転生男の娘vs悪ガキ(星)   作:桜ナメコ

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10話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無妄の丘は過去に例を見ないほどの盛況ぶりを見せていた。

 荒れ果てた廃村。

 漂う霊魂に、薄暗く重たい空気。

 人間の好き好む環境からはかけ離れたその場所に、今宵は四組もの訪問者たちがいた。

 

 まず一つは、無妄の丘を避難地としていたオジ様オネェ率いる宝盗団。

 次いで、彼らを追跡してきたパイモンとステラのコンビ。

 そして、彼女らを追跡してやってきた天華と蛍のコンビ。 

 

 問題となったのは残された最後の陣営――ファデュイ戦闘員の集団だった。

 

 璃月での騒動の後、凝光ら七星が中心となって行った後始末。

 璃月港に潜伏していたファデュイの工作員たちは逃亡を余儀なくされ、彼らが一先ずの根城として目をつけたのが無妄の丘であった。

 

 本来ならば、とある水元素の糸使いが一人残らず捕えていたはずのその集団。

 だが、彼女はモンドで発生した光の柱についての情報収集に繰り出されていたため、彼らファデュイの処遇については後回しにされていた。

 また落ち着いた頃合いを見計らって大規模な討伐作戦を実行しようというのが、璃月上層部の考えであり、本来ならばそれで問題はなかった。

 

 ただファデュイの戦闘員たちは知っていた。

 自らたちの作戦の障害となった旅人の隣には、ふわふわと浮いている不思議な少女の姿があるということを。

 

 彼らは考えた。

 璃月港の英雄の身柄は、七星相手の交渉材料としてあまりにも有効だと。

 

 

 結果、ステラは巻き込まれた。

 

 長い長い旅路の中で幾度となく対峙する試練、その中でも彼女に訪れた初めての苦戦にして、最大級の苦境に。

 

 

 そして、彼女とはまた別のベクトルである選択を迫られていた者がもう一人。

 

 それが誰かなど、態々述べる必要性は薄いだろう。

 

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

 

 

「…………ぁ、ぅ……ぅ……」

 

 夜。

 最低限の仮眠を取ることにした俺と蛍なのだが……まあ、ね?

 

「……どうしたもんか」

 

 表情を歪め、魘されている彼女を前にして、自分に何ができるのかを、ただひたすらに考え続けていた。

 瞼を下ろして、耳を塞いで、何もなかったかのように振る舞うことは簡単だ。

 反対に、彼女にしてやれることは余りにも少ない。そして、なによりも俺には覚悟が足りていなかった。

 

「…………」

「……っ、ぁ…………! …………」

 

 あと、こんなシリアスな場面で言うべきことではないのだが。

 

 ……この子、顔が近かった。

 

『提言:ステラに見られたら詰みですよ』

「別に浮気してるわけじゃないからね?」

 

 そもそも、俺とステラは別に付き合ってないし。

 

 何が、といえば彼女が寝ている姿勢の話だ。

 現在、蛍は俺の肩を枕にするようにしてお眠りになられているのである。

 

 お陰様で、耳元に呻きや苦しそうな息遣いがダイレクトに伝わってきて、こちらまで気が狂いそうになる。

 なんて残酷な仕打ちをするんだ。

 ぶっころすぞ、神様。

 

『わぁ、凄い恩知らず』

 それはそれ。これはこれ。

 

 つまりだ。

 俺はこれから数時間、彼女が苦しそうにしている姿を間近で見させられ続けることになる、ということだ。

 何それ、新手の拷問?

 

 本当にどうしたものか、とわたわたしていると、真横にあった彼女の身体が前方へとズレた。

 

 

「…………ッ!!」

 

 全速力かつ最大集中でその身体を受け止めて、ゆっくりと自然な動きで横に倒していく。

 

 結果、膝枕をする体勢になりました。

 

 

「……………………ッ!?!???!?」

 

 

 よく声を出さなかったと褒めていただきたい。

 あー、もう心臓に悪い。

 顔がいい。

 髪の毛サラサラだし、ほっぺもちもち。

 

 

 

 これで魘されてなければ、最高なんだけど。

 

 

 

「………………ま、そうだよな。そりゃそうだ」

 

 

 

 何の事情にも縛られることのない本音は、つまりソレだった。

 どこまで行っても、何があっても。

 最後に辿りつく結論は、それだった。

 

 可愛い子には笑顔でいてほしい。

 それが、推しであれば尚更だ。

 

 

 シナリオをぶっ壊して、色んなものを切り捨てて、俺なんかの影響で未来が変わったら……多分、後になって間違いなく死にたくなる。

 

 

「――それでも」

 

 

 推しが泣いている間に何かができたかもしれないのに、何もしなかったってのは、それはそれで死にたくなる。

 何もできないかもしれないけど…………これ以上、黙って見過ごし続けるのは自己嫌悪的観点から無理だ。

 今すぐに死んだほうがマシなレベル。

 

 

 そっと、手を彼女の髪に落とした。

 

 あのとき、伸ばし損ねた腕を、今度はしっかりと自分の意思で伸ばしたのだ。

 

 トントン、と規則的なリズムでその金髪を撫でつける。

 ああ、そういえばと思い出した。

 ステラとの出会いも、魘されていた彼女を見ていられなかったのが始まりだった。

 

 

 

 ゆっくりと、蛍は薄ら目を開けて俺を見た。

 金の瞳の中央に自分の姿が映っていた。

 

 

「…………どうしたの?」

「……いや、大したことじゃない」

「……もう時間?」

「まだ少しある…………ねえ、蛍。このままでいいから、聞きたいことがあるんだ」

「…………何?」

 

 

 少しだけでもいい。

 この子の辛さを背負ってあげられたら、この子が休んでくれるのなら、それだけでいい。

 

 寝起きのせいか、どこかあどけない少女の髪をもう一度撫でつけてから、俺は直球で問いかけた。

 

 

「どうやったら、お前は涙を止めてくれるのかな?」

 

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

 目を覚ましたとき、彼はひどく落ち着いた色の瞳で私を見つめていた。

 薄暗い世界に焚き火の灯りだけが、その在処を示す標となっていた。

 

 これまで彼と行動を共にする中で、彼の中には二種類の人格のようなものが宿っていることには気がついていた。

 

 一つはその大部分を占めている落ち着いた雰囲気の男性らしい性格。

 ぶっきらぼうに見えて、気遣いのできる優しい男の子。

 もう一つが、私のことを過度に評価しているような節の見える慌てん坊の可愛らしい性格。

 慌てたとき、私が接近したときなどで良く露呈するその性格こそが彼の素なのでは、と実をいえば私は考えていた。

 

 でも、今はそのどれとも違った雰囲気を彼はまとっていた。

 

「どうやったら、お前は涙を止めてくれるのかな?」

「…………なみだ?」

 

 天華はそっと私の頬に手を当てると、目元にできた涙の跡を親指の腹で拭く。

 どうやら、私は眠っている間に涙を流していたらしい。

 

「…………私、泣いてたの?」

「……気づいてなかったんだ」

「うん…………どうしてかな…………」

 

 涙を流したのなんていつぶりのことだろうか。

 心当たりがないと言えば嘘になる。

 それでも、単純に不思議だった。

 今更、自分が涙を流すことなど、想像もできなかったからだ。

 

「…………蛍は、どうして旅をしているんだ?」

「……兄を、お兄ちゃんを探していた」

「そっか」

「…………ついこの間に、やっと会えたんだ」

「ん、そっか」

 

 ポツリ、ポツリと言葉が口から溢れていく。

 どうしてだろうか。

 弱音は吐かないと決めていたはずなのに。

 

「…………けど、また離れ離れになっちゃった」

 

 視界がにじむ。

 瞬きを繰り返した。

 せめて涙を溢さないように。

 

 そんな小さな抵抗をする私の頭を、天華はそっと撫でてくる。

 

「……蛍は頑張ったんだな」

「…………」

 

 頑張っていない。

 別に、私はただ必要なことを当然のように行なってきただけで、特別なことをしてきたわけではない。

 だって、全ては当たり前の努力だ。

 全てが兄と再会するための作業なのだから。

 

 だから。

 

 黙って首を横に振った。

 

 

「……頑張ったよ。凄え頑張った」

「…………」

「だから、偶には休んでいい」

 

 

 まだ出会ってから数日も経っていない相手の膝の上――しかも一応は異性――で眠ることなど、普通ならばあり得ないことだった。

 そんな慰めなんかで、気分が左右されることなどは考えられないことなのだ。

 

 けれど、どうしてだろうか。

 天華の言葉には重みがあった。

 自分のことをわかってくれているような、適当に言っているわけではないことがわかる真摯さが見えた。

 

 

「その辛さをなくしてあげることはできないけど……お前の兄の代わりになんてはなれないけど。疲れたときには助けになる。泣きたいときには付き合うから」

 

 

 

 なんで私は泣かないようにしてたんだろう。

 

 

『――――っ! ――――』

 

 

 そうだ。

 あの子の期待に応えたかった。

 あの子の信頼に応えたかった。

 

 ただの私のエゴだ。

 いつだって強くて格好いい自慢の仲間でいたいと思ったんだ。

 

 それは決して不要な重さなんかじゃない。

 あの子がいたから頑張れた。

 あの子の存在が、私に折れない理由をくれていた。

 

 泣いちゃいけない、じゃない。

 泣かないことを自分で決めたんだ。

 

 

 だから、私は――

 

 

 

「…………大丈夫。ここには俺しかいないから。蛍が頑張らなきゃいけない理由はここには何にもないから」

「…………ぁ」

 

 

 

 

 その言葉を聞いたときにはもうダメだった。

 本能も、理性もが告げていた。

 

 

 

「今だけは、ただの一人の女の子でいい。だから、沢山泣いてゆっくり休んで……また明日、元気な笑顔を見せて欲しい」

 

 

 

 これは、()()()

 

 

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

 

 

「…………なんなんだよ、コイツ」

「人間じゃねぇ……」

 

 放たれる弾丸。

 炎を纏った一撃を一瞥することもなく躱し、彼女は暗闇に舞い続ける。

 

 木を蹴り、地を跳び、宙に踊る。

 

 集団からの包囲を抜け出すために、敵の懐へと飛び込んだステラを何人もの戦闘員が追いかける。

 

 透明化をしたデットエージェント二人が、ステラの背後から強襲。

 振り向きざまに初撃をバットで受け止め、もう一方からの攻撃は体を逸らして回避する。

 

 体勢を崩したステラ目掛けて放たれたのは、岩の凶弾。

 岩元素のエネルギーがたっぷり詰め込まれたその攻撃は、完全にステラの死角を取っていた。

 

 が。

 

 体を逸らした勢いを殺すことなく、彼女は後方へと身を投げる。

 

 そして、腕一本。

 

 既に肩を射抜かれ、感覚も定かでないはずの右腕で全身を支えるようにしての逆立ち。

 

 ――と、同時に腕力のみの跳躍。

 

 何故、そのような動きができるのだと驚愕に動きを止めたデットエージェントは、そこである事実を目にした。

 

 

「……コイツ、身体にも光を纏って――」

 

 

 着地したステラは一直線にデットエージェントの二人の間へと飛び込み、身体を回す。

 全身に伝わる遠心力をフルに利用して横薙ぎにバットを振り抜いた。

 

 そして、すぐさま立ち上がろうとして、カクリと膝をつく。

 

 

 

 常時全身最大解放 "■■の覚醒"

 

 

 

 初めて使用したその無謀的行為に、ステラの全身は悲鳴を上げ続けていた。

 

 それでも動きを止めれば、その瞬間にステラの敗北は確定する。

 足元が青白く光った瞬間、ステラは無理矢理その身体を動かしてその場から離脱する。

 直後、先程まで自分がいた場所を囲うようにして鏡の檻が形成され、同時に光線が突き抜けていった。

 

 本格的にキツくなってきたなと、どこか冷静な思考のまま、ステラは周囲を見渡した。

 視線を落とすと、目一杯の力で腰にしがみついているパイモンの姿がある。

 彼女は半泣きのまま「旅人」と何度も同じ言葉を繰り返していた。

 

 

 ――せめて、この子だけでも。

 

 

 そんな思考が脳裏を過ぎた瞬間、笑いそうになった。

 

 

「……天華以外、どうでもよかったのにね」

「…………ス、ステラ? どうしたんだ、やっぱりもう――」

 

 諦めたわけではない。

 ただ少し、あのお人好しにバカをうつされたことに気づいただけだった。

 

 ステラを囲むようにして、鏡の断片のようなものが幾つも浮かび上がっていく。

 

 同時に、雷蛍使い、氷蛍使い、炎の銃士がそれぞれ別方向から遠距離攻撃をしかけようとしているのが見えた。

 

 

 踏ん張れ。

 引き出せ。

 もっともっと、目一杯の力を。

 

 全身を包む輝きをバットの先に凝縮させていくような感覚。

 ■■の力を、一点に集めて、集めて。

 

 

 

「…………ッ、ハァァァッ!!」

 

 

 

 地面に向けて、叩きつけた。

 

 

 轟音。

 

 

 立ち昇る土煙、どころではない。

 地盤が砕け、多くの者が膝をついた。

 

 光線は霧散し、視界を奪われた多くの者たちは、ステラが走り出したことに気づかない。

 

 

「…………パイモン、先に逃げて。あんた、飛べるんでしょ?」

「…………そ、そんなこと、出来るわけ」

「率直に言って邪魔。あんたがいると、全力で戦えない」

「…………でも、でも」

 

 

 隙をついて姿を眩まし、木に体を預けるようにして座り込んだステラは、自身を探すファデュイたちの声を聞きながらパイモンの頭をゆっくりと撫でる。

 

 誰がどう見ても、それはステラの強がりであった。

 

「…………ぅぅ、おいら、おいらは絶対に、絶対にステラのことを助けに戻ってくるからな! だから、だからっ――」

「……ん、期待してる」

 

 最後にトンと、小さな彼女の背を押してステラはゆっくりと目を閉じた。

 

 深く息を吐きながら少しの間体を休ませる。

 遠くなっていく気配。

 パイモンはきちんと言いつけを守ってくれたらしい。

 

 荒い呼吸を整えながら、耳を澄ませてみればどこからか水の流れる音が聞こえてくるような気がした。

 

 

「………………身体、重たい」

 

 

 一度、立ち止まったことで自身の身体に蓄積された疲労を思い出してしまった。

 なんなら、全身に痺れにも似たような感覚があり、動かすことすら難しそうだ。

 

 このまま、見つからずに逃げることができたのならば――そんな甘い考えが頭の中に浮かぶ。

 だが、無情にもファデュイたちはステラのことを発見する。

 

 

「…………ここまで、だな」

 

 

 ステラを見つけたのは、鎧を身につけ大槌を構える大柄の男と岩元素を操る術師であった。

 

 座り込んでいるステラに近づいていく彼らだが、警戒の態勢を崩さないのは彼女のことを脅威と認めているからだろう。

 

 

「………………ここまで、ね……まだ、わからないと……思うけど?」

 

 

 バットを杖のようにして、ゆっくりと彼女は立ち上がる。

 目は虚ろに染まり、恐らく意識は半分以上飛んでいた。

 

 誰が見てもわかる満身創痍のその姿に、けれど、ファデュイの戦闘員たちは一歩退いた。

 

 

「…………ああ、天華に会いたいな」

 

 

 その瞬間、怖気のはしるようなプレッシャーが目の前の女から放たれたのを彼らは感じ取った。

 大柄な男は雷元素を身に纏い、岩の術師はフィールドの構築を開始する。

 

 

「…………ねぇ? あんたたちは、どうして私の邪魔をするの?」

 

 

 

 その眼には、確かな狂気が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

 

 

「…………ぇ!? あなた、大丈夫? …………ふぅ、よかった。息はあるみたい……でも、こんな大怪我じゃすぐに治療を受けないと! …………よいしょ、よいしょ! 大丈夫っ! ヨォーヨが絶対に助けてあげますからね」

 

 

 

 

 

原神とスタレ 本作読者の履修状況確認用

  • 両方やってる!
  • 原神だけ!
  • スタレだけ!
  • どっちも知らんが読んでやろう!
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