どのタイミングでこの話を入れるべきか、永遠に悩み続けていましたが、多分ここで大丈夫。
特に深い意味はないアンケートを設置しました。お気軽に。
投稿速度亀ですが(亀に失礼定期)、お付き合いくださっている皆様方、ありがとうございます。
頂いた感想は全て目を通させてもらっており、評価やここすきなども非常に励みになっております。誤字脱字報告をしてくださる方には感謝以外にありません。
のんびり投稿にはなりますが、この先もお付き合い願えたら幸いです。
その人は、眩い陽だまりのような温もりとひっそりとした月明かりのような慈しみを持ち合わせたどこにでもいるようで、そう多くは存在しないような、そんな一人の凡人だった。
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夜と朝の境界線が揺らぐ刻。
世界が暁天に染まるその刻を、私は埠頭で海を眺めながら迎えることがある。
深くフードを被り、俯いたまま人気のない早朝の埠頭へ辿り着いた後に顔を上げるとそこには疲労を忘れさせてくれるような世界が広がっている。
群青と橙と空色に灰がかかった白色の雲が浮かぶその空と、深い黒を落とした一面の海を視界に収め、一つ静かに息を落とすのだ。
近頃は、この場所に訪れることが増えたように思う。昔は仕事の終わり頃に目処が立った時――とは言え、請け負っている仕事が完全に無くなる瞬間など直近の数十年に心当たりはないのだが――などでのみ、気分転換のためにやってきていたのだが、最近の自分は週に埠頭を訪れない日の方が少ないような状態だ。
ただ、だからと言って仕事の量が減っているわけではない。むしろその逆で、ここ数週間の私は自分でも流石に止めなくてはならないと思ってしまうほどの働き詰めだった。
『――、あなた最近働き過ぎだと報告を受けているのだけど……』
『……それぐらいの仕事、私の方で処理しておくわ。あなたは少し休みなさい。自分を労り、常にコンディションを整えておくことも仕事の一つよ』
『――様、これ以上はいくら貴女でも体調に障りが……』
どうして、と。
そんな答えのわかりきった疑問を思い浮かべては、胸の奥にずきりと鋭い痛みを覚える。
何もしていない時間の方が、他全ての時間よりも苦しいものだとは思いもしていなかった。
私は只人と比べて、明らかに丈夫な身体を持っている。疲労を覚えないわけではないが、それが苦痛であるのかはまた別だ。
事務作業に専念する時間は、雑務処理に奔走する毎日は、息を吐く間も無く動き続けるその日々は――残酷な現実から目を背けるには、余りにも
「――帝君、私はこれからどうすればいいのでしょう……?」
そうして、遠い海の果てを見つめるその瞳に、朝日の輝きが映る頃。
突如吹き抜けた悪戯な潮風が、深々と被っていたフードを捲り上げる。
慌てて振り向き、フードを抑えようとした私の前にその人は現れた。
濡羽の長髪。
透き通るような碧眼に、白磁の肌。
この世の物とは思えないほどに完成された美貌を持った一人の
「……あらま? 先客がいたのはそーてーがい」
「……ぇ、ぁ、えっと……すみません、失礼しま――」
一瞬間、呆けたのは単に見惚れてしまっていたからで、すぐに顔を隠してその場を去ろうとしたのは人間社会に馴染むことのできない自分の悪癖だった。
焦りながらのすれ違い。
直後、相手に優しく手首を掴まれたことに動揺する。
「ぇ……?」
意図を図りかね、その温かい掌の持ち主の顔を見ると、その頰はどこか不自然に赤らんでいた。
「って、甘雨ちゃんじゃーん。なになにこの夢、やっぱ最高すぎなーい? 今日もかぁいいねぇ、髪の毛ふわっふわだねぇ……ん? なーんか、暗い顔? おにーちゃんに任せなさいな、ほっぺむにむにしてもいい?」
「…………お、お酒臭い!? あっ、ダメです、つ、つのは触っちゃダメです……!」
今にして思えば、あの顔の良さじゃなかったら、シンプルに通報案件だったような気がしなくもないのだが、まあ、それはそれとして。
その日、甘雨は『夢』のような人に出会った。
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「おさんぽっ、おさんぽっ、たーのしーいなぁ〜」
ふわふわとした思考。
ぐらんぐらんと揺れる世界に、ぐにょんぐにょんに歪む視界。
ぽわぽわと火照る頬に、ぴりぴりと舌が痺れるような感覚。
どうしてだろうか。
気分は素晴らしく好調なはずなのに、どこか薄氷の上を歩いているような感覚に襲われ続けている気がするのは。
「まー、いいやぁ……追加でお茶飲んじゃおっ」
新作なのだと試飲品として頂いたお茶を飲んでから、どうにも気分が高揚して仕方ない。
「ぷはぁ……あっちゅいし、ぼわんぼわんのしゅわしゅわ、うんまーい」
何と言っていただろう。
確か『烈炎濃茶』だったか。
名前の通り、全身の血が沸騰しているかのような刺激と、脳みそにクラっと来るような重さを与える独特の飲み心地は、俺の好奇心を刺激するには十分すぎる代物で。
二杯、三杯とお茶を頂くうちに、何だか元気になってきてしまった。
ステラたちにもお土産に買って帰ってやろうと思ったのだが、店頭限定販売だとのことでお土産はなし。お情けで筒一本分だけお茶を分けて貰えたのでよしとする。
元気いっぱい、気分上々ということで、今なら何でも出来てしまえそうな無敵感すら覚えている。
気分が良ければ、少しは気が大きくなるのも必然というもので、普段なら尻込みしそうな場所ですら今の俺は止められない。
「へーい、おっちゃん! お肉ちょーだい、お肉ー?」
「……うおっ、随分別嬪さんな呑んだくれが居たもんだなぁ……」
「んぁ……? あははっ、のんらくれってにゃにさー? おれ、まら成人してないもんねー」
「うーん、この酔っ払い……まぁ、いい。客は客だからな、何が食べたい?」
「お肉ー!」
「はいはい、嬢ちゃんにはサービスで水も出しといてやるよ」
屋台を開いていた強面のおじさんとも円滑なコミュニケーションを取れる俺、最強!
まったく、別嬪さんだなんて何を当たり前のことを言っているんだか。
「しょーがない、脱ごっか?」
「なんでっ!?」
「ぁぇ……? あついし、サービス?」
「痴女か!?」
「俺、おとこ」
「なら、いいか――いや、いいか???」
あっついし、汗気持ち悪いし、上ぐらい脱いじゃえと服に手をかけると、おっちゃんが慌てた顔でコップを手渡してくる。
「と、とりあえず、水を飲んでくれ」
「えー、俺もーお茶飲んだ後なんだけどー」
「いや、うちの水は……そう! 特別な水でな。これを飲むと背がよく伸びると好評で――」
「なにそれすごーい! 飲むー!」
水を飲むだけで背が伸びる!?
そんな夢のような話があるだなんて、このおっちゃん凄いなぁ。
これで俺もステラより身長の高い頼れる大人の男性になれるということか。
ごく、ごく、ごく、ごく。
ごくごく、ごくごく。
ごくごくごくごく、ごくごくごくっ。
「…………っぷ、吐きそ」
「ちょ、急にそんな水を飲むやつがあるかぁ!? 嬢ちゃ――いや坊主、吐くなよ! 頑張って耐えろよー!」
「ふっふっふっ、これで俺もこうしんちょー」
「マジで信じてやがる……!? 警戒心ゼロか、コイツっ!」
ガシガシと頭を掻くおっちゃん。
頭皮にゃ優しくせんといかんぜよー、と視線を送ると素敵な笑みで頭を叩かれた。
「はぁ……おらよ。量はつまみ程度だが、無期限のツケにしといてやる。それ食って大人しく帰りな」
お肉を使った料理を小皿で出してくれるおっちゃん。うまうま、と料理を食べ始めれば、数分もせずにお皿の上は空っぽになる。
「美味かったー!」
「そりゃ、よかった」
「凄いねー、料理人みたいだねー」
「料理人だからね??? 資格取ってるからな?」
「なんか眠くなってきたかもー!」
「聞けよ」
急激に襲いくる強烈な眠気。
もうここで寝てもいいかなぁとか思い始めていると、おっちゃんに首根っこを掴まれた。
あ、これ猫の持ち方だ、と気がついたのは屋台の近くにあったベンチの上へと転がされた時である。
「ったく、毛布ぐらいはかけてやるかぁ」
「…………すぅ…………すぅ…………」
「寝つき良すぎだろ、坊主」
風邪は引くなよ、と呆れたような声で心配をした後、その誰かは俺の側から離れていった。
数時間後。
石で作られたベンチの上で目を覚ました俺は、何故か懐にあった液体入りの筒を片手に極度の頭痛に見舞われていた。
「頭いってぇ……あ? 何だこれ、水筒?」
明瞭としない意識の中、とりあえず水でも飲んで思考を起こそうとその飲み物を口にして――そこから先の記憶がない。
✳︎
「あはははは、なにこれすっごぉ、マジで璃月みたい! 俺の想像力もバカにしたもんじゃないなー」
「ええと、ここは、紛れもなく璃月港なのですが……いえ、そうではなく!」
「んー? わってる、わってる。ご飯にするなら菜食主義だもんね〜、もっとぷっくらしてもおにーさん的には可愛いと思うけど、女の子が頑張ってることを邪魔したりはしませんともー」
「……ぇ? なんで、そのことを……」
私の手を引いて歩く名前も知らない少年は、昔馴染みしか知らないような私の恥ずかしい過去に触れるも、そのことを何でもないことのように扱って話を続けていく。
「んー、気にしない気にしない。ちょっと物知りなだけだから。いやぁ、そーゆーのツッコまれるタイプね……夢にしちゃ現実味あんのな、これ」
ぼそぼそとつぶやかれた言葉は理解することができなかったがその姿からは、つい先程、頭やら何やらを撫でまわされた時よりも理知的な思考が戻ってきているような気配を覚えた。
「んー、ま、夢だしな。解釈違いだのなんだの言われても、頑張り屋さんはでろっでろに甘やかしてやりたいのが信条な物ですしおすし」
「お、お寿司?」
「おー、お寿司知ってる? 食べる? 握ろっか? 握り方知らんけど」
「……え、えぇ?」
「困り眉も可愛いねぇ、撫で撫でしちゃう」
あ、やっぱり酔ってると再認識したのは、このときであった。
……可愛いなんて言葉は久しく聞いていなかったから、どのような返事をすればいいのかわからなくなってしまう。
「あ、あの! そ、そうではなくてですね?」
「うんうん、なになに?」
子供を見るような目をされるのは心外であった。これでも軽く3000年は生きているのだけど、なんて態々、自身が人間ではないことを主張したりなどはしないのだが。
「その、私はあなたと話をするのはこれが初めてだと思うのですが……」
「なーんだ、そんなこと? 俺は……俺は…………あー、なんて言えばいいんだろ?」
彼は自分のことをどう説明するのか云々と悩んでから、うんと一つ頷きを挟んで口を開いた。
「俺は――君を、君たちを、この場所を、心の底から愛しているだけのただの人間だよ」
息を呑んだ。
目を見た瞬間、その言葉が嘘ではないとわかってしまったから。
何一つ明確な説明は受けていない。
彼が何者で、何故私の過去を知っているのか、それを確かめなければならないことに変わりはない。
だというのに。
彼の一言を聞いただけで、警戒心が一瞬にして消え去っていくのを知覚する。
握られていた手首から、心地の良い体温がじんわりと伝わってきていることに気がついた。
心に温度があるのなら、きっとその熱は彼の在り方に起因していた。
手首をじっと見つめていると、視線に気づいた彼はその手を放してしまう。
「……ぁ」
溢れた小さなその声は何を思ったものだったのだろう。
私の反応に穏やかな微笑みを浮かべながら、彼は私の掌をそっと優しく包み込む。
「それじゃ、改めてお手を拝借――って、うわやばっ、ふわっふわですべすべとか最強で最かわなんですが、惚れさせるのもいい加減にしろよ甘雨ちゃんめ。今度、楽団廻聖したげるからねー?」
「ひゃぅ、て、手をにぎにぎするのは、やめてください……!」
名前も知らない。素性もわからない。
今日を過ぎて別れてしまえば、もう二度と会うことはないかもしれない。
そんなただの他人。
一夜限りの逢瀬になるのなら。
そう思って一歩分だけ、彼との距離を私は詰める。
これほどまで人に触れたいと思ったのは、誰かを理解したいと思ったのは、初めてのことだったから。
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「――は?」
意識が覚醒した時に、俺のすぐ目の前には同じベッドで寝息を立てる半裸の美女の姿があった。
というか、甘雨だった。
どう見ても甘雨です。
見れば見るほどに甘雨である。
うん、やばい。
…………ほんっっとに何も覚えてねぇ。
プロット通りとはいえ、想像以上のヒロイン力を前にしてタグに甘雨を入れるか悩んでる。
原神とスタレ 本作読者の履修状況確認用
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両方やってる!
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原神だけ!
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スタレだけ!
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どっちも知らんが読んでやろう!