転生男の娘vs悪ガキ(星)   作:桜ナメコ

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2話

 

 

 

 

 光の奔流が収まると、球体があったはずの場所には灰色の髪の少女が浮かんでいた。

 少女を包んでいた光の粒は次第に空へと溶けていき、最後の瞬間、一際強く輝きを放った。

 直後、少女の身体が地面へと落下していく。

 俺は慌てて彼女を横抱きに受け止められるように腕を広げた。

 

「…………ふぎゃる」

 

 潰されたけど何か?

 ……笑うなら笑えよ、こん畜生が。

 

『ははははは』

「おいコラ、テメェ表出ろ」

 

 実はこのチートさん、結構愉快な性格をしているのでは?

 そんな説が、俺の中で浮上しつつある。

 

 それは置いといて。

 少女少女って言ってたけど、男の娘化した俺の身体よりデカいなコイツ。

 女性の中ではかなり身長が高い方なんじゃないか?

 

 だが俺が下敷きになったからか、彼女に何処かを痛めた様子は見られない。

 それどころか目を覚ます様子すら見られないのは、安心感ではなく不安感を煽る要素な気がするぐらいだ。

 

「……ぬぬ、重た」

 

 いや、俺が非力になってるのか?

 なんとか下敷きの状態から脱して、改めて突然宙に現れた少女の様子を確認する。

 胸部が浮き沈みしていることから、正常な呼吸をしていると断定。

 顔色その他も悪くない。

 ひとまず、素人目では異常は見られなかった。

 

 そのまま、少女の観察を続ける。

 この言い方ストーカーみたいで嫌だな。

 

 鼠色に近い少し暗めの灰髪。

 ゆったりとした薄灰色のシャツ。

 硬めの質感を思わせる黒色のスカート……なんかベルトとかその他の装飾品が凄いが、多分ただのスカート。

 そしてスカート(仮)と同色のコート。

 裏地が黄色のそれもどこか硬そうな印象を与えるものであり、少なくとも原神世界にこんな装いをしたモブはいなかった。

 

「……モブどころか、ネームド含めても俺の知り合いじゃないんだよな。服装はやけにSFチックだし…………え、お前、本当に原神の人?」

『解:彼女は■■の■■■です』

「とても切実にノイキャンが欲しい」

 

 どうやら、我がチート君は彼女の正体を知っているらしいが、俺にはそれを知る権利がないみたいだ。

 

「まあ、しかたねーか。どう考えても、神様から提示された条件ってコイツ関係なんだろ? 俺、聞いてなかったから知らないけど」

『話はちゃんと聞けウスノロ』

「お前、やっぱ自律思考できてるだろ」

『否:情報の取得に失敗しました』

 

 しらばっくれやがって。

 いつか絶対、化けの皮剥いでやる。

 

 そんな脳内チートさんと時間を潰していると、少女が身動ぎをして小さく呻いた。

 

「――――ぃで」

「……おい、起きたか?」

 

 何かを呟いたかと思えば、少女はその美しい顔を苦痛に歪めた。

 その悲痛さは、とてもじゃないが何もせずに見ていられるものではなかった。

 

 そっと少女の頭に手を置き、トントンと指を上下に動かして髪を撫でつけてやる。

 子供の頃、寝つきが悪いときは両親がこのようにして寝かしつけてくれたことを覚えていた。

 

 わずかなりとも効果はあったようで、少女の表情は穏やかなものになっていた。

 

「……悪夢でも、見てんのかね」

 

 

 

 

 それから、少しの時間が経った後。

 少女はようやく、目を覚ました。

 

「…………? あんた、は」

「あんた、と来たか。見た目にそぐわず、粗暴な二人称だなお前」

「……お前も大概だと思う」

「それもそうか」

 

 当然だが、彼女の目が覚めそうになったところで頭を撫でるのはやめている。

 流石の俺も、初対面で髪を撫でつけてくる男という第一印象を持たれるのは堪えるのだ。

 

 少女は上半身を起こすと、周りを見渡して「大自然だね」と一言呟いた。

 やはり、予想はしていたが彼女はモンド人ではないようだ。

 

「……それで、あんたは?」

 

 少女は自分の現状を把握したにも関わらず、ブレることなく俺への質問を続けてきた。

 普通なら「ここどこ?」とか「私誰?」とか「知らない天井だ」なんて言いそうなものだが、もしかしなくてもこの子は大物なのかもしれない。

 

 質問に答えようとして、少しだけ困る。

 馬鹿正直に前世の名前を使っていいのか、ということだった。

 家名がついているだなんだと、後々面倒なことになるのは避けたいところである。

 

「…………天華(てんか)

 

 よって、この世界を生きる上で、苗字は捨てさせてもらうことにした。

 仮に、俺が憑依転生やこの世界の子供として転生をしたのなら、新たに請け負った名前を大切にしたのだと思う。

 けれど、俺は俺のままこの世界へとやってきた。見た目が変化したことは一先ず置いといて。

 

 だったら、名前を捨てる理由はない。

 寧ろ、両親から貰った大切な名前をそんな簡単に捨てたくない。

 

 偽名を使わなかったのは、そんなところが理由だった。

 

「俺の名前は天華。こんな見た目だが、男だ。お前は?」

 

 前世では、男らしくないと少々揶揄われることもあった名前だったが、今世ではその問題はないだろう。勿論、不本意ながらだが。

 

 そんな俺の小さな決断など露知らず、灰髪の少女はとんでもないことを言ってくるのだった。

 

「私は、私の名前は………………なんだったかな。あんたがつけてくれない?」

 

 己は拾われた犬か何かなのか?

 

 

 

✳︎

 

 

 

「名前、名前か……名前なぁ……」

「別に適当に決めていいのに」

「どんだけ無頓着なんだよお前」

「それより、いつまでもお前呼びの方が嫌」

 

 灰髪の少女も目覚めたということで、俺たちは現在モンド城へと徒歩で向かっているところだった。

 ワープは使えないのか、とダメ元で聞いてみたところ、一度行ったことのある場所以外は行けないらしい。

 逆に一度行きさえすればワープが使えることに、チートの理不尽さを再認識したところである。

 

「少しぐらい覚えていることはないのか?」

「…………あんまり、ないかな。思い出そうとすると、思考にモヤがかかる感じがする」

 

 少女の言葉を聞いて、少し思考に耽る。

 彼女がどのような存在であろうとハッキリしていることはある。

 少なくとも、彼女の出現にあの球体が関係しているのは確かなはずだ。

 

 チートさんは何と言っていただろうか。

 確か、規定時間が何やらとか。

 

『感知:記憶の想起 解:■■■■「■」の解放規定時間を超過しています。直ちにインベントリから■■■■「■」を取り出してください 以上です』

「そう、それ!」

「…………急に何?」

 

 やっべ、口に出てた。

 わかってたけど、チートさんの声は俺にしか聞こえてないんだな。

 

「いや、なんでもない……こっちの話」

「……どっちの話?」

「ほんとなんでもないから、追求すんのやめて? 俺、時々奇行に走る癖があるから、そこの所よろしく」

「…………」

 

 すげぇ、渋面でこっち見てくるんだけど。

 いや、俺も自分で言っててどうかなとは思ったけどさ。

 

 まあ、それはいい。

 今は、少女の出現についての謎だ。

 あの球体が原因……もっと言えば、球体が多量のエネルギーを放出した後に残っていたのが彼女である。

 

 解放規定時間。

 この言葉から分るのは、エネルギーを放出されるまでの時間は決められていたということ。

 見ようによっては、爆発物である。

 神様からのプレゼントとは考え難い。

 

 膨大なエネルギーが圧縮されていた。

 そう考えると、解放までにタイムリミットがあったことも納得がいく。

 

「RPGなんかで定番なのは、エネルギーを回収していくと記憶が戻るってもんだけどな……」

「それ、私の名前に関係あること?」

「あるだろ。お前が自分の名前を思い出せば、それで終いなんだから」

 

 そう言うと何やら彼女は、面白くなさそうな顔をする。

 

「じゃあ、いつかもわからないそのときまで、天華は私のことをお前って呼ぶんだね」

「意地悪な言い方すんなよ……わかった、名前もちゃんと考えるから」

 

 スタコラと先へ行ってしまう彼女を、小走りで追いかける。

 あまり長引かせると本格的に拗ねられるかもしれないので、なる早で頑張ろう。

 

「…………というかさっきの言い方だと、お前はずっと俺の隣に居るみたいな感じになると思うんだが」

「…………違うの?」

 

 何故だろうか。

 違うと言ったら拗ねられるのがわかる。

 まだ会って一時間も経ってないはずなのに。

 

「お前の好きにしたらいいと思うよ」

「うん、わかった。好きにする」

 

 どことなく上機嫌になった彼女の隣を歩く。

 少々、歩き疲れてきたなんてことはない。

 ……この身体、本当に貧弱だな。

 

 息を切らしながら歩みを続けていると、少女が「そういえば」と呟いた。

 

「私、まだ常識を持ち合わせてないと自覚してるけど、その街に行って何をすればいいの?」

「安心しろよ。俺もこの世界の常識なんて持ち合わせてないから」

 

 驚愕の表情を浮かべる少女をサラッと流して、進み続ける。

 

 そうやって時折、休憩を挟みつつ、順調にモンド城への移動を行なっていたときだった。

 

 

「誰かぁ! 誰か助けてくれぇぇ!」

 

 

 丁度、西風の鷹の神殿の前を通り過ぎようというところで、男の助けを呼ぶ声が聞こえた。

 

「天華!」

「わ、わかってる!」

 

 なんで? この場所にモンスターなんて……いや、ゲームと一緒に考えてどうする。

 この世界で、生きていくって決めたのならば、ちゃんと割り切って考えろ。

 

「武器くれ!」

『是:インベントリ開帳 提:金属バット』

 

 原神のプレイアブルキャラクターたちは、戦闘時に武器を虚空から出し入れしているのだが、もしかしたら全員揃ってチートさんを脳内に飼っているのかもしれない。

 そう思ってしまうほど見覚えのあるエフェクトで取り出されたのは、黒をベースに金の模様が刻まれた金属バット。

 

「…………お、もてぇ……な!」

「天華……今のは――」

「後で話す。今は助けるのが優先だ!」

 

 これから先、彼女が俺と一緒にいるというのなら、チートさん関係の話は避けて通れない。

 会話ができることはともかく、マッピングとワープ、アイテムボックス的な能力が使えることは元から話すつもりであった。

 

 にしても、バットが重たい。

 めっちゃおもてぇ、これちゃんと振れるか?

 

 叫び声が聞こえた方向へヨタヨタと駆けていくと、三体のヒルチャールが何かを囲んでいるのが見えた。

 

 あ、これ、エレンの苦境や……と男の髪型でランダムクエストを思い出せてしまった俺は、割と重度の原神オタクに違いない。

 

「…………そ、こ! どけっ!」

 

 全身の筋肉が悲鳴を上げている。

 それを無視して、金属バットを大振りに薙いだ。

 彼ら特有の声を上げて、ヒルチャールたちは俺から距離を取った。

 エレン(仮)の様子を横目で伺うと、擦り傷などは見られたが目立った外傷はなさそうだった。

 

 前世の俺は確かに原神のプレイヤーだった。

 当然、ヒルチャールの過去は知っている。

 その悲しき苦痛の果てに待つ絶望が、精神を狂わせることを知っている。

 同情の余地はあると個人的な感情では思ってしまう。

 

 けど、それでも、俺は人間だ。

 人間に害を為すのであれば。

 

「倒すほかない。存分に、憎んでくれて構わない。だから、どいてくれ」

「………………キ、キミ、足が震えているぞ」

「うっさい、筋肉が悲鳴あげてんだよ。茶々入れる暇があるなら、一体ぐらい相手にしろ」

 

 背後からエレンにツッコミを入れられて、自身の身体の状態を再認識する。

 

 明らかに筋疲労とは関係のない震えが両足に生まれ、今にも腰が抜けそうな身体の頼りなさとくれば、とても見られたものではなかった。

 腕に関しては一度バットを振っただけなのに、もうプルプルしているし……これ、常時デバフかかってたりしない?

 

『感知:恐怖心の増大 疑:無意味な加勢 提:逃亡を推奨』

「お前までそういうこと言う? ネガティブな発言、良くないと思うよ」

 

 そんなこと言っている間に、ヒルチャールは俺を脅威ではないと結論付けたらしい。

 一度は離れた距離をゆっくりと詰めてくる。

 

 せめて、身体が前世のものだったら。

 そんな負け惜しみのような思考が浮かぶが、そんなイフ考えるだけ無駄である。

 

 後ろに一体。

 前方両斜め方向に一体ずつ。

 

「……っ!」

 

 ヒルチャールたちが、勢いをつけて同時に飛び掛かってきた。

 

 

 瞬間。

 

 飛び込んできた人影が一つ。

 

 

 

 ――――――なんでもいいけど。

 

 

「――――こいつら、倒していいのよね?」

 

 

 

 彼女は後方にいたヒルチャールを、飛び込んできた勢いそのままに蹴り飛ばす。

 そして、すぐさま残り二体の掃討に移行した。

 

 まるで、彼女だけが違う時間を生きているかのようなひとときだった。

 

 初速が違う。

 加速が違う。

 動きのキレも、迷いのなさも。

 

 何もかもが俺とは違った。

 彼女はこの世界で俺が初めて見た非現実的な存在で、そのフィクションは堪らなく焦がれるものだった。

 

 今にも振り下ろされそうだった棍棒を回し蹴りで迎え撃つ。

 棍棒の先端を強打したことで、その棍棒はヒルチャールの手からすっ飛んでいき、もう一匹のヒルチャールの仮面へと直撃した。

 

「……これ、借りる」

「あ、おう」

 

 彼らが怯んだその隙に俺の手からバットを奪っていくと、灰髪の少女は片手一本でその金属棒を軽々と振るってみせた。

 

 そして、一撃。

 袈裟切りの要領で振り下ろされた一撃でヒルチャールが塵へと還る。

 返す刀で隣にいたもう一体の胸を打ち据え、これを撃破すると、残りは後方にてようやく起き上がった最後の一体のみになる。

 

「………………まだやる?」

 

 灰髪の少女は真っ直ぐに金属バットをヒルチャールへと向けて、そう言った。

 残された最後の一体は少女の覇気に気圧されたのか、スタコラさっさと背中を見せて逃げていく。

 

 やがて、草原に静寂が戻った。

 

「大丈夫、天華?」

「……え、ああ、うん、大丈夫です」

「なんで敬語?」

「いや、ちょっと圧倒されただけ」

「あと、あんた戦えないなら飛び出して行かないで。少し焦った」

 

 まるで何事もなかったかのように――いや、実際、彼女にとっては大したことではなかったのだろう――話を続ける彼女を前にして、何とも言えない寂しさを覚えた。

 

「……気をつける」

「そうして」

 

 俺たちの会話が一段落つくのを待っていたのか、ここでコホンという咳払いが聞こえた。

 視線を向けた先にいたのは、この騒ぎの原因となった青年ことエレンさんである。

 

「ありがとう。君たちのおかげで助かったよ! 何か、お礼をしなくてはね」

 

 と、その言葉を耳にして。

 

「別に、あんたのためじゃ――」

「なら、身分証明について助けてもらってもいいですかね?」

 

 俺は、食い気味にそう言った。

 

 

 

原神とスタレ 本作読者の履修状況確認用

  • 両方やってる!
  • 原神だけ!
  • スタレだけ!
  • どっちも知らんが読んでやろう!
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