英雄cp妄想   作:あほうどり

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ebur学パロのおまけ
本編ラストの半年後くらい


ebur学パロおまけ

最近、一ノ瀬がおかしい。

……いや、これだと流石に語弊があるか。 最近、一ノ瀬とエビオさんの距離感がおかしい。

 

入学してすぐの頃から一ノ瀬とエビオさんが度々授業を抜け出して、二人で屋上でサボっている事は知っていた。 ……というか、二人が気づかれてないと思っているだけで、この学年の大半は二人が一緒に屋上でサボっていることを知っているが、それは一旦置いておいて。

学年中に認知されるくらい一ノ瀬とエビオさんが一緒にいる時間は多いのだから、その分二人の距離が近いのも分かる。

 

その上、文化祭でのあれこれを経て二人が付き合いはじめてからは、更にもう少しだけその距離が縮まっていた。

とは言っても、二人とも恋人という関係の間合いを測りかねていたのか、ただ並んで座っていただけだったのが、皆に隠れて手を繋いだり肩を寄せあったりする程度に変わったくらいのもので、正直、当時は見ているこっちの方が焦れったくて仕方なかったくらいなのだが。

 

そしてつい三週間と少し前。

文化祭から二ヶ月以上……つまり、交際期間が二ヶ月を超えた冬休み直前になってようやく、一ノ瀬が顔を赤くして「エビオさんとキスしちゃった」と話してきたのだ。

いちいち報告せんでいいとは思ったが、それはそれとして二人が、ついでに惚気を聞かされていたうちも待ちに待った待望の初キス。 友達として素直に祝福した。

だけどその後、キスの影響か初対面に戻ったかと錯覚するくらいに会話がぎこちなくなった二人を見て、まだまだ慣れるのには時間がかかりそうだな。 と、そう思っていたのに。

 

思っていたのに。

 

「ねぇ〜。 えびおさん、この教室暑いんだけど」

 

「知らん知らん。 俺冷え性だから。 暖房ないと死ぬ」

 

いやおかしいだろ! と、心の中でツッコミをいれる。

 

約2週間前は肩を寄せ合って顔を赤くしていたのに、今は肩を寄せ合って、なんてものじゃない。

一ノ瀬はさもそれが当たり前であるかのようにエビオさんの肩に頭を預け、肩を寄せるどころか体全体でもたれかかっている。

あの一ノ瀬うるはが。

 

そしてエビオさんもエビオさんで、一ノ瀬がこんなに引っ付いているのに、何もおかしな所はありませんとばかりに普通の顔でスマホを触っている。

うちのイメージの中のエビオさんは、今の状態の一ノ瀬に「暑い」なんて言われたら、「引っ付いてるからでしょ」なんて冷静なツッコミを入れるし、そもそもこんなにべったり引っ付かれるのを拒否するはずなのに。

 

このあまりにも衝撃的な光景は、何も今日始まったものではない。 今から丁度十日前に冬休みが開けて以降、毎日似たような事が繰り広げられている。

冬休み前はあんなにも初々しい、こっちが焦れったくなるくらいのスローペースで関係を進めていたのに。

 

──絶対冬休み中に何かあったやん。

 

『何か』が何か、正確には分からない。 が、正直思い当たる節はある。

というのも、毎年仲のいいメンバーで集まるクリスマスパーティーに、これまで皆勤だった一ノ瀬が今年初めて不参加だったからだ。

連絡を受けた時に一応理由は聞いたが、返ってきたのは「ちょっと色々」という雑な返答。

 

当時はたまには家族とクリパやるのかな、なんて考えて、別の誰かと過ごしているなんて微塵も考えていなかったが、今なら答えは明白。

クリスマスの夜。 そして今の二人の距離感。 たったこれだけの情報でも何があったか大まかな想像はつく。

つくのだが。

 

──いくらなんでもキスを済ませてからいきなり飛ばしすぎだろ!

 

頭の中のイマジナリーめとがちょっと待てぃ!! のボタンを叩く。

二人には二人のテンポがあるのは重々承知しているけども、初めてキスをするまで二ヶ月かかったカップルが、そのキスから数日でより親密な関係になったことにツッコミたくなるのは絶対に間違ってない。

 

勿論、当然の事ながら、一ノ瀬の幼馴染兼エビオさんの友達であるうち的には二人が上手くいっている事そのものは喜ばしい。

心の中でのツッコミも、二人の関係が良好だからこそできるわけで。

 

うちを含めた周りの人間が、あまりにも緩急が激しいというか、恋人である二人だけが通じ合う二人のペースについていけてないだけだ。

友人としては呆れ半分寂しさ半分ではあるが、元々一ノ瀬もエビオさんもマイペース気味な人間だし、きっと自分達だけが自分達の歩幅を理解していればいいのだ。

 

それこそ、今は教室でイチャイチャして自分たちの空間を作っている二人だけど、寒さが落ち着けばまたこの教室を離れてフラフラと校舎の屋上へ居場所を移すだろう。

 

雪が桜に変わるまでの決して長くは無い時間。その間くらいは、今はまだ見慣れない距離感の二人を見守っているのもそう悪くない。

 

……ただ、それはそれとして、折角の休み時間だというのにずっと二人を眺めるだけなんて我慢できない。 休み時間はまだ三分の二くらい残っているし、いい加減あのイチャイチャに突撃して二人を揶揄いたい。

 

二人の空気を邪魔するのも気が引けて今日までは我慢してきたわけだし、そろそろ乱入しても許されるはずだ。 よし、行こう。

 

決意を固め、自分の椅子から立ち上がる。

それと全く同じタイミングで目の前の引き戸が開き、あまりの驚きに身体が大きく跳ねた。

 

「おいす〜」

 

「イブラヒムさんか。 びっっっくりしたぁ〜」

 

「セイ」

 

教室に入ってきたのは隣のクラスのイブラヒムさん。 エビオさんとは昔からの友達で、一ノ瀬と同じクラス。

ちょっとした縁でうちと一ノ瀬も何度か一緒に遊んだことがある人だ。

 

うちの机の前で立ち止まったイブラヒムさんは教室中に軽く視線を巡らせ、イチャつく二人組を見て少し困ったように眉をひそめ、足を半歩分開いて脱力した。

 

「あれ声掛けづらすぎるだろ」

 

「わかる。 やばいよね」

 

「激ヤバだね」

 

相変わらず感情を感じ取り辛い口調でそんなことを言いながらイブラヒムさんは、言葉とは裏腹に特に躊躇いなくエビオさんの席へと歩き始める。

丁度良いタイミングなのでうちもその後に続いた。

 

「おいABO」

 

「ヒム。 どした?」

 

イブラヒムさんの雑な呼び掛けに、エビオさんはスマホから視線を上げる。 どちらも、すぐそばにいる一ノ瀬の事はまるで意に介していない。

イブラヒムさんは、たった数秒前に声がかけづらいとか言っていたのに。

 

「お前今日の放課後俺の家に来い」

 

腰に手を当てながら平然と言い放つイブラヒムさん。 命令のようにも聞こえるその発言にエビオさんはこれといった反応を示さない。

 

「いいけど部活あるよ」

 

「終わってからでいいよ」

 

「何すんの?」

 

「麻雀」

 

「おー。 他は? 2人だけ?」

 

「他はまだ。 葛葉とか呼ぼうとは思ってる」

 

「まー、行くか」

 

「おっけー。 待ってるわ」

 

呆気にとられるくらいトントン拍子で終わった会話。

用件を済ませ帰っていくイブラヒムさんの背中を見送りながら、たった十数秒ほどで終わった会話のあまりのテンポの良さに舌を巻く。 幼稚園から一緒にいるうちと一ノ瀬よりも意思の疎通がスムーズだ。

家に来いと言われてノータイムでOKをだしたり、部活があると言われて終わる時間を聞かなかったり、今の一瞬のやり取りでも仲の良さが伺える。

 

本当はイブラヒムさんの用件に合わせて会話に混ざろうとしていたのだが、予想以上に早く会話が終わった事で目論見が外れてしまい、うちは二人の空気の中に入るきっかけを失ってしまった。

仕方がないので素直にうちも混ぜて〜と声をかけようと二人の机に一歩進んだところで、一ノ瀬が触っていたスマホを置いてエビオさんの腕に抱きつく。

 

「……今日イブラヒムさん家いくんだ」

 

「行くらしいわ」

 

「うちの事ほったらかして?」

 

「隙あらばイチャつくやん」

 

イブラヒムさんの前では気まずさが勝ったのか一言も喋らなかったのに、2人きりになるや否や再びエビオさんに甘え始めた一ノ瀬。

あまりの切り替えの速さに、思わず思考が口から漏れた。

 

一ノ瀬の紫の瞳がわたしを捉える。

 

「なんですか。 なにか文句あるんですか」

 

「いや文句とかじゃないけど、冬休み前と比べて明らかに仲良くなったなぁって」

 

「まぁまぁ……。 否定はしませんけど」

 

うちの探りに一ノ瀬は、僅かに染まった頬をエビオさんの腕で隠し、答えづらそうにしつつも、距離が縮まったことを否定しない。

 

「二人でイチャつきすぎて同じ教室のうちらちょっと気まずいんよ」

 

「それはまじでごめん。 俺も気まずいだろうなぁとは思ってた」

 

「だってうちクラス違うし。 授業中の分取り返さないとさぁ、なんか勿体ないやん」

 

「勿体ない……?」

「勿体ないは何?」

 

一ノ瀬の謎発言にうちとエビオさんの声がハモった。

 

まぁ、言わんとしている事はわかる。

同じ学校、同じ学年ではあるけど、一ノ瀬とエビオさんはクラスが違う。 一ノ瀬からすれば、同じクラスならもっと一緒に過ごせていた時間の分をなんとか取り返したいのだろう。

二人がどんな冬休みを過ごしていたか知らないが、冬休みの間ずっとべったりだったのなら尚更。

 

今はきっと、エビオさんとの距離感が一気に縮んだことで一ノ瀬の甘えたがりの部分が爆発しているのだ。

 

エビオさんもそれを感じて、一ノ瀬が満足するまで好きにさせているのだろう。 ……もしくは、エビオさんも一ノ瀬と同じ気持ちなのかもしれない。

 

「まぁべつに迷惑とかではない……とは思うからあんま気にしなくていいんじゃない?」

 

迷惑では無いと言おうとして、クラスの他の人達のことを考えて断言ができずにふわっとした発言になってしまった。

だけど、エビオさんはわかっていると軽く頷く。

 

「あざす。 一応、あんま長いことこうしてるつもりないし、マジで邪魔な時は遠慮無く言ってね」

 

目線はうちを向きつつも、恐らくはうちだけでなくクラスのみんなに向けた言葉。

それを隣で聞いていた一ノ瀬はまるで雷に撃たれたような表情。

 

「え、エビオさん……? 長いことこうしてるつもりがないというのは……?」

 

エビオさんの腕を抱いたままの一ノ瀬が不安そうな顔でエビオさんを見上げるも、肝心のエビオさんは何もおかしなところは無いといった風に素知らぬ顔。

発言は本気にしても、今の態度はどう見ても一ノ瀬の反応で遊んでいるだけなのだが、こういう時の一ノ瀬の反応が面白いことはうちもよく知っているので口出しはしない。

 

「めっさんも色々ありがとね」

 

「いやいや全然全然。 上手くいっててよかったわ」

 

「おい無視すんな。 ずっとこうしてるつもりが無いというのはどういうことですか。 彼女に甘えられて何か不満なんですか」

 

分かりやすくむすっとした顔でエビオさんの肩を揺さぶる一ノ瀬。

だが、悲しいことに一ノ瀬とエビオさんのフィジカルには圧倒的な差があり、エビオさんはこれといった反応を見せない。

 

「おいめと! お前からもなんか言ってやれ!」

 

「え〜、うちは特にないかも」

 

「薄情者! うちはこんなに傷ついているのに!」

 

全く真剣に聞こえないテンションで怒った振りをする一ノ瀬が、椅子に座ったまま左手でエクスさんの頬をぐりぐりと押し、右手をうちへと伸ばす。

残念ながら距離的にギリギリうちには届かず、すらっとした綺麗な五指は空を切るばかりだが。

 

「めと、もうちょいこっち」

 

「も〜なに」

 

渋々一ノ瀬との距離を詰めると、一ノ瀬は右手でうちの左手をぎゅっと握った。 ちょっと冷たい。

 

「え何?」

 

「仲良くしよーよ」

 

「なんなん?」

 

予想の斜め上の返答に思わず吹き出す。

繋がれた手に感じる一ノ瀬の手はスベスベで握り心地が良い。

 

エクスさんの頬を虐めていた手もいつの間にかエクスさんの手と繋がっていて、それに一ノ瀬はご満悦の様子。

 

 

 

「うぃーす。 エビオいるー?」

 

教室の扉がカラカラと滑車の滑る音と共に開く。 次いで聞こえたエビオさんを呼ぶ声。

 

視線を目の前の2人から教室の扉へ移すと、ローレンさんが廊下から教室の中を覗いていた。

 

「何ー?」

 

「おいエビオエビオエビオ」

 

エビオさんの返事を聞いて気がついたのか、はたまた普通に教室内を見回して見つけたのか。

ローレンさんは一直線に、エビオさんの机を囲むうちら3人の輪に入ってくる。

 

「どしたー?」

 

背もたれに身体を預けていたエビオさんがローレンさんの方へと身を乗り出す。

 

「ここだけの話、今日イブの家で麻雀やるらしいんだけどさぁ、エビオもどうかな〜って思って誘いに来た」

 

「くはっ」

 

ローレンさんの言葉を聞いて、思わずといった様子で笑い出すエビオさん。

 

うちと一ノ瀬はなんでエビオさんが笑っているのか分かるけれど、何も知らないローレンさんは、いきなり笑いだしたエビオさんを見て困惑している。

 

「え、なになになに!?」

 

「ローレンお前、イブラヒムから聞いてないんかい」

 

エビオさんのツッコミを受け、ローレンさんは数秒黙った後にハッと何かに気づいたように手を叩く。

 

「え、もしかしてその感じ?」

 

「俺さっきイブラヒムに誘われたわ。 部活終わったら爆速で行くよ」

 

「おいマジか! アツすぎだろ!」

 

恐らく無意識なのだろう、エビオさんの机に両手を置いて屈んでいたローレンさんは弾かれたように姿勢を伸ばして嬉しそうな声をあげる。

 

そして、机に両手をついて再び話をする体勢になった。

 

「てことは、じゃああと一人か?」

 

「さっきなんか、イブラヒムは葛葉誘うとか言ってたね」

 

「まじか。 じゃあ俺らも誘いいくべ」

 

「誘い行くか。 流石にな」

 

しっかりと手を繋いでいた一ノ瀬に目配せをして、椅子から立ち上がるエビオさん。

その一瞬のアイコンタクトを見逃さなかったローレンさんが、ようやく今の状況を掴んだのか、ばつが悪そうになんとも言えない声を出す。

 

「もしかしてぇ……邪魔しちゃった?」

 

「いや、大、丈夫……じゃない?」

 

すっかりローレンさんについて行く気だったらしいエビオさんが、期待半分申し訳なさ半分といった面持ちで一ノ瀬を振り返る。

一ノ瀬は若干不満そうな気配を漂わせてはいるものの、エビオさんの視線に首を横に振り、立っていたうちの腰を抱き寄せて自分の脚の上に座らせた。

椅子の天板なんかよりもずっと柔らかい。

 

「まー、うちの事は気にしなくていいよ。 代わりにめととイチャついとくわ」

 

「え、うち?」

 

「いいじゃん。 うちまだ教室戻りたくないし」

 

「まぁ全然いいけど」

 

休み時間が終わるまで後五分くらい。 教室に戻るにはまだ少し早いという気持ちも分かる。

そもそもうちも会話に混ざろうとしていたわけだし、エビオさんは居なくなってしまうが、ここ数日話す機会が少なかった分一ノ瀬と話したいことは沢山ある。

 

「じゃあ行ってくるね」

 

「はーい」

 

うちらの方へ軽く手を振り、ローレンさんと共に教室を出ていくエビオさん。 まもなく、隣の教室からなにやら大騒ぎが聞こえ始めてきた。

仲良いにも程があるだろ。

 

「エビオさん、一ノ瀬にだと明らかに声優しくなってるよね」

 

さっきの教室を出ていく直前もそうだが、一ノ瀬を相手にしたエビオさんは普段よりもかける声に慈愛があるというか、大切にしているのが聞いていてよく分かる。

 

「え、そう? そんな事なくない?」

 

「いーや? 前からだけど最近は余計に優しくなったね。 愛されてますねえ」

 

一ノ瀬の膝の上からエビオさんの座っていた椅子に移動しながら、ふと静かになった一ノ瀬の顔を見る。

うちの言葉で改めてエビオさんからの感情に気がついたのか、さっきまでは見えなかったその顔は耳まで真っ赤に染まっていて、ほとんど見ることの無かったその照れ顔にうちの胸もきゅんと高鳴る。

 

「お前ほんとにかわいいなぁ一ノ瀬!」

 

「ねぇ顔あっついんだけど! 今まで全く気づかなかった」

 

「だから分かって照れちゃったんだろ!? かわいいんだけど!」

 

本能の赴くままに一ノ瀬の頭を胸に抱いてわしゃわしゃと撫でる。

いつもは髪やメイクが崩れると鬼の抵抗を見せる一ノ瀬も今はただ顔を覆い、うちの好きにされるがままだった。

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