転生男の娘vs悪ガキ(星)   作:桜ナメコ

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 新章突入。

 あけまして、です。
 元日から明るいニュースを聞かない日が続きますが、幸運なことに作者は元気です。出来ることは数少ないかもしれませんが、少しでも楽しんでもらえれば幸いです。
 
 
 


彼方の章
15話


 

 

 

 

 

 

 

 朝、目を覚ます。

 いつも通りの夢見の悪さ。

 そろそろ隈ができやしないかと心配になってくる今日この頃なのだが、メイドby神様なこの身体は健康体そのもののようで、鏡には腹が立つほどに顔のいい男の娘の姿が映っている。

 見た目はともかく、雰囲気だけで俺が本調子ではないことを見抜いてきそうな知り合いが何人かいる気もするが、それはそれ。

 心配をかけない程度には元気を出していきたいところである。

 

「……おはよ、チートさん」

『おはようございます』

 

 一先ず、インベントリから水を取り出して、喉の渇きを潤した。

 ステラや蛍はまだ眠っている頃だろうか。

 流石にあれだけ怒られてしまうと無断外出をするのは気が引ける。既に誘拐された前科を持つ身だ。これで行方不明になんてなってみれば、いよいよ監禁されかねない。

 

 とは言え、意識は完全に覚醒してしまっている。今から二度寝をする気分にはなれそうになかった。

 

「軽く外の空気、吸いに行くか」

『懲りない人ですね』

「宿の前で伸びをするぐらいは許されるだろ」

『さて、どうでしょうか』

 

 え、許されないことってある? ……ありそうだなぁ。一応「周囲警戒よろしく」とチートさんに伝えて宿を出た。

 

 朝の空気で肺を満たし、薄明かりの街道を眺めながら伸びをする。

 往来する人の姿はほとんどなく、しんと体の奥に染み入るような閑けさが心地良い。

 しばらくその場で時間を潰していると、地味なフード付きの外套で顔を隠している小柄な人が目の前の通りを横切っていく。

 

 どうしてか、顔もわからないその人影に目を奪われた。その誰かを視線で追いかけていたことに気づくまで、数秒を要する。

 

「…………?」

『どうかしました?』

「…………いや、なんでもない」

 

 埠頭の方向に消えていった何者かのことは忘れるとしよう。チートさんが警告を発さなかった時点で、敵対関係にある相手ではないのはわかっているし。

 

 さて、朝の気分転換もこのぐらいにしておくとしましょうかね。あまり長時間、部屋を開けていたのがバレるとステラの機嫌が悪くなりそうだからな。

 

 

 数時間後。

 

 

「……今日は観光するよ、天華」

「今日も観光するよ、の間違いだろうが……で、この手は何?」

「迷子にならないようにだけど」

「さいですか」

 

 仲良く手を繋いでいる俺とステラ。

 嫌だ、不快だ、なんて感情は一切湧いてこないが、身長差のせいで保護者同伴感が出て悲しくなってくる。

 せめて立場が逆だったのであれば救いようはあった気がするのだが、どう見ても俺が子供側なんだよね。

 

「むぅ…………」

「おーい、旅人? 依頼に行くんじゃなかったのかよ?」

「……うん。大丈夫、もう行くよ……ステラ、わかってるね?」

 

 宿のロビーでは何やら不満げな顔をしていた蛍だったが、ステラが頷きを返すと渋々といった様子で冒険者教会からの依頼に出向いていった。

 手を振って「行ってらっしゃい」と口にしたところ、目を輝かせて「行ってくるね!」と元気よく返事をしてくれた蛍様がぎゃんかわです。一瞬で上機嫌になってましたね、はい可愛い。

 

「…………天華は、専業主夫向き」

「じゃ、ステラがちゃんと稼いできてくれよ」

「――ッ」

 

 自分から言い出しておきながら、勝手に状況を想像して赤面しているコイツは何なんだ。一瞬だけ、可愛く見えるのやめてもらってよろしい?

 

「……天華が家から出なくていいぐらいに稼ぐ」

「率先して引きこもりを促すのは、天華さんちょっとどうかと思う」

「……? 家にいた方が安全だと思うけど」

「うわぁ、重症だ」

 

 ギュッと俺の手を握る彼女の手に力が込められたのがわかった。

 顔に似合わず心配性なやつだ、なんて思ってしまうのは失礼だろうか。ゴミ箱好きを公言しているなら、繊細なやつだと思われないことぐらい覚悟の上であってほしいものなのだが。

 

「で、観光って言ったからには目的地があるのか?」

「……特に、決まってないけど…………確か、講談? だったかな。璃月の名物の一つだってパイモンが教えてくれたから、気になってる」

「りょーかい。とりあえず行ってみるか」

「ん」

 

 原神世界で講談が行われている場所と聞いてすぐに候補として上がる場所は二箇所であると思う。

 よりメジャーなのは和裕茶館で講談を行っている劉蘇だろうか。彼は『次回お楽しみに』のデイリーで嫌というほどお世話になる講談師であり、和裕茶館自体もステージのリニューアルについての世界任務なんかがあった気がする。

 怪我を負ったステラが軽策荘で運び込まれたのが、この世界任務とも縁の深い軽策荘の村長役こと若心さんの家だったな。

 そして、もう一箇所が劉蘇の弟弟子である田饒舌が講談を行っている三杯酔だ。こちらは間章・険路怪跡クリア後の世界任務『扇底春秋』にて、鍾離やプレイヤーに老石と自作の扇子を交換しないかという話を持ちかけてくる人物である。結局、扇子をプレゼントしてくれるのだが、一時期はバグか何かで老石を持っていかれる不具合が発生していたとか何だとか。

 

 本日、ステラと遊びに行くのは三杯酔の田饒舌の方。選んだ理由は純粋に岩王帝君と若陀龍王の話を聞いてみたいと思ったのと、三杯酔の方が北国銀行が遠いからだ。流石のファデュイも目と目があったら⚪︎ケモンバトル、というほど喧嘩っ早くはないと思うが、念には念をね。冷静になるとあの世界、狂ってるよな。最近のやつは話しかけなければ、大丈夫になってたらしいけど。

 

 最寄りのワープポイントへ飛び、三杯酔に向かう。何でそんなに詳しいの? と怪訝な目を向けてくるステラからは顔を逸らした。怖いよ、この子。

 運がいいことに、俺たちは丁度、講談の切れ目の時間に三杯酔へ訪れることができたようだ。席を立つ人々の間にするりと入り込み、空いている席へと座る。

 適当に摘めるものを注文し、ステラと雑談なんかに興じているときだった。

 

「……ふむ、相席いいだろうか?」

「ん? あ、いいっすよ、全然…………って、鍾離先生ッ!?」

「…………誰?」

 

 噂をすれば何とやら、か。

 そこに立っていた長身のイケメンを前にして、俺は絶叫する。

 

「……おや、俺のことを知っているのか? 貴女とは初対面だと思うが」

 

 やべぇ、やらかした。

 ここから入れる保険ってありますか?(ないです)

 あと、俺男です。貴方と貴女の違いを聞き分けられるようになってしまった我が身が憎いぜ。今畜生がよ。

 

 

 ✳︎

 

 

「なるほど、旅人の友人というわけか。では、改めて俺も自己紹介をするとしよう。俺は鍾離、今は往生堂に客卿として世話になっている只人だ」

 

 知ってるよ! と食い気味にツッコミたくなる気持ちを抑え込み、測るような目でこちらを見てくる鍾離先生へと笑みを返す。頰が引き攣っているのはご愛嬌ということで。

 あと、普通の人間は自分のことを只人なんて言わないと思います。

 

 自らの失言に卒倒しそうになった俺だったが、なんとか蛍と友人であることを説明し、先ほどの絶叫については容姿を知っていたから驚いた、という理由でゴリ押した。

 この際、彼が全く信じていなさそうなことには目を瞑る。この場を乗り切れさえすれば後はどうにでもなるはずだ。(願望)

 

「…………天華、私の説明は?」

「マイペースだな、おい……まぁ、いいや。鍾離さん、こっちはステラ。一緒に旅をしている俺の友人だ。ちょっと個性的過ぎるきらいもあるけど、悪いやつじゃない」

「…………友人…………友人、ね」

「何文句ありげな顔してんのさ」

「別に」

 

 気づけば勝手に拗ねていた灰髪の彼女に疑問符を浮かべつつ、鍾離先生の様子を伺う。

 ふむ、と何かを考え込むような姿勢をとるイケメンを前にして、オタク側の俺が浄化されていく。頑張れ、俺。

 

「……ど、どうかしました?」

「大したことではない。天華殿とステラ殿だな。覚えておこう」

 

 何をどう覚えられているのでしょうか。

 え、名前をってことでいいよね? そこに警戒の意味合いはないよね? ないと思いたい。

 

「あんた、もしかして結構強い?」

 

 これまで比較的大人しくしているように見えたステラだったが、どうやら戦力差を測っていた模様。流石に神様へ楯突くほどの無謀さは持ち合わせていないと思いたいところだが、確信には至らないのがまた彼女らしい。

 鍾離先生はステラの質問を受けると僅かに驚いたような表情を見せ、その後、笑い始める。

 

「…………何がおかしいの?」

「……はは、いや、すまない。面と向かって聞かれるのは久しぶりでな。只人だと言った通りだ。そう警戒する必要はない」

 

 そりゃ、璃月で貴方に喧嘩売るバカはいないでしょうよ。

 そう言いたい気持ちはあるが、鍾離先生を岩神モラクスであると把握していることを悟られるわけにはいかない。口元をもにょらせながら、ステラと鍾離先生の睨めっこを見守る。

 我慢比べは鍾離先生に軍配が上がったようで、ステラが鍾離先生への警戒を僅かに緩めたところで、ようやく講談が始まった。

 

 

 『創龍点睛』

 

 それは田饒舌の十八番とする講談の一つ。

 岩王帝君が若陀龍王を彫り上げ、璃月の民と共存を誓う契約を結ぶ物語。

 太陽の光を望んだ盲目の龍はその創造主たる岩神を友と呼び、その神を慕う人々を守った。

 気が遠くなるほどの歳月により、その精神が「摩耗」によって削り切れるまで。

 

 

「…………か、…………んか! …………天華!」

「…………ッ!? 何だステラ?」

「何だ、じゃない。もう講談は終わったよ」

「……ぁ、そっか……悪い。話に感じ入ってたわ」

「……それなら、いいけど」

 

 

 ステラに声をかけられる。

 気がつけば、多くの人が集まっていたはずの三杯酔の席はまばらになっていた。

 コトッと机の上から音がして、目を向ける。

 鍾離先生が飲み物を置き、俺を見ていた。

 

「天華殿が『創龍点睛』を聞くのは、これが初めてか?」

「……そう、ですね」

「ふむ……どう思った?」

「えっと、どうとは?」

「すまない。質問が抽象的過ぎたか。小難しい推論や評価を求めているのではない。ただ感じたままに、貴方がどのようなことを考えたのか、それが気になっただけだ」

 

 何でこんな見るからにパンピーなどこにでもいる男の娘の意見なんざ求めてくんのさ、この人。抜き打ちチェックか、何かされてそうで怖い。

 まあ、聞かれていること自体は感想に過ぎない。気をつけていればボロが出るようなことはあるまい。

 

「…………俺は物語の是非を断じれるほど、講談を聞き慣れていません。それに、話の内容について論じることができるほど博識ではありません」

「……そうか」

「――ただ一つ思ったことがあるとすれば、若陀龍王と岩王帝君が真の友人であったのなら、こんなに美しいものはそうはないってことぐらいです」

 

 初めて、この物語を聞いたときに思ったことがある。

 鍾離先生の伝説任務の第二幕。

 強いが故に、優しさが故に、数多くの別れを経験してきたその神様の物語に心を打たれた。

 

「与えた者と、与えられた者。その始まりに絶対的なまでの上下関係があった。きっと龍王は恩義に報いるために、そして帝君は創造主としての責任を果たそうとした」

「…………」

「だから、その二人が対等な友人としての時間を過ごすことが出来ていたのなら、俺は二人の関係性を尊ぶべきものだと考えます」

 

 「摩耗」が憎い。

 鍾離先生は、忘れてなどいないのだろう。

 自分だけが覚えている記憶に、感情が振り回されることなど日常茶飯ではないのだろうか。

 そんな心配が脳裏を過ぎる。

 同時に、神である彼を常人と扱っていいものか、と疑念が首をもたげた。

 もしかしたら、神である彼は俺たちのような凡人とは異なる視点で物事を見ているのかもしれない。達観の境地に至るまでに傷痕を悼む気持ちが薄れていくなんてことが起きても不思議ではない。

 

「神様を一人にしなかった。それだけで若陀龍王は岩王帝君の忠臣だったとそう思った。さてと……この答えは、貴方の質問の答えになってるかな?」

 

 鍾離先生は俺の長ったらしい話を聞くと、視線を手元のお茶へと落とす。

 まつ毛なげぇ……とか見惚れていると彼は小さく頷いて、こちらを見る。

 

「貴重な意見だった。天華殿、貴方は……いや、これを言うのは野暮というものか。旅人たちの知り合いというのも、確かにらしい話だな」

 

 どこか含んだ言い方をする鍾離先生だったが、この人の思考に付き合えるほど俺の脳はハイスペックじゃない。

 適当な相槌を返していると、隣で沈黙を守っていたステラが口を開いた。

 

「あんたは……鍾離は、今の話をどう思ったの?」

 

 鍾離先生が愉快そうに笑う。

 笑われたことに不満げなステラは、その返答を聞いて眉を顰めた。

 

「非常に緻密に組み立てられた素晴らしい講談だったとも」

「あんた、いい性格してるって言われたことない?」

 

 誰に喧嘩売ってんだこいつ、と呆れるのにも疲れてきた頃になってようやく鍾離先生が席を立つ。

 

「天華殿のような思いを抱く者も居るのだと、新たに知見が広がった。いつか彼に伝えておきたいものだ」

 

 ではな、と別れの言葉は少なげに。

 彼は吹き抜ける風のように、軽やかな足取りで俺たちの前から去っていった。

 

「…………天華」

「……どした?」

「………………私は、天華を一人にしないよ」

 

 何か、思うことがあったのだろうか。

 目の前に居た青年が岩王帝君その人であったことも、若陀龍王を彼が封じたことも、何も知らないはずの彼女が、真剣な表情を浮かべていた。

 

「…………そっか」

 

 なら俺も、俺の果たすべき責任を忘れはしないよと。心の内でそう誓う。

 けれど、約束はしなかった。

 契約を結べるほどの自信はなかったから。

 

 「絶対に一人にしない」と彼女の想いに応えてあげたかった。

 それでも口を開けなかったのは、彼女に嘘をつきたくなかったからだ。

 

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

 朝、目を覚ます。

 直ぐに着替えて、顔を洗う。

 一日の始まりには、彼の顔を見なくては。

 

 どこか野生じみた習性が、心配性で酷く臆病な本能が、私の体を追い立てる。

 宿の自室から出て、彼の部屋のドアをノックする。

 

 ガチャリ、と開いた扉の先。

 黒髪の彼の姿を探す。

 

 

「……おはよう、天華」

 

 

 ひらひらと手を振ろうと持ち上げた右腕が、その場で固まった。

 

 そこに居たのは浅葱の髪の少女。

 

 服装は殆ど天華と同じ。

 髪の長さはそのままに、けれど目に見えて異なっているのは控えめながらも確かな膨らみを感じさせる胸部。

 煌々と輝きを宿していた碧眼は、凛然たる冷たさを宿した蒼眼に。

 

 開かれた窓からは、冷たい朝の空気が入り込んでくる。

 青白い夜明けの光が差し込むその部屋に、彼の姿は存在しなかった。

 

 

「…………あんた、誰?」

 

 

 

 零れた私の掠れ声に、彼女は真っ直ぐな瞳で答える。

 

 

 

「…………私はカナタ。あのクソボケの親愛なる従者です」

 

 

 

 

 

 






  ※これは断じてTSではありません。
   →伏線レベルで設計したので、タグのつけ忘れについては安心してください。

原神とスタレ 本作読者の履修状況確認用

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