転生男の娘vs悪ガキ(星)   作:桜ナメコ

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18話

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、俺とステラの二人は野生の琉璃百合の採取依頼を受け、荻花洲へとやってきていた。

 一般的に知られている定説によると、野生の瑠璃百合はほとんどが全滅しているとのことだったが、幸運にも最近できた知り合いから群生地を教えて貰うことができたので虱潰しに歩き回る必要はなさそうである。

 

 依頼の理由は、ある旅人が野生の瑠璃百合を「送仙儀式」のために探し出したという噂話が美談のように語られた結果、縁起物としての価値が飛躍的に高まっているからとのこと。

 ……乱獲されて本当に全滅しました、みたいな目も当てられないような事態にならないといいけどなぁ。

 

「天華、体力は大丈夫?」

「今のところはね……ワープとかいうズル使ってるわけだから、胸を張れるものじゃないけど」

 

 現在地を荻花洲の一言で表すと、その範囲はあまりにも広大でどこにいるのかの想像はつかないはず。

 というわけで、補足の説明。

 俺とステラは本日、石門側から見た荻花洲の入り口である七天神像を訪れていた。おそらくは、ほとんどの旅人が岩元素童貞を捨てたであろう思い出の地である。

 なお、送迎を担当してくれた蛍様は本日、外すことのできない依頼があったらしい。行ってらっしゃいのハグとのことでむぎゅっと抱きしめられたときは、柔らかさやらいい匂いやらで蒸発しそうになった。

 ……そろそろ惚れちゃっても俺悪くないような気がしてきたんだけど、ダメ? あんなの好きにならない方がおかしいと思うんだよね。

 

 閑話休題。

 

 七天神像から教えて貰った瑠璃百合の群生地はそれほど距離はない。時間の余裕は十二分にあったので、群生地へと出向く前にまずは望舒旅館に寄り道をすることに。

 

「確か、魈って人のとこに行くんだよね?」

「……お前のことを間接的に助けてくれた恩人だからな。会えないなら会えないで仕方ないけど、できればお礼をしておきたいでしょ」

「天華が言うなら、そうする」

「うーん、このナチュラルに依存されてる感覚に慣れてきた自分にびっくり」

「何の話?」

「何でもないです」

 

 望舒旅館。

 正直言って、あの怖〜いお姉さんの部下たちが切り盛りしているあの旅館へ出向くことに忌避感がないわけではないのだが……別に悪いことはしてないし大丈夫だよな?

 ゲーム時代では割と長い付き合いにもなっていた言笑の料理なんかを食べられたら最高なんだけど。

 そんなことを考えながらのんびりと歩いていると、ステラの表情が少々曇りつつあることに気がついた。

 

「どーかしたか?」

「……ここ、ゴミがない」

「…………」

 

 ほんの一瞬、心配した俺の気遣いを返せ。

 

「天華?」

「……『どうかしたの?』みたいな顔されても、バカじゃねーのとしか言いようがないんだけど」

「それは心外」

 

 不満げなステラは何故か胸を張って続ける。

 

「璃月のゴミはね、モンドのゴミとは一味違うんだよ。モンドのゴミからは酒場の喧騒の片隅にある隠しきれない寂しさと後悔、抑え込んで忘却しようとした弱音や野望が感じられるんだけど、璃月のゴミはよりドライな感情をダイレクトに伝えてくるの。商人の街ならではの自尊心すらもを取引の道具とする武器なき戦争は、敗者と勝者を明確にする。その残酷さはかのゴミキング『タルタロフ』の所業を彷彿とさせ――」

「待って、誰???」

 

 全く知らない人物がひょっこり生えてきたんだけど……いや、これ「人物」なのか?

 

「え、ゴミキングを知らないの?」

「…………あー、えっと…………うん、知ってる知ってる。アレだよな、あのゴミキング。ゴミの王様だろ? うんうん、天華さんちゃんとわかってますとも」

「ならいいけど」

 

 覗き込んじゃいけない深淵を発見した気分。

 正気度がガリガリと削れていく様を幻視してしまった。

 ニーチェ味がすごいので、撤退一択である。

 生憎と、もはや一種の禁忌の知識的な戯言に付き合ってやれるほど暇じゃない。

 

「まぁ、ゴミはないけど景色は大分素晴らしいぞ? たまにはのんびり自然を楽しもうぜ」

「…………! それもそうだね」

 

 ポンと頭を撫でるとしゅんとしていた顔は、面白いぐらいにわかりやすく明るいものになる。背伸びをして手を伸ばした甲斐があったというものだ。

 

 遠くに見えていた望舒旅館も、段々とハッキリしてきた。この分なら丁度、お昼前には旅館へと到着できそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

で、ゴミキング「タルタロフ」って何?

 

『私に聞かないでください』

 

ですよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ご飯、美味しかった」

「それは何より、言笑君も喜んでるだろうよ」

 

 ホクホク顔のステラを連れて、俺たちは望舒旅館を出発した。

 残念ながら、最大の目的であった魈との邂逅は果たすことができなかったが、言笑に頼み込んで手作り杏仁豆腐を貢物として置いてくることができたので良しとしよう。

 

 さて、次に目指すは本題である野生の瑠璃百合の群生地。

 何度か湿原を突っ切る必要がありそうなので、限界になったときは大人しくステラに助けて貰うとしましょう。

 

 

 お腹いっぱいのステラは時折飛び出してくるスライムやヒルチャールたちを鼻歌まじりに追い払っていく。

 食べてすぐに動いて腹痛にならないのかと疑問に思っていると、やや時間が経過したのちにステラが顔を顰める。

 

「…………脇腹痛い」

「言わんこっちゃねー」

 

 丁度、石橋があったので端に腰掛け、休憩の時間を取ることにした。

 景色を眺めながらぷらぷらと足を揺らしていると、俺の脚を隣に座るステラが凝視していることに気がついた。

 

「……どした? まだ、ぽんぽん痛い?」

「お腹は大丈夫」

 

 妙に真剣な顔をしている彼女の視線は俺の脚……というか太腿あたりに集中しているが、何かおかしな所でもあっただろうか?

 

「……天華ってえっちだよね」

「何の話???」

 

 すげぇどうでもいいことを考えていらしたようで、思わず嘆息する。

 

『わかります』

君は何に同意しているんだい?

 

 こんな所で語気強めないでいただきたい。

 いつになく力のこもった発言だったよね、カナタさん。

 

「どこがだよ? 健全そのものだろうが」

 

 その場で立ち上がり、自身の姿を再確認する。最近はオジ様オネェに貰った大量の服の中からカナタが選んだ服を着ていることが多いのだが、今日のソレは機能性重視のシンプルな格好だ。

 黒のショートパンツ、白のシャツに、涼しげなライムグリーンのパーカーを合わせた現代風の衣装。水辺に行くということは事前に相談済みであったので、濡れても問題のないようにサンダル装備の完全夏仕様である。

 ステラの服装が近未来的な"硬さ"を印象に残すのに対して、現在の俺の服装は爽やかさや軽さを感じさせるようなものになっている。

 

 断じて、えっちな姿などではない。

 何? 太腿が晒されてる? ……え、別に問題ないでしょ。

 胸囲を犠牲にして太腿へえっち度を極振りしたどこぞの堂主とかなら別だろうけどさ。

 

『…………』

「…………」

 

 何か言いたげにしている二人のことは置いておいて、そろそろ休憩も切り上げるとする。

 教えて貰った群生地の場所まで、もうあと少しだ。このまま、ささっと依頼を完了させてしまいましょう。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

「で、何故にどーしてこうなった?」

『貴方が意気込むと碌なことがないですね』

「認めたくないけど、確かに」

 

 文句を口にしながら、俺は隣でバットを構えるステラとの距離を詰める。

 周囲には複数の人の気配。

 俺とステラを囲むようにして、武器を構えているのはファデュイの面々である。

 

「また、あんたたちなの?」

 

 つい先程までは俺の拙い璃月民謡の歌を聞きながらニッコニコだったステラは、現在ゾッとするほどの圧を放ちながらファデュイたちを睨んでいた。

 現在地は丁度、瑠璃百合の群生地。

 インベントリの中には俺の歌を聞かせた香りの良い天然物の瑠璃百合が収まっている。

 

「俺たちはついてるな! まさか、金稼ぎのついでに仲間の仇討ちができるなんて、思いもしなかったぜ」

「久しぶりだな、灰色の女。無妄の丘での怪我は治ったのか? もう一度、思い出させてやるよ!」

 

 ガラの悪いファデュイの連中の話を聞く限り、無妄の丘にてステラと激突した集団及び魈様に蹂躙された残党兵が、野生の瑠璃百合を狙って現れたということのようだ。

 これだから、ファ君とかいつものとか言われる悪評が止まらないんだろうなぁ。

 

 周囲を確認。

 火の銃士が二、岩の術師が一。氷と雷の大男が一人ずつ。

 そこに加えて――

 

「ステラ!」

「――かって、るッ!」

 

 頭を下げて、しゃがみ込む。

 頭上をバットが通り抜け、俺を狙って飛び込んできていた透明な影を吹き飛ばした。

 探知能力だけを見れば、俺(カナタ)の方がステラよりも上なのだ。デットエージェントの奇襲の一回くらいは躱してみせますとも。

 なお、反撃ができるとは言っていないので最終的にはステラ頼りです。この身体貧弱すぎんか?

 

 瑠璃百合の青が美しいその場所で、ステラとファデュイの交戦が始まる。

 彼女はできる限り瑠璃百合を傷つけることのないように立ち回っているが、戦いが長引けばその影響は避けられないだろう。

 

 身体に当たらない炎弾や回避できるはずの大槌の振り下ろしなど、悉くをバットによる応戦で防ぎ続けているステラの横顔を見て、覚悟を固める。

 

「…………この場所が汚されるのは、あの子にも悪いしね」

 

 インベントリを開く。

 ソレを選んで、目を閉じる。

 

 

「…………行ける?」

『当然』

 

 

 端的で率直な問いに、彼女は一言で応じる。

 

 

「――目覚めろ」

 

 

 そう呟けば、直後、世界が歪み出す。

 

 瞬きの間。

 ◽️◽️の輝きが箱庭に宿る。

 

 降り立つその影はヒトの形を模していて。

 

 白磁の肌。

 浅葱の長髪。

 凛然たる蒼眼。

 

 

「………………では、蹂躙を始めましょうか」

 

 

 カナタは平然と無表情のまま、そう言った。

 

 

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

 荒ぶる業火がファデュイの大多数を打ちのめし、カナタは一瞬で盤面を制圧する。

 

『おいこら待て、誰よりも環境破壊に貢献してんじゃねーかアホ』

「はぁ……よく見てください。きちんと守っていますから」

 

 頭の中に響く天華の声に、新鮮さを覚えながらカナタは淡々と蹂躙を続けていく。

 無差別に放っている炎弾は瑠璃百合にぶつかる直前になると、何か見えない壁に遮られるようにして掻き消える。

 大して狙いをつけずに広範囲攻撃を行っているカナタの思惑の中には、守るべきものの隔離が全て完了しているからという前提があった。

 

「……今、私の方にも飛んできたんだけど」

「あら、気のせいでは?」

「へぇ、そう……あんたやっぱり良い性格してるね」

 

 気がつくと既に残っているファデュイは雷元素の力で鎧を纏った大男と岩元素のフィールドを構築している術師の二人だけになっていた。

 

 ステラは覚醒状態を解除し、ふぅと一息吐いてカナタを見る。

 譲られたのなら遠慮なく、とカナタがファデュイたちとの距離を詰めて行こうとした時だった。

 

 

「…………ッ!?」

「え?」

 

 

 ()()()()、ファデュイの身体の上を幾度も横断している様を見た。

 同時に、常人には捉えることのできない速度で何かの影がその場を駆け抜ける。

 

 

 そして――高密度の水元素が、その糸に込められた莫大なエネルギーが爆ぜた。

 

 

 音もなく地に伏したファデュイたちを気にかける余裕などない。

 その女は、既にカナタの背後に立っている。

 

 

「動かないで」

 

 冷たい声。

 ()()()()()()()カナタの首筋へと当てられた指先。

 

「適切な挨拶もなく、突然で申し訳ないとは思うのだけど――私の質問に嘘偽りなく答えて貰ってもいいかしら?」

 

 そこに拒否権はない。

 

『……なんでここに――』

 

 カナタは大人しく両手を上げて、一人静かに策を練る。

 原作であるゲーム時代。

 そのキャラクターは数々の逸話を持っていた。

 

 曰く、1凸最強探索人権キャラ。

 曰く、レベル1武器で螺旋を破壊するキャラ。

 曰く、もうお前が水神でいいでしょ(二回目又は三回目)。

 曰く、黒子えっちすぎない?

 

 数多く存在する限定星5キャラクターの中で完凸最強キャラクターの座を長期にわたって守り続けていた彼女の名を知らない旅人はそう多くはいないはずだ。

 

「モンドで発生した地脈の励起、元素の揺らぎ、テイワット大陸全土から観測可能なほどの光の奔流、その中心に貴女たちが居たということは既に調べがついているの――貴女は、何者?」

 

 璃月七星の一人である天権・凝光直属の特別情報官にして、ファデュイ執行官第九位「富者」へと喧嘩を売った幽客。

 

 水元素の神の目を持つ美女――夜蘭は冷たい笑顔を浮かべて、俺たちの前へと現れた。

 

 

 

 

 

 

原神とスタレ 本作読者の履修状況確認用

  • 両方やってる!
  • 原神だけ!
  • スタレだけ!
  • どっちも知らんが読んでやろう!
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