻き込まない。少しでもリスクを背負わせるわけにはいかない)」
アクアは父親を探し出して始末するために、何の関係もないあかねの好意を利用しようとしている。自分が外道なことをしていることは自覚していたが、それでもアクアの最優先事項は変わらなかった。
「(俺は間違いなく地獄に堕ちるだろうな……ま、父親を道ずれに出来ればそれでいいか)」
「(俺がいなくとも、ルビーがいれば逢を幸せにしてくれるはずだ)」
◇◆◇
「今日はアクアくん打ち上げかぁ」
いつもの放課後。今日は私とルビーと有馬先輩の三人で帰っていた。
「逢ちゃんは黒川あかねってどう思う?」
「いいんじゃないかな…ちょっと複雑だけど」
「ふん…」
有馬先輩はつい先日からずっと機嫌が悪かった。まぁ気になってる男の子が、仕事上とはいえ恋人作ったわけだしね。有馬先輩なら機嫌悪くなるのは予想できた。
「むくれてる先輩いつもよりロリっぽい」
「こ、この後輩は…!てかあんたはどうなのよ!?」
「私?」
揶揄うルビーをあしらいながら、有馬先輩は複雑な表情で私に問いかけて来た。
「あんた学校ではよくアクアと一緒にいるらしいじゃない。私はその…てっきり…」
「逢ちゃんは…」
「…」
…そういえば今は同学年の女子なんだよね、私。何も事情を知らない人からしたらそう見えても仕方ないか。
「前にルビーには言ったけど。私はアクアが幸せになれるなら何でもいいんだよ」
「幸せ?」
「そう。誰がアクアの恋人になったって何も言わない。もちろん有馬先輩でもいいんだよ?」
「なっ!?私があいつの!?」
有馬先輩は初心だなぁ。一応、芸歴だけなら前世の私より上のはずなのに、ここまで初々しいのは一種の才能なのかも。
「アクアが心の底から好きになって、相手もアクアを心の底から愛して幸せにしてくれる。そうしてくれる人なら私は誰でもいいと思ってる。まぁアクアが望むなら私でもいいんだけど」
「だ、だめだよ!マ…逢ちゃんとお兄ちゃんが恋人なんて、禁断の関係だからね!」
「何が禁断なのよ…」
妙に興奮しているルビーを呆れた顔で見た有馬先輩は、先ほどとは違って落ち着いた様子でこちらに向き直った。
「…前から気になってたんだけどさ。正直これ聞いていいのかわかんなくて今まで結構悩んでたんだけど」
意を決したように、真剣な顔で有馬先輩はその話題を切り出した。
「あんたたち3人はどういう関係なの?高校から知り合ったにしては距離が近いし、かといってあんたはアクア狙いってわけでもないし…あんたがB小町のアイに似てることも関係あるの?」
「それはその…えーと…」
これは…
「私はアイと共演したのは1回だけどさ、あの人のことは私もよく覚えてるのよ…」
「あんたはアイに似てる…本物との違いがわからないくらい。最初はただのそっくりさんって納得したけど、日が経つほどにあんたはアイになっていってる…違う?」
「…」
「えええええとこれはその逢ちゃんはアイでママっていうかそうじゃないというかっ」
完全にパニックになっているルビーをよそに、私は笑顔で有馬先輩を見返した。
「先輩って面白いよね。死んだ人間が生き返るわけないのに」
「っ!」
「自分がバカなこと言ってることくらいわかるわ。それでも言わずにはいられないのよ、あんたは…」
「あ、私ここまでだ。二人ともまた明日ー!」
「あ!ちょっと!?」
私は二人に手を振って駆けだした。
「(ルビーごめんねっ…ちょっと私も何言えばいいかわかんないや!あとは頼んだ!)」
◇◆◇
「ったく、雑に誤魔化して…ちょっと」
「っ!な、なんですか…?」
「そんな怯えないでよ…調子狂うわね」
ルビーは内心戦々恐々としていた。
「(ロリ先輩こんな鋭い人だったの!?いつもはもっと隙だらけなのに…)」
「あんた失礼なこと考えてるでしょ、いつものことだけど」
「あ、あのぅ、その…」
「その反応からするとあんたはあいつの事情を知ってるのね」
「うぅ…」
「はぁ…ほら、とっとと事務所行くわよ」
くるりと背を向けて歩き出す有馬かなに向けて、ルビーは慌てて声をかけた。
「…聞かないの?」
「まぁね。さっきはチャンスだと思って聞いたけど、言ってるうちに何かヤバいことに首突っ込んでるんじゃないかって思えて来たから…今は一旦忘れておくわ」
「ありがとう先輩「ただし!」!?」
「その事情ってやつが落ち着いたら、私にも教えること…いいわね?」
「う、うん。わかった!約束する!」
無言でうなずくと、有馬かなはそのまま苺プロダクションの事務所へ向けて歩き始めた。
何とか命拾いしたことにホッとしながらも、ルビーは内心でどうしようか考えていた。
「(約束しちゃったよ…破ったら絶対うるさいだろうなぁこの人)」
「(どうしよう…だめだ。お兄ちゃんに相談しようそうしよう)」
今後のことを想像して憂鬱になりながらも、ルビーはとりあえず問題を兄に放り投げることにした。
◇◆◇
「(アクアくんと親しい女性か…)」
その日、黒川あかねは家で一人考えていた。
今ガチをきっかけとして恋人関係になったアクアとあかねだが、二人は学校で関わることはなかった。
外部へのアピールとしてインスタ用の写真を撮るために出かけるくらいで、その際に多少話はするものの表面上の話ばかりでいまいち関係が進んだとは言い難い。
「(アクアくんは完全に仕事上の関係だと割り切ってるみたいだけど…私は…)」
あの嵐の日。
精神的に限界に達して、衝動的な自殺をしようとした自分を体を張って止めてくれて、自分が引き起こした炎上騒ぎを収束させるために何日も徹夜してくれた。
これで好意を抱かない方がおかしい。とはいえ、実際のところあかねは自分がアクアに抱いている感情が恋愛感情なのかは確実にはわからなかった。
「(アクアくんとの関係が深まれば、この気持ちの正体もわかるのかな)」
とりあえずアクアとの関係を進めるために、情報を集めようと学校でのアクアの様子を数人の知り合いから聞いたのだが…
「よく一緒にいる一般科の女子生徒か…名前は月宮逢。アクアくんと知り合ったのは高校入学から数日経ってから。それにしては随分と距離が近い…他のクラスメートや友達とはどこか一線を引いているのに」
調べれば調べるほど、違和感が膨れ上がって来る。
「アクアくんの妹さんのルビーちゃんとも仲が良い。ほぼ毎日、最低でも二人のどちらかと一緒に帰っているし、ルビーちゃんからのスキンシップが度を越えてる…何人かはルビーちゃんが『ママ』と呼んでいる所を見ている」
月宮逢は一般科だ。アクアはともかく芸能科のルビーと接点を持つ機会はそう多くはないだろう。もちろん、兄のアクアが妹を紹介して、そのまま意気投合して仲良くなった、という考えは出来る。
「でも、一番驚いたのはやっぱり容姿かな…B小町のアイと瓜二つ。ライブの映像を見たことがある人も見わけがつかないと言っていた…」
あかねはアクアの理想の女性像がB小町のアイと知ってから、持ち前のプロファイリング能力を活かして徹底的にアイを調べ上げた。憶測が多く混じっていたが、それでもあかねが再現した『アイ』はアクアがアイ本人だと錯覚してしまうほどの完成度を誇る。憶測もそれほど間違っているものはないのかもしれない。
「アイには隠し子がいる…少なくとも私はそう推測した。そしてアイと酷似した容姿…もしかして」
月宮逢がアイの隠し子…と考えれば辻褄は合う。
アイは苺プロダクションのアイドルで、星野兄妹は現苺プロ社長の斎藤ミヤコの子供だ。3人は実は幼いころに交流があって、高校になって再会した。そう考えれば、出会って短期間で親しくなっているのも納得できる。最初から顔見知りなのだから短期間で親しくなるのも当然。
「まだ情報が少ないけど、現時点での結論はこれかな。アクアくんはこの子を身内のように思っている…ルビーちゃんが妹なら月宮さんは姉って感じかな」
あかねはひとまずの結論を出し、これからのアクアとどのように接していけばいいかを考え続けた。
「(身内扱いなら異性としてはそれほど意識していない…かな。出来れば月宮さん本人と話したいけど)」
月宮逢
前世の子供との学校生活をエンジョイしている一般転生女子生徒。
実はアクアとルビーと再び家族になることが出来る手っ取り早い方法がある。本人はその方法に気づいているが、有馬かなと黒川あかねがいるのでしばらく様子見しようと思ってる。
二人が時間をかけすぎると横から強奪することになる。