英雄cp妄想   作:あほうどり

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独占欲ebna

洗面所の鏡に映る上裸の俺。

シャワーを浴びる前は寝起きだったこともあり、不覚にも気が付かなかった。 だが、シャワーを浴びた今は血色が良いのもあってソレがよく目立っている。

 

深呼吸で自分を落ち着けて、シャツに腕を透す。

脱衣場からリビングへと通じる扉を開くと、のあさんがソファに座って寛いでいた。

 

後ろから首に腕を回して凭れ掛かる。

柔らかい髪に顔を埋めると、俺より先にシャワーを浴びたからだろう、シャンプーの甘い香りが鼻をくすぐる。

 

抵抗する気のないのあさんを抱きしめ、耳元に口を近づける。

 

「のあさんさ、昨日俺が言ったこと覚えてる?」

 

「何が? ていうか髪ちゃんと乾かしなよ。 事務所行くんでしょ?」

 

「そうなんだよ、俺事務所行くんだよ。 なにこれ?」

 

のあさんから腕を離してシャツの襟元を引っ張り下げる。

首から鎖骨くらいまでをのあさんに見えるように晒すと、のあさんは首を反らして俺を見上げた。

 

ついさっき鏡で見て気がついた、首筋から鎖骨にかけてポツポツと浮かぶ紫斑。

人によっては虫刺されや痣に見えるかもしれないけど、これが何か、わかる人にはひと目でわかるだろう。

 

「見えるとこにキスマーク付けないでって言ったよね? 俺。 しかも俺が寝てる時に付けたでしょ」

 

そこまで余裕があったわけじゃないが、昨日の夜に付けられた記憶は全くない。

つまりのあさんは、わざわざ俺が寝てる間にキスマークを付けたことになるわけで。

 

俺を見上げる翡翠の瞳が俺の顔から首元へと移る。

そして、こちらへ体を向けたのあさんが、今度は俺の首に腕を回して俺を抱き寄せた。

 

首筋に柔らかいものが当たる感触。

 

「……俺怒っていい?」

 

「──っは。 だめ」

 

長いリップ音の後に残る赤い痣。

新しく増えたキスマークを見て嬉しそうに微笑むのあさんは可愛いが、この流れで更に増やすのはちょっと俺を舐めすぎだと思う。

絆創膏をつけたところで、数が数だけにバレるのも目に見えている。

 

えらくご機嫌なのあさんに対し、俺は人前に出る気分じゃ無くなっていた。

 

「せめて理由は聞かせてくれん? じゃないとほんとに怒るよ」

 

湿って重くなった前髪越しにのあさんへ視線を送ると、のあさんは首を傾けてキョトンとした顔を見せる。

 

「だってエクスさん、事務所行くんでしょ?」

 

「そうだけど」

 

「にじさんじってめっちゃ人多いし、他の人にエクスさん狙われるかもしんないじゃん。 だからアピールしとこ思て」

 

のあさんからの返答に動かしていた手が止まる。

 

嫌がらせとかのネガティブな理由じゃない事は分かってたけど、え?

俺が他の人に靡くと思われてる? 嘘でしょ?

 

「俺、ちゃんとのあさん一筋だけど」

 

「そんなん分かっとるわ。 でもそれとこれとは別で、ぼくのエクスさんって見て分かるようにしときたい」

 

俺の顔から襟元までを眺め、のあさんが満足気に答える。

 

可愛らしい独占欲を見せられるくらいに愛されているのは嬉しいけど、本当に無関係の人にまで見られる俺の身にもなって欲しい。

 

「スタッフさんにまで見られんの、シンプルにめっちゃ恥ずい」

 

「まぁ、ぼくを選んだエクスさんの責任ってことで。 ちな、今更逃がさへんからな?」

 

「いや逃げんけども。 あー、これ絶対弄られるに決まってるわ」

 

今日はなるべく事務所に人が少ない事を祈るしかない。

仲良いライバーならともかく、ほぼ関わりがない人に見られるのが1番恥ずかしい。

 

恋人からのマーキングの跡をさすりながらソファに腰を下ろす。

手触りに変わりは無いけど、愛されてるのが指先に伝わってくる気がした。

 

…………次に事務所行く時ものあさんに伝えるようにしよう。

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

全身鏡の前で体を回す。

メイクOK、髪のセットもOK。 服もちゃんと可愛い。

 

セナとの約束の時間までには余裕があるし、待ち合わせ場所まで歩いて向かっても間に合う。

カバンに最低限の貴重品を詰めて肩にかける。

 

準備を終えて自分の部屋を出ると、エクスさんがリビングから顔を覗かせた。

 

「のあさん、今日俺の香水使う? この前好きって言ってたやつ」

 

エクスさんが右手に持った小瓶を揺らす。 そういえば一昨日にそんな話もしたっけ。

 

エクスさんいつもが使っている、爽やかで優しいエクスさんらしい香りの香水。

気持ちは有難いし、付けたい気持ちも無いわけじゃないけど……。

 

「ごめん、もう自分の付けちゃったんだ」

 

「あー、おっけー。 行く時気をつけなよ」

 

「うん、ありがと」

 

特にガッカリした様子も無くリビングに戻っていくエクスさん。

わざわざ覚えててくれたのだろうか。 だとしたら、ちょっとは嬉しい気持ちがないでも無い。

 

『気をつけなよ』なんて、心配ならちょっとくらい着いてきてくれればいいのに。

 

そんな事を考えながらブーツを履いていると、再びリビングのドアが開く音。

他に用事があったのかと思って後ろを振り返ると同時に、ぼくの隣に何かが置かれる。

 

「今日俺のパーカー着ていきな。 ちょっと寒くなるらしいから」

 

軽く畳まれた白いパーカー。

エクスさんが愛用していて、ぼくも度々使っているものだ。

 

「エクスさん今日使わんの?」

 

数ある洋服の中でも、赤い英雄シャツに並んでこのパーカーはエクスさんのお気に入りだったはず。

そう思って聞いてみると、エクスさんは優しく笑った。

 

「俺強いから平気よ」

 

左手でガッツポーズをつくるエクスさんを見て、ぼくも思わず笑ってしまう。

そういう事なら使わせてもらおう。

 

「じゃあ借りとくね。 いってきます」

 

「いってらっしゃい」

 

玄関の扉を開いてマンションの廊下に出る。

歩きながら借りたパーカーを羽織ると、ふわりとエクスさんの匂いに包まれた気がした。

 

 

 

 

 

待ち合わせ予定の駅前に到着すると、先に着いていたらしいセナがベンチに座って待っていた。

時間は丁度ピッタリくらい。 もうちょっと急いでも良かったかもしれない。

 

「セナ、お待たせ」

 

「うぃーす、のあ先ぱ……うわっ」

 

「は?」

 

駆け寄ったぼくにセナが顔を顰める。

そんな反応をされるとは想像もしていなくて、思ったことがそのまま口から漏れた。

 

そこまで変な格好はしてないはずだし、駆け寄ったと言っても髪が崩れない程度の速度。 そんな引かれるような反応をされるのは絶対におかしい。

 

「『うわっ』てなんや、『うわっ』て。 そんな顔される覚えないぞ」

 

「え、のあ先輩気づいてないの?」

 

「なにが?」

 

問いには答えないまま、セナがぼくをあらゆる角度から見回し、顔を近づけてくる。

周囲をぐるぐると回りながら見られるのはファッションチェックみたいでどこか恥ずかしい。

 

そのまま1周し、2周目の背中側に行ったところでセナが足を止める。

 

「……のあ先輩、これエビオさんの?」

 

「そうだよ」

 

サイズ大きいでしょ? とブカブカの袖を広げてみせる。

後ろに居るから分かりづらいけど、セナが思いっきりため息をついた事だけは分かった。

 

「なんか、まぁ……大事にされてんね」

 

パーカーのフードを引っ張りながら言葉を濁すセナ。

フードの中に何かが入っている感触も無いけど、テープとかが付いていたのだろうか。

 

「なんかあった?」

 

「んー、そんな感じかな。 そのパーカー、エビオさんに何て言って渡された?」

 

「『今日ちょっと寒いから』って」

 

「……ちなみに今日、暖かくは無いけど寒くもないよ」

 

「そうなの?」

 

ぼくも天気予報の気温まで覚えてないから分からないけど、エクスさんの勘違いか?

パーカーを着てても暑くないし、別にどっちでもいいけど……。

 

「まぁ着てて良いと思うよ」

 

投げやり気味にそう言ったセナがフードを被せてくる。

髪もセットしているし抵抗すると、元々本気でもなかったのかすぐにフードから手を離した。

 

……あれ。 なんか一瞬、エクスさんの匂いが強くなったような……。

 

「行こ」

 

「あ、うん」

 

呆れたような雰囲気のセナに並んで、駅の中へと足を進める。

今は何の違和感も無いし、気の所為か。

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