転生男の娘vs悪ガキ(星)   作:桜ナメコ

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7話

 

 

 

 

 

 

 俺は今、手足を縛られた状態で麻袋に放り込まれていた。

 巾着の入り口のようになっているところから、頭だけが外へ出ているのが現在の状態。

 幸い、大人しくしていたので猿轡を噛まされることはなかった。

 

 どうしようかなぁと困りつつ、麻袋を背負って歩き続ける宝盗団の男に声をかける。

 

「…………あの、だから何度も言ってるけど、こんな見た目でも俺男だよ? ちゃんとついてるよ? 正気?」

「ああ、正気だとも。うちの親分は若い頃、偉い別嬪さんにこっ酷く振られちまってな。以来、女性に興奮しなくなっちまったんだよ」

「……………………????」

 

 え、なにそれ。

 それってつまり、そういうこと?

 

「大丈夫だ。代わりに、気に入った男にはとことん優しくしてくれ――」

「いーやーだーー!? 助けて、犯されるぅぅぅ!?」

 

 やけに対応が丁寧だと思ったら、そういう目的の誘拐かよ!?

 俺と騎士団の関係を知っていたから、とかじゃないの? 人質には手を出さねぇ、みたいなノリじゃなかったの?

 

 待って、無理無理無理無理無理なんですけど、助けてステラ。

 

「ははは、お前は運が悪かったな。気の毒には思うが、俺はこれでたんまり金が手に入る」

「何モラだ? 何モラ積めばいい!? おい、こら降ろせ!」

「おっと、そんなに暴れるなよ。大丈夫だ。お前ほどの上物は中々いない。丁重におもてなししてくれるさ」

「それが嫌なんだよ!? 何モラ積めば良いかって聞いてんだろ! 話せばわかる、話せばまだ分かり合えると思うんだよね、僕たち!」

 

 

 慌てて騒ぎ立てるのだが、あたりは人っ子ひとりもいない山の中。

 

 誰でも良いから、助けて欲しいなぁ!?

 

 心の中で絶叫をかましながらも、俺はどうしてこんなことになったのかと、自らの行いを思い起こしてみる。

 

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ……別に油断をしたつもりはなかった。

 ただ少し、運がなかっただけ。

 

 だってほら、昼休憩のついでに水浴びをしようとステラと別れたほんの数分で――

 

「…………初めて、宝盗団と遭遇するとは思わないじゃんか?」

「お前、なんかやけに冷静な奴だな」

 

 川のせせらぎをBGMに、俺はいつの間にか隣に座っていた宝盗団・薬剤師と顔を見合わせる。

 ぱちゃぱちゃともう一度顔を洗った。

 あー、冷たい。気持ちいい。

 

「タオル持ってない?」

「あ? まあ、あるが」

「さんきゅー」

 

 タオルを受け取り、顔をポンポンと拭いてから、ようやく現実逃避にお出掛けてしていた意識さんが現実に回帰する。

 

「それ、宝盗団のコスプレだったりしない?」

「しない」

「そっか……そっかー……しないかぁ」

 

 ぱちゃぱちゃ、ふきふき。

 

「…………えっと、本日はお日柄もよく……一体どのようなご用事で?」

 

 あ、タオルありがとね。

 

「有り金置いてけ♪」

「だよね、知ってた」

 

 頑張って逃げようともしたけど、速攻で捕まりました。くそぅ。

 

 やっぱ、運が悪かっただけでは?

 

 

 

 

 はい、回想終了。

 

 

 

 とはいえ、だ。

 対処法はある。

 とても簡単な解決法はあるのである。

 じゃなきゃ、もっと泣き叫び、抵抗して、敗北して意識ぐらいは奪われているはずだ。

 

 ……あれ、負けちゃうのか?

 うん、我ながら情けなし。

 

『確認:3秒ですよ?』

 

 わかってる。

 3秒間、誰にも触れられない時間さえ作れば良いんだろ?

 

『肯定:ワープの処理に最短3秒。ワープの同行者は両名の意思に関係なく、その時点で貴方の身体に触れていることが条件』

 

 となると、暫くはコイツに従うしかないよな。

 一番の悪手は意識がない間に貞操を奪われることだろうし。

 

 だが、ワープを選択するのであれば新しい問題が一つ発生する。

 それはステラとの合流が非常に面倒になることだ。

 

 恐らく、今ごろステラは俺が誰かしらに誘拐されたことを知り、血眼になって俺のことを捜索していることだろう。

 誘拐されたときに、ある置き土産を落としてきたのでそこに関しては確信がある。

 

 闇雲に探して、運良く俺を見つけられたのならば、それでいい。

 見つからなかった場合が問題だ。

 彼女はこの辺りの地形を知らない。マップの確認は俺の仕事だからだ。

 なんなら、食料の運搬も全て俺が行なっている。

 

 つまり、何が言いたいかと言うと。

 

 宝盗団の一人に誘拐され、孤立したように見える俺なのだが、実際に窮地に立たされているのは、物資の一つも持たずに荒野に放置されたステラなのかもしれない、ということだ。

 

 そして俺がワープという逃亡手段を選択した瞬間、この問題は更に悪化する。

 怒り狂える彼女に、ワープポイント付近で俺を待ち続けるという理性があれば、この問題も解決をするのだが…………期待するだけ、無駄な気がするんだよなぁ。

 

「…………なあ、もう一回考え直そうぜー? 今なら、お前が怒られないように庇ってやるからよー。うちの姉ちゃん、びっくりするぐらい怖いんだぞー」

「ったく、往生際の悪い奴だなぁ。諦めろよ、親分がお前みたいなのを逃すわけがないんだからよ」

 

 その男色の疑いが強い親分のことも気にはなるが、俺としてはステラがブチ切れしている可能性がある方が恐ろしい。

 アイツなら「これからは水浴びも一緒。大丈夫、私は気にしない」とか、真顔で言い出しかねない。

 

 おいおい、ヤバいぞ。

 考えれば考えるほど、いろんな意味で心配になってきた。

 ついでに頭も痛くなってきた。

 

 麻袋に詰められ身動きの取れない中、俺は心労からため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

 天華が、いなくなった。

 

 

「……私が、目を離したから」

 

 

 水浴びをしたいと言ったのは、私だ。

 

 

 その間に、彼は居なくなった。

 

 

 

 

 置いて行かれたわけではない。

 そこには私の武器が残されてあった。

 戦闘手段を残しておくこと。

 それは、戦闘をする必要があることを示唆しているに違いない。

 

 大丈夫。

 思考は冷静だ。

 少し前の自分だったら、置いて行かれたのだと、自分は必要のない存在だったのだと、そう自虐に走ったのかもしれない。

 

 けれど、彼の信頼を疑うことはない。

 

 後悔をしている時間など、ない。

 私が目を離した時間を考えると、そこまで遠い場所には行っていないはず。

 

 

 

「………………ッ」

 

 

 

 迷っている時間も勿体無い。

 行き先がわからないなら全力で動き続けろ。

 しらみつぶしに、探し続けろ。

 

 走り始める。

 彼の姿を探して、彼の声を捜して。

 

 

 

 

 

 やがて日が落ち、夜の帳が下りる。

 

 

 

 

 それでも、駆ける。

 身体が悲鳴を上げていようが、意識がブレそうになろうとも、それでも動く。

 

 

 だって、意味がない。

 

 

 彼が隣にいないのであれば、私なんかに意味はない。

 世界は灰色で、音も聞こえない。

 何も感じられない。

 時間さえもが不明瞭で、頭がおかしくなる。

 

 全ての価値がわからなくなる。

 

 

 彼、以外はいらない。

 

 

 

 

 だから、動ける。

 

 動けないのなら、それは嘘だ。

 

 

 

 

 そうして、彼を探し続けて――

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁん! 旅人ぉぉ……旅人ー! どこに行ったんだよぉ……おいらを、おいらを置いて行かないでくれよぉぉ」

 

 

 

 

 

 なんだか、よくわからない何かを見つけた。

 

 

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

 逆さの神像。

 あの場所で、私はお兄ちゃんとの再会を果たした。

 けれど、その再会は私が想像していたものとは大きくかけ離れたものだった。

 

 アビスとのつながり。

 ダインスレイヴとの関係。

 そして、最後の言葉。

 

『俺は既に一度旅をした。だから、蛍も俺と同じように終点に辿り着けば、この世界の淀みを見届けることができる』

 

『俺たちはいずれ再会する。急ぐことはないんだ、蛍。待つだけの時間が充分にある』

 

 

 その言葉が、頭の中から離れない。

 パイモンは私のことを元気づけようと頑張ってくれる。

 わかっている。

 落ち込んでも、誰のためにもならないことは。

 

「旅人……大丈夫か?」

「……ありがとう、パイモン」

「ぅぅ…………そ、そうだ! こういうときこそ、美味しいものをたっくさん食べて、少しでも気持ちを楽にさせてやろうぜ」

 

 パイモンは優しい。

 最高の仲間なのだと、こういうときに強く実感する。

 

「そうしようか……パイモンは何か食べたいもの、ある?」

「えへへ。そうだなぁ、おいらはなー……っておい! 今日は、お前を元気づけるためにご飯を食べに行くんだぞ! おいらじゃなくて、お前が食べたいものを食べないと意味ないだろ!」

「ふふ、そうだった。じゃあ、万民堂に行こう」

「いいな! もしかしたら香菱に会えるかもしれないもんな!」

 

 ぷかぷかと浮かぶ隣の仲間に、気取られないようにため息を吐く。

 気持ちの切り替えには、まだ少し時間がかかりそうだった。

 だが、それでも自分のことを想ってパイモンがしてくれた提案は素直に嬉しい。

 その心遣いを無碍にしたくなかった。

 

「じゃあ、はやく行こうぜ! おいら、想像しただけで、お腹が減ってきちゃったぞ」

 

 小さく頷いて歩き始めたそのときに、誰かの叫び声が聞こえた気がした。

 

「……待って、パイモン」

「ん? どうしたんだ、旅人?」

 

 静かにと口元で指を一本立てると、パイモンは自分の口を両手で塞ぐ。

 そのまま耳を澄ませてみると、もう一度、今度は確かに誰かの叫び声が聞こえてきた。

 

「――ッ!?」

「パイモンにも聞こえた? こっちの方から、誰かの声がする」

「ま、待ってくれよ……確かに、確かにそうだけどさ……」

「…………私のことなら大丈夫。行こう、パイモン」

「ぅぅ……しょうがない! こんなときまで旅人のことを働かせるやつには、おいらたちの食事代をたっぷり払わせてやるんだからな!」

 

 

 そんな会話をしながら、私たちは森の奥深くへと入っていった。

 

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

 

 

 

 うーん、流石に来ないな、ステラのやつ。

 出来ればギリギリまで待ってやりたいところなんだけど……

 

「おら、到着だぜ兄ちゃん」

「一生着かなきゃ良かったのに……到着ついでに、この縄解いてくれない?」

「それは無理な話だな」

 

 宝盗団のアジトに到着してしまったので、そろそろ脱出をメインに考えなくてはマズイかもしれない。

 ギャーギャーと騒いではみたがこんな山奥に人なんているわけがなく、何の助けも呼べずに終点に到着してしまった。

 

「さてはて、どうしたもんかねぇ」

「どうするもこうするも、ないだろ。せめて、親分に気に入られるように努力することだな」

「…………実は俺、千岩軍屈指の凄腕スパイなんだよねって言ったらどうする?」

「凄腕スパイが俺みたいな下っ端に捕まってたまるかよ……バカ言ってないで、こっちだ」

「はーい」

 

 俵さんだっこの状態で、麻袋ごと運ばれていく。この移動法にも慣れたものだ……こんなのに慣れたくなんてなかったが。

 というかこの宝盗団・薬剤師さん、実はすんごい力持ちなのでは?

 安定感いっぱいで、落とされる気がしない。

 ちょっとぐらい油断してくれてもいいのよ?

 

 

『提言:バカ言ってないで、そろそろ逃げろ』

 

 

 ……言われなくてもわかってる。

 次にチャンスが来たらやるよ。

 

 

 宝盗団の男は俺を抱えたまま、アジトの最奥に建てられていた大きな天幕の前までやってきた。

 それから俺を地面へと落とし、膝をついて頭を下げた。

 だというのに芋虫状態の俺の背中から手を離してくれない。

 ここまでくると、俺のこと大好きすぎんだろコイツ。

 

 

「…………親分! 親分に相応しい男を連れてきました」

「……許可する」

 

 

 声、めっさ渋いやんけ。嘘やん。

 ……危ない危ない、あまりにも厳格な声がしたので驚いて口調がバグった。

 こんな渋い声したおっさんに、俺の純潔を捧げられるのすごい嫌なんだけど。

 

 

 男が、俺を担ぎ直して天幕へと入る。

 

 

 そこに――何かがいた。

 

「…………あらやだ、可愛い子」

 

 それに覚えた第一印象は……うん、ごめん。

 あまり思い出したくない。

 

 ムチムチ、ぴちぴちの黒の肌着。

 奇怪な白黒の格好。

 道化じみたメイク。

 背丈はステラよりも高く、肉づきも良い。

 

 銀の髪。

 老獪さを象徴するかのような髭は綺麗に整えられていて、頭には黒のシルクハット、さらに装飾品としてモノクルを身につけていた。

 

 その男の容姿に忌避感を覚えたというわけではなかった。

 人のことを言えないような身体と精神のバランスをしている自覚はあるし。

 特徴的な口調も別に気にならない。

 そういう人がいることは前世から知っているし、別に偏見を持っているわけではなかった。

 渋すぎる声も特に問題はない。

 一つの要素としては、美点であると思えるぐらいだ。

 

 ただ、それら全てを覆すほどに余りにも状況が悪かった。

 

「あらやだ。この口調隠そうと思ったんだけど、やーね」

 

 これに、俺の純潔をささげる?

 

 その情報によるバイアスが入った途端、脳はバグり始める。

 認知能力は低下し、背筋に悪寒がはしる。

 鳥肌が立ち、視界が暗くなる。

 

 だいたい何なんだ。このオネェとオジ様の複合体みたいな男は。

 原作キャラよりもキャラが濃そうな存在が、何でこんな宝盗団の親分なんかやってんだよ。

 

「……うーん、怯えられちゃったかしらぁ?」

「…………イエ、ベツニ?」

 

 天幕に入ってから、俺を拘束するものは足と腕を縛っている縄だけしかなかった。

 ワープをするには絶好のタイミング。

 しかし、理性が働けさえすればチートさんに指示を送れたはずが、どうにも思考が固まって動けない。

 

 

『――ッ、強制転移を開始します!』

 

 

 故に、チートさんは独断で動いた。

 その判断は間違いなく正しいものだった。

 

 

 

 

 だから、そう。

 

 この奇妙な一連の邂逅もとい誘拐事件の結末を、一言でまとめるのならば――ただひたすらに、徹頭徹尾、最初から最後まで運が悪かったということになるのだろう。

 

 あと一瞬でも転移を始めるのが早ければ、或いは、転移の決断を躊躇い続けたのであれば、結果は全く変わったものになったはずだ。

 

 

 だが、そんな後悔も今では後の祭り。

 

 

 チートさんの判断により、俺の身体が光に包まれる。

 目の前のオネェさんは、首を横にしながらその様子を見守っていた。

 

 ああ、これならば逃れられる。

 ステラとの合流には少々手間取るかもしれないが、現在の危機は乗り越えられる。

 

 3、2……と、チートさんのカウントダウンを聴きながら、そんなことを考えた。

 

 

 

 

 最後の瞬間、一つの影が天幕へと飛び込んできた。

 その影は光に包まれた俺へと躊躇いなく、腕を伸ばしてきて――

 

 

 

「……大丈夫?」

「――――は?」

 

 

 

 その金髪の救世主を巻き込み、俺は転移による脱出を果たしたのであった。

 

 

 

 うん。

 

 

 ……巻き込んじゃったんだよなぁ。

 …………どうしよう、これ。

 

 死にたい。

 

 

 

 

 

 

原神とスタレ 本作読者の履修状況確認用

  • 両方やってる!
  • 原神だけ!
  • スタレだけ!
  • どっちも知らんが読んでやろう!
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