転生男の娘vs悪ガキ(星)   作:桜ナメコ

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13話

 

 

 

 

 

 

「取引をしましょう?」

 

 含みを持った笑みを浮かべて、宝盗団の頭領オネェがそう言った。

 

 

 

 

 ――――()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「……天華、次はこれ」

「待って、ステラ。こっちも中々捨てがたい」

「…………確かに。蛍の方からにしよう」

 

 現在地 未だ洞穴の中。

 

「…………お、おいら、もう疲れたぞ」

「…………大丈夫、俺も疲れた」

「お、おお……お前、目が死んでるけど大丈夫か?」

 

 既に大分前から飛ぶことをやめて、地面へと座り込んでいたパイモンと俺の目が合う。

 これが大丈夫に見えるなら病院に行け、なんて粗雑な文句が思考の中に浮かんだが、もちもちのパイモンを眺めることでストレスの浄化に成功する。

 

「…………ぜんぜんへーき」

「な、なら、いいけどよ……」

 

 多分、今の俺は虚無った目をしているんだろうなぁ、なんて他人事のように考えていると、キャーキャーと騒がしい女性陣に混じって低音の渋い声が聞こえてくる。

 

「んもぅ、最ッッッ高の素材よ、あなた! アタシの見立てバッッチリじゃないー!?」

 

 オジ様オネェこと親分――結局、本名は教えてくれなかった――は、うっとりと恋する少女のような顔をしてこちらを眺めていた。

 率直に言って鳥肌が凄いです。パイモンさん、ちょっと抱きしめてもいいですか?

 

「お、おう、別にいいけど…………可愛いってのも大変だなぁ」

「…………その褒め言葉は素直に受け取りづらいかなぁ」

 

 ここで「お前の方が可愛いよ」と言える勇気はない。まだ出会って一日と少しである。この件については、付き合いが長くなってから再考しよう。

 ぽふりとパイモンを胸の前で抱き抱えて、サラサラの白髪の上に頭を載せる。

 

 決して、彼女が苦しくならないくらいに、けれど意識的にしっかりと。

 体温がわかるくらいの強さでパイモンを抱きしめると、彼女はくすぐったそうにしながらも俺の腕を抱き込んでくれた。

 

 え、何この子、もしかして天使? テイクアウトいけるんじゃない?

『バカじゃないですか?』

 

 そんなおバカな思考が脳裏を過れば、すぐさま脳内同居人からのツッコミが入る。

 いよいよ機械らしさを捨て始めたチートさんである。

 

「ほーら、アタシの提案にのってよかったでしょう、小娘ども。あの子を一目見た瞬間から、ずっっっっとこうしたいって思ってたのよ」

「……癪だけど同意。これ、全部貰っていいんだよね?」

「そういう約束だから気にしなくていいと思うよ、蛍」

 

 俺たちを置いて元気よく騒ぎ続けるステラたちが囲んでいるのは大量の衣類でできた山だった。

 何故かその全てのサイズが俺用に調整されており、何故かその全てが女性用のものであることが目下の悩みの元凶なのだが、この状況ってもう説明しなくてもいいよね?

 

 現在、抵抗を諦めて彼女らの着せ替え人形になっている俺なのだが、鏡に映った自分の姿が美少女過ぎて泣けてくる。いっそ全く似合わなければ、彼女らもここまで盛り上がることはなかったのだろうが、そんな()()()()は全て意味をなさないことなのだろう。

 

『賞賛:中々、悪くないですね』

 お前までそっち側行かないでくれる?

『自己肯定感が高いことを嘲笑えばよろしいので?』

 それに関しちゃ、顔面が強すぎて自分の顔だと思えねーんだよ。鏡見て「何この美少女」って思考が素で浮かんでくる俺の気持ちもわかって?

『疑:共感とは?』

 いきなり機械面すんのやめて。

 

「……天華、ぼうっとしてないで次」

「お前、遠慮とか配慮とかって概念知らないの?」

「何の話?」

 

 チートさんとの脳内談笑にかまけているのが癪に触ったのか、少しばかりムスッとした顔のステラが服を押し付けてきた。

 思わず、ストッパー役がどこかに居ないかと周りを見る。

 親分は論外、誘拐犯は宝盗団のメンバーと共に洞窟内のお片付けをしている。

 そして蛍といえば俺がパイモンを抱えている姿が琴線に触れたらしく、頬を紅に染め無言で悶えていた。何あれ可愛い。

 

「……はぁ、これが最後だからな」

「…………わかった」

「よし、いい子だ」

 

 若干、不満そうなステラの頭をポンと叩けば、彼女は視線を逸らして頬を緩ませる。

 

『甘ちゃんですね』

「自覚はしてる」

 

 そのツッコミは想定内。

 現在、想定外なのはジト目で俺を見ている蛍様の方でございます。え、何? 頭がどうしたって?

 

『テキトーに撫でとけば良いと思いますが』

 何それ、俺へのご褒美か? 嫌がられたら死ぬのでやらんぞ。

『このクソボケが』

 口が悪すぎやしないかなぁ。

 

 名残惜しいがパイモンを離して、受け取った服をインベントリへと叩き込む。

 

 そんじゃ、よろしく。

『了』

 

 チートさんの返事を受けた数秒後。

 一瞬間、全身が光に包まれた。

 たったこれだけでお着替えが完了するのは、着せ替え人形の才能があったと言えるのかもしれない。

 因みに最後に渡された衣装が何かは俺も知らない。何も見ずにインベントリへとぶち込んだ上に着替えを人任せにしているのだ。余りにも酷い服装だったら、ステラの小遣い減らしてやる。

 

 次の瞬間、洞窟内の音が完全に消え去った。

 自分の呼吸の音が聞こえそうなほど、鳥肌が立つくらいの完全な無音。

 

「………………え、そんなに似合ってない?」

 

 頰が引き攣る。

 どんな格好してんだ、俺?

 絶句する彼らを前にして一人ワタワタと慌てる俺だったが、ついに時間が動き出す。

 

「………………アタシ、生きてて良かった」

 

 最初に口を開いたのは衣装の提供主である親分だった。良い歳して号泣してやがる。

 

「…………に、似合ってるに決まってるだろ! すっっっごい綺麗だぞ、天華! おいら、誰かに見惚れて言葉が出てこないなんてこと初めてだ!」

 

 次に立ち直ったのはパイモンで、彼女は目を輝かせて俺の周りを飛び回りながらそんな嬉しいことを伝えてくれる。

 

「……そうか? なら、よかった。パイモンも可愛いぞー」

「えへへ、天華に言われると自信がつくぜ!」

 

 何この子、食べちゃいたいぐらいに可愛いんだけど。これは紛れもなく非常食ですわ(迷推理)

 ……あれ、チートさんからのツッコミが来ない。さては俺に見惚れちゃったな?

 

『……………………自惚れも大概にして』

 ……敬語外せたのね、君。

『死ね』

 なんかごめん。

 

 挙動不審なチートさんはともかく、パイモンの言葉を信じないわけにはいない。

 彼女が似合ってると言ってくれるのであれば、その通りなのだろう。

 

 パッと全身へと目を向ける。

 

「…………これは……ドレスか?」

 

 んー…………割とシンプルで露出もそこまで多くはないから許してやろう!

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 それは夜を閉じ込めたかのような黒曜の衣だった。

 特別に意匠が施されているというわけでもなく、ましてや分かりやすく目を惹く派手さなどは皆無であった。

 それでも、その場にいた誰もを虜にした。

 全ての者の視線を独り占めにしてみせた。

 

 昏い昏い深淵に落ちていくように。

 深い深い水底に引き込まれていくように。

 決して覚めない夢幻へと溶けていくように。

 目にした者全ての意識を喰らい潰すかのような、暴力的なまでの存在感。

 

 そして、恐ろしいことにそれだけの存在感を放ちながらも、彼の身体は重力に囚われていないかのような軽さを携えていた。

 儚く脆く、故に美しく。

 濡羽の髪は一つにまとめられ、碧眼は薄らと輝きを灯す。

 

 

 

 結果、ステラと蛍の意識が弾け飛んだ。

 

 

 

 ✳︎

 

 

『天華、あの衣装は禁止です』

「なんであの子たち急にぶっ倒れたの?」

『それがわからない内は禁止です』

 

 解せぬ。

 でも、チートさんが俺の名前を呼ぶほど真面目に諭してくる時点で何かしらの問題があるのは確実だ。大人しく従っておこう。

 ……鏡の前で着てみるぐらいはいいよね?

 

『耐えます』

 耐えますってなんだ?

 

 男の娘化したことで精神面が女性よりに引っ張られている……なんてことは全くないのだが、それはそれとして見栄えの良い姿を目指すことに興味がないわけではない。

 ゲームの主人公の着せ替えを楽しんでいるような感覚に近いと言える。○ンハンの見た目重視装備を選んでいる気分といえば、より伝わりやすいだろうか。

 

 結局、普段の格好――黒を基調とした初期装備――へと着替え、金銀コンビの復活を待つ。

 その間に宝盗団たちは後片付けを完了させたらしく、親分が別れの挨拶にやってきた。

 

「じゃ、アタシたちはこれで失礼するわ」

「……なあ、親分さん、最後に何個か質問いいか?」

「何かしら?」

「…………あんたみたいなのが、どうして宝盗団なんかやっているんだ?」

 

 髭を蓄えたオジ様は俺の問いかけに目を伏せた。何か言いにくい事情があったのだろうかと考えたが、それでも聞いておきたかった。

 オネェ要素を除けば、この人はかなりの常識人だ。最初に誘拐された理由はわからんが、今では貞操を奪われるようなことはなかったように思える。

 

「この宝盗団はアタシの家族なのよ。捨て子やら孤児やら流れ者やらばっかりが集まった悪ガキ共だけどね……表の世界じゃ暮らせない人間に居場所をつくるバカが居てもいいでしょう?」

 

 荷物を運搬している宝盗団のメンバーを眺めながら、オジ様は笑う。

 

「アンタみたいに一人で放浪してる可愛い子を勝手に連れてくるのはバカどもの悪い癖だけどね……アタシが喜ぶとでも思ってるのかしら」

 

 いや、すごい喜んでましたよね、あなた。

 そんなツッコミをなんとか呑み込み、話の続きを促した。

 

「ノブレス・オブリージュという概念を知っている?」

「……力を持つ者に生じる義務ってやつか?」

「あら、博識ね。いいことだわ」

 

 驚きの表情を浮かべた後に、親分は懐から何かを取り出した。

 ポンっと宙へ放り投げたソレは突如として発生した突風により、彼の手元へと戻る。

 

「…………風元素の、神の目」

「さようなら、可愛い子。アタシの用意した衣装、遠慮なく使いなさい」

 

 そう言ってオジ様オネェなエセ宝盗団の親分は俺の前から立ち去った。

 離れたところで倒れている二人とその世話をしているパイモンはこの話を知らない。

 

「……ネームドでもない神の目の所有者」

 

 ああ、そうだ。

 何故だかわからないがその事実を目前にした結果、ある思考が俺の頭を支配する。

 今の俺にとってこの世界は、本当に現実世界なのだと。

 

「…………ゲームじゃ、ないんだよな」

 

 そんなことは、とうの昔にわかっていたはずなのに。

 頭が重くて仕方がない。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

 視界は真っ暗。

 前に何があるのかわからないまま歩くことは、中々の精神的負担になるのだと身をもって学ぶことができた。

 潮風が頬を撫でる。

 コツ、という足音は人工的に舗装された床との接触によるもので、海鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 

「もーちょっとだからな! へへっ、ワープができるのは便利でいいけど、風情ってやつも大事にしないとだろ?」

 

 耳元でパイモンがそう囁く。

 何これ新手の拷問かなぁ? 鼻血出そう、とか考えながら、視界を塞ぐ柔らかい彼女の掌に手を重ねた。

 

「パイモン、そろそろじゃない?」

「ん? そうか? よし! なら、あと三秒だ! いーち、にーの、さん!」

 

 カウントダウンの後、真っ暗だった視界の中に光が飛び込んでくる。

 海の匂い。

 港の賑わいがここからでも伝わってくるような、そんな暖かい雰囲気。

 

 ここは璃月港を一面に見下ろせる場所にあるワープポイント地点。

 ゲームで何度も見た絶景ポイントだ。

 同じように目を閉じていたステラも、今では俺のすぐ隣で食い入るようその光景に見入っていた。

 

 パイモンと蛍が顔を見合わせから、二人揃って満面の笑みで俺たちに言う。

 

「「ようこそ、璃月港へ!」」

 

 想定外の寄り道もした。

 途中誘拐されたり、ファデュイに殺されかけたりもしたが、なんとか無事に辿り着いた。

 

「…………西風騎士団からのお使いも、ようやく終わりが見えてきたなぁ」

 

 内心で苦笑いしながら、伸びをする。

 トントンと肩を叩かれて、顔を向けるとキラキラと目を輝かせたステラの姿が視界に映る。

 

「早く行こう、天華?」

 

 彼女はそのまま俺の手を引いて、歩き出す。

 

「あ……じゃあ、私も」

「へへっ! 皆、仲良しだな!」

 

 虚をつかれている間にもう片方の手を蛍が握り、俺の脳は仕事を放棄した。

 遠慮がちににぎにぎと手を動かし、ふふっと笑う蛍様とか可愛すぎてもう無理死ねる。

 そんなことを考えていると、ぐいっと強めにステラが腕を引っ張ってきた。

 

「……なんだよ、びっくりしたなぁ」

「…………なんでもない」

 

 さっきまであんなにテンション高かったのに、もう不機嫌さが滲み出ている。

 女の子ってわかんねー。

 なんか嫌になるようなことをしたのか? と省みたものの思い当たることはないし、現在進行形で手を引く強さが強まっていることからも、嫌われているわけではなさそうである。

 

「そんな急がなくてもゴミ箱は逃げないぞ?」

「怒るよ?」

 

 どうやら、ハズレを引いたらしいです。

 

 

 

 

 







 いよいよ璃月編突入です。
 といっても、ワープ開けたので高頻度でモンドを往復する可能性がありますが。
 気長にお待ちください。

原神とスタレ 本作読者の履修状況確認用

  • 両方やってる!
  • 原神だけ!
  • スタレだけ!
  • どっちも知らんが読んでやろう!
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