転生男の娘vs悪ガキ(星)   作:桜ナメコ

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9話

 

 

 

 

 

 

「…………て、…………きて」

「……ぅ、ぁ……ん……」

 

 

 誰かの声が聞こえる。

 とんとん、と肩を優しく揺らされている。

 どこか懐かしいような、けれど少し聞きなれないその声に新鮮味を覚えた。

 

「…………起きて、天華」

「…………ほ、たる?」

 

 瞼をゆっくり持ち上げると薄らぼやけた視界の中に金色が映り込んできた。

 何度か瞬きを繰り返すことで、その金色の正体が明瞭になってくる。

 

「うん、蛍。起きた?」

「………………ぴぇ」

 

 

 目の前に 蛍様の お顔がある。

 

 近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近いtk!?!?!?!?!?

 

「……ん、気絶しちゃだめ」

「……ひゃ、い」

 

 精神崩壊に対する防衛本能が俺の意識を落とそうとした直前、蛍はむにっと俺の頬を引っ張った。

 あ、指、すべすべ、ちょー気持ちー。死ぬ。

 

「…………おひまひは」

「なら、いい。おはよう、天華」

「……おはよう、蛍」

 

 理性が復活する。

 パッと意識を切り替えた俺を見て、蛍は首を傾げていた。かわいい。

 

「どうかしたか?」

「……天華って、二重人格なの?」

「そんなことは……ないな」

「なんで、少し躊躇ったの……」

 

 まぁ、実のところ、もう一匹脳内住居人が居ないこともないからなのだが。

 

『誰が匹ですか、誰が』

 

 そろそろ普通に話す気になった?

 

『否:何のことでしょうか』

 

 うーん、この頑固ちゃん。

 もっとフランクに話して、たくさん名前呼んでくれてもいいのよ。

 

「ま、色々あってな……そんなことよりも、今日の話だ。時間は……」

「予定通りだよ。朝の5時ぴったり。まだ少し暗いけど、これぐらいなら十分動ける」

「了解。後始末したら、すぐに出よう」

「わかった」

 

 火の始末に、ゴミの処理。

 来たときよりも美しく、なんてスローガンを抱えて学外実習に行った小学生の頃が懐かしい。

 

「……さて、と」

「片付け終了だね。行こう」

「だな」

 

 手早く準備を整えてから、動き始める。

 捜索の一手目は既に決めていた。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 一方その頃。

 

 

 無妄の丘、その中腹。

 霧に包まれたその場所に迷い人が二人。

 

「…………ここ、どこ……天華は?」

「旅人……旅人ぉ……どこだーー?」

 

 目を虚ろにした灰髪の女性――ステラと彼女の腰にしがみつくようにして半泣き状態のパイモンだった。

 

 

 

 天華の誘拐発覚後、周辺の知的生命体を根絶やしにする勢いで暴れ回っていたステラだったが、自身と同様の状況に陥っているパイモンを見つけて以降はそのなけなしの理性を取り戻していた。

 人間、自分よりもダメそうな存在を見つけると不思議と気が落ち着くものである。

 

 パイモンと名乗る不思議生命体曰く、自分の相棒である「旅人」が宝盗団に乗り込んだ直後、跡形もなく消えていなくなってしまったとのことだった。

 

 パイモンが旅人から目を離したのは宝盗団のボスがいると思われる天幕へ突撃した瞬間のみ。

 旅人に迷惑をかけないようにと少しばかり距離を取ったときには、既にその姿は無くなっていたのだとか。

 必死になって宝盗団のアジトから逃げ出し、ギャン泣きしながら旅人を捜索しているときにステラと出会ったらしい。

 

 さてはて、天華に関係のない事象の全てをどうでもいいことだと考えているステラなのだが、流石に出会ってしまった子供? をそのまま放置するのは気が引けた。

 ため息を吐きながらも事情を聞き出し、目的が自身と同じく人探しであることを知ったステラは、一先ず宝盗団のアジトとやらに向かった。

 

 パイモンたちがアジトに向かった理由が誰かの助けを求める声が聞こえたから、というものだったからだ。

 その誰かが天華である可能性に賭けたステラはパイモンの案内の下、そのアジトがあった場所へと辿り着いた。

 けれど、ステラたちが到着したときその場所は既にもぬけの空となっていた。

 

 よっぽど慌てていたのか辺りには生活用品や、盗品と思われる品々などが残されていた。

 少し考えたのち、ステラは宝盗団の追跡をすることを決定した。

 悪いとは思ったが僅かに残されていた食料品を少々失敬して腹を満たしてから、その捜索を始めた。

 

 こうなったときに能力を発揮したのはテイワットが誇る何でも屋こと旅人のガイド、パイモンであった。

 普段は旅人に助けられている姿が目につく彼女だが、似たような調査は旅人とともに幾らでも行ってきた。

 森に残った移動の痕跡から大体の移動方向を予測して、追跡をしていく。

 

 パイモンの経験とステラのどこか動物じみた直感により、奇妙な二人組は正しくその追跡を行っていった。

 

 問題があったとすれば、その追跡対象が向かった場所である。

 いや、よく考えれば簡単にわかることなのだ。

 

 日夜変わらず霧に包まれ、人足の少ない山の中など、宝盗団からすれば絶好の隠れ場所でしかない。

 

 時折、妖魔退治の修行をしている少年やら、妙な詩を口ずさみながら炎をぶん回してくる少女やらが出没しないこともないのだが、それ以外はとても平和な霧の世界。

 

 無妄の丘に迷い込んだが最後、流石に追跡の手は止めざるを得なかった。

 それどころか、彷徨う内にどこから入ってきたのかがわからなくなる始末。

 

 

 

 

 結果、現在、彼女ら二人は無妄の丘にて迷子になっているのだった。

 

 

「…………それにしても」

「な、なんだよ? お、お化けじゃないよな」

「うん。ただの虫」

 

 

 少しバチバチしてるけど。と内心で付け足しながら、軽くバッドを振る。

 腰元のパイモンを引き剥がすことは、既に諦めていた。

 

 直線的に移動をする様はハチドリのようだが、それなりの大きさの虫がかなりの速度で突撃してくるその様に愛くるしさは見出せない。 

 

 複数体の群れとして雷蛍が向かってくる。

 こいつら、昆虫(仮)のくせに人間様を食べるのだろうか? なんて考えながらの応戦。

 

 何も考えることなく突撃してきた勇敢なる先遣部隊をまとめて横薙ぎに仕留める。

 

「…………ッ、あと三つ」

 

 前方から高速接近してきた雷蛍を沈める。

 と、同時に後方から奇襲。

 あまり体勢を変えるとパイモンに悪いか、と振り向くことをせずにバッドを後ろに一振り。

 

 これならわざわざ"覚醒"を使うまでもない。

 

 残り一体。

 それでも気を抜くことはなく、最後の雷蛍を視界に捉えた。

 

 ホバリングを続ける雷蛍。

 しばしの沈黙。

 中途半端に開いていた距離に、本能が警鐘を鳴らす。

 

「パイモン、ちょっと浮いてて」

「わ、わかった……けど、もう最後の一匹だぞ?」

 

 ……少し、踏み込む。

 決めて、意識を右足に集中させた。

 

「……ふぅ、よし」

 

 そして、一歩。

 爆発的な加速力を獲得し、雷蛍を目がけてステラは飛び出した。

 

 ステラが飛び出した直前に、雷蛍は雷元素の力を球体として集め始めていた。

 その球体が攻撃として放たれる――よりも早く、ステラの振るったバッドが雷蛍を捉える。 

 

 みしゃり、ととてもではないが聞き心地の良いとは言えない音がした。

 

「…………さっきの、感覚は?」

「……違う! ステラ、後ろだ!」

 

 あまりの手応えのなさに疑問を覚えるステラ。

 その疑問は、正しく要点をついていた。

 

 

「うふふ、こっちよ」

 

 

 パイモンの声に、振り向いたステラ。

 

 そして。

 

 ()()()()()()、紫電が迸った。

 

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

 

 

 突然だが、場所についての話をしよう。

 うん、本当に突然な上にさして興味の湧かない入りで真に申し訳ないとは思ってる。

 地理の授業とか、実質居眠りの時間みたいなところあったしね。

 

「……そうですか。通ってませんか……わかりました、ありがとうございます」

 

 石門に駐在していた千岩軍の方に、パイモンorステラのどちらかがこの道を通らなかったかという質問をぶつけたところ、返ってきた回答はノーであった。

 これでステラたちのいる場所に対して、一つの絞り込みができた。

 

 彼女らは、少なくとも璃月地域にいる。

 

 半ば予想の範疇ではあったが、その事実が確定的なものになったことは大きいと言えよう。

 それがわかったのは俺の誘拐された場所が石門を超えた直後、つまり璃月地域だったからに他ならない。

 

 問題はここから。

 正直、モンドの方へと通り抜けたと言ってくれた方が探すのは楽だったんだけど、なんて考えながら彼女を待つこと十数分。

 

「……お待たせ、どうだった?」

「モンド方面には向かってないとさ」

「わかった……こっちもハズレ。けど、知り合いの頼れる人がいたから、見かけたら助けてあげてって伝えておいた」

 

 石門の()()()()()()()に転移してきた蛍と兵士から聞いた情報の共有を行う。

 

 ……そうなのよね、うん。

 蛍さんってば、ワープポイントからワープポイントへの転移は可能だったみたい。

 俺(チートさん)みたいにいつでもどこでも、とまではいかないようだが、やっぱり旅人凄い。流石、主人公だ。

 

 そんな彼女が出かけていたのは望舒旅館。

 確かに荻花洲一帯の情報収集に適した場所といえば、ピッタリだ。

 確かあそこの経営関係者って全員、凝光の部下なんだっけ?

 頼れる人というのは恐らく魈のことだろう。

 魈じゃなかったらわからん。

 あの異次元に強いモブ釣り人(仮)とかだったら大歓迎だけど。

 

「……じゃあ、残る選択肢は」

「――無妄の丘、だね」

 

 よりにもよって、そこかよ。

 ……絶雲の間よりましかぁ?

 

「あんまり、お化けは好きじゃないんだけど」

「ふふ、天華のことは守ってあげるから大丈夫」

「……ッ、…………そりゃ、安心だな」

 

 もうやだ、不意打ち怖い。

 何この子、悶え死ぬんだけど。ヤバい。

 

「それじゃ、行こう」

「あいよ」

 

 

 俺たちはすぐさま、無妄の丘へと進行方向を変えて歩き始めた。

 

 時間を無駄にすることなく、事態の解決のために動き続ける。

 その姿を見ていて、蛍を表す際にはストイックという言葉が適しているのかもしれない、なんてことを思った。

 

 ゲーム世界ではそれなりにドライな性格をしているようにも見えた蛍だったが、実際に旅を共にしてみれば軽い冗談を言ってきたり、何気ない雑談をしてくれることもあり、とその印象はどんどん変わっていく。

 

 このままではいけないと、脳のどこかで警鐘が鳴り続けている。

 何が危ないのかは明白だ。

 

 崇めていた推しが思っていたよりも普通の女の子だった。

 

 おい、待て。

 これ以上に破壊力のある一文ってあるか?

 いや、ない。

 古文でもないのに反語を使うレベルでない。

 

 ヤバいヤバいヤバい、ガチ恋してしまう――いや、しないが?? 身の程は弁えてます。

 

 待て待て落ち着け。

 ちょっと冷静になろう。

 そういうのはもっとお互いのことをよく知ってからだよね! って違うだろ、おばか。

 

『一人相撲楽しいですか?』

 

 見てるぐらいなら付き合ってくれない?

 まあ、ワンクッション入れてくれたおかげで少し落ち着いたけどさ。

 

 

「……そういえば、天華が別れた相手って女の人なんだよね?」

「あー、ステラのことか……まあ、一応?」

「何その歯切れの悪い感じ」

「いや、見た目だけでいえば普通に美人さんな女の人だよ。ただ中身がちょっとアレというか…………ゴミ箱に対して執念深いし」

「ゴミ箱?」

「俺も説明できないな……ま、無事に見つかったら聞いてみてくれ」

「……? わかった」

 

 どうしよう、これで蛍がゴミ箱マイスターとしての道とか進み始めてしまったら。

 ……ゴミ箱マイスターってなんだ?

 

 

「ステラは俺の…………何なんだろうな? 友人、同行者、護衛……なんだって言えるけど…………うん、やっぱり相棒っていうのが一番しっくりくるな」

「……相棒」

「そ、相棒。やけに懐っこくて、妙に信頼されてるのが謎なところだけど…………アイツが隣に居てくれるだけで安心できるんだから、邪険にもできないだろ」

「…………仲良しなんだね」

「それなりにね……そっちはどうなんだ? 確か、パイモン? って言ったか?」

 

 推しに嘘はつけねぇ……となんか思っていたよりも恥ずかしいことを言った気がしたが、速攻で忘却して蛍たちの関係性に突っ込んでみた。

 

『わー、超白々しい』

 おだまり。

 俺も思ってるからそういうこと言わないの。

 

「……パイモンは私の最高の仲間。いつも元気いっぱいで、私のことを自慢に思ってくれてる。お調子ものな所もあるけど、そこも慣れれば可愛いものだよ」

「…………」

「……? どうかした、天華?」

 

 

 一瞬、彼女の表情に翳りが見えた……ような気がした。

 いや、勘違いだろう。

 どう考えても、このタイミングで表情を暗くする意味がわからない。

 パイモンのことを暗い顔で語る蛍とか、意味がわからなさすぎて脳がバグるぞ。

 え、ビジネスじゃないよね? ちゃんと仲良しなんだよね?

 

「……あ、いや、仲良しなんだなぁって思っただけ」

「ん、私も天華も、そんな仲良しさんと逸れたわけだし……早く見つけてあげないと」

「そうだな……お腹、空かせてるだろうし」

「ふふ、それはパイモンもかな」

 

 

 焦りがないわけではない。

 だが、仕方がない。

 これでも、かなり最速に近いペースで来ているのだから。

 

 それと、信頼があったのだ。

 

 ステラが誰かに負ける姿なんて、俺には想像できなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

 

 

 

 あれから、どれぐらいの時間が経ったのだろうか。

 

 

 

 

 

 意識が飛ぶ。

 

 

 バラバラに砕けた「意識」という名のガラスを、反射的にかき集めて並べ直す。

 

 そんなイメージが脳裏を過ぎては、直後、覚醒する。

 

 視界には急速に近づいていく地面が映った。

 

 

「――――ッ、――!」

 

 

 ギリギリのタイミングで足を踏み出して、身体が崩れ落ちるのを防いだ。

 

 ああ、これで何回目だろうか。

 

 

「……め、だぞ! ……れ以上動いたら、お前がっ!」

 

 

 聞こえる誰かの声。

 たしか、守ると約束をした相手。

 

 けど、違う。

 あんた、じゃない。

 

 わかってる。約束は守る。

 

 

 じゃないと、あの人に怒られてしまう。

 

 

 手の感覚がしない。

 力は入っているのか。

 バットは握れているのか。

 それすら、わからない。

 

 

 じんじんと熱を放っているのは、右の肩。

 左の掌を当てると、ベットリと粘性を持った熱い何かの感触がした。

 

 

 

 

「…………これ、血か」

 

 

 

 冷静になってみれば、ぼやけた視界の片側は赤に染まっていた。

 左手の甲で目元に垂れた血を拭い、ゆっくりと呼吸を繰り返す。

 

 

 

 周りを見渡した。

 

 

 

 そこには、私を囲むようにして何人もの人間の姿があった。

 

 紫の鎧、青の鎧、緑の鎧、氷の鎧、炎の銃士、雷の女、氷の女、鏡の女、岩の術師、不可視の刺客。

 

 いったい何人を倒したのだろう。

 気が遠くなるほどの時間、戦い続けていた気がする。

 

 

「……なんで、なんで、ファデュイたちがこんな所に、こんなに沢山集まってるんだよ! なんで、おいらたちを狙うんだ!」

 

 

 パイモンの泣き声混じりの叫びを聞いて、ようやく意識が完全に覚醒した。

 

 

「………………下がって、パイモン」

「ま、待てよ! これ以上戦ったら、お前本当に死んじゃうぞ!」

 

 

 相手は、息も絶え絶えといった状態だった私が覇気を取り戻したことを悟ったようだった。

 遠距離攻撃の手段を持つものが、全員揃って私に照準を合わせたのがわかった。

 

 

「残念ながら、戦わなくても死んじゃうみたいだから……そのお願いは聞けないかな」

 

 

 バットを左手に持ち変えた。

 

 

「………………全員は無理。勝ちは諦めよう」

「……ど、どうするつもりだよ!? こんなの、こんなの、もう!」

 

 

 目一杯に、息を吸う。

 

 

「腰に掴まって。絶対に、離さないで」

 

 

 

 直後、全方位からの弾幕。

 

 

 

「…………突破する」

 

 

 

 そして。

 

 蒼雷は轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原神とスタレ 本作読者の履修状況確認用

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  • 原神だけ!
  • スタレだけ!
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