1話
今時流行らんチート転生なるものをした。
いや、正確に言えば今からする予定。
それもよくわからないファンタジー世界とか、文明の進んでいない中世ヨーロッパ風の世界とか、宇宙を飛び回りビーム兵器で殺しあうSF軍記世界とか、そういうものではないと確定している転生である。
「それでのぅ、代わりと言ってはあれなんじゃがのぉ」
つい先程、ダメ元からの要望をぶつけたところ、何故か許諾されてしまったので、俺の今のテンションはブチ上がりだった。
なんなら、その要望を聞いてくれた偉そうなピカピカしている謎の球体の話を聞き流しているぐらいである。
あ、それはマズイ? ちゃんと聞くか。
「……もよいか? この条件さえ呑めば、主の望みを叶えて――」
「呑む呑む呑む! いくらでも何でも呑みますっ!」
「怖い怖い怖い、なんなんじゃ、お主。圧が凄いぞ」
オタクなんで許してくれめんす。
推定神様(仮)すらドン引きさせてしまうオタク魂が我ながら恐ろしいぜ……日本人だからしゃーねえな。
「――ああ、もう、知らんからな。ちゃんと言ったからな、儂」
「早くしろよー、してくだせーよー」
「恐れ知らずにも程がある」
抑えなんか効くはずがなかった。
「はーやーくー!」
「わかった、わかったから掴むな! 揺らすな、振るでない、子供かお主!?」
「高校生は子供だと思います」
「儂もそう思う、すまんな殺して」
「悪いと思ってるなら、はりーあっぷ」
「胆力が人間やめておるわい」
ピカピカと明滅を繰り返し始める球体。
それに合わせて、俺の身体から光の粒のようなものが浮かび始める。
「それじゃ、良い旅をな」
「おう、推しに推して推しまくってからおっ死んできます」
「言った側から生き急がないでくれぬか? それと条件のこと、忘れるでないぞ」
いよいよか、いよいよだな。
やばいやばい、語彙がやばい。
軽く死ねるぐらいテンションがやばい。
今なら何でもできる気がするぜ。
「……言ったからな? ちゃんと言ったからな、儂!?」
「へ、なに? なんか言った?」
最後に、球体へとそう聞き返したところで、俺の身体は光に包まれた。
✳︎
「すっっっげぇ、大自然! 一面の原っぱに、聳え立つ山々! マジで画面の向こう側じゃねえか、転生最高!」
俗に言う神様転生。
その転生先は、生前の俺が最も沼にハマったゲームである原神の世界だった。
先程軽く触れたが、俺がした神様への要望というのは転生先の指定。
つまりは「原神の世界とかに行けたら最高なんですけどねー」という冗談半分のものだった。
それを何やら条件付きで受諾されたのだ。
そこから先の記憶の一つや二つ、あやふやになっていても許されよう。
半狂乱でトリップしていたとも言える。
なんだ、そのヤベー奴。
まあ、それはそれとして。
「……ここはモンドか。うん、旅のスタートには最適のチョイスだな」
丁度真後ろに、この場所を風立ちの地だと証明する巨木と七天神像の輝きが見えた。
現在地の確認をしようと、どうにかテイワット大陸の地図を頭の中で書き起こしていると、頭の中でピコンという音が聞こえた。
『感知:位置情報の想起 提案:地図の閲覧』
「………………ん?」
思考が固まる。
明らかに世界観の違う人工知能のような声が聞こえた。それも脳内で。
「………………閲覧」
『是:地図表示』
俺の言葉に反応して、ぽんと眼前に浮かび上がるテイワット大陸の地図。
ご丁寧にもゲーム時代と全く同じ形式のソレを前にして、思わずこめかみを抑えた。
神様は、何の能力もなしに転生をしても適応するのは難しいだろうと言っていた。
適当なチートをくれてやるから楽しみにしておけ、とも言っていた。
「…………なんか、思ってたチートと違う」
異世界転生ってさ、なんかもっとこう派手というか、わかりやすい特殊能力とかさ、ぶっちゃけ、神の目を貰えるのかなぁとか思っていたんだけどさ。
「……なに、これ?」
『解:チート名 生活の知恵』
「うん、凄い助かる……助かるんだけど、なんか違う」
何というか、脱力感が凄かった。
いや、嬉しい。
本当にとても嬉しいしありがたいのだが、なんだかなぁ……という感じである。
「まあ、いいか。有り難く使わせて貰おう」
元々、この世界でチート無双をしたいわけではなかったのだ。
ただ、少し自衛能力があるだけでも行動の自由度は跳ね上がるのに、なんて思っただけだ。
「……となると、早めにモンド城に向かった方が良さそうだな」
危ないことはしないに限る。
平和な時代に生まれ、ぬくぬくと育ち続けてきた自分では猪の一頭にも勝てる気がしない。
「…………もしかして戸籍とか、やばい?」
これから暫くをモンド城で過ごすことを考えると、様々な問題点が俺の前に立ち塞がっていることに今更気がついた。
戸籍関係、宿泊場所、金銭問題にetc……
「ッ…………詰みまで秒読みなのでは、これ」
『感知:極度の焦燥 提案:所持品の確認』
折角の浮かれ気分に冷水をぶっかけられたところ、早速チートにお世話になることになりました。
「え、と……じゃあ、頼む」
『是:インベントリ開帳』
ぽん、と眼前に浮かび上がる画面。
もはや説明不要かもしれない。
原神のバッグ画面がそこにあった。
流石にゲーム時代の中身を引き継いでいたりはしないが……もし、引き継ぎがあったのなら、ぶっちぎりのチート認定だったけど。
かなり寂しい空欄が目立つバッグ画面には、幾つかのアイテムがあった。
パッと目についたものを挙げるとしたら、モラ袋と手鏡、そして何故か武器欄に表示されている
後は、食料がチラホラといった具合である。
「十五万モラ、か。結構な大金を用意してくれたんだな」
ゲーム時代では端金でも、生活を送る上では大金である。
ジャガイモ一つが百モラほどで買える世界で、十五万モラはそれなりの大金といえよう。
ましては、生前の俺は高校生である。
これまでの人生で手にした初めての大金に、少々冷や汗が出てきた気がした。
「とりあえず、金銭面は大丈夫か」
いつか余裕ができれば璃月、欲を言えば稲妻へ行ってお米などを仕入れたいところさん。
なんてどうでもいいことを考える余裕すらでてきた。
次に手鏡を取り出して、自分のことを観察してみると少々……いや、結構? 容姿に変更があったことがわかった。
黒髪黒目、中肉中背の男子高校生が、華奢で色白な艶のある黒髪の男の娘に。
「ちょっっっっっっっっと、待て?」
瞼を下ろした。
頭を振って、もう一度よく手鏡を見る。
透き通る碧眼に濡羽の髪。
あらやだ可愛いお顔。
「ふっっっざけんな、あのゴルフボール!」
『否:ゴルフボールは光りません』
「喧しいわ」
ナニはあったので、男の娘確定である。
TSでなかったことを喜ぶべきか、神様の趣味にドン引きするべきかを悩んでいると、脳内でチートさんが話しかけてきた。
君、自律的に発言できたのね。
『警告:■■■■「■」の解放規定時間を超過しています。直ちにインベントリから■■■■「■」を取り出してください』
「なんだって?」
『警告:■■■■「■」の解放規定時間を超過しています。直ちにインベントリから■■■■「■」を取り出してください』
「わ、わかった。わかったから、そんな繰り返すなよ」
最も重要な所がノイズによって聞こえない。
何かをバッグから取り出せ、と言っているのだろうか?
「えっと、インベントリを開いて。!マークがついてるやつが…………あった」
■■■■「■」
異■る■■で■■■■かっ■■■性の■■■
え、何これ。
エグいくらい文字化けしてるんだけど。
なんなら、文字化けの上に文字ブレまでしてるんですけど?
これ、本当に使っていいの?
『警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告――』
「うっさいわかった! 使うから黙ってなさい!」
頭の中に声が響き続けるというのは、軽い拷問であることを身をもって実感してしまった。
バトル漫画とかで、テレパス能力持ちの非戦闘員は意外と強キャラなのかもしれん。
「おら! これで、文句ねぇだろッ!」
そして。
若干キレ気味に、俺はインベントリから■■■■「■」を使用した。
✳︎
ソレは球体だった。
橙と黒と白とが入り混じった両手で包み込めるぐらいの大きさの球体だった。
直後、世界に極光が降り注いだ。
球体を中心に、天へと立ち昇る光の柱。
巨木をも超え、テイワット全域から観測できるほどの輝きにしてエネルギーの奔流。
大陸中の地脈が唸りを上げるように震え、空気中の元素は慌てるように揺らいだ。
世界を震撼させた――かもしれない――一大事の中心に彼らは立っていた。
この物語は、もうどうなっても知らねえぞとヤケクソ混じりに解放されたソレと、ソレを解き放った男の娘に関するアレコレを綴る日常譚。
星の章 星と転生男の娘
原神とスタレ 本作読者の履修状況確認用
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両方やってる!
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原神だけ!
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スタレだけ!
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どっちも知らんが読んでやろう!